『リリカル恭也&なのは』






第12話 「もうひとつの戦い」






恭也と美沙斗が死闘を繰り広げる工事中のビル。
そこからコンサート会場を挟んで、丁度反対の位置にある広場にジュエルシードの反応はあった。
会場を出たなのはとユーノは人目のない所まで来ると、すぐさま飛翔の呪文をかけて空へとその身を躍らせる。
真っ直ぐに目的地を目指すなのはたちの前方で雷が天より落ちる。
ユーノと顔を見合わせたなのはは、一度頷くと飛ぶ速度を上げる。

「あ、あの子はこの間の……」

二人がそこへと辿り着くと、丁度、この前なのはが出会った一人の少女、
フェイトがジュエルシードを回収していた。
フェイトはなのはに気付いて顔を上げるが、何も言わずに空へと舞う。
なのははフェイトへと近づくと、声を掛ける。

「こ、こんにちは」

「……何か用?」

話し掛けたから答えたといった感じのフェイトに、なのはは僅かながら胸を撫で下ろすと再度口を開く。

「えっと、どうしてジュエルシードを探しているの?」

「言う必要はない」

取り付く島もないフェイトに、ユーノが何か言い掛けるが、それを制してなのはは続ける。

「教えてくれないかな。
 わたしもジュエルシードを集めているんだけれど、もしかしたら協力できるかもしれないし」

「多分、無理。あなたはジュエルシードをどうしたいの?」

「どうって……。保管するために……」

なのはの答えを聞くなり、フェイトは背を向ける。
が、それでもなのははその背中へと声を掛けて呼び止める。
そんななのはを煩わしそうに見詰めた後、フェイトは口を開く。

「ジュエルシードを集めている以上、いずれは戦わないといけない。
 だったら、それが今でも良いよね」

「待って! わたしは戦いたいんじゃなくて話し合いたいの」

「言葉だけじゃきっと何も変わらないし、伝わらない。
 あなたにジュエルシードを一つ賭けた戦いを申し込む。
 私が勝ったら、あなたの持つジュエルシードを、あなたが勝ったら私の持つジュエルシードを」

言うや早いかフェイトは自身のデバイス、バルディッシュから鎌のような刃を形成して襲い掛かる。
それを躱しながらなのはは距離を開ける。

「だから、わたしは……」

何か言おうとするなのはだが、フェイトの方は既に聞く気がなく刃を飛ばす。
くるくると回りながら迫る刃をなのはは身を捻って躱すとフェイトをじっと見詰める。

「本当は戦いたくはないけれど、そうしないと聞いてもらえないって言うんなら……」

決意した瞳でフェイトを身ながら、なのははレイジングハートを構える。
なのはの周囲に桜色の丸い小さな球体が幾つも浮かぶ。
左手に握ったレイジングハートを振り下ろすようにしてフェイトへと向けると、
それを合図としたかのように、その球体、ディバインスフィアが弾のようにフェイトへと向かう。

「ディバインシューター!」

真っ直ぐに飛んでいく数個の光弾をフェイトは軽く躱しながらなのはへと接近する。
その速さはなのはよりも早く、フェイトが振り下ろすバルディッシュを、
なのはは咄嗟に持ち上げたレイジングハートで受け止める。
しかし、その衝撃でなのはは後方へと弾き飛ばされる。
それを追ってフェイトが眼前から向かってくるのを見て、なのはは空中で何とか制止すると再び光弾を放つ。

「ディバインシューター!」

「……ブリッツアクション」

なのはの呪文に合わせて、少し遅れてフェイトも呪文を唱える。
フェイトの攻撃に対する防御を見せるなのはだったが、攻撃らしきものは来ず、
変わりにフェイトの姿が映像がぶれるように乱れる。
気が付けば、なのはの目の前に居たフェイトは真横へと移動しており、バルディッシュを横に薙ぐ。

【Protection】

咄嗟にレイジングハートが防御魔法を展開するが、なのはは地面絵へと落下していく。
今まで高速で動く二人に下手に手を出せずに居たユーノが、手をなのはへと翳して呪文を唱える。

「フローターフィールド!」

落下するなのはの下に魔法陣が浮かび上がり、その上になのはの身体がゆっくりと乗る。
それを見てから、ユーノはゆっくりとその魔法陣をエレベーターのように下へと降ろす。

