『リリカル恭也&なのは』






第14話 「邂逅する黒き二人」





月を背にした少女の、そのあまりにも儚げな印象がその光景に妙に合っており、
恭也は暫し幻想的とも言えるその光景を、言葉をなくしてただ見詰める。
漆黒の装いの少女は手にした魔法の杖らしきものを握り締めると、
恭也に背を向けて飛び去ろうとする。
寝転がったまま呆然としている恭也を不審に思い、アルフがその視線の先を何気なく見上げ、
その目を見開く。
そこに、ずっと会いたかった人を見つけて嬉しそうな顔になると、
疲れた身体を引き摺るようにして恭也の傍へと向かいながら、その名を優しく呼ぶ。

「フェイト……、フェイトっ!」

その声にフェイトは今まさに飛び去ろうとしていた身体を静止させ、ゆっくりと振り返る。
そこに懐かしい顔を見つけて少し笑みを浮かべるも、すぐにそれを消し去る。

「どうして、アルフがここにいるの?
 それに、その人とジュエルシードを集めて……。
 っ! そのデバイスはリニスが……」

アルフを見て、さっきのジュエルシード回収の現場を思い出し、
そして、最後に恭也の腕に付いた腕輪を目にする。
色んな事を一度に目撃して混乱するフェイトへと、恭也が優しく話し掛ける。

「アルフは君のために、先にこの地へ来てジュエルシードを探していたんだ。
 それで傷付いた所を俺が見つけて、このデバイスを俺が操れると知ったアルフが協力を求めてきたんだ。
 とりあえず、ここに降りてきてくれないか。敵対するつもりは一切ないから」

言って手を広げてその意志を見せる恭也を見て、フェイトはその横へと降りてくる。
フェイトが降りてくるなり、アルフはその身体に力いっぱい抱き付く。

「会いたかったよ、フェイト〜」

「私もよ、アルフ。お母さんには、アルフが私の元から去ったって言われたけれど、
 やっぱりアルフは私を見捨てたんじゃなかったんだね」

フェイトは嬉しそうにそう言ってアルフへと腕を回すが、アルフはそれを聞いて腹を立てる。
心の内でプレシアへと罵詈雑言を続けるが、それはすぐにどうでも良くなる。
フェイトの身体を抱き締めながら、アルフは嬉しそうに尻尾を振る。
そんな光景を優しい眼差しで見詰めながら、恭也はゆっくりとその身体を起こす。
痛みに顔を顰めつつ、二人の邪魔をしないようにそっと背中を壁へと預ける。
ようやく再会の喜びを終えたフェイトは、恭也へと礼を言う。

「アルフがお世話になったようで。その上、ジュエルシード探しまで……」

「いや、気にする事はない。俺が自分からやった事だから。
 嫌だったら、初めから手伝っていないよ」

「ありがとうございます。でも、そんなに怪我までして……」

「あー、これは別にジュエルシードだけの所為では……。
 まあ、気にしないで」

恭也の言葉に怪訝そうな顔をしたフェイトに気付き、恭也は話を変える。

「それよりも、グラキアフィンは返した方が良いのかな」

「いえ、宜しければそのまま。お礼という訳ではないですが、
 どうせ、誰も使えませんし、今更主を変える事はその子も嫌がるだろうから」

【そのとおりです。私のマスターは、あなただけです】

グラキアフィンの言葉にフェイトは少し驚き、恭也は小さく笑みを見せる。
それからゆっくりと改めてフェイトを見詰める。
年はなのはと同じぐらいだろうか。
だが、その雰囲気が実際の年齢よりも上に見せていない事もない。
落ち着いた雰囲気だが、アルフから置かれた現状を聞かされていた恭也は、
それが余裕がなく張り詰めているものではと少し心配する。
だが、初対面にいきなりそんな事を聞く事も出来ず、恭也はさし当たってこれからどうするのか尋ねる。

