『リリカル恭也&なのは』






第16話 「その時の恭也は」





二つ反応があったジュエルシードのうち、一つをフェイトに任せてもう一つの回収へと向かう恭也とアルフ。
空を翔けながら、二人は郊外の山を目指す。

山の頂きよりも上から山全体を見下ろし、恭也は異変を探す。

「本当なら、探査魔法の一つでもあれば楽に見つけれるんだけどね」

「うっ、すまん」

アルフの洩らした言葉に恭也は謝る。
ここ数日幾つかの魔法を鍛錬している恭也だったが、探査系の魔法が上手く出来ないのだった。

「細かい制御が苦手みたいだからね、恭也は」

「ああ。どうもあちこちにブローだったか?
 それを飛ばしてコントロールするのというのが、いまいち分からないと言うかやり辛い」

「その割には、高度な魔法を使うんだけど……」

思わず首を捻るアルフは、魔法の練習を始めた最初の頃を思い出す。



「それじゃあ、簡単な魔法からやってみようか」

「ああ、頼む」

練習用にアルフは周囲に結界を張り、一部分だけ世界から切り離す。
これにより、結界内の出来事を外からは察知できなくなる。

「空中を飛ぶ魔法はもう使えるから良いとして、やっぱり最初は魔力の放出からかね。
 試しに、魔力弾でも撃ってみて」

「いや、撃ってと言われてもどうすれば良いんだ」

「あ、そっか。恭也はインテリジェントデバイスの所有者だから、とりあえずはグラキアフィンを起動させて、
 後はグラキアフィンからのイメージを形にすれば良いよ」

恭也が目を閉じてグラキアフィンからのイメージを受け入れる。
それをもう一度グラキアフィンへと戻すように流す。
すると、恭也の周囲に魔力の塊が幾つか浮かび出す。
その様子を眺めながらアルフは怪訝そうな顔になる。

「うーん、恭也の魔力はそんなに大きくないんだね。
 まあ、フェイトと比べるのが悪いんだろうけど……。
 それにしたって、グラキアフィンを操るぐらいだから、もっと大きいかと思ってたのに」

【マスターの魔力制御は少しおかしいですね】

不意にグラキアフィンがそう言葉を発する。
アルフも恭也もただ黙ってグラキアフィンを見詰めると、それを察して続きを話し始める。

【細かな制御が苦手のようですが、空間に関する制御は驚くべき程に綿密です】

「まあ、戦いにおいて周囲の状況や相手との距離などは重要だからな。
 空間に関しては小さい頃から色々と鍛錬してきたからだろう」

神速の関係かもしれないが、恭也の空間把握能力は魔法においても発揮されるようであった。
その事にグラキアフィンは小さく驚きを見せた後、

【細かな制御系の魔法よりも、大きな放出系の方が向いているかもしれません】

「うーん、恭也の場合は接近戦をメインとするから、牽制用に細かい魔法を覚えた方が良いと思うんだけどなー。
 放出系は威力が大きい分、どうしても発動時間が掛かるし遠距離用の魔法だから……」

【……マスターの今までの戦い方だけではデータが足りません。
 深夜の鍛錬で行われているマスターの戦いもデータに加えますが、
 それとは別に私を使用しての戦闘データが欲しいです】

