『リリカル恭也&なのは』
第24話 「幕間U 学生生活」
六月も終わりを告げ、学生たちには試験も差し迫りつつある日。
「ねぇ、恭也」
「ん?」
休み時間の3−Gの教室で、忍が恭也へと話し掛ける。
試験も差し迫ったというのに余裕なのか諦めたのか、
さっきの授業を寝て過ごしていた忍の声に恭也はさっきの授業で使った教科書やノートをなおしながら返す。
その様子を見ながら、忍はにやりと形容するのが最も相応しいと思える笑みを張り付かせると、
「試験前だけ真面目に授業を聞いても仕方ないと思うけど?」
「かもな。だが、赤点を取って補習にならない程度には勉強しないとな」
「大変ね、恭也も」
「いや、お前も同じだろう」
「ほら、私は問題ないし」
忍の言葉に理系は当然ながら、文系でもそこそこだったのを思い出す。
「そう言えばそうだったな。つまり、お前は俺の邪魔をして夏休みを潰そうとしているのか?」
「何でそうなるのよ。私が言いたかったのは別の事よ、別の事」
「だったら、そっちを言えば良いだろう」
恭也の言葉に拗ねたふりをしつつも、恭也が再度促すとすぐに口を軽くする。
「その夏休みの予定を聞こうとしてたんじゃない。
すずかからなのはちゃんに話はいくと思うけれど、こっちはこっちで聞いておこうと思ってね」
「何だ、なのはを借りたいのか? だったら、本人と直接……」
「あー、違う違う。まあ、全然違うって事でもないけれどね」
忍の言いたい事が分からずに首を傾げる恭也に対し、忍は話を続ける。
「夏休みに入ってすぐなんだけれど、皆で出掛けないかってことよ。
海に温泉。どう?」
「なのはたちは喜びそうだが……」
「大丈夫よ。海の方はプライベートビーチだし、温泉の方はその旅館ごと貸切だから」
「それはまた……」
流石に自分の所為でそこまでしてもらうのは悪いと恭也が言うよりも早く、忍が笑いながら手を上下させる。
「大丈夫、大丈夫。ビーチの方はさくらが持ち主で、快く貸してくれるって言ってるし、
旅館の方は昔、さくらが除霊のような事をした縁でちょっとあってね。
さくらは殆どただ同然で借りれるって訳。
昔、何度か時期外れにさくらも貸しきったりしたみたいよ」
「だが、今回は夏休み中だろう?」
「だから、ちょっとあったって言ったでしょう。その除霊をした時に、ちょっとしたお宝が見つかったらしいのよ。
それが結構な額らしいのよね。で、今回はこの時期だけど良いか聞いてもらった所、OKが出たって事。
だから、気にしない、気にしない。因みに、一人頭にすると大体これぐらいかな?」
言って金額を恭也に耳打ちする。
「おいおい。貸切る以前に普通の旅館よりもかなり安いじゃないか」
「でしょう? どうする?」
「少し考えてもいいか?」
少し不満そうに唇を尖らせるも、忍は分かったと納得する。
恭也としてはジュエルシードの件があるので、フェイトやアルフに聞いてからにしようと思ったのだ。
「そうだ。貸切なら、アルフとかを連れて行っても大丈夫かな?」
「う、うーん、多分、大丈夫じゃないかな。いや、でも流石に大型犬はどうだろう。
ユーノみたいな小型動物なら問題ないんだけれどね」
「そっか。……もう数人増えても大丈夫か?」
「それは問題ないけれど、誰を呼ぶの?