「勿論、ジュエルシードを集めます」

「そうか。アルフはどうするんだ? フェイトの傍に戻るか」

「勿論だよ。恭也、今までありがとうね」

恭也へと礼を言うアルフへ、恭也は小さく肩を竦める。

「俺はまだジュエルシード集めを止めるとは言ってないぞ」

恭也の言葉に揃って二人が驚く中、恭也は言葉を続ける。

「まだ全部集まっていないんだろう。だったら、最後まで手伝うよ。
 それに、一人よりも二人の方が効率も良いだろうし」

「でも、これ以上迷惑は……」

「別に迷惑じゃないよ。それに、俺が手伝いたいんだ。
 手伝わせてくれないかな? グラキアフィンのお礼もしたいし」

「でも、それは今までアルフが……」

人との付き合いが苦手なのか、どうして良いか分からないといった感じであたふたする様子に年相応のものを見て、
恭也は知らず微笑を浮かべる。

「アルフ、俺が手伝うのは邪魔になるか?」

「そんな事はないよ。でも、手伝うって事はまたこんな危ない目にあうって事だし……」

「気にするな。今までだって、かなり危なかったんだから。
 それに、さっきも言ったが二人の方がより広い範囲を探せるだろう」

もう一度恭也が言うと、アルフはおずおずと口を開く。

「お願いしても良いの?」

「ああ」

恭也は短く頷くと、フェイトへと視線を向ける。
アルフもそれに倣うフェイトへと視線を向け、後はフェイトの返事次第だと目で伝える。
それを受け、フェイトは少しだけ考えた後、本当におずおずと協力をお願いする。

「分かった。えっと、フェイトで良いのかな?」

「はい。えっと……」

「高町恭也。恭也で良いよ」

「恭也さん、お願いします」

恭也の提案を受け入れたフェイトは、これでプレシアの願いが少しでも早くなればと思う。
すんなりとまではいかないが、最終的に恭也の提案を受け入れたのは、そういった理由からだが、
それだけではなかった。
恭也に、何処か懐かしいものを感じたからだ。
そう、昔、魔法の勉強をしていた頃、アルフと一緒に暮らした女性、リニスと似たような感じを。
懐かしそうに昔を思い出していたフェイトだったが、それを振り切るように小さく頭を振る。
そこへ、恭也が腕輪状態のグラキアフィンを掲げる。

「とりあえず、今まで集めたジュエルシードを渡すよ」

言って恭也はグラキアフィンからジュエルシードを放出する。
恭也の目の前に、あの青い宝石が浮かび上がる。
1、2、5、10の刻印がされたジュエルシードを、フェイトは自分のバルディッシュへと回収する。
バルディッシュへと回収するのに気を取られ、フェイトは背後でアルフが可笑しな顔をしたのに気付かなかった。
逆に、アルフの正面に座る恭也ははっきりとその顔を見ており、アルフが口を挟む前に念話を飛ばす。

≪こうしておけば、全部集まる事はない。全部集めてしまった後、フェイトがどうなるのか不安なんだろう。
 だったら、幾つかは俺が持っておく。
 その間に、フェイトと母親の問題をどうにかしよう≫

≪……ありがとう、恭也≫

何故、全部恭也が渡さなかったのか分かり、同時に恭也の気遣いにアルフは心から感謝する。

「それじゃあ、今後はどうする?」

改めて今後の事を話し出す恭也に、フェイトは少し悩んでから口を開く。

「アルフは恭也さんの傍に今まで通り居て。
 私は一人で探すから」

「フェイト!?」

フェイトの言葉にアルフが声を上げるが、フェイトは酷く落ち着いたまま言う。

「勘違いしないで、アルフ。勿論、私だってアルフに傍に居て欲しいよ。
 でも、恭也さんは魔法に慣れてないんでしょう。だったら、暫くはサポートが必要だから」

「でも、フェイト一人じゃ心配だよ。
 だったら、三人で」

「それは駄目。三人一緒だと、その分探せる範囲が狭くなるから」

「うぅぅ〜、フェイトがそう決めたんなら従うよ」

渋々とだが納得するアルフに対し、今度は恭也が口を開く。

「俺としては、魔法の鍛錬もあるから助かるんだが、本当に良いんだな?」

「うん」

「そうか。なら、その条件に週に一回、何かあればその度に集まるって事を付け加えてくれ。
 互いの現状をしる必要があるし、手強い奴を相手にする時は三人の方が良いだろう」

