『リリカル恭也&なのは』






第19話 「フェイト帰宅」





フェイトが居ない間もジュエルシードを探し回った恭也たちであったが、その結果は全くの成果なしであった。

「ここに来て、中々見つからなくなったな」

「まあ、元々今までが順調すぎたんだから、そんなに焦らない、焦らない」

そう気楽に言うアルフではあったが、遅くなればなるだけフェイトへの当たりが強くなるだろうと分かっており、
少し複雑な胸中である。
それでも、手伝ってもらっている恭也に気を使ってか、そう軽く口にする。
その辺りの事を恭也も察したのか、何も言わずにただ頷くと再び街の散策へと戻る。
日に日に夏へと近付き、日も長くなった夕暮れ、恭也とアルフは今日の散策はこれでお終いと打ち切る。
成果はなかったというのに、アルフの足取りは何処か軽く、その理由を知っている恭也は小さく苦笑する。

≪もう戻っているのか、フェイトは≫

≪うーん、まだみたいだね。でも、もうそろそろだよ。
 早くフェイトの家に行こう、恭也≫

夕飯はいらないと言ってあるので、途中で恭也は買い物を済ませてフェイトのマンションへと向かう。
まだ帰っていないらしく、中からは誰の気配もしない。
恭也は預かっていたスペアキーで鍵を開けて中へと入ると、台所を借りて料理を始める。
アルフはそのままリビングへと向かうと、そのまま横たわる。

「あー、疲れた。フェイト、早く帰ってこないかな〜」

フェイトが来るのを今か今かと待ちわび、尻尾をパタパタと振る。
そんなアルフに食器を出すように告げると、恭也は料理を続ける。
晶やレンたちみたいにはいかないが、食べれる物が出来上がっていく。
その匂いに釣られたのか、食器を出し終えてリビングにいたはずのアルフがやって来る。

「美味しそうな匂いだ」

「そうか? まあ、晶やレンたち程ではないがな」

「うんうん、充分に美味しそうだよ」

ニコニコと笑いながら人型となって後ろから覗き込んでくるアルフ。
恭也の料理がもうすぐ出来上がるといった時、扉が開く音がして、アルフは玄関へと駆けて行く。
思わず、お前は犬かと突っ込みかけた恭也だったが、すぐに言葉を飲み込む。
今は人型の形態をしているが、という事だ。
丁度出来上がった料理をリビングへと運びこんだ恭也は、アルフの様子がおかしい事に気付く。
が、その理由がすぐに分かった。フェイトである。
フェイトはただリビングの床にそのまま座り込み、ただ一点をぼうっと眺めている。
一応、声は聞こえているのか、こちらの言葉に返事はするのだが、その顔は何処か生気が感じられない。
何かあったのかと尋ねる恭也に、フェイトは一度だけ肩を震わせるも首を振る。
やや顔を俯けたまま、何処か表情のない、いや、表情を消した顔で恭也に淡々と告げる。

「恭也さん、今までありがとうございました。
 これからは、私一人でジュエルシードを探します」

「ちょっ、フェイト! 一体どうしたのさ。
 まさか、プレシアに何か言われたの?」

「ううん、違うよアルフ。お母さんには、恭也さんとアルフの事は何も言ってないよ。
 ただ、元々これは私がしなくちゃいけない事だから。だから、自分ひとりで。
 誰にも迷惑を掛けないで、一人でやり遂げないといけないんだ」

子供らしくないその表情と、何処か思いつめた感じに恭也は母親との間に何かあったのではと推理するも、
それに関しては恭也も下手に口を出すこともできない。
結局、今後も協力すると言うのが精一杯だった。
しかし、それをフェイトはすげなく断る。
頑ななフェイトの態度に、恭也はとりあえず食事を先にしようと口にするが、フェイトは動こうとしない。
心配そうにフェイトの顔を覗き込むアルフの頭を撫で、フェイトは寂しげな瞳を向ける。

「アルフも無理しなくて良いからね」

「無理ってなんだい! あたしは無理なんてしてないよ!
 フェイトの力になりたいんだ! フェイトはあたしが邪魔なの?」

悲しそうに尋ねるアルフへと首を振って否定するも、何も言わずにまた黙り込む。
アルフは泣きそうな顔で恭也へと顔を向ける。
恭也も少し困ったように二人を見比べるが、拒絶したフェイトが泣いているように見え、
そっと近付くとそのすぐ隣に腰を下ろす。

