『リリカル恭也&なのは』






第13話 「恭也、第二戦」






桃子たちが姿の見えないなのはの事で心配するといけないと思い、
フィアッセはティオレの歌が終わった後に行うちょっとしたイベントになのはを参加させる事にする。
舞台に上げてしまえば、なのはの居場所も何故すぐに戻ってこなかったのかも分かるだろうという思いと、
母親譲りのちょっとした悪戯心から思いついた事だった。
フィアッセは近くにいた者にその旨を伝えると、その者は小さく頷いて足早に去っていく。
それから少しして、ティオレがもう少しで歌い終わるという時、フィアッセはなのはの元へと行く。

「なのは、桃子に心配させたら駄目だから、今からなのはがちゃんと居るって事を桃子に教えるね」

「あ、そう言えば。でも、どうやって?」

「それはね……」

言って楽しそうに笑うフィアッセのすぐ後ろに関係者だろうか、スタッフらしき者が姿を見せる。
その時、ユーノは新たなジュエルシードの反応を感知するが、なのはの疲労を知り伝えるかどうか悩む。
が、どうやらなのはの方も気付いたらしくユーノを見てくる。
しかし、状況が状況の為に今すぐ動く事も出来ず、
またフェイトの方でも気付いて向かっているだろうと想像できた。
今、あの少女とやり合っても勝てないのは分かっている上に、先の戦いでレイジングハートが少しだが傷付いている。
レイジングハートを休ませる意味でも、なのはとユーノは仕方なく、今回のジュエルシードは諦める。
しかし、なのはとユーノは気付いていなかった。
フェイトはなのはとの決着後、今反応があったジェルシードとは全く違う方向へと飛び去っており、
気付いたとしてもすぐには駆けつけれない程、離れていることには。
ともあれ、すまなさそうに謝るなのはに、ユーノは小さく首を振って励ます。
基本的にペットの持ち込みは禁止なのだが、ここが客席ではなく舞台袖、
しかも、フィアッセやティオレの知り合いのためか、スタッフたちも注意しない。
単に忙しく動き回っていて気付いていないだけの可能性もあるが。
ともあれ、なのははユーノを美由希へと渡すとフィアッセの傍に寄る。
これから何をするのかはまだ説明されておらず、少し不安になるものの、フィアッセを信じてその手を握る。
やがて、ティオレの歌が終わると同時、ティオレはその場に居続け、スピーカーから何やらアナウンスが流れる。
近くにいたスタッフが花束を抱えてやって来ると、それをフィアッセとなのはへと渡す。
右手でフィアッセの手を、左腕で花束を抱えたなのはは次の瞬間、思わず声を上げそうになって何とか堪える。
フィアッセがなのはの手を引いたまま、舞台へと出て行ったのだ。

「あ、あの……」

「しっ。静かにね、なのは。大丈夫、別に歌えとかは言わないよ。
 ただ、ママに花束を渡してくれればね。娘とその友達からって事で。
 それとも、一曲歌ってみる?」

悪戯っぽく笑うフィアッセになのはは思わず首を激しく振って断る。
二人が舞台の中央へと姿を見せると、会場にアナウンスが再び流れる。

「世紀の歌姫ティオレ・クリステラさんへと、コンサートの成功を祈って、
 ティオレ・クリステラさんの娘さんとティオレ・クリステラさんの親友の娘さんから花束が渡されます」

なのはが来た事に軽く驚くティオレだったが、すぐに笑みを浮かべると二人から花束を受け取る。

「ありがとう、フィアッセ、なのは」

礼を言うと二人の頬へとキスをする。
拍手が巻き起こる会場の中、なのはの姿が見えなくて心配していた桃子たちはほっと胸を撫で下ろす。
桃子たちの方へと、フィアッセとティオレが小さくウィンクを投げると、
桃子たちはすっかり、二人の悪戯だと思い込んで苦笑を見せる。
その中で、アリサは心底羨ましそうに舞台上のなのはをじっと見詰めるのだった。