何か言いかけたフェイトを制し、恭也は一気に言う。
その説明に反対しようとしたフェイトだったが、押し黙る。
こうして、大まかな事を決め終えた三人は話し合いを終える。

「と、連絡はどうしたら良い?」

「アルフは私の使い魔だから、遠く離れていても念話が通じるはず。
 あまり遠すぎると駄目だけれど、この街の中なら端から端でも大丈夫だから」

「そうか、分かった。それじゃあ、今日はここまでだな」

「はい」

「アルフ、今日はフェイトと一緒に居たらどうだ。
 俺は、こっちの始末が残っているからな」

恭也は未だ気を失っている美沙斗を見てそう呟く。
その言葉に頷くと、アルフは期待するようにフェイトを見る。
フェイトは小さく笑みを浮かべると、アルフへと手を差し出す。
その手を嬉しそうに取ると、二人は夜空へと舞う。
その背中へ、恭也は言葉を投げる。

「またな、二人とも」

「ああ、またね恭也」

「……えっと、それじゃあ、また」

元気に返事するアルフと、最初戸惑ったように、それからおずおずと返事をするフェイト。
二人に向かって小さく手を振ると、恭也は大きく息を吐き出す。
何とかあの二人が立ち去るまで持ったが、正直、体中が痛みを訴えている。
神速の二段掛けに加え、魔法の連発で体力、精神力ともにまさに精も根も尽きかけの状態である。
加えて、小さな斬り傷に擦り傷はそれこそあちこち無数につき、左肩はさっきからかなり痛みを増している。
そして、右膝が熱を持って軋むように悲鳴を上げている。

「はぁ、折角ティオレさんに貰ったというのに、これはもう着れないな」

痛みを誤魔化すため、そう一人ごちるとボロボロとなったジャケットを指で摘み、
恭也は美沙斗へと視線を向ける。
それに気付いた訳ではないだろうが、美沙斗が小さく呻き声を出して意識を取り戻す。
ジュエルシードに憑り付かれている時の事は覚えていないらしく、
美沙斗は恭也が閃を使った事に感心する。

「そうか、私は負けたんだな。君が私を止めてくれたという事か」

その顔は、最初に対峙した時とは違い、恭也が知る優しい美沙斗の顔に近かった。
完全にはまだ戻れないだろうが、さっきまでの研ぎ澄ました、近寄りがたいものよりもかなりましだろう。

「そうなりますね。でも、美沙斗さんはずっと止まりたいと思ってたんですよ。
 じゃないと、今の俺が止めれるはずもないですから。
 俺はそれをちょっとだけ手伝っただけです」

「大した謙遜だね。奥義之極みまで出した者の言う言葉じゃないよ。
 でも、私はやっぱりあいつらを許せないんだ」

「それは分かりますよ。俺だって、いや、幼かった俺よりも美沙斗さんの方がその気持ちは大きいでしょう。
 でも、違うやり方がきっとあると思います」

今にも泣き出しそうな、いや、戦っている時から、更にはもっと昔、
復讐すると決めて刀を手にしたときから、ずっと心の中で泣き続けてきたであろう美沙斗へと、
恭也は拙いながらも必死で言葉を重ねる。
不器用ながらも必死に言ってくる恭也に、美沙斗は小さく笑みを浮かべる。
それは本当に久しく忘れていた、嘲笑や自嘲ではなく、自然と浮かんだ笑み。
その事に美沙斗自身驚きつつ、それをさせた恭也を見る。
またも浮かぶ笑みに、恭也もまた小さな微笑でもって応える。
よろめく身体を何とか起こし、美沙斗は恭也を真っ直ぐに見詰める。

