『リリカル恭也&なのは』






第17話 「ほんの束の間の休息」





新たなジュエルシードを確保した後、
恭也とアルフの二人はフェイトがこちらでの活動拠点として用意したマンションへとやって来ていた。
勿論、目的は今回入手したジェルシードを渡すためだ。
部屋へと上がった恭也からジュエルシードを受け取ると、フェイトは礼を言う。

「それと、この辺で一度報告も兼ねて私は帰ります。
 ですから、その間もジュエルシードの事をお願いしても良いですか」

「ああ、分かった。ただ、俺の事は内緒にしておいてくれ。
 ジュエルシードを見つけ出したのは、あくまでもフェイト一人ってことに」

「ですが……」

「気にしなくて良い。別に礼が欲しいわけでも、見返りを求めて手伝っている訳でもないからな」

それに、と口には出さずに恭也はふと胸の内で考える。
アルフから聞いただけの情報しかないが、そこから判断するに誰かに助けてもらったという事を知れば、
フェイトの母親は、その事を理由にフェイトにきつくあたるのではないかと思ったのだ。
逆に黙っていれば、フェイトがこちらに来てからの短時間でこれだけの数を集めたのだから、
酷い扱いは受けないだろうと。
そう考えての提案に、そこまで感じ取ったアルフはただただ感謝の念を抱く。
勿論、フェイトのいる前でそれを口にする事はなかったが。
それを恭也も感じ取ったのか、アルフの頭に手を置きそっと撫で上げる。
気持ち良さげに耳を寝かすアルフを、フェイトは少しだけ憧れるように見詰める。
きっと母親にそうやってもらった事もないのだろう。
それを感じ取り、恭也はなのはにするようにそっとフェイトの頭を撫でてあげる。
小さな声を出して驚いて恭也を見上げるフェイトに、小さく笑い返し更に撫でてあげる。
フェイトは嬉しそうな恥ずかしそうな、どうしたら良いのか困惑したまま大人しくされるままになる。
ようやく手を離した恭也は、もう一つフェイトに伝えておく事を思いつき口にする。

「そうだ。アルフと無事に会えた事も出来れば内緒にしててくれないか」

「どうしてですか」

「いや、アルフが無事だという事を話せば、今までどうしていたのかという話になるだろう。
 そうなると、自然と俺の事に話がいくから。駄目か?」

「いえ、別に構いませんけれど……」

恭也の言葉にフェイトは小さく頷く。
それから、小さく声を上げる。
ここに至り、恭也にお茶の一つも出していなかった事に気付いたからだ。
慌ててフェイトはその非礼を詫びると、別に良いと断る恭也を押し切ってお茶を入れるために立ちあがろうと、
テーブルに右手を着く。途端、その顔を痛みに歪める。
それをアルフや恭也が見逃す訳もなく、すぐさま右手をそっと掴む。
見れば、右掌が火傷のように爛れ、右腕にも細かな傷が出来ていた。
どうしたのか尋ねる二人に、フェイトはジュエルシードを右腕で押さえ込んだ事を白状させられる。
慌てるアルフを落ち着かせ、恭也は救急箱の場所を尋ねると、フェイトの手当てをする。
その手際の良さにフェイトは感心したように声を上げる。

