『リリカル恭也&なのは』






第21話 「出会う二つの黒」





フェイトに数日間は身体を休めるために休養するように言い含め、
それを受け入れさせた恭也とアルフは、その分もといつものようにジュエルシードを探しているのだが。

「ふぅ、さっぱりだな」

「本当に。どうしたもんかね」

結果は芳しくなかった。
全くジュエルシードの反応が見つからないのだ。
休日という事で朝から探し回り、昼食を挟んで今に至るのだが。

「ちょっと遠くまで足を伸ばすか」

「だったら……」

呟いてアルフは人型になる。
慌てて周囲を見渡す恭也に、アルフは可笑しそうに笑いながら言う。

「大丈夫だって。ちゃんと周囲に人が居ないのは確認済みだから」

「だとしても、心臓に悪い」

「はいはい。まったく口うるさいんだから」

「誰のせいだ、誰の。それよりも、耳と尻尾」

「分かってるよ」

恭也の言葉にアルフは小さく何かを呟く。
すると、アルフの耳と尻尾が消える。
正確には依然としてそこにあるのだが、ただ視覚できなくなる。

「それで、今日は何処に行くんだい?
 この前のアイスは美味しかったけれど」

「別に何か買い物に行くんじゃないんだぞ」

「冗談だって」

本当に冗談だったのかは怪しい所だが、恭也は何も言わずに立ち上がる。

「とりあえず、今日はもう少し足を伸ばしてみようと思う」

「そっか。それじゃあ、いきますか」

迷惑を掛けるや謝罪を口にする事はせず、アルフも同じように立ち上がると駅へと向かって歩く。
いい加減、それなりの付き合いである。
アルフは大体、恭也の人となりを把握しており、そう何度も繰り返し言っても困らせるという事が分かっていたし、
恭也もまた同様で、アルフの口にしなかった事を汲み取っていた。



 ∬ ∬ ∬



電車に乗る事一時間ほど。
降りる人もまばらな駅に降り立ち、恭也とアルフはこれからどこへ向かうのか相談する。

「しかし、ここまで足を伸ばしても見つからないならもっと遠くという事になるのか」

「うーん、それはないはずなんだけどね。
 そもそも、海鳴を中心にしてその周辺に散らばっているはずなんだよ。
 ジュエルシードが海鳴に現れて、そこから飛び散ったんだからね。
 ただ、覚醒前に何かに憑依して、その何かが移動したというのもあるからね」

「だとすると、海外に行ってしまう可能性もあるのか」

「ないとは言い切れないけれど、流石にそこまで遠くまで行かないはずさ。
 未だに覚醒していないのであれば、海鳴の何処かにあるだろうし、動く何かに憑いたのなら、
 そんなに遠くに行く前に覚醒しているだろうからね」

「なら、最初に話したように、これ以上遠くには行ってないという考えで良いんだな」

恭也の言葉にアルフは頷く。
頷きはするものの、例外がないとは言えないと付け加えておく。

「とりあえず、この辺を適当に歩いてみよう」

アルフへとそう告げると、恭也は駅を出て本当に適当に歩き出す。
その横に並んで歩きながら、アルフは時折鼻をひくひくさせる。

「さっきからどうかしたのか」

「いや、いい匂いがするな〜、と思って」

アルフの言葉に苦笑しつつ横道を見れば、何やら屋台が連なっている。
ふと恭也は駅に張られていたポスターを思い出す。

「ああ、祭りか」

「お祭?」

「ああ、そうみたいだな。だから、屋台が出ているんだろう」

「それにしては、あまり人が降りてなかったね」

「時間が早いのか、地元の人たちしか知らないのかだろう。
 それよりも、行くぞ」

「ああ、待ってよ恭也〜」

屋台を名残惜しそうに一度だけ見た後、アルフは恭也の後を慌てて追うのだった。



 ∬ ∬ ∬



時空管理局・アースラ艦の一室で、エイミィがクロノたちを前に報告をしていた。

「先日感知した衝撃の件ですが、その原因と思われるロストロギアが判明しました。
 こちらです」

言ってエイミィが手元を操作すると、上空に浮いたスクリーンに菱形の青い宝石の映像が浮かび上がる。
その映像を見たクロノがエイミィへと間違いがないのかという顔を見せる。

「断言はできませんが、かなりの確率で間違いはないかと。
 ロストロギア、ジュエルシード。
 遺跡探索を生業とするスクライア族によって発掘されたとの報告があります。
 ですが、同時に輸送中に事故にあっています。
 恐らくはその時にばら撒かれたのではないかと」