 ∬ ∬ ∬



倒れていた美沙斗がゆっくりと立ち上がったかと思うと、あっという間に恭也との距離を詰めて来る。
低い軌道から繰り出される斬撃を辛うじて防ぐと、恭也は距離を開けるべく後ろへと跳ぶ。
しかし、その後を追うように美沙斗が同じ距離だけ地面を蹴って迫る。
両者の距離が変わらず、互いの身体が宙にある状態で美沙斗から攻撃が繰り出される。

「飛翔」

恭也の言葉に応えるように、グラキアフィンの白い宝玉が輝き、恭也の身体を宙高く舞わせる。
空中へと逃れた恭也だったが、しかし、美沙斗の身体もそれを追うように宙に舞う。

「くっ」

恭也は高度を下げ、床すれすれを飛びながら柱と柱の間を縫うように飛ぶ。
その後を美沙斗が付かず離れず追いかける。
恭也は前方を一度見ると、少し開けた空間に出た瞬間に身を翻し、グラキアフィンを横に構える。
恭也の周囲に白くてひし形の長細い針のようなものが無数浮かび上がる。

「翔矢(しょうさ)」

恭也の声と同時に、それらが全て美沙斗目掛けて真っ直ぐに飛んで行く。
それを弾きながらも接近する美沙斗だが、その間に恭也は更に遠くへと飛ぶ。
流石に今の状態で接近戦はまずいと分かっているのか、恭也は美沙斗から距離を開ける。

≪恭也、大丈夫なのか?≫

≪正直、大丈夫とは言い難いな。だが、怪我は本当に大した事はない。
 肩以外はな≫

最後の方でのやり取り以外では、美沙斗も加減をしてくれていたのか、
傷の割には動く上で大した手傷ではない。
問題は、体力にあった。
初めて使った閃と神速の二段掛け。
これにより恭也の体力はかなり奪われた上に、身体の負担がかなり大きかった。
こうして距離を開けて牽制するように魔法を放っているのも、少しでも体力を回復させるという目的もあった。
勿論、魔法による撃破も考えてはいるが。
ただ、やはり魔法はまだあまり上手く使えないというのが現状だった。

≪あたしが背後から仕掛けるよ≫

≪待て、アルフ!≫

恭也が止める間もなく、そこに待機していたのか、アルフは美沙斗が柱の一つを通過した瞬間、
その頭上から一気に拳を振り下ろす。
それを美沙斗は小太刀で受け止めると、素早くもう一刀を抜き放ちアルフへと斬り掛かる。
アルフは簡易シールドを張るが、あっさりとそれを砕かれる。
そこへ美沙斗の蹴りが出され、アルフの腹に当たり吹き飛ばされる。
地面を滑っていくアルフを気にしながらも、恭也はその隙を付くように一気に距離を詰めて刃を横に薙ぐ。
後ろに目でも付いているのか、それを背中越しの小太刀で防ぐと美沙斗は恭也にも蹴りを放つ。
それを身を屈めて躱し、恭也は下からグラキアフィンを振り上げる。
美沙斗の小太刀とぶつかり甲高い音を立てる。
鍔迫り合いとなった二人、美沙斗の背後から起き上がったアルフが再び突っ込んでくる。
それを美沙斗は軽く地面を蹴っただけで三メートルほども飛び上がり、アルフの頭上を超えて躱す。
勢い余ったアルフの拳が恭也に届く寸前で止められ、互いに知らず詰めていた息を吐くが、
アルフの背後に降り立った美沙斗が小太刀をその背中へと突き立てる。

「アルフっ!」

アルフを庇うように引き寄せ、グラキアフィンで美沙斗の小太刀を防ぐ。
同時、美沙斗が掌を広げて翳す。
すると、そこから見えない突風のようなものが吹き出し、恭也とアルフは吹き飛ばされる。
壁にぶつかって止まると、恭也はアルフへと疑問をぶつける。

「ジュ、ジュエルシードが取り付くと、ああいう真似も出来るのか?」

「ごめん、それは分からないよ。そもそも、人間に取り付いたのを見たのも初めてだし」

「そうか……」

恭也はそう呟くと壁を背に立ち上がる。
恭也に庇ってもらい、壁にはぶつからずにすんだアルフだが、衝撃波を近くで受けてやや足元をふらつかせる。
それに手を貸しながら、恭也は今までの短い時間で掴んだ事を整理する。

