『リリカル恭也&なのは』






第10話 「忍び寄る闇」






七月に入って日ごとに暑くなっていく中、恭也が帰宅すると、
縁側に腰掛けたフィアッセが、膝上に置いたキーボードを弾きながら小さく歌っていた。
傍ではアルフが丸まったままフィアッセの歌に聞き入っていた。
その光景に思わず口元を緩めつつ、恭也は邪魔しないように部屋に入ると着替えを済ませる。
恭也が部屋から出ると、丁度一曲終わった所らしく、恭也に気付いたフィアッセが笑みを見せる。

「お帰り、恭也」

「ああ、ただいま。ところで、さっきのは新曲?」

「うん。今度のコンサート用のね」

「そうか、もうすぐなんだね」

「そうだよ。頑張らないとね」

フィアッセは嬉しそうに、初めて母親と立つコンサートに思いを馳せながら話す。
アルフの背中を撫でながら、フィアッセは見上げてくるアルフにも笑いかける。

「アルフも来れたら良かったのにね。
 久遠は変化して、ユーノはなのはがリュックに入れて連れて行くって言ってたけど……」

言ってアルフの身体を見る。
大型犬に分類される大きさのアルフでは、こっそりと連れて行くことも出来ない。
残念そうに鼻を鳴らすアルフをフィアッセは優しく撫でてあげる。

「私の歌をこんなにも気に入ってくれてるのにね」

「分かるの?」

「うん。だって、私がここで歌の練習をしていると、必ず傍に居るんだもの」

フィアッセに応えるようにアルフはその手を舐める。
それをくすぐったそうにしながらも受け止める。

「コンサートにこれない代わりって訳じゃないけれど、もう一曲練習するつもりだから、聞いてくれる?
 練習曲で悪いけれどね」

フィアッセに返事するようにアルフは尻尾を振る。
それを肯定の意に受け取ると、フィアッセは指をキーボードの上にそっと乗せて目を閉じる。
白く綺麗な指が滑らかに動き出し、曲を奏でる。
暫くして、フィアッセの口から美しい歌声が旋律を紡ぎ、辺りを包み込むように流れ出す。
心地よさそうに目を閉じ、アルフはその歌声に聴き入る。
恭也も横へと腰を降ろすと、目を閉じてその歌声に聞き惚れるのだった。



 ∬ ∬ ∬



数日後、高町家にフィアッセ宛ての電話が掛かって来る。
相手はフィアッセの母親にして、世紀の歌姫としてその名を世界に轟かせるティオレその人からだった。
コンサートの予定よりも早く来日したティオレは、恭也や美由希、桃子たちと久しぶりの再会を果たし、
また、晶やレン、なのはたちとは初顔合せとなった。
士郎の墓参りや買い物と、フィアッセと一緒に高町家の面々をあちこちへと連れまわすティオレ。
そんな折、恭也だけがティオレに呼び出されて病院へと向かう。
恭也もよくお世話になっている海鳴病院に。
その病室で、恭也は信じられない光景を目にする。
つい先程まで元気にしていたティオレの身体には幾つかの管が刺さり、
その生気は一気に齢を重ねたかの如く抜け落ちている。
驚く恭也にティオレは小さく笑う。

「ふふ、驚いたでしょう。これが本当の今の私なのよ。普段の私は薬の力で元気なだけ。
 恐らく、今回のコンサートが思いっきり全力で歌える、私の最後の舞台。
 そして、このツアーを最後にティオレ・クリステラは引退するわ」

「どうして、俺に」

「……恭也には悪いとは思うけれど、私に何かあった時、あの子を支えれるのはあなただと思ったから。
 他の人も支えてくれるでしょうけれど、この現実をしっかりと見て、黙っていられるのは、
 あなたと桃子だけだと思ったから。そして、私はあなたを選んだの」

皆には内緒と言われ、恭也は頷く。
そんな事を言われなくても、勿論、話す事はないだろうが。
恭也を優しい眼差しで見詰めるティオレ。暫し沈黙が病室に下りる。

「……私はね、このツアーで私が持てる力全てを使って、あの子たちに全てを伝えるつもりよ。
 あの子たちなら、ちゃんと受け取ってくれると思うわ。
 士郎があなたに残したように、私の歌をあの子たちに。だからかもね。
 あなたをここに呼んだのは。ああ、そんな顔をしないで。
 まだまだ大丈夫よ。それに、今回のツアーでやっと私の夢が叶うのよ」

