『リリカル恭也&なのは』






第25話 「三つ巴」





夏休みに入ってすぐの予定を恭也から尋ねられ、フェイトは戸惑いつつも何もないと答える。

「そうか。なら、ちょっと出掛けないか。
 ジュエルシード探しも大事だが、偶には息抜きも大事だと思うんだけれど」

「でも……」

「良いじゃないか、フェイト」

悩む素振りを見せるフェイトにアルフが行こう、行こうと駄々をこねるように甘える。
こうして見ると、アルフの方が子供に見えるがあながちそれも間違いではないのだろう。
主人に甘える使い魔という光景に知らず和みつつ、恭也はフェイトの返事をじっと待つ。

「……えっと、それじゃあ」

フェイトが最後まで言う前にアルフは嬉しそうにフェイトに抱き付く。

「ちょっとアルフ。苦しいって」

「あはは、ごめんごめん」

じゃれる二人を見つめながら、恭也は明日にも忍へと伝えようと考える。
ほっとくといつまでもじゃれていそうな二人に苦笑しつつ声を掛ける。

「ほら、アルフもそれぐらいにして。早く食べないと紅茶が冷めるぞ」

恭也の言うように、三人の前にあるテーブルには湯気を立てるカップに琥珀色の液体が注がれている。
その横には、皿に乗った食べかけのケーキが置かれている。
お土産として持ってきた翠屋のケーキである。
恭也の言葉にアルフもようやくフェイトを解放し、フォークを握る。
美味しそうにフォークをケーキに突き刺してそのまま頬張るアルフと、
丁寧にフォークで切り取って口に運ぶフェイト。
それをカップに口を着けながらじっと眺める恭也に気付き、アルフは手を止める。

「どうしたんだい、恭也? 何かぼーってしてるみたいだけど」

「いや、別に大した事じゃない。ただ、二人ともやっぱり女の子なんだなと思ってただけだ。
 食べ方は違うが、そうやって甘いものを食べている時にはやっぱり笑顔なんだなと」

「別に女の子じゃなくても好きな子は好きだし、嫌いな子は嫌いなんじゃないの?」

「まあ、確かにそうだな。気にするな。ただ、二人の笑顔がとても良かったから思わず見てただけだ」

「ふーん」

気にするなと言われてそのままケーキを再び頬張るアルフと、少し照れたように顔を俯かせるフェイト。
ここでも対照的な態度を見せる二人に知らず頬を緩めつつ、恭也は再びカップを手にするのだった。

「それじゃあ、今日はこの辺りで帰るよ」

「はい。あ、試験の前日から三日間は私一人で頑張りますから、恭也さんは試験を頑張ってくださいね」

「分かった」

何気なく試験が始まるという話をしてしまった恭也は、
それを聞いたフェイトによって試験の間は勉強する事となってしまったのだった。

「与えられた課題をやり遂げるのはとっても大事な事ですから。
 私もリニスから試験を与えられましたけれど、上手く合格した時は褒めてもらえてとっても嬉しかったから。
 だから、恭也さんも頑張ってください」

そこまで言われては恭也も引き下がるしかなく、夏休みの確保のためにも頑張ろうと恭也は決意した。
とは言え、試験まではまだ数日あるので今日は普通に探索する予定である。
当初は試験に備えて休むようにフェイトも言っていたのだが、
恭也が大丈夫だというので前日までは今まで通りに手伝ってもらう事にしたのだった。
そんな事を思い出しつつドアを開ける恭也の背中へと、