「ありがとうユーノくん」

「ううん。それよりも、来るよ」

ユーノが上空を見て鋭く注意の声を上げる。
そこには、バルディッシュをなのはへと向けたフェイトがおり、魔力が先端に集まっていた。

「サンダースマッシャー」

フェイトの声と共に、真っ直ぐに雷光を纏った魔力が放出される。
今からでは回避できないと悟ったなのははレイジングハートをフェイトへと向ける。

「行くよ、レイジンハート」

【All right. My master.】

「ディバインバスター!」

レイジングハートから放たれた大出力の魔力とフェイトのサンダースマッシャーが正面からぶつかる。
拮抗したのは一瞬で、軍配はディバインバスターに上がる。
なのはの放った魔法がフェイトのそれを貫き、フェイトの居る場所を貫く。
非殺傷設定にしているから死ぬ事はないだろうが、それでも直撃すれば大きなダメージとなる。
故に、なのはは自身の勝利を信じてしまう。
油断だったのかもしれない。
これが恭也や美由希なら、絶対に気を抜かないだろう所で、なのはは思わず気を緩めてしまう。
相手が今までのようなジュエルシードに関するものだったら、気を緩めるといった事はしなかっただろう。
だが、初めて戦った緊張からか、意識しての事ではなく無意識に。
その隙を付くように、フェイトがなのはの頭上から真っ直ぐに降りてくる。
サンダースマッシャーを撃ってすぐになのはの頭上へと移動したフェイトは、なのはの様子を頭上から窺っており、
その好機を逃す事無くバルディッシュを接近戦用の形態、サイズフォームへと変形させて襲い掛かる。
なのはがそれに気付くと同時、フェイトは刃部分だけを切り離して飛ばす。

「アークセイバー」

自分へと真っ直ぐに落ちてくる刃をなのはは飛んで躱そうとするが、
刃は軌道を変化させて今度は下からなのはへと迫る。

「ディバインシューター」

下から迫ってくる刃にディバインシューターを放つが、そのすぐ頭上にはフェイトが迫っていた。
振り下ろされる新たに形成された刃になのはの身体が切り裂かれる寸前、
フェイトの腕にライトグリーンの鎖が絡みつく。
見れば、その先はユーノへと続いており、その鎖がユーノによる拘束魔法だと分かる。
ユーノに礼を言いつつ急いでその場を離れるなのはに対し、フェイトは腕を振ってその鎖を打ち砕く。
自由になったフェイトはユーノを一瞥するが、構わずになのはへと視線を転じる。
その視線の先でなのは幾つものディバインスフィアを生成し、再びディバインシューターを放とうとしていた。
フェイトはその場に留まり、呪文を唱える。
自身の周りに、なのはが生成したのと似たような球体を作り出す。
なのははそれを見遣りつつ、ディバインシューターを放つ。
なのはの桜色に対し、黄色の球体を生み出したフェイトはバルディッシュをなのはへと薙ぐ。

「フォトンランサー」

それに呼応するように、球体、フォトンスフィアから雷光を伴った魔力が真っ直ぐに伸びる。
二色の魔力が数本上空に咲き、共にぶつかって消えていく。
なのはは眼前でぶつかりあう魔力を視界に収めつつ、ディバインバスターの発射態勢を取る。
それよりも早く、向こうからフェイトの刃へと形状を変えた魔力を飛ばすアークセイバーが迫る。
アークセイバーを躱してディバインバスターを放とうとして、フェイトの姿をアークセイバーの後ろに見つける。
なのははアークセイバーごとフェイトを打ち抜こうとディバインバスターを撃つ。

「ブリッツアクション」

その瞬間、またしてもフェイトの姿がぶれるようにしてその場から消える。
なのははフェイトに超高速移動魔法があるのを失念していた。
ディバインバスターを放つ無防備ななのはの真下から、サイズフォームの形態を取ったバルディッシュが迫る。
鎌のように伸びた魔力の刃がなのはの左胸に襲い掛かり、なのはは思わず目を閉じてしまう。
と、レイジングハートが勝手にその宝玉を光らせ、空中にWの文字が浮かぶ青い宝石を吐き出す。
それを見たフェイトの腕が止まる。
刃の切っ先がなのはの胸に触れており、まさに後少しでも遅ければという状態で。
フェイトはレイジングハートが主の危機を救うために、
独自の判断でジュエルシードを差し出した事を知り、その顔に分からないぐらいの小さな微笑が浮かぶ。
普段のなのはなら気付いたのかも知れないそれも、今のなのはには気付く余裕もなかった。
フェイトはジュエルシードを回収すると、なのはからそっと離れる。

「ご主人様思いのいい子だね」

フェイトの小さな呟きに、なのはもようやくレイジングハートの今の行動の意味を知り、
礼を言いながらそっと撫でる。
そんななのはを一瞥すると、フェイトはすっと更に上空へと舞う。
流石に続けの戦闘で、魔力が残り少ない上にかなり疲れている。
しかし、それを気付かせないように上空へと舞うと背中を向ける。
その背中へとなのはは声を掛ける。

「待って! 名前、あなたの名前を教えて」

どうしても聞きたかったこと。それを尋ねるなのはへと、フェイトはどうでも言いように短く答える。

「フェイト・テスタロッサ」

「フェイトちゃん。わたしは……」

なのはが自分の名前を言おうとするも、フェイトは振り返りもせずに空高く飛び去る。
その背中を寂しげに見詰めながらも、それでも名前は聞けたと希望を繋ぐように胸の前で手を握り締める。
流石に笑顔までは浮かばないが、それでもなのは少しだけすっきりした顔をしていた。
地面へと降りたなのはの元にユーノが近づく。