「何かあったのか」

恭也の言葉に僅かに反応する物の、頑なにフェイトは首を振って何もなかったと言う。
勿論、そんなものが信じられるはずもなく、恭也とアルフは困ったように顔を見合わせる。
フェイトの態度に、アルフまでも泣きそうになるのを見ながら、恭也は声を荒げる事もなく、
できるだけ優しくフェイトへと何度も話し掛ける。
それに根負けしたのか、それとも元々誰かに話したかったか、どちらにせよフェイトはゆっくりと話し出す。
プレシアに暴力を受けた事は除き、全部揃っていない事で咎められた事などを話し、
このままでは恭也たちにも迷惑が及ぶと思った事を話す。
フェイトが話していない部分までを、それまでの行為から知っているアルフと、
その話を聞いている恭也はすぐに察したが、フェイト自身が触れなかった事もあり、その部分は敢えて触れない。
代わりという事でもないが、恭也は自然とフェイトの頭を撫でる。
妹たちにも滅多にしない行為に少し照れを感じながらも、恐らくは母親に褒めてもらった事がないフェイトへと、
恭也は出来るだけ優しくその行為を続ける。
自分が何をされているのか分からないように呆然としていたフェイトだったが、
すぐに恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに何処かくすぐったそうに目を伏せる。
その瞳から、不意にぽろぽろと涙が零れだし、フェイトは慌てて拭うも、次から次へと溢れ出てくる。

「あ、あれ、可笑しいな。何でか、止まらない」

必死で目を擦ろうとするフェイトの手を掴み、そのままそっと顔が隠れるように胸に抱く。

「ここには俺たちしかいないから、好きなだけ泣いたら良い」

「っ! ……でもっ」

「悲しい時に泣けないのは辛いことだから。俺も似たような経験があるから分かる。
 だから、今は声を出して泣いても良いんだ」

「う、うぅっ。う、うわぁぁぁっ」

恭也の腕の中で、フェイトは声を上げて泣き出す。
その間、恭也は優しくフェイトの頭を撫で、背中を擦ってやる。
その光景を見ていたアルフも同じように涙ぐんでいるのを見て、恭也は一度だけアルフの頭も撫でてあげる。
フェイトは何度もしゃくりあげながら、恭也へと言葉をぶつける。

「ま、巻き込まないために協力を断ったのに……。
 初めて出来た友達だから、これ以上、迷惑かけたくなくて、ぐす。が、我慢していたのに……。
 こ、このままだと、頼ってしまいそうになる。それじゃあ、駄目なのに。
 お母さんの願いを叶えるのは私一人でやらないといけないのに」

「……頼っても良いんだよ。その願いを叶える事がフェイトの目標だというのも知っている。
 でも、誰かに頼るのは悪い事じゃない。迷惑だなんて思わないから
 それに、友達なら困っているときは助け合うものだろう。だから、これからも手伝わせてくれ」

恭也の言葉にフェイトは更に涙を流しながら、声もまともに出せなくなり、代わりに何度も頷く。
再び泣き出したフェイトに胸を貸しながら、恭也は落ち着くまでずっと静かに見守っていた。



「冷めてしまったな」

「ごめんなさい」

ようやく泣き止んだフェイトの対面に座り、恭也は用意した料理を前にそう洩らす。
それに恐縮するように身を縮めて謝るフェイト。
その目が申し訳なさからか恭也の顔を見られず、その下、自分の涙でぐっしょりと濡れた恭也の胸元へと向き、
先ほどの痴態を思い出して顔を赤らめる。
思わず出た謝罪の言葉は、料理が冷めた事だけでなく、先ほどの行為も含まれていたのかもしれない。
そんなフェイトへと恭也は優しく返す。

「いや、気にしなくても良い。泣いてすっきりしたんなら、次はしっかりと栄養を取らないとな。
 冷めてしまったが、さあ、食べよう」

恭也の言葉に手を合わせていただきますをするフェイトとアルフ。
二人に倣い恭也も同じように手を合わせ、ようやく食事が始まる。

「……美味しいです」

また涙ぐみそうになるのを堪えながら言うフェイトに、恭也はぎこちなく笑いかける。

「熱いともっと美味しいんだがな。また今度作るから、その時は温かいうちに食べような」

「……はいっ!」

一瞬、何を言われたのか分からずに思わず恭也を見返したフェイトだったが、
すぐにその言葉の意味を理解し、約束という行為に、ここへ戻って来てからようやく心からの笑顔が零れる。
そんなフェイトの笑顔を見て、恭也とアルフも嬉しそうに笑うのだった。





つづく、なの




<あとがき>

久しぶりの更新です!
美姫 「って、威張るんじゃないわよ!」
ぶべらっ!
美姫 「しかも、短いし」
あ、あは、あは、あはははは。
美姫 「滅殺!」
にょぎょわぁぁぁ〜〜!!
美姫 「次こそ、早く更新するのよ!」
…………。
美姫 「……ひょっとして、やりすぎた?」
やりすぎだ!
美姫 「説得力がないわよ」
うっ。と、とりあえず、また次回で!
美姫 「まったね〜」







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