エイミィの操作に従い、ジュエルシードの画像がゆっくりと回転してあらゆる角度からの映像を流す。
その横に幾つもの文字が並ぶのを見ながら、エイミィは更に言葉を続ける。

「願いが叶う宝石と言われていますが、その正体は次元干渉型エネルギー結晶体です。
 全部で二十一個あり、たった一個の発動でも大きな次元震を発生させれるという極めて危険なロストロギアです。
 恐らく、先日の衝撃波はこのジュエルシードが暴走したか、何者かが故意に力を発動させたか。
 どちらにせよ、何万分かの一程度の力だったためにあの程度で済んだといった所ですね」

「聞いての通りだ。
 これが偶々起こった事故であったとしても、ロストロギアだとしたら我々が回収しなければならない。
 また、何者かが関わっているのだとしたら、何としても取り戻さなければ大変な事になる。
 こんな物を全部集められて、それこそ無差別に力を解放されようものなら……。
 考えたくはないな。そんな訳だから、各自いつでも出撃できるように準備をしておくように。
 それから、エイミィたちは引き続きジュエルシードの行方を探ってくれ」

エイミィの説明が終わるなり、クロノはその場で指示を出していく。
それを受け取り、各々に動き出す。
しかし、今、アースラには人手が少なく、何かあれば最初に自分が出ようとクロノもまた出撃に備えるのだった。



 ∬ ∬ ∬



夕方まで歩き回った恭也とアルフの二人は、今、街にあった高台へとやって来ていた。
動き回って熱くなった身体に、吹き抜ける風が心地良く、二人は木陰で少し休息を取る。
遠くからは祭りが始まったのか、賑やかな音楽や声が僅かに聞こえてくる。
祭りがあるからなのか、普段からなのか、二人のいる高台にはほとんど人の姿は見えない。
時折、カップルや子供を連れた母親などがやって来るが、それらは少しするとすぐに降りて行く。
どうやら、夜に行われる花火の場所取りか何かで、見れば地面にはビニールシートがあちこちに広がっている。
それらを何となしに眺めながら休憩していた恭也だったが、ゆっくりと立ち上がってアルフを見遣る。

「成果はなし、か。そろそろ戻るか」

「そうだね。やっぱり、あそこを中心にして探す方が良いかもね」

言って二人は高台を降りていく。
が、その途中でアルフは足を止めて、今降りてきたばかりの頂上を見る。
その瞳の鋭さに、恭也は半分確信しつつも声に出して尋ねる。

「ジュエルシードか」

「ああ」

言うと同時に駆け出すアルフに、遅れじと恭也も付いて行く。
頂上まで再び登ったアルフは足を止めずにそのまま奥へと進んで行く。
その後を追う恭也もまた、奥へと進んでいき同時に足を止める。
二人の目の前には向かい合って手を握り合って目を閉じている一組の男女の姿があった。
カップルなのか、眠っているみたいにピクリとも動かない彼らの周りには、
薄っすらと魔法による障壁に似たような幕が。
そして、その二人の前には向こうが見えるぐらいに透き通った薄い青色の物体が立ちはだかっていた。
子供が粘土で何とか人型にしたかのように、左右も歪な二メートルから三メートルはありそうな巨人が。
どうやら、巨人は二人を襲うつもりはないようで恭也はほっとする。
どうやら、あの二人の願いによりジュエルシードが覚醒したといった所であろう。
巨人は突然の闖入者である恭也とアルフを、恐らくは顔と思われる、
他よりも小さくやや円を描いているてっぺん部分にぽっかりと空いた穴で見る。
いや、そこが目でそれで見ているのかも怪しいが。
巨人は行き成り、地面に届かんかとばかりに長い右腕を緩慢に持ち上げて恭也たち目掛けて振り下ろす。
咄嗟に飛んで躱した二人は、デバイスを戦闘形態へと変化させ、片や結界を張る。
空に飛び上がった恭也へ、巨人のこちらは極端に短い左腕が襲う。
しかし、短すぎて恭也が躱さなくても元より届かない。
だが、それによって起こった空気の流れはそこそこ強く、恭也のコートの裾が激しくたなびく。
二人きりになりたいとでもいった願いで覚醒したのか、巨人はカップルには目もくれず、
寧ろ守るように聳え立ち、恭也とアルフのみへと攻撃を仕掛けてくる。
振り回される腕を掻い潜り、巨人の懐へと潜り込んではグラキアフィンを振るう。
だが、切り裂いた個所はすぐに塞がり、何事もなかったかのように巨人は恭也へと襲い掛かる。
一旦、巨人の攻撃の届かない所まで離れる恭也へと、巨人の身体が泡立ち、そこから鋭い棘が吐き出される。