「なのは、大丈夫?」

「うん。でも、ごめんね。ジュエルシード取られちゃった」

「いいよ、なのはが無事なら」

「ありがとう、ユーノくん。でも、ちょっと疲れたかも。
 やっぱりフェイトちゃんは強いよ」

「そうだね。でも、なのはだってまだまだ強くなれるよ」

「今まで強くなりたいなんて思った事はないけれど……。
 でも、今は少しでも強くなりたいかな。勿論、ジュエルシードを探すためっていうのもあるんだけれど、
 それ以上にフェイトちゃんとお話してみたいの。
 フェイトちゃんの話を聞いてみたい。
 どうしてジュエルシードを集めているのか、どうしてあんなに寂しそうな目をしているのか。
 そのために強くなるのって、やっぱり変なのかな」

「ごめん。それは僕には分からないよ。
 でも、なのはがそうしたいって思ったんなら、そうしたら良いと思うよ」

「……うん」

静かに頷くと、なのはは地面へと座り込むのだった。
その胸中で何を思い、何を考えているのか。
それはユーノには分からなかった。



 ∬ ∬ ∬



暫く休憩した後、なのはとユーノは会場へと戻る。
しかし、既に休憩時間は終わっており、中に入る事が出来なかったなのはは会場内のベンチに腰掛ける。
そこへ、リスティが通り掛る。

「ん? えっと君は確か恭也の妹の……」

「あ、なのはです」

「そうそう、なのはだった。
 こんな所でどうした?」

「えっと、トイレに行っている間に休憩時間が終わってしまって……」

「ああ、そういう事か。うーん、ならこっちにおいで」

言ってリスティはなのはの手を引いて関係者以外立ち入り禁止となっている場所へと引っ張っていく。

「あ、あの」

「遠慮はいらないよ」

恭也と美由希には世話になったしと心の内で答えつつ、リスティは舞台袖までやって来る。
そこには次の出番となるフィアッセが居た。

「あれ、なのはどうしたの?」

「あ、その……」

なのはの代わりにリスティが事情を説明し、ついでに連れてきたと告げる。
フィアッセはリスティに礼を言うと、なのはを舞台の近くへと連れて行く。
そこには美由希も居て、なのはの登場に驚くもすぐに笑顔で手招きする。
なのはは嬉しそうに美由希の傍に近づくと、美由希の横に座る。
舞台の上ではティオレの歌が続いており、なのはは静かにその歌声に耳を傾けるのだった。



 ∬ ∬ ∬



ビルの中で傷付いた身体に応急処置を済ませた恭也は、未だ意識を失った美沙斗を見る。
と、恭也の意識が第三者の気配を感じ取る。
同時に声が落ちる。

「大丈夫かい、恭也」

「……アルフか。見ての通り無事だ」

「あまり無事には見えないんだけどね」

よれよれになり薄汚れたジャケットには、あちこちに小さな傷が出来ており、
それは恭也の身体にも達している。
顔も埃まみれになっており、疲労も大きいのだろう。
特に左肩の傷は酷く、今は止まっているようだが止血用に巻いた布の下からも血が滲んでいる。

「とりあえず、コンサートは無事に行われているんだろう」

「ああ」

「で、アルフは何をしに来たんだ?」

「偶々近くを通り掛かった……て言うのは嘘で、単に恭也が心配だったからね」

「心配してくれたのか。それはすまないな」

「良いよ。何せ、ジュエルシード探しを手伝ってもらってるしね」

照れたようにそっぽを向きながら答えるアルフに小さく笑い返し、何とか立ち上がる。
痛みに顔を顰めつつ立ち上がった恭也へ、アルフが真剣な顔を見せる。

「っ! 恭也、ジュエルシードの反応が!?」

「ちっ、こんな時に。何処だ、アルフ」

「かなり近いよ! しかも、大きな反応が……。
 場所は…………ここっ!?」

アルフの言葉が全て終わる前に、恭也たちの目の前にジュエルシードが現れる。
呆然となる恭也たちの前で、ジュエルシードが美沙斗の中へと消える。

「しまっ……」

瞬間、美沙斗の身体から衝撃波とも呼ぶべき見えない何かが噴き出して恭也を吹き飛ばす。
それを人型となったアルフが受け止める。

「すまない、アルフ」

「良いよ。それよりも、まずい状況だよ。
 恭也、戦えるかい?」

「やるしかないだろう。所で、美沙斗さんの意識はどうなっているんだ?」

「……意識はないみたいだね。
 多分、強い思いに反応して、偶々ここにあったジュエルシードが活動してしまったんだね」

「強い思い……。まさか、コンサートの……。
 尚更、ここで止めないといけないって訳か」

恭也は呟くと八景ではなく、グラキアフィンを戦闘形態にして構える。
美沙斗の決着はさっきので着いた。
ここからは、ジュエルシードとの対決だから。





つづく、なの




<あとがき>

もう一つの戦い。
美姫 「なのはとフェイトの対決ね」
こっちはフェイトの勝利で終わった。
しかし、またしても別の場所で戦いが始まる。
美姫 「って、大丈夫なのかしらね、恭也」
どうなる、どうなる〜。
美姫 「それは次回ね!」
おう。それでは、また次回で!
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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