「フィアッセと同じ舞台に立つ、ですか」

「それもあるけれどね。このツアーはチャリティーだって知ってる」

「ええ。かなり話題になってますから」

「そう。これは、歌うしかなかった私が歌うことで返す恩返しなのよ」

ティオレの言葉を恭也は静かに聞く。
さっきは病人のようだと感じた恭也だったが、ティオレの言葉を聞き、目を見てそれを否定する。
そこには、自分の持てる全てを出し切り、何かを伝えようと、何かをしようとする強い人しかいない。
改めてティオレの凄さを見たような気がして、恭也はティオレを見詰める。

「恭也、もうちょっと近くに」

不意に零れたティオレの言葉に従って近づいた恭也の頭に、そっと手を伸ばす。
頭を撫でられる事に驚き、恥ずかしいものを感じつつも恭也は大人しくしている。

「本当に、いい子に育ったわね」

暫く無言で恭也はそのままにされる。
やがてティオレの手が離れると、それまで一言も口を挟まなかったフィリスがその手をそっとベッドに戻す。

「私が主治医として、体調管理などをさせて頂いているんですよ。
 ティオレさん、今日はこのぐらいにしておきましょう」

「ええ、そうね。それじゃ恭也、またね」

「はい」

恭也はティオレとフィリスに挨拶をすると病室を後にする。
背中越しに扉を閉めた恭也は、そのまま立ち去らずに横を見る。
そこには人型になって俯いたアルフの姿があった。
恭也の後を付いてきたが、病院には犬の姿では入れないために人型になっていたのだ。

「はぁ。お前が落ち込んでどうする」

「……だって」

泣きそうな顔を見せるアルフの頭を軽く数回撫でると恭也はこの場から立ち去る。
その後を幼子が親とはぐれないようについていくように、恭也の服の裾を掴んでアルフが続く。
元々優しい性格という事もあるのだろうが、恭也はそれだけではないのではと感じていた。
ティオレと誰かを重ねているような、そんな印象を受けたのだ。
だが、それを聞くような真似はせず、恭也はアルフの好きにさせたまま病院を出て行くのだった。



 ∬ ∬ ∬



ティオレの病室に呼ばれてから数日後、恭也たちは集まりつつあるCSSの他の者たちとも会っていた。
ティオレと一緒に高町家にやって来ては、色々と遊んでいくのだ。
恭也や美由希にとっては懐かしい顔ぶれも多いのだが、晶やレンたちにとっては緊張ものだったらしく、
いつものような喧嘩も起こらなかったり、
ゆうひが家に来た事を後で知った忍はかなり拗ねて、次は絶対に呼ぶように恭也へと厳命していたり。
そのような日々が続く中でも、恭也となのははジュエルシードを捜して街中を歩き回っていたが、
ここに来てぱったりとその反応が消えた。
その事を色々とお互いのパートナーと相談しつつ、今まで同様の日々を過ごすある日。
その日、恭也は美由希と共にとあるホテルへと来ていた。
フィアッセから電話を受けて、忘れ物を届けに来たのだ。
フィアッセたちが居る階へと着いた瞬間、恭也は異質な空気を嗅ぎ取る。
それは勘と言っても良いようなほど些細な違和感だったが、恭也は迷う事無くその勘に従って走り出す。
行き成り荷物を放り出して走り出す恭也を見て、暫く呆然としていた美由希だったが、
こちらも急ぎ恭也の背を追いかける。
ティオレの宿泊している部屋へと近づくにつれ、恭也は自身の勘が正しかったと感じ取る。
そこからその場に似つかわしくない気配、殺気の類が零れてきている。
恭也はドアを蹴破るように開き、そのまま部屋へと飛び込む。
部屋の奥にティオレとフィアッセが立ち、そこから少し離れて一人の女性が立っていた。
その身に纏う雰囲気は触れれば切れそうなほどに鋭く、何の感情も写さない瞳で二人を見据えて、
手に持った刃の切っ先を二人へと向けている。
恭也がやって来たことに気付き、フィアッセが名を呼ぶがそれに答える余裕は恭也にはなかった。
目の前に立つ人物の技量を見て、かなりの腕前だと分かったから。
だからといってここで引き下がるという選択肢はなく、恭也は自分が今持っている武器を確認する。

(……八景を磨ぎに出したのは失敗だったか)