「吹っ切れたような気がする。勿論、今まで私が手に掛けてきた罪は消えないけどね。
 それでも、今度は違う形であいつ等に復讐する事にするよ」

「……どうするんですか」

「心配しなくても良い。
 今度はまっとうとは言えないかもしれないけれど、ちゃんとした道を行くから。
 香港にちょっとした知り合いが居るんだ」

美沙斗はそこまで言って言葉を区切ると、恭也へと手を差し伸べる。
その手に捕まりながら、恭也は今一番気になる事を尋ねる。

「美由希には……」

「会わない。いや、会えない。あの子の母親は、あの子を捨てた酷い母親のままで良い」

「多分、あいつは薄々気付いていますよ」

「そう……」

「もし、聞かれたら正直に全部話します」

「……っ、恭也の好きにしたら良い」

美沙斗は何か言いたそうにするが、恭也へと任せる事にする。
そんな美沙斗の心情に気付いたのか、恭也は続ける。

「いつか、あいつの前にも姿を見せてやってください。
 大丈夫です。きっと分かってくれますよ。美沙斗さんと静馬さんの子供なんですから」

「……分かった。とりあえず、行き先が決まって落ち着いたら、恭也へ連絡するよ」

妥協点として、まずは恭也へと連絡する事で許してもらう。
いきなりは美沙斗の心の準備も出来ないだろう事は分かるから、恭也もそれで頷く。
やがて二人はコンサート会場の前までやって来る。
美沙斗は恭也をその前のベンチに座らせると、背を向ける。

「もう行くんですか」

「ああ。クリステラ親子に謝っておいてくれ」

「それはご自身の口から言った方が良いとは思いますが、引き受けます」

「助かる。礼代わりという訳ではないが、向こうの奴は私が引き受けよう」

「良いんですか?」

「ああ。もうこっちからは足を洗うからね。
 最後に甥の為に何かしてみたくなった。それで納得してくれ」

「じゃあ、お願いします。正直、かなり辛いですから」

恭也の言葉に小さく笑うと、美沙斗はコンサート傍にある林の中へとその姿を消す。
後日、リスティから聞いた話だと、手に龍の刺青をした男の死体が発見されたらしい。
恭也は美沙斗が立ち去ったのを見届けると、自分の格好を見下ろしてどうするか悩む。
このボロボロの格好では、入り口で止められるだろう。
かと言って、ここに居続けるのも幾ら人目がないとは言え、いつまでも大丈夫という訳にはいかない。
コンサートが終われば、出入り口であるここは人で溢れ返るだろうから。
とは言え、少し休まない事には流石に自力で遠くまで歩ける自信はなかった。

「しまったな。アルフに頼んでせめて人目のない所まで運んでもらうんだった」

そうぼやくも後の祭りで、本当にどうしようか真剣に悩み始めた恭也の視界に、
丁度、コンサート会場から出てくるリスティの姿が映る。
向こうもこっちに気付いたらしく、小さく手を振りながらやってくるが、その笑みが途中で引き攣る。

