『リリカル恭也&なのは』






第22話 「緊急事態発生なの」





休日の夕方近く、突然になのはの携帯電話が鳴る。
ジュエルシード探しをしていたなのはは、ユーノを肩に乗せて海鳴臨海公園のベンチで少し休憩している所であった。
携帯電話を取り出して掛けてきた相手を見れば、月村忍となっている。
忍からなのはに電話が掛かってくる事は、別段珍しいことではない。
どうせまたゲームの対戦か何かだろうと電話に出たなのはは、しかしそこから聞こえてくる珍しい忍の声にまず驚く。

「あ、なのはちゃん……」

今にも泣き出しそうな、とても力ない声になのは何があったのか尋ねる。

「すずかが、すずかが……」

そこから中々言わない忍に代わり、彼女の従者であるノエルが電話に出る。
だが、常日頃から冷静さを失わないはずの彼女の声も僅かに動揺しており、
その口から語られた内容に、なのはもまた愕然となる。

「す、すぐに行きます!」

すぐさまそう告げる、いや、それしか言うことが出来ず、
なのはは電話を切るとベンチから飛び跳ねるようにして走り出す。
が、もどかしくなったのか、すぐに人気のいない場所へと移動するとレジングハートを起動させる。

「なのは、一体どうしたのさ!?」

いつになく慌てるなのはにユーノがそう問い掛けるが、なのはは答える前に空へと飛び上がる。
空を飛びながら、なのははようやくユーノに説明をする。

「すずかちゃんが急に倒れて意識不明だって……」

慌てて病院へと運び込み、忍とすずかの掛かり付けの医者に診てもらったのだが原因不明とのこと。
今、その医者が文献などで過去に似た症状の患者がいなかったか調べているらしい。
どうしようもなくなって初めは恭也に電話をしたのだが何故か繋がらず、次になのはへと連絡したらしい。
アリサにも連絡をして、今向かっているとの事である。
自分たちが行った所で何か出来る訳ではないが、それでも近くに居たいとなのははユーノに告げる。
申し訳なさそうにするなのはに、ユーノは元気付けるように気にしなくても良いよと答える。
ユーノとてすずかの事は知っているし、アリサも入れて三人の仲もよく知っている。
だから、ジュエルシードよりもそちらを優先する事に対して、何ら文句などないのだった。



病院へ着いたなのはは、病室へとノエルに連れられて入っていく。
そこではただ普通に眠っているようにしか見えないすずかと、ベッドの横に座る忍がいた。
別段、何かの機械が繋がれたりはしていないが、ベッドの上で身動ぎもせずに動かないすずかになのはは近付く。

「あ、なのはちゃん。来てくれたんだ」

「はい……。あの、すずかちゃんは……」

「それが電話でも言ったけれど、原因はまったくの不明なのよ。
 今日のお昼に突然倒れて、それからそのまま目を覚まさないの」

どこか疲れた表情を見せる忍を気遣いつつ、なのははすずかの横顔を見つめる。
と、行き成り扉が乱暴に開けられ、全員がそちらへと振り返る中、息を切らしたアリサがずかずかと入ってくる。

「ちょっとすずか! 何、寝てるのよ!」

「ア、アリサちゃん、落ち着いて」

「っ、分かってるわよ。私がここで騒いだって……」

悔しげに唇を噛み締めながら目を伏せるアリサを落ち着かせている間に、ノエルが椅子を用意してアリサに勧める。
なのはも勧められて座るが、その袖をユーノが引っ張る。
気付いたなのはは立ち上がり、何事かとこちらを見る三人に困ったような笑みを見せる。

「えっと、あの、慌ててたからユーノくんまで連れてきちゃって。
 ここは病院だからちょっとまずいかなって」

呆れるアリサと苦笑とは言え半日ぶりに笑みを見せる忍。
そんな忍たちに断りを入れるとなのはは病室を後にする。
ユーノに急かされて病院の中庭へと場所を移すなり、ユーノはなのはに告げる。

「なのは、すずかの昏睡の原因はジュエルシードだよ」

「えっ!? でも、それだったら病室の時に念話で教えてくれたら……」

「そうだけれど、結局は外に出る事になったよ。
 魔法を使う以上ね」

「という事は、すずかちゃんを助けれるんだよね」

「うん。ジュエルシードが彼女に憑り付いて夢を見させているんだ。
 だから、すずかの夢の中に入ってジュエルシードを回収すれば、すずかは目を覚ますよ」

ユーノの言葉に頷いてレイジングハートを杖へと変化させるも、そこでなのはははたと動きを止める。

「えっと、夢に入るってどうすれば良いの?」

「正確には夢の中に入るんじゃなくて、すずかの精神となのはの精神を同調させるんだけれど。
 なのはなら出来るよ。レイジングハートの声に耳を傾けて」

「分かった、やってみる」

ユーノの言葉になのはは目を閉じると、レイジングハートに同調するようにそっと額を付ける。
自然と口から零れ出て紡がれていく呪文。
それに合わせるかのように、なのはの身体に淡い燐光が浮かび上がり、なのはの肩でそれを見ていたユーノは、
ただ、ただなのはの才能に改めて感嘆の声を洩らす。身体がフワリと軽くなるような感覚の後、
再び重さを取り戻すとレイジングハートから目を開けても良いという声が掛かる。
応じて目を開ければ、そこはさっきまでいた病院の中庭の奥深い場所ではなく、
辺りを薄桃と黒の靄が交じり合う空間に来ていた。