「本当にですよ。ジュエルシードの反応があっても、私一人で何とかします。
 どうしても危ない時は、ちゃんと言われた通りにアルフに念話を飛ばしますから」

今もこうして念押しするフェイトに恭也は素直に頷くのだった。



 ∬ ∬ ∬



あれから数日、全く成果のないまま恭也の試験前日が来る。
いつものように一人で夜の街を飛ぶフェイトであったが、不意にジュエルシードの反応を感じ取る。
空中で止まり、注意深くさぐればここよりも北東、丁度隣市との境あたりからであった。
高度を更に上げてまっすぐに反応のあった場所へと向かう。
フェイトの目に河川敷が見えてくる。
反応はそこからであり、フェイトは徐々に高度を下げていく。
が、どうもジュエルシードの状態が可笑しい。
何かの強い思いに取り付いている感じはなく、前の時のように暴走かとも思ったがそれとも違う。
ただ宙に浮いて淡く輝いているのだ。
ふとフェイトは自分以外に空を飛ぶ者の気配に気付き、顔を斜め後ろへと向ける。
そこには闇の中に会って白い衣装を身に纏った同じ年頃の少女が。
四度目の遭遇に向こうも表情を引き締めたのが分かる。
恨みはないが、フェイトもまた譲れないのだ。
速度を上げてバルディッシュを構えてジュエルシードへと突っ込む。
その後を白い少女――なのはも速度を上げて付いてくる。
あと少しと言う所で、それまで何も反応を見せなかったジュエルシードから、
いきなり魔力で編まれた鎖のようなものが飛んでくる。
フェイトもなのはも揃ってそれを躱し、距離を開けてジュエルシードを見下ろす。

「ユーノくん、あれってどういう事?」

「多分、暴走して……いや、違う。何でだか知らないけれど、この場所には魔力が流れてきて溜まっているみたいだ。
 魔力の溜まり場とでも言うべき場所になってしまっている。
 その魔力の影響でジュエルシード自身に力が蓄えられたんだ。
 でも、核となるものを持たずに力だけを得たから、核となる者を探しているんだ」

「えっと、それってあれに捕まったら……」

「うん。ジュエルシードに取り込まれる。気を付けてなのは、来るよ!」

ユーノの言葉に応じるようになのはへと向かってきた鎖を旋回して躱し、更に距離を開ける。
一方、ユーノの話を聞いていたフェイトも襲いくる鎖を持ち前の機動力で躱し、接近しようとする。
それを見てなのはもまたジュエルシードへと突っ込む。
フェイトの方が近いと判断したのか、なのはの倍以上もの数の鎖がフェイトを捉えようと迫る。
前面全てが塞がれる程の数に、フェイトは仕方なく浮上して距離を開ける。
その隙になのはがジュエルシードへと近付くも、フェイトへと向かっていた鎖が行き成り方向転換して襲い来る。
一度に操れる数には限度があるらしく、なのはとは反対側からフェイトが肉薄する。
が、今度はなのはがその多さの前に浮上してそれがフェイトへと迫る。
共に協力して二方向から攻めるという考えはフェイトにはなく、ただなのはよりも先にという思いで行動する。
それを悲しげに見つめながら、なのはは肩に掴まっているユーノに尋ねる。

「ここからジュエルシードを撃つのは駄目かな」

「うーん、今回は核となるものがないから、最悪ジュエルシードを破壊しないと止まらないかも」

更に言えば、フェイトがジュエルシードの近くにいるため、今、大きな魔法は撃てない。
どうすれば良いのか悩み、すぐになのははフェイトの方へと降下する。
近づいてくるなのはに気付きつつも、攻撃の意思がないとみてフェイトはジュエルシードのみに集中する。

「ディバインシューター!」

複数の光弾を撃ちフェイトと自分に迫る鎖を弾き飛ばすなのは。
その行動を訝しげに一瞥だけすると、フェイトはその隙にジュエルシードへと迫る。
しかし、なのはの攻撃で開いたかに見えた空間にすぐに別の鎖が割り込み、
あっという間にジュエルシードまでの道を塞ぐ。
二人ともそろって上空へと逃げる。
どうやら、一定距離以上は追って来れないらしく、とりあえずなのははほっと一息吐くと、フェイトへと向き合う。

「フェイトちゃん……」

なのはの呼びかけにフェイトは答える事無く、ただ視線だけを返す。
だが、それもすぐに眼下のジュエルシードへと戻される。
その事に一瞬だけ悲しそうな顔を見せるが、すぐに首を振ってもう一度呼びかける。