突然の闖入者にも目の前の女は慌てた素振りも見せずに、ゆっくりと恭也へと振り返る。
ほんの刹那、傍目で見ていたティオレやフィアッセですら気付かない程の短い瞬間だけ恭也と女の動きが止まる。
そこへ、美由希が部屋へと入ってきて、状況を見てすぐさま小太刀を取り出して女へと斬り掛かる。

「待て!」

恭也が静止の声を上げるも、既に美由希は女へと刃を振り下ろしていた。
当たると思った瞬間、女は半歩だけ横へと身をずらして躱す。
次の瞬間、美由希の身体がフィアッセたちの傍の壁に叩き付けられる。
その際、何処か痛めたのか美由希はすぐに立ち上がる事が出来ずに壁を背に座り込む。
そんな美由希に泣きそうな顔で駆け寄るフィアッセ。
恭也は女が何をしたのかはっきりと見ていた。
美由希と擦れ違った瞬間に、刀の柄で美由希胸を付き、そのまま流れるように手を返して峰で弾き飛ばしたのだ。
女は起き上がれない美由希にさっさと背を向けると、恭也へと顔を向ける。

「君も向かってくるつもりか」

「ええ」

「今の君の装備では、いや、例えフル装備だったとしても私には敵わないよ」

「それでも」

言って恭也は飛針を投げ、同時に女へと迫る。
飛針を叩き落した女はそのまま刃を恭也へと翻す。
恭也はそれをしゃがんで躱すと床を蹴って前へと転がる。
女の背後へと周り、足を払うように蹴りを繰り出すが、それを跳んで女は躱す。
その間に恭也は鋼糸を使って美由希が落とした小太刀を回収すると、立ち上がり女と対峙する。
武器は何とかなったが、それでも目の前の人物の強さと自分との開きがあるのは事実。
それでも恭也は女へと向かう。
懐から小刀を抜き放ち女へと投げ、それを女が躱し打ち落としている間に少しでも距離を縮める。
そして、神速を発動させる。
御神の切り札の一つとも言える奥義の歩法。
瞬間的な知覚能力の上昇に伴い、まるで周囲が止まったかのようになる白黒の世界の中を、
他よりも若干早く動く。
相手にはいきなり消えたようにしか見えないこの奥義は、御神の切り札の一つであると同時に、
身体への負荷も大きく、膝に故障を抱える恭也には諸刃の剣とも言える奥義。
それさえも使用し、恭也は女へと攻撃を繰り出す。
しかし、女は恭也が神速を使うよりも先に刀を握った腕を後ろに引き絞ったかと思うと、
そこから突きを繰り出してくる。
しかも、その速さは神速の中にあっても落ちることなく、恭也を狙う。
自分へと向かう切っ先を見て、恭也は攻撃を止めて身を躱す。
が、身体の横を通過したはずの刃が翻り、恭也の肩を斬り裂く。
神速から抜け出した恭也はそのまま膝を着き、左肩を押さえて背後を見る。
女も同じように背を向けたまま顔だけを恭也へと向け、冷ややかな眼差しで見詰める。
先に視線を逸らしたのは女の方で、そのままティオレへと顔を向ける。

「今日は警告に伺ったまでです。ですから、これで帰ります。
 しかし、こちらの警告に従わずにコンサートをなされるつもりなら覚悟しておいてください。
 頼りの護衛がこれでは、意味がないと分かったと思います。
 出来れば、賢い判断をお願いします」

言い捨てると女は部屋を出て行く。
それを追いかけようとした美由希を制し、恭也は部屋を出て行く。
向かう先はホテルの裏。
果たして、そこに自分が来るのを待っていたかのように立ち去る女の後ろ姿が見える。
恭也はその女へと声を掛ける。

「美沙斗さん」

その名に足を止めると、女は静かに振り返る。

「どうして、こんな事を」

「……今回のこの任務が終われば、私はようやく私たち御神を襲った連中の事を知ることができるんだ」

「そんな理由で自分の命を懸けて最後の夢を、
 娘の夢を叶えようとしているあの人の邪魔をするって言うんですか!」

「……君なら分かるだろう。テロによって父親を無くした君なら」

「分かりません。だって、これじゃあ御神をあんな目に合わせた奴らと同じじゃないですか!」

女の正体は御神美沙斗といい、恭也の父士郎の妹にあたる。
御神宗家へと嫁いだ美沙斗だったが、その幸せは長くは続かなかった。
ある日、御神宗家の娘の結婚式で一同に会した御神たちを爆弾テロが襲った。
いかに鉄砲の弾丸さえも避ける御神の剣士とて、会場で起こった爆弾までは避けれずに全滅した。
生き残ったのは、唯一会場に居なかった士郎と恭也。
そして、美沙斗と美由希の四人だけだった。
当時まだ幼かった美由希は美沙斗の事を知らないが、恭也は覚えていた。
今のような冷たい雰囲気ではなく、温かくて優しい美沙斗を。
だからこそ、恭也は美沙斗のやっていることが信じられずについきつい口調で責めるような事を言ってしまう。
しかし、それを受けても美沙斗は平然としたまま、