(力や速度そのものは大幅には上がっていない。
 これも問題と言えば問題だが、一番の問題は……)

恭也が考える先から、またしても美沙斗の掌から衝撃波が放たれる。
恭也とアルフは同時に地面を蹴って左右に分かれて躱す。
美沙斗は恭也を先に倒すべきと判断したのか、それとも倒れる直前に恭也と遣り合っていたからなのか、
迷いなく恭也の方へと飛ぶ。
文字通りに地面の上を数センチを滑るように。
自分へと向かってくる美沙斗へ、恭也はグラキアフィンの切っ先を向ける。

【ショット】

切っ先から放たれた拳程度の大きさの魔力球は、しかし、あっさりと美沙斗に躱される。
しかし、その僅かな動作の間に恭也は壁を蹴って美沙斗との距離を自ら縮めると、グラキアフィンを振り下ろす。
魔法を使って飛ばなかったのは、自身の体重と重力による落下速度を加えた一撃を打つためだったが、
美沙斗はこれを簡単に受け止めると、恭也の右胸に掌を当てる。
ミシッという嫌な音を聞きつつ、恭也は飛翔魔法を使って背後へと飛ぶ。
美沙斗の衝撃波の威力を自ら飛んで軽減させつつ、右胸の小さな痛みに顔を顰める。
何とか足から着地した恭也は、数メートル先で美沙斗が射抜の構えを取るのを見る。
何かが爆発したような音と共に、美沙斗の足元の床が砕ける。
瞬間、恭也は身体が訴える痛みを押さえ込んで神速へと飛び込むが、
その状態でも元々衰えない射抜の速度がジュエルシードによってか更に強化されて迫る。
例え神速の二段掛けでも躱せそうもない速度ですぐ目の前に迫る刃を見詰めながら、
しかし恭也は冷静にグラキアフィンを握る。
それに応えるように、グラキアフィンから声が返る。

【刹神(せつがみ)】

瞬間、恭也の姿がその場から消える。
美沙斗の射抜が空を斬り、恭也の居場所を探すが、気配さえも消え去る。
直後、数メートル離れた柱に何かがぶつかる音が響く。
その何か、恭也はぶつかった痛みに顔を歪めるつつも何とか立ち上がる。

「ぐぅぅっ。はぁー、はぁー」


肺に空気を取り込むように、何度も呼吸を繰り返す恭也の元にアルフが近づく。

「全く無茶して。まだ、ちゃんと制御できないのに」

「はぁー、はぁー。だ、だが、使わないと危なかった……」

「そうだけどさ。本当に可笑しな奴だね、アンタって。
 基本的な魔法の展開に時間が掛かるかと思えば、こんな凄い魔法を作り出したり……。
 まあ、制御できてないなら意味はないけど」

呆れたように文句を言いつつも、恭也の身体を心配する。
それに苦笑しながらも、恭也は美沙斗へと視線を向ける。
アルフもそれ以上の言葉を飲み込むと、同じように視線を向ける。
そんな二人の言動など気にせず、美沙斗は再び恭也とアルフへと向かって来る。
アルフと恭也は美沙斗を挟み込むように左右から襲い掛かるが、ニ刀によって全て捌かれ、逆に反撃を食らう。
ならばと前後で挟み込んでも、上下から攻めても似たような結果に終わる。
二人掛りでありながら、美沙斗にあしらわれる。
流石に疲労がはっきりと見えてくる恭也の身体に、徐々に美沙斗の刃が当たり始める。
いや、恭也だけでなく、アルフにもその刃が触れ始める。
もう何十度めとなる衝撃波を喰らって吹き飛ばされる恭也とアルフ。

≪恭也、こうなったら遠距離砲撃魔法で≫

≪そんな事をしたら、美沙斗さんが無事ですまないだろう≫

≪大丈夫。ちゃんと非殺傷設定にしてれば。
 まあ、少しぐらいの怪我はこの際、大目に見てもらうしかないだろうけれど≫

≪もう一つ問題がある≫

≪分かっているよ。時間、だろう≫

アルフの指摘通り、魔法を習い始めて幾つかの魔法を使えるようになった恭也だったが、
出力の大きい魔法はどうしても展開に時間が掛かるのだった。
勿論、恭也に指導しているアルフがそれを知らないはずもなく。