「これはまた、何とも……。念のために、外を見回りに来たんだが、正解だったかな。
 で、君がここに居るということは、例の剣士は……」

「ええ、何とか」

「ヒュゥ〜。やるね、恭也。
 あの後気になっていろいろと調べてみたんだが、君たちが会った剣士は裏の世界ではかなり有名人らしいよ」

「そうですか」

あまり興味がなさそうな恭也に小さく肩を竦めると、
リスティはすぐに手当てした方が良いだろうと恭也に肩を貸す。

「流石に人目があると力を使って運ぶってのはね」

「いえ、これで充分です。人通りの多い所でタクシーでも捕まえて病院に行きますよ」

「いや、そんな所に行かなくても、すぐ近くに名医がいるだろう」

「名医、ですか?」

「本当に分からないのかい? コンサートの間、ティオレさん専属となっている名医だよ」

「フィリス先生ですね」

「その通り。君たちの主治医でもあるし、丁度良いんじゃないか?」

リスティの言葉に、しかし、恭也は少しバツが悪そうな顔をする。
使用禁止と言われている神速を限度以上に使い、尚且つ、二段掛けまでしたのだ。
右膝が悪化しているであろう事は、恭也自身が一番理解している。
それに関するお小言を思うと、少し気が重くなるのはまあ、仕方ないだろう。
それを恭也の顔から悟ったのか、リスティは小さく笑うも、行き先を変更する気はなかった。
自分で止血しているのだろうが、左肩の傷は専門の者に早く見せた方が良いと判断したからだ。
恭也も何も言わず、リスティに肩を借りる形で裏口へと周る。
その途中、中に居た者を美由希が倒した事などを聞き、恭也は珍しく美由希を褒めてやろうかと考える。
外を見張っている者と連絡を取ると、リスティは中へと入っていく。
関係者以外が通らない場所を通り、恭也は空いている部屋へと辿り着く。
フィリスを呼びに言ってくると言い残して部屋を出たリスティの背中に礼を言うと、
恭也はそのままソファーに身体を倒す。
やがて、フィリスがやって来て、恭也の姿を見るなり眉を顰める。
顰めるが、何も言わずに治療を始めようとした時、部屋の扉が開く。
そこには、ティオレを初め、フィアッセや美由希、なのはが居た。

「恭也っ!」

泣きそうな顔で恭也の傍に寄って来たフィアッセは、恭也の状態を見て本当に泣き出す。
ティオレも申し訳なさそうな顔をして近づき、恭也へと謝ろうとする。
そんな二人を恭也が制する。

「怪我をしたのは、俺が未熟だったからです。
 それに、俺と美由希は謝って欲しくてガードを買って出たんじゃないんです」

「そうだったわね。あなたは私とフィアッセの夢の為にやってくれたのよね。
 だったら、ここはお礼を言うべきね」

ティオレはそう言って小さく笑うと、泣いているフィアッセの頭にそっと手を乗せて促す。
泣き止んだフィアッセはティオレの横に立つと、改まって二人へと礼を言う。
それが済むなり、フィリスが半ば無理矢理恭也の服を脱がしていく。
恭也は手当てを受けながら美由希へと視線を向ける。

「お前は怪我とかは?」

「あ、私は大丈夫だよ」

美由希の姿をざっと見て、本当に怪我はなさそうだと胸を撫で下ろしながらも、
それを気付かれないように、違う事を口にする。

「そうか。弟子が無傷なのに、師匠がボロボロでは格好がつかんな」

そんな恭也へと苦笑を返しつつ、美由希は少し真顔になる。

「恭ちゃん、あの人、もしかして……」

美由希の言葉をただじっと静かに待つ。
何か言いかけた美由希だったが、途中で言葉を飲む込むと首を振る。

「ううん、何でもない」

「そうか」

「うん。ただね、少し前に昔の事を夢を見たの。
 その私は本当に小さいんだけれど、そんな私を覗き込んで優しく語りかけてくれる二人が居る夢……。
 それだけ」

「……もう少し経ったら、いや、何でもない」

「そう」

お互いにそれで口を閉ざす。
沈黙が落ちるのも束の間、なのはが恭也の傍で心配そうに覗き込んでくる。

「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?」

「ああ、問題ない」

「ない訳ないでしょう。
 今回の場合は、無茶をしないでとは簡単には言えないけれど、右膝は炎症を起こしてます。
 それに、左肩だって決して軽い怪我とは言えないんですからね。
 二、三日は鍛錬は禁止です。後、激しい動きもですよ。
 後、入院とまでは言いませんが、毎日通院してください」

呆れたように恭也の言葉を否定した後、フィリスは医者の顔となって診断を下す。
入院となっては適わないとばかりに、恭也はその診断にすぐさま頷く。
時計を見て、そろそろラストへと近づきつつある事を察した恭也は、
まだ心配そうに見ているフィアッセに声を掛ける。