まあ、恭也が呼ぶぐらいなら親しい人なんだろうけど」
やはり全く知らない人というのは少し警戒するのか、意外と人見知りする所のある忍に恭也は安心させるように言う。
「悪い子じゃないから大丈夫だって。まあ、来れるかどうかも分からないからな。
とりあえず、俺の方の返事と合わせてで良いか?」
「構わないわよ。そうね、出発の一週間ぐらい前までに教えてくれたら。
後、美由希や那美、晶たちにも話をしておいてね」
「了解」
「桃子さんも来れたら良いんだけどね」
「まあ、流石に難しいだろうな。一応、聞いてみるが」
「うん、お願いね。駄目なら、後日美味しいお酒を持って伺いますって伝えといて」
「ああ、伝えとくよ。ただし、その酒を俺に勧めるなよ」
「ちぇっ」
冗談交じりに小さく笑い合うのと同時に、次の授業開始を知らせるチャイムが鳴る。
話の区切りもついたので、二人は授業の準備を始めるのだった。
∬ ∬ ∬
私立聖祥大学付属小学校三年星組の教室は、朝のホームルーム前だと言うのにやけに賑やかであった。
教室の前方の方の席にちょっとした人だかりができており、その中心が原因らしい。
時折、甲高い悲鳴のような歓喜の声が上がり、後ろの生徒たちは少しでも前へ行こうと動く。
あちこちから、可愛いという言葉が飛び交う中、このままでは収拾がつかないと感じたアリサが手をパンパンと叩く。
「はいはい。皆の気持ちも分かるけれど、ほら落ち着きなさい」
アリサの声と手を叩く音に僅かながらも静かになる教室。
そこへすずかの遠慮がちな声が、小さいのによく通り皆の耳へと届く。
「あんまり周りで騒がしくし過ぎると、驚いて逃げちゃうかもしれないから」
アリサとすずか、この二人の言葉に興奮気味だった者たちも幾分か落ち着きを取り戻す。
それらの反応にほっと胸を撫で下ろし、騒ぎの中心にいたなのはは二人にお礼を言う。
「ありがとう、アリサちゃん、すずかちゃん」
「良いわよ。これぐらいで、お礼なんて」
「ふふ、何も照れなくても良いのにアリサちゃんったら」
「て、照れてなんかいないわよ! って、なのはも笑うな!
大体、学校にユーノを連れて来るなんて何を考えてるのよ」
怒ったり呆れたりと忙しく表情をコロコロさせるアリサに、なのはは困ったような引き攣った笑みを見せる。
「あ、あははは。だって、鞄を開けたら中で寝てたんだもん。気付かないよ、普通は」
そう笑って誤魔化しながら、なのははユーノに念話を送る。
≪すずかちゃんの体はどう?≫
≪うん、今調べたけれど、大丈夫みたいだよ≫
すずかがジュエルシードに記憶を奪われて寝込んだあの日の翌日は、忍の強い言葉に休んだすずかであったが、
本当に大丈夫だと分かり、今日はちゃんと出てきている。
すぐにでも異常がないか調べたかったユーノであったが、ノエルが病室で寝ずの番をしていたため、
病室に忍び込む事も出来ず、昨日は夕方に退院してすぐに自宅へと帰ったため、
学校に来るという今日、こうしてユーノを連れてきたのであった。
ユーノから返ってきた念話を聞いて、なのは心底胸を撫で下ろす。
だが、他に困った事が起こってしまった。
鞄の中でユーノがすずかを調べてもらうはずだったのが、ふとした弾みで鞄からユーノの尾が出てしまい、
なのはが慌てている合間にあれよこれよとユーノの存在が公になってしまったのだ。
未だに周囲で遠巻きにユーノを眺めつつ、触りたそうにしている子達にただ笑う。
「あ、あはははは」
≪ユーノくん、どうしよ〜≫
≪それは僕の方が聞きたいよ、なのは。
このまま玩具にされるのはちょっと遠慮したいんだけれど……≫
何も言えずに沈黙するなのはに代わり、アリサがユーノを抱き上げて周りの子たちに言う。
「ほらほら、あまり騒がないのよ。一人ずつ、交代よ」