「恭也は剣術をやっていて、昔から生傷が絶えなかったらしいからね。
 それで、こういう手当てが自然と上手くなったんだって」

人型に戻り、フェイトに後ろから抱き付きながらアルフはそう口にする。
それに少し興味を覚えたのか、大人しく手当てをされながらフェイトは恭也を見詰める。

「剣術ですか?」

「ああ。古流の剣術を少々な。お蔭で、体力にはそれなりに自信がある。
 だから、フェイトも遠慮せずに俺を使え」

冗談めいて言う恭也に、フェイトは小さく笑い返す。

「これで良いだろう。まあ、2、3日は何か持つ度に小さな痛みや違和感を感じるだろうが」

右腕と右の掌に包帯を巻き終えた恭也は、救急箱に使用した物を仕舞いつつそう語る。

「右手が全く使えない訳ではないだろうが、少し不便かもしれないな。
 何なら、右手が治るまでうちに来るか」

恭也の突然の提案にフェイトは驚くが、丁寧に断る。

「大丈夫ですから。それに、明日は一旦、お母さんの所に戻ろうと思ってましたから」

「そうか。そう言えば、そんな事を言っていたな。
 まあ、あまり無理強いはできないしな」

二人がお互いに沈黙すると、まるでそれを待っていたかのようなタイミングでアルフの腹が鳴る。

「あ、あはははー。お腹空いたね」

「そうだね。じゃあ、何か用意するね」

アルフの言葉に笑みを零すとフェイトは立ち上がる。
そのフェイトを押し止めて、アルフが自分が用意すると言い出す。

「でも……」

「良いから、良いから」

「それじゃあ、お願い。冷蔵庫に何か入っているはずだから」

フェイトの言葉に頷くと、アルフは冷蔵庫から牛乳を取り出し、
戸棚からドッグフードとコンフレークを皿に入れて持ってくる。

「恭也も食べるだろう」

「まさかとは思うが、それは夕飯か」

「ん? そだよ?」

アルフの言葉に恭也は思わず溜め息を吐く。

「いつもこんなのを食べているのか」

「はい。必要な栄養は取れますから」

「自分で料理は……」

「簡単なもののなら出来ます。リニスに教えてもらいましたから。
 でも、そんな時間は勿体無いってお母さんが」

恭也は嘆息すると立ち上がる。

「なら、今日は俺が作ろう。まあ、俺も簡単なものしかできんがな。
 遠慮はなしだからな。とりあえず、買い物に行って来るから少し待っててくれ」

言って恭也はフェイトに反論する隙を与えずに出て行く。
恭也が出て行った先、扉をじっと見詰めたままフェイトが小さな声でアルフに話し掛ける。

「アルフ、恭也さんって少し変わってるね」

「そうだよ。何せ、犬が目の前で喋ったってのに、反応が薄いくらいだからね」

初めて出会った時のことを思い出して笑うアルフを見ながら、フェイトは小さくはにかむ。

「でも、優しくてとても温かい……」

久しぶりに見た気のするフェイト本来の、年相応の優しい顔にアルフも顔を綻ばせるのだった。



買い物から返ってきた恭也が夕飯の準備を始め、それを見てフェイトが手伝いを申し出る。
しかし、右手の状態を見て、恭也は大人しく待っているように言う。
その時、少し残念そうにしたフェイトに気付き、恭也はフェイトの頭を撫でながら、

「また、今度な。次はフェイトにも手伝ってもらうから。
 今日は大人しく待っていてくれ」

「……はい」

大した事のない約束。
それに照れながらも嬉しそうな顔を見せるフェイトと、今までのやり取りから、
恭也はフェイトには圧倒的に人との触れ合いが足りない、温もりに飢えていると感じる。
一番身近で、愛情を注ぐべき母親から、アルフの言うような事を受けているとしたら当然かもしれないが。
恭也は見たこともないフェイトの母親に小さな憤りを感じつつ、
それを顔には出さずにテキパキと材料を切っていく。
こうして出来上がった夕飯をテーブルに並べ、三人で食卓を囲む。
本当に久しぶりのこんな風景に、フェイトは思わず涙ぐみそうになりつつ、誤魔化すように手を動かす。
そんなフェイトに気付かない振りをして、恭也も手を動かしては、時折アルフの話に相槌を打ったり、
補足や突っ込みを入れたりして、和やかに食事は進んでいった。



 ∬ ∬ ∬



翌日、母親であるプレシアの居る時の庭園へと戻ってきたフェイトは、
集めたジュエルシードをプレシアの前に出す。
十個のジュエルシードが目の前に浮かぶのを見ながら、プレシアはフェイトをただ冷たく見下ろす。