「グラキアフィン!」

【瞬移】

恭也の声にグラキアフィンが応え、
一瞬だけ恭也の速度が爆発的に加速されてそれらの棘の攻撃エリアから抜け出す。
背後から迫ったアルフへ、巨人の顔がくるりと180度回転し、ぽっかりと空いた穴から光線を放つ。
それを迂回して躱すアルフ。
二人は一旦お互いに近付くと、巨人を足元に見据えたまま口を開く。

「斬ってもすぐに再生する」

「みたいだね。しかも、人の形をしているから勘違いするところだったけれど、あれは人じゃないんだ。
 その動きもそれに束縛されるはずもない」

「みたいだな。さっきから腕を三つ四つに折ってこちらを落とそうと動いている。
 関節なんてものもないんだろうな」

「おまけに、あの穴が目って訳でもないみたいだしね」

手の届かない二人へと、巨人が右腕を引き絞り、まるで突き出すかのように動かす。
すると、右腕は伸びて二人へと襲い掛かる。
それを躱しながら恭也はアルフへと問い掛ける。

「で、あれはどうすれば倒せるんだ」

「多分、核になっている部分があるはずだよ。そこを壊せば」

「核……」

言って恭也は巨人に守られるようにして眠るカップルを見る。

「まさか、あの二人じゃないだろうな」

「普通に考えればそうだよね」

巨人の手を、棘を、光線を躱しながら二人は話を続ける。
あのカップルが核だとして、流石に斬るという訳にはいかない。
アルフもそんな事は言われなくても分かっている。

「多分、あの二人を覆う障壁を壊せば、あの二人も目を覚ますはずだよ。
 そうしたら、この巨人も消える……と思う」

やや自信なさそうに告げるアルフに、恭也は駄目だったらその時に考えようと告げると、
二人目指して飛んで行く。
が、巨人はそんな恭也を近付かせまいと攻撃を激しくする。

「くっ」

ギリギリで身を捻って巨人の腕を躱しながら、地面すれすれを落ちるかのように飛んでいた恭也は再び上昇する。
巨人が腕を振った風圧で地面へと叩きつけられそうになったからだ。
アルフの推測が正しいのかどうかは分からないが、巨人はやはり二人を守るかのように行動する。

「恭也、さっきの瞬移で近づけないのかい?」

「あれは短距離しか無理だ。もっと近付かないと」

恭也とアルフは無言で視線を交わし、恭也が真っ直ぐに巨人へと向かって行く。
当然、恭也へと巨人の攻撃が迫る。
同時にアルフは遥か巨人の頭上から巨人を追い越し、そこから一気に降下する。
気付いた巨人が左腕を伸ばす。
それを躱しながら、その腕を中心に螺旋を描くようにしてアルフは降下し続ける。
巨人へと向かった恭也は右腕を掻い潜り、低空から巨人の足元を通り抜けようと動く。
アルフへと棘を打ち出し、恭也へと光線を吐き出す。
それらを避けて二人は別方向からカップルへと迫る。
と、アルフへと向かい交わされた棘が空中で止まり、方向を変えてアルフを囲むようにして再び飛ぶ。
足元を通過しようとした恭也へは、その足に穴が開き光線が吐き出される。
予想外の攻撃に、しかし二人は慌てる事無く突き進む。

「チェーンバインド!」

アルフの腕から伸びた魔法で作られた鎖は、アルフに襲い掛かる棘を絡み取る。
絡み取りながらも尚も下降し、鎖を振り下ろす。
アルフの鎖から解き放たれた棘が恭也を飲み込まんとしていた光線を変わりに受け止め、
その僅かな隙に恭也の伸ばした腕にたった今棘を投げた鎖が絡みつく。
アルフは力の限り鎖を引っ張り、恭也をカップルの方へと投げ飛ばす。

≪本来なら相手の動きを止める魔法なんだけれどね。
 恭也と一緒に戦っている内に、あたしまで乱暴な発想が生まれたよ≫

アルフからの念話によるぼやきに苦笑を返しつつ、恭也はグラキアフィンを構える。
背後から迫る右手と左手を感知しつつ、恭也は無視して突き進む。
左腕はアルフのチェーンバインドによって絡め取られて動きを止め、
もうすぐ届くかと思われた右腕はしかし空を切る。
恭也の瞬移が発動し、恭也の姿はカップルの前に。
すぐさまマスターの力となるべく、グラキアフィンが自身の刀身へと魔力を纏う。
紙を切るかのように簡単に二人を包み込む幕を斬り裂く。
しかし、それでも巨人は姿を消さない。
だが、アルフへと攻撃はするもののこちらへの攻撃は止んでいる。