≪あたしが時間を稼ぐから、任せたよ≫

恭也に何か言わせるよりも早く、アルフは拳を握ると美沙斗へと迫る。
美沙斗が放つ衝撃波を跳んで躱すと、アルフは周囲に幾つもの橙色の魔力球が生み出す。

「フォトンランサー・マルチショット」

アルフの周りの球から矢のように魔力が吐き出され、美沙斗やその周囲へと向かう。
美沙斗はバリアのような幕を張ってそれを防ぐが、アルフの放った魔法はバリアや、
床などに当たった瞬間に炸裂し、美沙斗を包み込むように煙が立ち上げる。
煙幕を張るための牽制として放った魔法の効果に満足げな笑みを零し、
アルフは美沙斗の背後へと回り込むと、その向こうに見えた美沙斗の影へと両掌を翳す。

「チェーンバインド!」

アルフの手から放たれた二本の魔法の鎖が美沙斗の身体に巻きつき、その身体を拘束する。
それを外そうともがく美沙斗と、それを押さえ込むアルフ。
今の所、力が拮抗しているのか、大きな動きは共に見られない。



アルフが飛び出すのを見た恭也は止めようとするが、既に美沙斗へと攻撃を仕掛けるアルフを見て、
自分のすべき事をするためにグラキアフィンを眼前で横に倒す。
小さく息を吸ってグラキアフィンへと魔力を送り込む。
応えるように白い宝玉が光り、左腕の鎖が伸びて恭也の前を走る。
よく見れば、鎖は六芒星を円で囲んだ魔法陣を描いていた。
恭也の眼前で魔法陣の形を維持しつつ走る鎖から、
時折、パチパチと放電しているかのように魔力が零れる。
魔法陣の中央に魔力が収束していく。

≪アルフ!≫

今しも美沙斗によってバインドを外されようとしていたアルフは、恭也の声にすぐさまその場を飛び退く。
直後、恭也の声がビルの中に響く。

「闇霊砲雷刃っ!」

魔法陣の中央から帯状に伸びた黒い魔力が真っ直ぐに美沙斗へと伸び、そのまま直撃する。
少なかった体力に加え、魔力まで多大に消費した恭也は肩膝を付いて荒く呼吸を繰り返す。
恭也とアルフが遠巻きに見詰める先で、倒れたいた美沙斗の身体から青い輝きを放つ宝石が出てくる。
しかも、それは二つあった。

「二つも、か」

呆然と呟きつつ、恭也は震える腕でグラキアフィンを掲げて二つを回収する。
グラキアフィンを腕輪へと戻し、今度こそ終わったと床に倒れ込む恭也。
そんな恭也を眺めながら、アルフもまた腰を降ろすと疲れたように盛大な息を吐き出す。
まだ天井部分が作られていないせいで月の光が降る中、恭也は空を見上げる。
既に日も暮れて暗くなった空を見上げ、そこに本来ならありえないようなものを見つけて目を見開く。
見上げる恭也の視界の中、向こうもこちらに気付いたのか、静かに見下ろしてくる。
そう、そこには月を背にして空に浮かぶ、漆黒の少女がいた。





つづく、なの




<あとがき>

むむむ。もう少し苦戦させた方が良かったかも。
美姫 「だったら、反省しなさい!」
ぶべらっ。
美姫 「ともあれ、いよいよなのね」
何が?
美姫 「何がじゃないわよ! 今回のラストよ、ラスト!」
ふふふ。どうかな?
美姫 「いや、この状態でどうかも何もないと思うんだけど」
意外と、クロノという可能性も…。
美姫 「いや、少女ってなってるし」
えっと、女装したクロノ?
美姫 「お願い、止めて」
あ、あはは冗談だって。
まあ、実際にどうなるのかは、次回って事で。
美姫 「まさか、プレシアっていう意外な展開!?」
少女、なのか?
美姫 「さあね? まあ、どっちにせよ次回ね」
おう。
美姫 「それじゃあ、次回でね〜」
ではでは。







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