アリサは手近にいた子にユーノを渡し、その子は慎重にユーノを抱き上げる。
「先生にばれるとまずいから、予鈴がなるまでね。
今、触れなかった子は次の休み時間に。その代わり、この子の事は皆して黙りとおすのよ」
いつの間にか仕切っているアリサであったが、その事については何処からも声が上がらない。
皆、次にユーノを触れる順番を大人しく待つ。
そんな親友の手際の良さに感心しつつ、助けを求めるユーノの念話に一言だけ謝っておく。
≪僕は玩具じゃないのにぃぃ〜≫
そんなユーノの叫びをなのは以外は知る由もなく、次の子へと渡されていく。
ユーノも諦めたのか、ややぐったりしつつも大人しくされるがままとなるのだった。
休み時間のたびに代わる代わるやって来てはユーノを触わる星組の子たち。
唯一の幸いは、他のクラスには決して洩らさなかった事だろうか。
でなければ、こうして昼休みをゆっくり出来たかどうか。
昼休みまでにクラスの子たちは一通り触り終え、こうしてなのはは昼休みを普通に過ごす事が出来る。
見つからないように布袋へと隠れたユーノとお弁当を持って、三人は中庭の外れにあるベンチに腰を下ろす。
ユーノを外へと出して、それぞれお弁当を広げる。
お弁当のおかずをユーノに分けてあげながら、自分も食事をしていくなのはとアリサに、
すずかも食べながら話をする。
「あ、そうだ。本当はもうちょっと早くに聞こうと思ってたんだけれどね……」
ユーノの件で今まで話し出せなかったと、すずかは忍が恭也に持ち出した旅行の話をする。
「という訳で、お二人はどうかな?」
「う、うーん」
なのはは考えるふりをしながら、ベンチで食事をしているユーノを見下ろす。
≪別に良いんじゃない。偶には息抜きも必要だよ≫
≪うん……。ありがとうね≫
「勿論、私は大丈夫よ! なのはは?」
「う、うん。わたしも大丈夫だと思う。
一応、帰ってから聞いてみるけど」
「恭也が反対するかもね。なのはに旅行はまだ早いとか言って。
ああ〜、良いななのはは。あんなに優しくて素敵なお兄さんがそこまで心配してくれるんだから」
「う、うーん? 確かに優しいかもしれないけど、偶に平然と嘘を教えるし、結構意地悪するし……」
言いつつもどこか嬉しそうに語るなのは。
そもそも、恭也がそういう事をするというのが心を許した存在に対してのみである。
それを知っているからこそ、なのはの顔も知らずに緩むのかもしれない。
ともあれ、そんななのはの愚痴のような惚気のような言葉にアリサはむすっと膨れてみせる。
「そんな顔して文句を言っても説得力ないわよ。
いらないのなら、私のお兄さんになってもらおうかな」
「そ、それは駄目だよ!」
即座に否定するなのはに、ユーノはばれないように小さく笑う。
前にも思った事だが、やはり恭也も恭也ならなのはもなのはだと。
そんな事をユーノが思っているとは露知らず、なのははすずかにも顔を向ける。
「まさか、すずかちゃんも……」
「ううん、私はお兄ちゃんになってもらおうなんて言わないよ」
「良かった」
ほっと胸を撫で下ろすなのはをにこやかに見つめた後、徐に口を開く。
「ほら、兄妹じゃ色々とね」
「……す〜ず〜か〜」
すずかの言いたい事をすぐさま察知して、アリサが両手を広げて威嚇するような声を上げる。
それに怯えたふりをしながら、すずかは僅かに身を引く。
「アリサちゃん、怖い」
二人ともその顔には若干の笑みを浮かべている事から冗談である事は分かる。
分かるのだが、なのはは何処か膨れたような顔を見せる。
この二人の行動自体は冗談ではあっても、という奴だ。
とは言え、このままでは昼休みも終わってしまうのでなのはは二人に声を掛けてそれを中断させる。