≪恭也、二人の目を覚まさせれば≫

アルフの言葉に恭也は少し考え、グラキアフィンを寝かせて刃を男に当てる。
空いた手を女性の背中に当てて、

「最小出力で頼む」

【了解しました、マスター。雷痺】

極微量な電気が流れ、男と女は小さく呻く。
徐々に意識を覚醒していく中、それに合わせるように巨人の姿も掻き消えていく。
二人が完全に目を覚ました頃には、巨人もまた姿を消していた。
気が付いた二人に恭也は偶々通り掛ったらここで寝ていたので声を掛けたと言い、礼を言う二人を見送る。
巨人が消えると同時に結界を消したアルフが、その手に青い宝石を手にして横に降り立つ。
それをグラキアフィンに収納し、恭也も戦闘形態を解く。

「久しぶりに見つかったね」

「そうだな」

アルフの言葉に恭也が答えるのと同時、アルフのお腹が鳴る。

「あ、あははは〜」

「まあ、仕方ないか。確か、あっちに屋台が何軒かあったな」

「本当!?」

顔を輝かせるアルフに苦笑しつつ、恭也はアルフに財布を渡す。

「俺のも適当に頼む。俺は何処か座れる場所を探してくるから」

恭也の言葉に頷き屋台へと駆けて行くアルフに、恭也は小さく肩を竦め、
空いているベンチを探すべく歩き出す。
それから少しも行かないうちに、目の前から慌てたように走ってくる少年とぶつかりそうになる。

「あ、すいません」

「いえ、こちらこそ」

謝る恭也に少年も見た目にそぐわない丁寧さで返してくる。
少年は周囲を見渡した後、何かを窺うように恭也を見つめる。
その探るような視線に気付いたものの、恭也は何も言わずに立ち去ろうとする。
その恭也へと少年が声を掛けてくる。

「すいませんが、この辺りで何か変わった事はありませんでしたか?」

「変わった事? 具体的にどんな事ですか」

「そうですね。言葉にはし難いんですが、何か普段と違うような感じですね。
 向かっていた先からちょっと方向を変えてみたくなったとか。
 この辺りの風景が少し変わってしまっているとか」

「そういった事はないですね。ただ、景色に関しては俺も地元じゃないんではっきりとは言えませんが」

変わった事と言えばジュエルシード絡みだが、
結界も張ってあったし、その事ではないだろうと判断する。
この世界の人間が魔法云々は知らないだろうから、何か別の事で考えるも思い当たらない。
その言葉に嘘を感じられなかった少年――エイミィよりジュエルシードの反応を聞いて駆けつけたクロノは、
ありがとうございますと礼を言って恭也に背を向ける。

(確かにこの辺りで反応があったのに。既に回収されたと考えるべきか。
 つまり、ジュエルシードを集めている者がいるという事か)

さっき別れたばかりの恭也の顔を思い出すが、すぐに考えを否定する。
最初に会った時に念のために恭也の魔力の元、リンカーコアを探ってみたのだが殆ど感知できなかった。
魔力が低い彼では、覚醒したジュエルシードを静めて回収するのは無理だろう。
そう判断したクロノは、エイミィへと念のために周辺を少し回ってから戻ると通信を入れる。
その頃には、もう恭也の事は綺麗に忘れていた。
恭也もまたクロノの事を単なる擦れ違った程度しか認識しておらず、こちらもすぐに記憶の中に埋もれていく。
こうして、恭也とクロノの初の邂逅は、しかし、互いに相手の正体に気付かぬまま静かに幕を閉じた。





つづく、なの




<あとがき>

ようやくクロノたちが本格的に動き出す……のかな?
美姫 「いや、私に聞かないで」
冗談はさておき、そろそろ管理局にも動いてもらわないとな。
美姫 「残るジュエルシードは後六個ね」
ふっふっふ〜。これらの回収もすぐ……?
美姫 「いや、だから聞かないで」
と、またしても冗談はさておき…。
美姫 「遊ぶな!」
ぶべらっ!
美姫 「そんな暇があれば、さっさと書け!」
あぶべがびょみょっ!!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る