『リリカル恭也&なのは』






第18話 「幕間T 日常」





真っ白な壁に、真っ白な天井。
窓にかかるカーテンも白。
どこを見ても、白色が目に飛び込んでくる。
ここは、無色のように白で覆い尽くされた部屋。
うちはいつからここにおるんやろうか。
最早、思い出すのも難しいくらい、うちはこの無機質な部屋におる。
部屋の中でやる事は限られているから、退屈な日々を過ごしてきた。
そんなうちの前に現れたんが、二人の男の子と女の子やった。
ちょっとぶっきらぼうの男の子は、最初は少し怖かったけれど、すぐに優しい子やって分かったし、
いつも男の子の陰に隠れるようにしている可愛らしい女の子も、本の事になると途端に饒舌に話をしてくれて。
二人は、来るたびに色んな話をうちにしてくれたり、
動けないうちの代わりに、爺様から送られて来た拳法の本に載っていた型を見せてくれたりした。
そしていつしか、その時間はうちにとって楽しくて、待ち遠しいもんになっとった。
白ばかりの世界に飛び込んできた二人の男の子と女の子。
うちはこの二人が次はいつ来るんかと、そればっかりを考えて、退屈な日々も退屈ではなくなって。
気付けばいつの間にか、この二人の家で一緒に暮らす事になっとった。



レンは自室のベッドで目を覚ます。
何か懐かしい夢を見ていたと思うのだが、はっきりとは思い出せない。
だが、そんなに悪くなかったと思う。
ぼんやりとそんな事を考えつつ、レンは今日は自分が朝食の当番だったと思い出して体を起こす。
いや、起こそうとした途端、胸に痛みを覚えて蹲る。
痛みを堪えるように目を瞑り、歯を食いしばって胸をパジャマの上から押さえる。
脂汗を額に浮かばせ、どのぐらいそうしていただろうか。
ようやく痛みが治まり、荒かった呼吸を仰向けに寝転がって整える。
落ち着きを取り戻し、ほっと息を吐きながらレンは背中に汗でぴったりと張り付くパジャマに顔を顰める。
朝食を作る前にシャワーでも浴びようかと考えながら、少し億劫にベッドから降りる。
同時に部屋がノックされる。

「おい、こら亀! さっさと起きろよ! 今日はお前が当番だったのに、何をやってるんだよ」

晶はレンが返事するよりも早く部屋の扉を開けて中へと入ってくる。

「何だ、起きてたのか。だったら、さっさと仕度しとけよな。
 あまりにも遅いから、俺が先に仕度しちまったぜ」

仕度を終えてから言いに来る辺り、先日、レンが晶の代わりに朝食を作ったのを根に持っているのだろう。
正直、今の体調からすればありがたい事だったが、レンは晶へと噛み付くように怒鳴る。

「このアホウ! 支度してから呼びに来てどうするんんじゃ!
 来るんやったら、もっとはよう来んかい!」

「んだと、てめぇー。人が親切で起こしてやったのに……」

「親切? 親切ゆーんはな、さっきも言ったように支度前に来る事を言うんや」

「……ぶっとばす!」

「おもろい。やれるもんやったら、やってみぃ!」

吼える晶に言い返すレン。
こうしていつものバトルが始まる。
真っ直ぐに突き出してくる晶のパンチをしゃがみ込んで躱しながら、足を踏み込み瞬く間に懐へ。
そのまま掌を晶の体に当てて、寸掌で晶を吹き飛ばす。
部屋の扉を押し開きながら、晶の体は廊下へと出て壁にぶつかって止まる。
少しやりすぎたかと思うレンの前で、晶は立ち上がる。

(ああー、やっぱり晶の奴は頑丈やな)

呆れるような感心するような呟きを胸中に浮かべつつ、晶の攻撃を捌き、
レンは足を払うと倒れた晶の関節を取って決める。

「い、いてぇっ! つっ!」

上がりそうになる声を堪える晶へと、レンは楽しげに声を掛ける。

「痛いんやったら、素直に泣いて謝りぃ」

「だ、誰が、これぐらいで。あまりにもお粗末な技だから、退屈で欠伸が出そうだぜ」

「ほうほう。なら、もう少し強くしてみようか〜」

「ぐぎぎぃぃ」

みしみしと腕が音を立てそうなぐらいに張る。
だが、ちゃんと加減をしながらレンは晶の顔を見下ろす。

「どうしましたか〜、晶さん。まさか、もう声も出せんとか?」

珍しく名前にさん付けまでしてからかってくるレンを睨み返しつつ、晶は力だけで強引に外そうと試みる。
しかし、レンは巧みに体を腕を動かして、晶の力を分散させて外させない。
普段ならすぐに二人を止めるであろうなのはは、恐らくはまだ夢の中。
このまま続くかと思われた二人の戦いだったが、そこへ一人の人物が。