「ここがすずかちゃんの夢の中?」

「正確にはその入り口だね。ここから記憶を辿り最深部へと向かうんだ。
 そこにジュエルシードがあるから」

「分かったよ。レイジングハート」

なのはの声に答えて飛行魔法フライアーフィンが展開される。
奥へと続く何もない空間を目指して、なのはは宙を翔ける。



 ∬ ∬ ∬



私がその人と初めて出会ったのは、入学式を明日に控えた春休み最後の日だった。
今日の午前中に入学式を終えて、遊びに行っていた忍お姉ちゃんと一緒に家に帰ってきた人がそうだった。
最初はちょっと怖そうに思って、部屋の外からそっと見ていただけ。
その人はすぐに帰って行ったから、入れ違いになる感じでリビングに入る。
そしたら、ソファーに座った忍お姉ちゃんの足にノエルが包帯を巻いている所だった。

「忍お姉ちゃん、どうしたの!?」

「あー、ちょっと公園の階段で転んでね。足は挫くは、履いていたパンプスは折れちゃうわ。
 まあ、足以外はさっきの高町くんが庇ってくれたお陰で何ともないから大丈夫だよ。
 これぐらいならすぐに治るしね。親切にもここまで送ってくれた高町くんにはまた後日お礼を言わないとね」

「忍お嬢様、先程の高町さまが不審に思わないよう、2、3日は包帯を巻かれていた方が宜しいかと」

「そだね。うーん、怪我とかがすぐに治るのは良いんだけれど、こういう時はちょっと不便だね」

忍お姉ちゃんの言う通り、私や忍お姉ちゃんは簡単な怪我や傷なら普通の人の何倍もの速さで治る。
それ自体は本当に良いんだけれど、その怪我を他の人が見ていた場合が少し困るかな。
でも、ここまで送ってくれた高町さんという人は忍お姉ちゃんのお友達なのかな?
こう言っては何だけれど、忍お姉ちゃんは私の前では明るく朗らかで人懐こく見えるけれど、
本当はとっても人との関係に、うーん、何て言うんだっけ。遠慮じゃないよね。臆病だったかな?
兎に角、そんな感じで親しい人なんてそれこそ私かノエル、後は親戚の叔母さんぐらいなんだけれど。
だから、私は忍お姉ちゃんにさっきの人が友達なのか聞いてみる。

「うーん、友達というよりもクラスメイト、かな。
 向こうはあんまりこっちを覚えてないみたいだけれど、一応、中学二年と三年でも同じクラスだったかな。
 とは言え、あんまり話した事はないけれどね」

言って笑う忍お姉ちゃん。
クラスメイトとは言え、足を挫いたお姉ちゃんに肩を貸して家まで送り届けてくれるなんて、
あの人は優しい人なんだとそう思った。
だから、怖い人と思った事を心の中で謝りつつ、忍お姉ちゃんの隣に座る。
ノエルがキッチンの方へと行ったから、きっとお茶とお菓子を用意してくれるんだろうな。
今日のおやつは何かな。かなり楽しみだな。
明日は入学式で朝から少し緊張していたけれど、今は隣に忍お姉ちゃんがいるから大丈夫。
少し甘えるように忍お姉ちゃんに抱きつくと、忍お姉ちゃんは甘えん坊だねと笑いながらも優しく撫でてくれる。
その手の感触を嬉しく感じながら、私はノエルが戻ってくるのをまだかなと待つ。
この時にはもう、さっきの高町さんの事は既にただ忍お姉ちゃんのクラスメイトとしてしか覚えておらず、
まさかこれから親しい付き合いが始まるなんて思ってもいなかったのでした。



「これがすずかちゃんの記憶?」

「うん。これらのずっと向こうが僕たちの目指す場所だよ。
 プライベートを覗き見るみたいで少し罪悪感を感じるかもしれないけれど……」

「すずかちゃんを救うためだもんね。我慢するよ」

「でも、この怪我がすぐに治るっていうのは?」

「それは……。多分、これから先も記憶を見る事になるんだったら、自然と分かるよ」

真剣な面持ちで告げるなのはに、ユーノはただ静かに頷く。
そんなユーノへと、なのはは少し落としたトーンで続ける。

「出来れば、それを知っても変わらないでいて欲しいかな。
 勿論、強制は出来ないけれど……」

なのはのその物言いに複雑な何かがあるのだろうと思ったが、何も聞かずにただ更に奥を目指すのだった。





つづく、なの




<あとがき>

よっしゃー! やっとすずか〜。
という訳で、後半は次回へ。
美姫 「忍とすずかの過去編って所ね」
イエス! という訳で、すぐさま取り掛からねば…。
美姫 「そうよ、キリキリ書くのよ〜」
では次回で。







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