「フィアッセ、俺は大丈夫だから、そろそろ出番じゃないのか。
 ティオレさんも、そろそろ……」

恭也の言葉に二人とも時間を確認する。
予定通りなら、確かに後少しでラストの出番となるはずである。
今ここに集まっているCSS全員によるステージが。

「恭也にも聞いて欲しいな」

「そうね。こうして無事にコンサートが行えるのも、皆、あなたたちのお蔭ですものね」

フィアッセの言葉に、ティオレも優しくそう言う。
それを聞き、恭也は舞台袖に行く事を約束すると二人を送り出す。
が、入り口の所でティオレが立ち止まる。

「桃子には今日あった本当の事を教えた方が良いわね。
 じゃないと、その怪我の説明に困るでしょう。
 それに、大事な息子をそんな目に合わせたんだもの、ちゃんと話をしないと……」

そう言ったティオレに、しかし恭也は首を振って止める。

「必要ありませんよ。何か感じているかもしれませんが、わざわざ教える事はないです。
 こういうのは知らずに済むのなら、知らない方がいいですから。
 この怪我もこれぐらいなら隠せますし、見つかったときは鍛錬で出来た事にしますから
 だから、今日ここでは何も起こらなかった。
 そして、このままコンサートは無事に終わる。
 それで良いんですよ」

言って隣に立つ美由希を見上げる。
自分にも意見を聞かれていると分かった美由希は、恭也へと頷き返すとティオレとフィアッセを見詰める。

「そうだね。それで良いんだよ。
 私たちは私たちがすべき事をした。
 それは、人に誇るものではなく、寧ろ蔑まれるかもしれない。
 それでも、護りたかった今この時を護れた。そして、そのお礼を貰えた。
 それで私たちは充分だし、そんな事があったという事を知らないで済むのならそっちの方が良いよ」

恭也と美由希の言葉にティオレは頷く。

「分かったわ。あなた達がそう言うのなら、それで良いわ。
 ふふ、二人とも本当に成長したわね。士郎もきっと喜んでるわ」

ティオレの言葉に、恭也と美由希は嬉しそうに頷くと二人を促す。

「まだティオレさんとフィアッセの出番は終わっていないんですから……」

「そうそう。私と恭ちゃんが護ったものを、ちゃんと見せてねフィアッセ」

「勿論だよ。頑張ってくるね」

「ああ、頑張って」

「頑張ってね」

恭也と美由希の声援を受けて出て行くフィアッセ。
そんなやり取りをただ静かに見ていたなのはは、改めて自分の兄と姉を尊敬の念を抱き、
誇らしげに思う。
そして、自分もまたそんな二人のように強く、力だけでなく、心もまた強くなろうと改めて思う。
その脳裏にあの漆黒の少女の姿を思い出しながら。
そんななのはの名を呼ぶと、恭也はこの場に居合わせたなのはにも口止めを約束させる。
今までのやり取りを見ていたなのはは、これに素直に頷く。
自分が声を掛ける前に、何やら考えていたらしい事は分かったが、思いつめている様子もないようなので、
恭也はその事に付いては追求せず、ただそっと頭を一度だけ撫でる。
いきなりな恭也の行動に驚きつつも、なのははそれを心地良く受け止める。
それが、恭也の無言からの励ましだと何処かで理解しながら。

こうしてコンサートは、知らない者には何事もなく平穏に終わりを、
一部の者にとっては、非常に多忙で波乱に満ちた時間を提供して幕を閉じる。





つづく、なの




<あとがき>

ようやく、フェイトと恭也の出会い。
美姫 「敵対関係として出会わなかったわね」
まあ、傍にアルフがいたからな。
美姫 「なるほどね。つまり、アルフがいなかったら、違う展開もあったと」
どうだろうね〜。
美姫 「まあ、恭也はフェイトと協力関係って事ね」
今のこの時点ではな。
美姫 「それじゃあ、この先、どうなっていくのかしら」
とりあえず、なのはと恭也がまだお互いの正体をしらないからな。
美姫 「その辺りがどうなるのか、ね」
まあ、そうかな。
美姫 「ここでグダグダと言ってても仕方ないわね」
だな。
美姫 「という訳で、さっさと続きを書くのよ!」
おうともさ!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
次回まで、さらばっ!







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