グラキアフィンの言葉に、恭也は魔法の練習を一時置いて、グラキアフィンによる剣術戦闘の鍛錬を行う。
それを数日繰り返し、恭也とアルフ、グラキアフィンは恭也に見合う魔法の練習メニューを考案していく。
その中で編み出されたのが、
フェイトの使うブリッツアクションを元にアルフが提案した短距離用の高速移動魔法、瞬移だった。
そこに恭也とグラキアフィンは神速の原理を上乗せし知覚力だけでなく、
身体能力そのものを爆発的に高める刹神を作り出す。
正直、アルフはこの魔法を見せられたとき、呆れて見せたものである。
制御系の魔法が苦手なのに、恭也が今見せた刹神は恭也自身の空間を制御しているからだった。
恭也自身はその辺りを意識しておらず、恐らくは神速のような感覚なのかもしれないが、
アルフやグラキアフィンには、はっきりとそれが分かった。
恭也自身の身体能力も魔力による強化で少しは上がっているが、それだけではないと。
恭也は自分の周囲、身体の触れている極小さな空間のみへと介入し、それを制御して、
その部分の時間の流れを変えているのである。
だから、恭也はその中で普通に動いているつもりでも、外から見ると見えないぐらいの速さで動いている事となる。
空間の制御。
口に言うのは簡単だが、局地的に、しかも時間の流れを変える程ともなれば、並みの魔術師ではまず制御できない。
それを意識せずに行っているのだから。
当然、その制御にはとてつもない神経を使うし、その中で動くとなると身体への負担も大きい。
また、今はその空間内を自在に動けないようだが、これは練習次第で可能となるだろう。
ともあれ、アルフはあらゆる意味で驚きつつも、同時に呆れたように溜め息を吐き出す。
空間への制御を可能としておきながら、小さな魔力塊一つの制御にさえ手間取る恭也に。



と、そんな事を思い返しつつ、アルフは恭也の代わりにジュエルシードの反応を探る。
周囲がジュエルシードの影響でおかしくなれば、恭也にもそれは察知できる。
だから、恭也も一緒になってその反応を探す。
先にそれに気付いたのはアルフだった。

「見つけたよ、恭也」

「ああ、あそこか」

少し遅れて恭也もそれに気付き、二人はジュエルシードへと目掛けて急降下する。
地面に降り立つと同時にアルフが結界を発動させる。
恭也はそのままジュエルシードの反応があったもの目掛けて地を滑空するように低い軌道で飛び込んでいく。
恭也が目指す先には、四足に顔の前に刀のように反った大きな牙を一対備える大きな獣が居た。
全長は8メートルに及ぶかと言わんばかりで、向かって来る恭也へとその凶悪な牙を向けて突進する。
軽い地響きを起こして走る獣と真正面からぶつかるような事はせず、
身体を捻って躱しざまにグラキアフィンを振るう。
毛に覆われた身体は固く、恭也のグラキアフィンを弾き返す。
そのまま獣の背の上を飛んで背後へと着地する。
一方、恭也と擦れ違った獣はすぐに止まれずに数メートルほど進んでから突進を止めると、ゆっくりと振り返る。

「……猪か。確かに、この辺で偶に見かけるというのを聞いた事があるが……。
 それにしても……」

恭也は前に戦った虎を思い出す。

「つくづく、野生の動物に縁があるな」

思わず苦笑する恭也へと猪が再び突進してくる。
それを見て恭也はグラキアフィンの左腕に巻きついた鎖部分を引っ張り出して、
目の前で網目状にして壁を作り上げる。

【防鎖壁】

グラキアフィンの声と共に鎖に白い光が走り、猪を待ち受ける。
猪はそのまま止まる事なく突っ込み、鎖の壁にぶつかる。
突進が止まると、鎖が伸びて獣の足を捕らえんとする。
が、飛んで来る鎖を猪は牙で弾き飛ばす。
その間に恭也は魔力による針を作り出し、猪へと掌を向ける。

「翔矢」

恭也の言葉により解き放たれた針状の魔力が真っ直ぐに猪へと飛んでいく。
それらは全て剛毛や牙によって掻き消されて大したダメージを与える事は出来ない。
だが、それを目晦まし代わりにして、恭也は猪の死角となる背中の上高くに舞っていた。
そのまま背中へと着地すると、恭也は掌を猪の背中に付く。