「今度は一緒に別の方向から攻めてみない。
 別々じゃなくて、同時に。そうすれば、あの攻撃もわたしとフェイトちゃんに半分ずつになると思うの」

「……何故? 私も貴女もジュエルシードが欲しいはず」

「そうだけど、ここは協力した方が良いと思う。
 それに、半分の数なら何とかできると思うし。後は早いもの勝ちで。
 駄目、かな?」

不安そうに見つめるなのはに、フェイトは少しだけ考えて頷く。
フェイトの答えになのはは顔を輝かせて嬉しそうに頷く。
それを訳が分からないという顔で不思議そうに見ていたフェイトであったが、すぐにジュエルシードへと意識を戻す。

「貴女が動いたら、私が動く」

「うん、それで良いよ。フェイトちゃんの方が早いし」

フェイトからの提案に頷くと、なのははフェイトの逆側へと周り込み下を見下ろす。

「よし! 行くよユーノくん」

叫ぶと同時にジュエルシード目指して左右から降下する。
数瞬遅れてフェイトも降下し、すぐになのはと同じ高さに達し、そのままなのはと同じ速度で降下をする。
全く同時に別方向から来る二人へと、ジュエルシードはその束縛の鎖を均等に分けて伸ばす。
それをなのはは降下中に展開した幾つかの光弾――スフィアで弾き飛ばし、
フェイトはバルディッシュをサイズフォームにして、その鎌のように伸びた刃で薙ぎ払いながら、
共に中心、ジュエルシードを目指して飛ぶ。
鎖の大群を突き抜け、ジュエルシードの姿が見えるとフェイトは加速する。
遅れまいとなのはも加速するが、やはり速さはフェイトの方が上なのか、
バルディッシュが先にジュエルシードへと触れ、遅れてなのはのレイジングハートが到達する。
互いに回収の呪文を唱えようとした瞬間、ジュエルシードから大きな魔力波が吹き上がる。
その衝撃に吹き飛ぶ二人が態勢を戻してジュエルシードを見れば、
白い輝きを放ち今にも爆発しそうな感じを受ける。
咄嗟にジュエルシードを回収しようとする二人であったが、そこに第三者の声が響く。

「そこまでだ、二人とも!」

突然の乱入者に思わず動きを止める二人の隙を付くように、
この場に現れた少年は手にした杖をジュエルシードへと翳して何か呟く。
すると、さっきまで輝いていたジュエルシードから光が消え、少年の手へと収まる。

「エイミィ、ロストロギアの回収を完了した。
 そっちに転送するから、後は頼む」

少年が言い終えるなり、手の中にあったジュエルシードが消える。
それを確認すると、少年はなのはとフェイトへと向き直る。

「さて、僕は時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ。
 詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

その言葉にフェイトは僅かに反応を見せるも、なのはは疑問だらけという顔でクロノを見返す。
そんな二人の反応など気にも留めず、クロノは武装の解除を要求する。
同時にフェイトは魔法を地面へと放ち、土煙を作り出すと飛翔の呪文で飛び出す。
その背中へとクロノの魔法が飛び、フェイトの背中を撃つ。

「っくぅぅ。アル……、恭……ん」

途切れそうになる意識を繋ぎとめ、フェイトは自分を迎えてくれる二人の顔を思い描く。
落ちそうになったフェイトだが、すぐに持ち直して再び飛び上がる。
その背中へと無表情のままクロノは手にしたデバイスを向け、その前になのはが立ち塞がる。
レイジングハートをクロノへと向け、険しい顔を見せる。

「何て事をするんですか」

「武装を解除するように言ったはずだ。それに従わず、尚且つ逃亡しようとしたから撃った」

クロノの物言いに何か言いかけるなのはをユーノが止める。
事情が分からずにユーノへと視線を向けるなのはへ、クロノは小さく溜め息を吐き出し、

「どうやら、事態をよく分かっていないみたいだね。
 できれば、その辺りの事情を説明したいと思うんだが。アースラへと一緒に来てくれないか」

その言葉に少し考え、フェイトが無事にここから去った事を確認するとなのはは強い眼差しを向け、
クロノの提案を受け入れるのだった。





つづく、なの




<あとがき>

遂に登場、クロノ。
美姫 「で、今回はあとがきも短く」
さっさと次を書くべし!
美姫 「いや、書くのはアンタなんだけど」
カリカリ。
美姫 「むっ、珍しく本当に書いてるから、今回はそっとしておいてあげるわ」
ではでは。
美姫 「また次回でね〜」







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る