『リリカル恭也&なのは』






第15話 「三度出会う白と黒」





コンサートから数日経ったある日、なのはは恭也の付き添いで病院へと来ていた。
勝手に調子が良くなったのを治ったと判断して鍛錬を始めようとする恭也に対し、
桃子が何か言ったらしく、なのはは恭也を病院へと引っ張って行く。
さしもの恭也もなのはを力尽くで振りほどく訳にもいかず、大人しく通院するのだった。
病院で恭也を待つ傍ら、なのはは改めてフェイトの事を考える。
今度会えたら、ちゃんと話を聞いてもらおうと。
決意を秘めて両拳を握り締め、小さく一つ頷くなのはを丁度診察が終わり出てきた恭也が目にする。
今までよりも何処か成長したようななのはに、恭也は何も聞こうとはせず、診察が終わった事を告げる。
病院を出た二人は夕暮れの中、家路に着く。
と、二人が家へと帰るなり、ユーノとアルフがそれぞれの元へと駆けて来る。

「なのは、これからちょっとアルフの散歩に行って来るが……」

「あ、わたしもユーノくんの散歩に行ってくる」

「そうか」

ちょっと慌てたように言うなのはに首を傾げながらも、恭也も少し早足でアルフを連れ出す。

≪アルフ、ジュエルシードの反応か?≫

≪うん。二箇所だけど、一つはフェイトが向かったから≫

≪分かった≫

恭也はアルフとの念話を打ち切ると、人の居ない裏路地まで早足で歩き、
周囲に誰も居ない事を確認するとグラキアフィンを展開させる。
次の瞬間には恭也は空の人となって、反応のあった場所へと飛び立っていた。



恭也との会話をやや強引に打ち切ったなのはも、ユーノを連れて早足で歩く。
恭也の姿が見えなくなると、走り出して人気のない場所でレイジングハートを起動させる。

「ジュエルシードはどこ、ユーノくん」

「それが二箇所なんだ」

「じゃあ、近いほうから」

「うん、分かった。それじゃあ、あっちだよ」

なのはの肩に乗り、前足で方向を教えるユーノに頷くとなのはもまた空へと舞う。



なのはが現場に近づくと、ジュエルシードのあると思われる場所から爆発音が響く。
だが、それが聞こえているのはなのはだけのようで、
ここまで来るまでに頭上から地上を見る限りは誰も気にしている風には見えない。

「封時結界だよ」

「わたしは結界内に入ったから、認識できたんだね」

「うん。いた、あそこ!」

ユーノが言う通り、なのはたちの前方では黒の少女が杖を振りかざしていた。
既に戦闘は終了したのか、青く輝く宝石がその姿を見せていた。
なのはは地面に降り立つと、こっちに気付いて身構える少女――フェイトへと声を掛ける。

「ねえ、お願いだから話を聞いて。わたしはあなたと戦う気はないの」

なのはが言い終えるよりも早く、フェイトがバルディッシュを構える。

「ま、待って!」

自分へとバルディッシュの切っ先を向けてくるフェイトに、なのはは闘う意志がないと伝えようとするが、
ユーノの鋭い声にそれが勘違いだと悟る。

「違うよ、なのは! あの子は僕たちに構えているんじゃなくて、ジュエルシードを警戒しているんだ」

ユーノの言う通り、フェイトの視線はさっきからずっとジュエルシードに向いており、
なのはの方は一度も見ていなかった。
ユーノの指摘に今更ながらにその事に気付き、なのはは自分とフェイトの間にあるジュエルシードを見つめる。
ジュエルシードは小さな光を明滅させて小さく震えている。
そこから今にも溢れ出しそうな魔力が感じられる。

「ユーノくん、これってどうなってるの?」

「まさか、暴走!? いや、違う。これは発動する前触れ。
 でも、周囲には発動を促すようなものは何も……」

ユーノの言う通り、結界を張ったためにこの周囲に動くものは何もない。
そんなユーノへと、フェイトが小さく呟く。

「ジュエルシードが発動して憑依する前に、その対象が死んだ」

フェイトの言葉に驚きつつ、なのはは周囲を見る。
しかし、その本来はジュエルシードが憑依すべきものは見つからない。

「蜘蛛の巣に掛かった蝶がジュエルシードの発動者。
 でも、私が来た時には……」

自然界の掟とはいえ、少し悲しそうに語るフェイトを見て、改めてなのははこの少女の事情を知りたいと思う。
それを少女が望んでおらず、自己満足だとしても。
先日見た恭也や美由希たちの姿が脳裏に浮かび、強くレイジングハートを握る。
嫌われても、この子を、フェイトを助けてあげたい。
助けを求めるように彷徨う瞳を見て以来、なのはがずっと思っていた事だった。
だが、以前に会った時に比べ、少し、本当に少しだけ張り詰めていたものがましになったようにも見える。
それでも、やはり以前と変わらない雰囲気を纏うフェイトを見詰める。
フェイトはもう言うことはないと目の前のジュエルシードへと意識を集中させる。
それを見て、なのはも慌ててジュエルシードを回収しようとする。

「あっ!」

回収シークエンスに入ったなのはを見て、フェイトは驚いた顔を見せると慌てて後ろへと下がる。
が、少し遅かったのかジュエルシードから膨大な魔力が噴出し、
レイジングハートとバルディッシュを引き付ける。
ジュエルシードを中心にして、バルディッシュとレイジングハートが吸い寄せられるように引き摺られる。