「それの何が悪い。私はあの日、御神一族が滅ぼされたあの日に誓ったんだ。
 何があっても、どんな事をしてでも仇を取るって。
 だから、その邪魔をするというのなら、例え君でも、兄さんの息子である君でも容赦はしない」

美沙斗から発せられる純粋な殺気を浴びても、恭也はただ真っ直ぐに美沙斗を見詰め返す。

「例え俺が引いたとしても、美由希が、あいつが居ますよ。
 貴女は美由希も、実の娘である美由希までもその手にかける覚悟があるというんですか」

「……ああ、ある。私の邪魔をするというのなら、幾ら相手が娘といっても斬る」

「そこまでして……。死んだ人よりも、生きている娘のために何かしてあげれば良いじゃないですか!
 静馬さんだって、きっとそっちを……」

「うるさいっ! もう良いだろう。話す事はもうない。
 私が聞きたいのは、コンサートを中止にするか否か、その答えだけだ」

「きっとティオレさんは中止にはしませんよ」

「なら、彼女の命が消えるだけだ」

「そんな事はさせません、絶対に」

「君がか? さっきの戦闘で分かっただろう。
 今の君では私には勝てないよ」

「俺だけじゃありません。美由希もいます。
 それに、御神の剣は何かを守るときにその真の力を発揮すると父さんも言ってました。
 何も守るものもない、ただ破壊するためだけに振るう貴女に負けるわけにはいかないんです」

「恭也、兄さんが何て言ったのかは知らないけれど、御神の剣はそんな立派なものじゃない。
 ただの暗殺剣。人を殺し、全てを破壊するだけのね。
 そんな信念だけでは、実力差は埋まらないよ。
 それに、今の私にだって信念はあるんだよ。あの日に誓った復讐をやり遂げるという信念がね」

「……そうですか」

美沙斗の言葉に恭也は哀しそうに呟くも、それ以上は何も言わなかった。
美沙斗もまた何も語らず、恭也に背中を見せる。

「もしコンサートが中止されなかった場合は、当日にお邪魔すると伝えてくれ」

去っていく背中を無言で見詰めた後、恭也はティオレたちの待つ部屋へと戻る。
部屋に戻ると、コンサートの警備を担当しているリスティがいた。
彼女は恭也を見るなり謝る。

「すまなかった。警備はうちの連中でちゃんとしているつもりだったんだが。
 君のお蔭で助かったよ」

「いえ、大した事はできませんでしたから。
 それに、今日は本気ではなかったんでしょう」

「ああ、その辺りは聞いた。その前に手当てをした方が良いな」

リスティが恭也の肩口を見てそう言うと、フィアッセが救急箱を手に恭也を椅子へと座らせる。
傷付いた肩を手当てするフィアッセの後ろから、ティオレが声を掛けてくる。

「それで、あの人は強いの」

「……はい。間違いなく、今の俺より」

「……そう。だったら、コンサートは中止にした方が良いのかもね。
 たかがコンサート。やろうと思えば、また出来るわ」

ティオレはそう言うが、それが無理だということは恭也は知っている。
閉じた瞼の裏に病室でのティオレの姿が浮かんでくる。
フィリスの姉であるリスティも知っているのか、何とも言えない複雑な顔を見せるが何も言わない。
やがて、静かに目を開いた恭也はティオレを見詰める。

「コンサートは中止になんかさせません。俺と美由希が絶対に」

その恭也の瞳に何を見たのか、ティオレは懐かしそうな目を一瞬だけ覗かせるも、恭也を止めようとする。
しかし、その瞳の奥にあるものを感じ取り、小さく嘆息すると笑みを浮かべる。

「それじゃあ、恭也にお願いしても良いかしら」

「はい」

その二人のやり取りが終わるのを待って、リスティが恭也に話し掛ける。

「なら、僕たちで協力できる事があったら出来る限りしよう。
 警備の配置なども君の言う通りにしよう。
 何せ、二代に渡ってクリステラ専属ガードの意見だからね。尊重するよ」