「全部ではないんだね」

「は、はい」

「予想よりもはやく帰ってくるから、てっきり全て揃ったと思ったのに……。
 まったく、全部集まっていないのなら、何しに帰って来たんだい」

「あ、ご、ごめんなさい」

実際、フェイトがここを旅立ってからの時間で見れば、かなり早く回収できており、
フェイトはその事で褒めてもらえる、そこまで行かなくとも少しは優しい言葉を掛けてくれると期待していた。
だが、帰ってきたのは本当に冷たい、何の感情もない声。
いや、寧ろ何処か煩わしそうに、若干の怒りを含む声だった。
プレシアは思わず謝るフェイトを見下ろしながら顔を歪めると、
無造作に腕を伸ばしてその髪を乱暴に掴み上げる。
髪を掴んだまま、プレシアはフェイトを引き摺っていく。

「すぐに謝れば、何でも許してもらえるとでも思っているのしらね。
 どうやら、お前にはもう少しきついお仕置きが必要かもね」

プレシアの言葉に身体を震わせるも、フェイトは大人しくされるがままに引っ張られていく。
抵抗らしい抵抗をすることもなく、鎖に手足を付けられるのをただじっと感情の消えた瞳で見詰める。
そんな大人しい態度のフェイトを見て、プレシアは大人しくしていれば、
少しは早く終わるかもしれないと姑息な事を考えて、と、手にした鞭をその身体に叩き付ける。
乾いた音を立て、フェイトの衣服を破り、赤い痕を付ける。
痛々しいその痕を目にし、プレシアはその顔に小さな喜びの笑みを浮かべる。
次々と鞭を打ち、その度にフェイトの小さな身体が跳ねるように左右に揺れる。
天井から伸びる鎖に繋がれた腕にも鞭は振り下ろされ、フェイトは歯を食いしばりながらただじっと耐える。
鞭を引き戻す際、その先端がフェイトの右腕に当たり、恭也が巻いた包帯が少し解ける。
何故だかは分からないが、解けそうになる包帯を見て、フェイトは思わず小さな声を洩らす。
その声を聞き、フェイトの視線の先を見て、プレシアはそこに怪我を負っていると見抜く。
振り上げた鞭を右腕に狙いを定めて振り下ろす。
負傷している右腕に鞭を打たれる痛みよりも、何故かボロボロに千切れていく包帯の姿に痛みを、
心に痛みを感じつつ、フェイトはそれさえも堪えるように唇を噛み締める。
今までと少し違う反応にプレシアも満足そうに頷くと、右腕を重点的に鞭を打ち始める。
身体のあちこちに鞭の痕を刻まれ、呼吸も荒くぐったりとなるフェイトを鎖に繋いだまま、
プレシアは大切そうにジュエルシードだけを持って部屋を後にする。

「恭也さん……、アルフ……。もう少ししたら戻るから、心配しないで……」

誰も居ない広間に、フェイトの口から思わず零れ落ちた言葉を耳にする者は、
意識の朦朧としているフェイト自身も含めて、誰一人として居なかった。





つづく、なの




<あとがき>

という訳で、予告どおりジュエルシード探しではなかった今回。
美姫 「いや、最初は兎も角、最後の方はちょっと可哀想過ぎるわよ」
うっ。ま、まあまあ。
さて、次回は…。
美姫 「あ、次回はどうなるのよ」
どうしよう。
美姫 「あ、あのね」
いや、冗談だが…。
美姫 「星になるのと、星の仲間入りをするのと、星の横に並ぶのと、どれが良い?」
いや、どれも一緒なんじゃ…。
美姫 「それじゃあ、空に舞うのと、空に飛ぶのと、空の彼方に行くのとでは?」
それも一緒……。
美姫 「つべこべ注文が多いわよ!」
べらっぼぅひょぉぉぉ〜〜! ち、地球はやっぱり青かったーーーーー!!
美姫 「ふー。これで良し! それじゃあ、また次回で」







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