「うぅ、ユ、ユーノくんいったい……」

「分からない。ただ、まるで共鳴しているみたいだ……」

ユーノの言葉通り、二つのデバイスが共鳴するように細かく震える。
フェイトとなのははジュエルシードに引き寄せられるのを堪えるように両足に力を込めるが、
ゆっくりとジュエルシードに引き込まれて行く。

「くぅっ。バルディッシュ」

「レイジングハート」

互いにデバイスを気遣うように声を掛ける。
返って来る答えは共に大丈夫と言う言葉。
二人は為す術もなく引き摺られ、遂に二つのデバイスがジュエルシードと互いのデバイスにぶつかる。
瞬間、大きな魔力が立ち昇り、二人は吹き飛ばされる。
かなりの衝撃が突き抜け、光の柱が立ち昇るのを呆然と見ていたなのはは痛む身体を何とか起こす。
そこで顔色が変わる。
なのはの手にしたレイジングハートに無数の亀裂が走っていた。

「レイジングハート!?」

慌てて声を掛けるなのはに、レイジングハートは弱々しく返す。
取り乱しかけるなのはに、ユーノがこれなら自己修復が可能だと教えて落ち着かせる。
対するフェイトの方もデバイスに亀裂が入っていた。
だが、未だに魔力の柱と放出するジュエルシードへとバルディッシュを向ける。

「大丈夫?」

【YES SIR】

無理していると分かるバルディッシュの言葉に、フェイトは小さく笑うと自分の右手を柱へと向ける。

「放出される魔力を押さえ込むから、バルディッシュはサポートして」

【No. If it is me, it is safe.】

「うん、大丈夫なのは分かってるよ。でも、やっぱり負担が大きくなるからね。
 今回は私自身があれを押さえ込んで、バルディッシュはサポート。いい」

【……Yes】

その言葉にようやくバルディッシュが納得したのを見て、
フェイトは右手に魔力を纏うと光の柱へと近づける。
フェイトの魔力とジュエルシードが放つ魔力がぶつかり、小さな火花を散らす。
右手に走った痛みに顔を顰めながらも、フェイトは徐々に進んで行く。
それに伴い、光の柱が徐々に抑え込まれて行く。
どのぐらいの時間が経ったか、フェイトはどうにか魔力の奔流を押さえ込み、ジュエルシードを剥き出し状態にする。
そこへバルディッシュを当て、無事に回収する。
それを見てなのはが近づくが、その前にフェイトは空に身を置いていた。

「あっ。……だ、大丈夫?」

「…………問題ない」

心配そうに見上げてくるなのはに、どう返答するのか悩んだ後、
ぶっきらぼうにそれだけを答えるとなのはに背を向ける。
返事が返ってきたことに少しだけ笑みを見せ、なのははその背中に慌てて続けて声を掛ける。

「待って! 今度はわたしの名前を……」

それを無視するように、フェイトはその場から完全に立ち去る。
まだなのはが何か言おうとしていたみたいだったが、そんなのに興味はない。
それよりも、バルディッシュを休ませるのが先である。
その為、フェイトは真っ直ぐに自分の部屋、
こっちでの活動の拠点としているマンションへと飛んで帰る。
もう一つジュエルシードの反応を感知していたが、そっちはアルフとあの不思議な男の人、
恭也が何としてくれるだろうと判断して。



去り行くフェイトの背中を見詰めながら、
なのはは自分の名前を聞いてもらえなかった事に少しだけ悲しそうな表情を見せる。
だが、それをすぐに消し去ると、少しとは言え話し掛けて言葉を返してくれただけでも大きな進歩だと考える。

「フェイトちゃん……。次に会ったときは、もっとお話したいな」

そう小さく呟くと、思い出したかのようにユーノを見る。

「そうだ! もう一つ反応があったんだよね。
 でも、どうしよう。レイジングハートが……」

「それなんだけれど、どうやら誰かが回収したみたい。
 ひょっとしたら、あのフェイトって子の使い魔か仲間かも」

「そうか。でも、これで街に被害が出ないから良かったよね。
 あ、ユーノくんはジュエルシードを集めているわけだから、それだと困るんだね。
 ごめんね、わたしの都合ばかり言って」

そう言って謝るなのはを慌ててユーノは止める。

「気にしなくても良いよ。
 なのはにはかなり助けてもらっているし、街に被害が出るよりはよっぽど良いから」

「うん、ありがとうユーノくん」

言って笑うなのはの笑顔に、ユーノは暫し見惚れてしまう。
そんなユーノを首を傾げて見詰めるなのは。
それを誤魔化すように、ユーノはフェイトの張った結界が消えた為、ここにもすぐに人が来るし、
レイジングハートを休めるためにも早く帰ろうと提案するのだった。





つづく、なの




<あとがき>

レイジングハートとバルディッシュは少しお休み〜。
美姫 「その間に、グラキアフィンが活躍!?」
さあ、どうだろう。
ともあれ、残すジュエルシードも後僅か〜。
美姫 「今回出た二つのうち、恭也たちが向かった方は?」
それは次回〜。
美姫 「でしょうね」
と言うわけで、またまた次回!
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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