『リリカル恭也&なのは』






第27話 「恭也、フェイトと管理局」





テスト最終日、学校が終わるなり恭也は校門で待っていたアルフを連れてフェイトの元へと向かう。
お土産に持参したケーキに手をつける事もせず、フェイトは恭也が座るなり口を開く。

「ついに管理局が動き出しました」

「管理局が!?」

驚きの声を上げるアルフとは違い、恭也はその管理局が何を意味するのか分からずにただ沈黙する。
その辺りはフェイトも理解しているのか、恭也へと簡単に管理局について説明をする。

「つまり、他世界間で起こる問題を解決する組織か。
 そういう組織があるのなら、事情を説明してそこの力を借りるという事はできないのか」

「それは無理だよ、恭也。あいつらにとってロストロギアの回収は最重要任務だからね。
 理由の如何に問わず、個人に持たせるなんてそうそうありえない」

恭也の問い掛けをきっぱりと否定するアルフにフェイトもその通りとばかりに頷く。
そんなフェイトを心配そうに眺めながら、アルフは恭也にのみ念話を飛ばす。

≪それに、その辺りをネチネチ突っついて、あのオバサンならフェイトを責めそうだしね≫

つくづくフェイトの母親という存在に呆れと憤りを感じつつ、恭也は表情を変えずにフェイトに尋ねる。

「それで、フェイトはこれからどうするつもりなんだ?」

「私は、それでも集めます。それがお母さんの望みだから」

管理局が動くとなると、腕の立つ魔導士も出てくるだろうから危険だと口にしそうになるアルフであったが、
集めなければどちらにせよ今度はプレシアからのお仕置きと称した罰が待っているのである。
主であるフェイトがやると決めた以上、アルフも全力でそれをフォローするだけだと強く頷く。
そんなアルフの心情を理解したのか、フェイトは小さく笑みを見せながらアルフの頭を撫でる。
気持ち良さそうにフェイトにじゃれ付くアルフ。
そんな二人をただ黙って眺めていた恭也へと二人の視線が同時に飛ぶ。
フェイトが何か言おうと口を開くよりも早く、恭也は先に言葉を投げる。

「勿論、俺も最後まで手伝う。今更手を引くというのはできないしな」

「でも、管理局が出てきたとなると今までとは違……」

「それでもだ。これは俺が決めて俺が勝手にする事だから。
 謝るのはなしだぞ」

「……ありがとうございます」

謝りそうになる言葉を飲み込み、フェイトは少し考えてからそう口にする。
本当は他にも色々と言いたい事や適切な言葉があるのかもしれないが、
フェイトはただ今の気持ちを全て込めて、ただそれだけを口にする。
恭也は小さく頷くと、フェイトとアルフの頭にそれぞれ手を置くと優しく撫でる。
その言葉が一番の褒美だとばかりに。
それから恭也はフェイトが管理局が動き出した事を知った経緯を簡単に尋ねる。
攻撃を受けたと聞いた時はアルフ共に心配そうな顔になるが、フェイトの大丈夫という言葉に安堵する。

「しかし、いきなり撃ってくるのか」

「いえ、一応、警告を発してましたけどね。
 私がそれに従わなかったからだと思います」

「そうか。まあ、それはもう済んだ事だから良いとして。
 フェイト、怪我をしたのならちゃんと連絡をして欲しい。後から聞いたら、アルフも俺も心配になるから」

「……ごめんなさい。次からは気を付けます」

「いや、責めている訳じゃないから。
 一人で何でも抱え込む事はないというのを知っていて欲しいだけだから。
 俺の妹、美由希と言うんだが、こいつも少し前に自分一人で悩んで抱え込んだ時があってな。
 無茶な鍛錬を一人で続けていたんだ。気付いてすぐに止めさせたが……」

気付かなかったらどうなっていたのかと考えると恭也は今も気付けた事に安堵するのである。
美由希から話しを聞き、恭也は美由希へと口下手なりに必死に話して聞かせた。
そのお蔭でちゃんと分かってもらえたのか、次の日から美由希は元に戻ったのだ。
その事を思い出して表情を僅かに翳らせるも、すぐに嬉しそうな表情を覗かせる。
考え込む恭也の表情、その小さな変化をじっと見ていたフェイトはそこから何か感じ取ったのか、
小さいながらもはっきりとした口調で、