すんなりと止めて昼食を開始しながら、すずかはさっきのアリサの心配に関する事について話す。
「私たちだけなら駄目かもしれないけれど、
少なくとも忍お姉ちゃんやノエルが一緒だから駄目とは言わないと思うよ。
それに、忍お姉ちゃんが恭也さんを誘うって言ってたから」
「皆で行くって事ね」
「うん。どうかな、なのはちゃん」
「それだったら、多分大丈夫だと思うけど。でも、一応おかーさんにも聞いてみないと」
「うん、それで良いよ。また明日にでもお返事聞かせてね」
なのはの言葉にすずかはそう返すと、その横でアリサが拳を握り締めて肩を震わせる。
「ふっふっふ。恭也も来るんだったら、水着を新調するわ。
そして、私の魅力で……」
「うーん、お兄ちゃん来るかな」
兄である恭也が肌を出すのを好まない事を知っているなのはの言葉に、すずかがにっこりと笑いながら、
忍が恭也にしたのよりも細かい部分を端折った説明をする。
「だから、大丈夫だと思うけど」
すずかの言葉になのはも納得したように頷く。
その肩をアリサが強く掴む。
「いい、なのは。今からあなたにはとっても大切な任務を与えるわ」
真剣な眼差しで見つめてくるアリサに僅かに身を引きつつもなのははそれは何か尋ねる。
「何が何でも恭也を連れて来るのよ。恭也の事だから、一旦約束したらまずは破らないわ。
だったら、早めに約束させるのよ!」
「で、でも、わたしがお願いして……」
「甘い、甘すぎるわ! 蜂蜜たっぷりの練乳ワッフルよりも甘いわよ。
恭也がなのはのお願いを無碍にするはずないでしょう」
「う、うーん」
そうでもないようなという呟きはアリサには届かなかったらしく、
アリサは一人興奮したように肩を上下させて息も荒くなのはに詰め寄る。
「お願いしたわよ、なのは」
「あ、あははは。や、やるだけやってみるよ」
アリサの後ろにいるすずかから与えられた助言通りの言葉を投げると、
アリサは憑き物が落ちたのかようにすっと普段の通りに戻るとベンチに座りなおす。
「うーん、夏休みが楽しみね! 早く来ないかな〜」
現金なアリサに苦笑しつつ、なのははユーノも連れて行っても良いと言うすずかの言葉に笑みを見せる。
≪良かったね、ユーノくん≫
≪うん、ありがとうなのは≫
そんな念話を交わしつつ、アリサとすずかの二人といつものように昼休みを過ごすなのはだった。
つづく、なの
<あとがき>
ここに来て、またちょっと幕間というか日常を
美姫 「しかし、久しぶりの更新ね」
は、反省です、はい。
ともあれ、次回はなのはが○○○の予定。
美姫 「その○は何よ、○は」
それは次回で。
ともかく、大まかな流れは既に出来ているから後は…。
美姫 「頑張って書くだけね」
ああ! まあ、それが大変なんだが。
美姫 「根性で、気合いで、ガッツよ」
へいへい。
あ、因みに、今回も没ネタが。
美姫 「で、ここでまた公開する気ね」
あははは。あとがきの行数稼ぎじゃないぞ。
美姫 「別にページ数が決まってるわけじゃないから、行数を稼いでも仕方ないでしょう」
……そうだな。なら、それはなしで。
美姫 「もう遅いわよ。という訳で、ほい♪」
「…この子、雄なんだ」
≪っ!? #%&$ な、なのは〜〜!!≫
≪あ、あはははは。ごめんね、ユーノくん≫
≪うぅぅ、純情な心を弄ばれた……≫
美姫 「まあ、お下品」
いや、冗談はさておき。
と言うか、ちょっとはそうかもしれんが。
ともあれ、没、没〜。
美姫 「没は良いけど、次は早く更新してよね」
が、頑張ります……。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。
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