【雷痺(らいひ)】

フェイト直伝の雷撃魔法が恭也の掌から放たれ、猪はその背中を振るわせる。
しかし、すぐに大きく身体を振ると恭也を振り下ろそうとする。

「ちっ、やはり身体が大きい分、効き目が薄いか」

スタンガンのように微弱の電撃を浴びせて麻痺させるのを目的とした魔法だが、
恭也の足元で猪は暴れまわる。
多少の痺れは感じているようで、このまま連続して放てば麻痺するかもしれないが、
その前に振り落とされそうになって恭也は空へと身を舞わす。
空中は安全と思っていた恭也だったが、猪が後ろ足に力を込めるのを見てその場から急いで離れる。
そのすぐ後、力を溜めた足で思い切り地面を蹴り、猪が宙を飛ぶ。
巨体が恭也の横を通り過ぎ、弧を描いて地面へと降りる。
重い音を立てて地面に降りる猪へとチャンスを窺っていたアルフが魔法を放つ。

「フォトンランサー・マルチショット!」

猪の顔や、すぐ目の前の地面などに辺り炸裂する魔法弾。
恭也がもう一度攻め込むための煙幕を猪の周りに作り上げる。
その機を逃さずに恭也が頭上から猪へと一直線に向かう。
その煙幕を斬り裂くように、猪が再び身を空中へと表せ、その牙で恭也に迫る。
体毛同様、いや、それ以上の硬度を持つ牙を見据え、恭也は静かにグラキアフィンを腰溜めに構える。

【魔刃(まじん)】

グラキアフィンを白い魔力の輝きが包み込む。
恭也と猪がそのまま空中で交差する。

――斬

両者が地面に降りたその中間に、根元から切断された牙が突き刺さる。
猪が怒るように唸り声を上げる中、恭也はゆっくりと振り返る。
擦れ違いざまに牙を切り落とした後すぐ、恭也は自身の魔力をグラキアフィンへと流していた。
それがグラキアフィンの中を走り、増幅されて恭也の元へと戻ってくる。
それをまたグラキアフィンへと戻し、更に増幅された魔力が再び恭也へと戻ってくる。
小さな魔力が花びらが舞うように恭也の周囲に舞う。
白と黒がコントラスを描く中、恭也はグラキアフィンを猪へと向ける。

「バスター」

静かに呟く恭也の言葉を始動キーとして、グラキアフィンから帯状の魔力が放たれて猪へと向かう。
恭也へと走り出していた猪は止まる事も、避ける事もできずにそのままぶつかる。
大きな爆発音が響き、立ち昇る煙が晴れるとそこには倒れ伏す猪の姿が。
恭也はそのままグラキアフィンを猪に向けたまま、猪の淡く輝き出した額へとその切っ先を向ける。
暫くしてそこから出てきたジュエルシードを回収すると、猪は元の大きさへと戻る。
恭也はバリアジャケットを解除すると、気を失った猪をそっと抱き上げて木の根元に寝かす。

「乱暴な方法になってすまんな」

一言詫びると、恭也は猪に背を向けて歩き出す。
その後ろを犬の形態になったアルフが追う。



恭也たちが去って数分後、今しがたの戦闘が嘘のように静まりかえる空間に不意に一つの影が現れる。

「遅かったか……。こちら……。応答願います」

影は何処かへと連絡を取り、幾つかの報告をすると手にした杖を両手に持ち目を閉じる。

「今から、この周囲で大きな魔力を持った者が居ないかを探索します」

そう呟いた後、何かを唱えるようにブツブツと呟く。

「……ここから一番近い所に人型と四足歩行の動物型の生命反応。
 人型の魔力は……。高くない、か。この人じゃないみたいだな」

何処かへと連絡を入れながら、影は暫くそうした後、ゆっくりと目を開ける。

「既にこの近辺には居ないと思われます。はぁ、仕方ないか。
 これより帰還します」

そう言うや否や影を魔法陣が包み込み、すぐに影の姿が消える。
再び静寂の戻った中、ようやく目を覚ました猪が奥の茂みへと消えていった。





つづく、なの




<あとがき>

うーん、恭也編というか、その時恭也は、終わり〜。
美姫 「次回は少しジュエルシード探しはお休み〜」
まあ、あくまでも予定だがな。
美姫 「それにしても、ようやく全ての役者が揃うのかしらね」
うーん、どうかな。
とりあえずは、次回だけどな。
美姫 「そうね。それじゃあ、さっさと仕上げなさいよ」
へいへい。
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」







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