「はい」

と、恭也やアルフと約束するように返事する。
その事に恭也はアルフと顔を見合わせると、フェイトに土産として持ってきたケーキを勧めると、
自分はお茶を淹れ直すために立ち上がる。
さっきまでどこか張り詰めていた空気も霧散し、今は穏やかな空気が辺りを包み込む。
その空気にゆっくりと身を任せ、フェイトは恭也が淹れてくれるお茶を暫し待つのだった。



 ∬ ∬ ∬



管理局に協力すると決めてから数日後、なのははクロノに呼び出されて再びアースラへとやって来ていた。

「あの、今日は何が」

「ああ、別に何かあった訳じゃないよ。ジュエルシードの反応もあれから全く出てない」

なのはを先導するように歩きながら、クロノはどこか疲れの見える顔で告げる。

「今日、君を呼んだのは君の魔力を量らせてもらいたいのと、簡単な戦闘をしてもらいたいからだ。
 いざという時、どの程度動けて、どんな魔法が使えるのかを知っておきたいからね」

「戦闘ですか?」

「ああ。だけど、そんなに心配するようなものじゃないよ。
 うちの局員の一人が相手になるから。勿論、非殺傷設定だから、君はただ全力でやってくれれば良い」

「……はい、そういう事なら」

なのはの肩に乗りながら、ユーノは本当に全力で良いのか少し不安になるも、管理局の、
それも執務官を務める少年の言葉に大丈夫なのだろうと判断する。
そんなユーノの苦悩など気付かず、なのははクロノがどこか疲れている様子なのを気にする。

「ひょっとして、ジュエルシードに関する事で忙しいんじゃ。
 それなのに、わたしの我侭でこんな迷惑まで……」

「ああ、まあ確かにジュエルシードの解析や探索とか、今回の件で調べるべき事が多くて大変なのは確かだよ。
 でも、君が謝るような事じゃない。それに、今回のこれはどちらかというと、艦長の我侭だから。
 艦長が君に興味を持ったみたいでね。今まで魔法を知らなかったはずの君が、短期間に魔法を習得して、
 尚且つ、それを用いてジュエルシードを回収していた事に対してね」

気苦労という文字を背中に漂わせ、クロノは一つの扉を開ける。

「さあ、入って。終わるまでは外の情報が入ってこないけれど、気にしないでやってくれ。
 ああ、その使い魔も一緒で良い」

「僕は使い魔じゃない!」

肩から降りようとしたユーノを止めてそう言うクロノへとユーノが噛み付く。
クロノはどこかわざとらしく驚いて見せると、なのはへとそうなのかと尋ねる。
その態度に腹を立てるユーノを宥めつつ、なのはは苦笑しながら首肯する。

「はい。ユーノくんはお友達です」

「そうか。でも、まあ一緒で良いよ。君の相手をする者は実戦を経験しているからね。
 アドヴァイザーが居た方が良いだろう。
 今回の主目的は君の使える魔法と魔力値だから、すぐに終わってしまうと少々困るんでね。
 そういう訳だから、しっかりサポートしろよ」

そう言い終えて立ち去るクロノの背中へと悪態をつくユーノを、
なのははただ困ったような顔で見ているしかなかった。
閉まる扉に背を向け、目の前にあるもう一つの扉をゆっくりと開ける。
そこはそれほど広くもない部屋で、中央に何か魔法陣らしきものが描かれていた。
と、突然、なのはの頭の中に念話のように声が届く。

「はーい、なのはちゃん。怖がらなくても大丈夫だから。
 あ、私はエイミィ、エイミィ・リミエッタ。よろしくね。
 ここからは私の指示に従ってね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「はい。それじゃあ、まずはその中央の魔法陣の中に入ってくださいね。
 もっと広いところまで転移するんで」