言って笑うリスティに恭也も小さく笑い返す。
恐らくコンサートの当日まではもう来ないだろうと思われるが、
最低限の護衛を同じフロアへと残して警備に当たってもらう。
心配そうな顔のフィアッセに励ますように笑うと、恭也と美由希は一旦、家へと戻る。
この事は誰にも言わないように二人して決めた帰り道、
美由希は口を開く事もせずに恭也の横を黙々と歩く。

「ねえ、恭ちゃん」

もうそろそろ家に着くという頃、ようやく美由希が口を開く。

「さっきのあの人、何処かであった事があるような気がするんだけれど」

「そうか」

「うん。でも、きっと気のせいだよね」

美由希は自分で考え事を完結させると、努めて明るい口調を心がけながら尋ねる。

「それよりも、あの人かなり強いよ。どうするの」

「勿論、鍛錬する」

「でもたった数日でそんなに強くなれる?」

「なら、やめるか。無駄だから何もせずに」

「それは駄目っ! あんなにもフィアッセが楽しみにしてたんだもの。
 今の私じゃあの人を止めれないかもしれないけれど、何もしないのは嫌っ!
 恭ちゃんだって言ってたじゃない。私たちの剣は何かを守るためのものだって。
 私に出来る事なら何でも協力するよ。だから、絶対にコンサートをさせてあげて」

必死になって訴える美由希の額を軽く指で弾きながら、恭也は頷く。

「当たり前だ。そのためにも、お前には協力してもらう。
 勿論、当日の警護も含めてな。学校に行っている暇もないからな」

「うん!」

美由希の返事を聞きながら、恭也はもう一つの問題について考えていた。
ジュエルシードに関する事を。



その夜、恭也は自室でアルフへと話を切り出す。

「すまないが、暫くはジュエルシード集めができない」

「どうしてだいっ!?」

思わず声を上げるアルフに慌てつつ、恭也は部屋の外に誰も居ない事を確認する。
誰も居なかった事に胸を撫で下ろす恭也に、アルフは念話で謝る。

「いや、俺の方もいきなりで悪かった」

恭也はそう言うと、今日あった事を簡単に説明する。

「俺はどうしてもティオレさんとフィアッセの夢を叶えてやりたいんだ。
 そのためにも、明日から美由希と鍛錬漬けになる。だから、ジュエルシードは」

「……ふぅ、分かったよ。あたしもあの人の歌は好きだしね。
 でも、それだったら魔法を使えば……」

「いや、出来れば魔法は使いたくないんだ。
 これは俺たちの振るう剣に関する問題でもあるしな。
 それに、あの人の目を覚ますためにはやはり、
 呪われていると思っている剣で何かを守れるということを証明しないと」

「あたしにはよく分からないけれど、恭也がそうするって決めたんならそれで良いんじゃない」

「ああ。それに、俺のあまり上達していない魔法程度なら、あの人には通じないだろうしな」

そう言って苦笑する恭也に、アルフは特に何も言わずに黙って聞く。
話に区切りがついたと見えて、アルフは思った事を口にする。

「その代わりって訳じゃないけれど、あたしからも一つお願いがあるんだけれど」

「ん、何だ?」

「機会があったらで良いから、フェイトにもフィアッセの歌声を聞かせてやってくれ」

「ああ、分かった」

アルフの頼みを受けると、恭也は改めてアルフに礼を言う。
それを照れくさそうに受けながら、アルフは照れているのを誤魔化すように恭也の布団の上で身体を丸める。

「彼女の歌声はとても優しくて心地いいから。
 昔、リニスが歌ってくれたみたいに。
 だから、きっとフェイトも喜ぶはず……」

目を閉じながら、アルフは少しだけジュエルシード集めが遅れることを心の中で詫びつつ、
静かな寝息を立てはじめるのだった。





つづく、なの




<あとがき>

こうして、CSSによるコンサートツアーが始まる〜。
美姫 「って、とらハイベントね」
だな。
まあ、暫くはジュエルシード集めはお休みだしな。
美姫 「恭也は、ね」
まあな。まあ、実際に一週間もないし。
美姫 「数日後に控えたコンサート。無事に済むのかしらね〜」
それは分かりません〜。
美姫 「ともあれ、また次回でね〜」
ではでは。







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