「あ、お師匠、おはよ〜ございます」

「お、おはよ……し、師匠」

「ああ、おはようレン、晶。所で、晶は大丈夫なのか」

「はい。ちゃんと加減はしてますさかい」

「そうか。にしても、関節技までこなすとはな」

レンの才能に舌を巻く思いで二人を見つめていた恭也だったが、流石にこのままという訳にもいかず止めに入る。

「レン、その辺にして早く着替えたらどうだ」

「おお、これはまたこないな姿をお見せしてしまいまして」

恭也に言われて自分がパジャマだった事に気付き、レンは晶を放り出すように解放すると部屋に戻る。

「くっそー、あのやろう。いつか泣かす」

閉じた扉に毒づく晶の懲りない性格に感心しつつ、恭也は晶を呼びに来た事を思い出す。

「ああ、そうだった。晶、朝食の方頼む。流石に腹が減ってきたんでな」

「ああ、そうでした。すぐに準備しちゃいます」

急いで階下に戻る晶に苦笑を零しつつ、恭也は控えめに扉をノックする。

「はい、何ですかお師匠」

「いや、体調はどうかと思ってな」

「問題ないですよ」

「……そうか、なら良いんだけれどな。何かあったら、ちゃんと言ってくれよ」

「分かってますって」

さっき見たレンの様子から、いつもとは少し違うような感じを受けての言葉だったが、
レンは問題ないと恭也の心配を吹き飛ばすように言う。
それに短く返事だけ返すと、恭也は先に下に行っていると言い置いて階下へと向かう。
扉の前から遠ざかる足音を聞きながら、レンは知らずのうちに胸を撫で下ろしていた。



 ∬ ∬ ∬



朝食も済んで学校組みが学校へと向かう。
そろそろ朝夕も暑くなり出し、夏も本番に向けて、といったところか。
近づく夏休みを楽しみしつつ、元気に飛び出していく晶やレンを見送り、恭也は玄関先でアルフに念話を送る。

≪それじゃあ、いってくる≫

≪ああ、いってらっしゃい。また、いつもの時間に校門に行くから≫

≪ああ、分かった。そう言えば、フェイトはまだ戻ってきていないのか≫

≪うん、まだ連絡はないから戻ってきてないみたい。フェイト、ちゃんと食事とかしていると良いけれど≫

フェイトが酷い目にあっていなければ良いと、その声からも垂れた耳からも読み取れる。
流石に親がそこまで酷い事をという思いは、アルフの話を聞いた恭也も抱かなかった。
アルフ同様に、フェイトの安否を気にしつつも、
少しでも少女の負担を軽くするためにできる事をやっていくしかないと気を取り直すと、
鞄を抱え直して、今度は口に出して言う。

「それじゃあ、いってきます」

ワンと一声鳴いて恭也を見送るアルフの後ろから、丁度今から出掛ける所だった美由希が現れて、
その頭をそっと撫でる。

「それじゃあ、私もいってくるねアルフ」

美由希にも鳴いて答えると、美由希は嬉しそうにもう一度頭を撫でて、
先に歩き出した恭也の横に並ぶ。
楽しそうに話し掛ける美由希を眺めながら、アルフは改めて高町家の暖かさを実感する。
そして、フェイトの境遇に怒りを覚え、必ず助け出すと決意も新たにするのだった。





つづく、なの




<あとがき>

今回もジュエルシード探しはなし。
美姫 「幕間ね」
ああ。まだフェイトが戻ってきていない状態。
美姫 「で、何かレンが中心ね、今回は」
ああ。このリリカルでは、とらハはどの程度のルートを通ったのかという質問が幾つかあったんで。
美姫 「それを分かるようにするために?」
だから、これからもこんな感じで他のキャラがちょびっと主役っぽい感じの話が出る! ……はず。
美姫 「例によって、予定なのね」
ああ。ともあれ、こんな感じでとらハでのルートはどう通過しているかを簡単に書いていけたらなと。
美姫 「まあ、どこまで実践できるかはアンタ次第と」
あ、あははは。と、ともあれ、果たして、次回はどうなる!?
美姫 「残るジュエルシードもほぼ半分ね」
そろそろ、管理局も動き出す! ……はず。
美姫 「また、予定なの!?」
それじゃあ、また次回で!
美姫 「って、勝手に終わらせるな!」
ぶべらっ!
美姫 「それじゃ〜ね〜」
……で、ではでは。







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