声に従って魔法陣に入ったなのはは、エイミィの合図と共に今までいた場所とは全く違う、
荒涼とした場所に立っていた。
慌てそうになるなのはを落ち着かせ、エイミィはなのはの前方上空を見るように促す。
そこには既に一人の男性局員が待機しており、なのはを見ると頭を軽く下げてくる。
慌てたようになのはも頭を下げて返し、ゆっくりと宙へと飛び上がる。
二人が空で対峙して数秒後、クロノが管制室へと現れ、開始の合図がエイミィよりなのはたちに伝えられる。
艦長やクロノの視線は空に浮いた幾つもモニターへと向かい、静かになのはの戦いを見る。
最初に仕掛けたのは局員で、なのはへと小さな魔法の弾が三発放たれる。
それを無視するように、なのはは更に上空へとかなりの速さで登っていく。
局員との距離が開いた所で、なのははレイジングハートを構える。

「まさか、あの距離で撃つつもりなのか」

思わず洩らしたクロノの呟きは、誰もが思う事であった。
なのはと対峙した局員も、その場に留まるか距離を縮めるかで悩む。
詰め寄る間に準備を整えたなのはの間合いに入るという可能性も充分にあり、結局は更に距離を開けるべく下がる。
いや、下がろうとするその時には、なのはは既に準備を終えていた。

「いきなりだけど、行くよレイジングハート!」

相手の力量が分からないのなら、最初から全力で最も威力のある攻撃を。
それがなのはの出した答えであった。というよりも、兄や姉の影響かもしれないが。
ともあれ、なのはは自分が戦闘経験も少なく接近戦が苦手だと理解しているので、
長距離からの攻撃を最初から考えていたのである。
マスターであるなのはの言葉に応え、レイジングハートの周囲に魔法陣が浮かび上がる。

「いっけぇぇっ! ディバインバスター!」

なのはから放たれた魔法が真っ直ぐに局員へと向かい、避け切れないと思った局員は咄嗟にシールドを張る。
しかし、それはまるで紙のようにあっさりと突き破られ、局員はなのはの魔法を喰らって地面へと落ちていく。
煙が立ち込める地表を見下ろし、なのはは反撃に備えてレイジングハートを握り締めたまま、
じっとその煙を見つめ続ける。
しかし、反撃はおろか動く気配も感じられずに困ったようになのははユーノを見る。
一方、その攻撃を見たクロノたちは、声も出せずにただ一撃で戦闘不能となった局員となのはを交互に見遣る。

「……なっ、何て出鱈目な魔力なんだ。
 防御魔法無効化の術式も何も組み込まれていないのに、ただ出力だけでバリアを打ち抜くなんて」

「クロノくん、言わなくても分かると思うけれど、あれだけじゃちょっと正確な計測は無理かな。
 後、なのはちゃんが使える魔法が他に何があるのかも分からないんだけれど……」

「だろうね。因みに、さっきの一瞬だけで計測できただけでも良いから、なのはの魔力値は?」

「正確な値ではないけれど、100万は超えてるかな」

「AAAクラス並ね……」

リンディの言葉にクロノは仕方ないと自分が出向こうとする。

「ちょっと、クロノくん。最近、忙しくて疲れてるでしょう。
 大丈夫なの」

「とは言え、彼女の戦力を正確に把握しないと困るだろう」

クロノの言葉にエイミィは渋々納得すると、なのはに次の相手が行くまで少し待つように言う。
なのはの待つ場所へとクロノが向かおうとした瞬間、別の端末が音を立てる。

「っ! クロノくん、ちょっと待った! この反応は……」

「ジュエルシードが見つかったのか」

「うん。場所は……」

エイミィが指を素早く動かして何かを操作している間に、クロノはリンディを振り返る。

「現地には僕が行って回収してきます。なのはの相手は局員数人でするようにしてください、艦長」

「うーん、なのはさんにもそのまま向かってもらえば良いんじゃないかしら。
 そうすれば、実戦でデータも取れるし」

「確かに彼女は我々に協力するという形になってますが、どんな危険があるのかも分からないんですよ。
 今までが上手くいってたからと言って……」

「はいはい。局員でもない一般の女の子に何かあったら心配だからと素直に言えば良いのに、この子は」

「まあまあ、艦長。そこがクロノくんの良い所じゃないですか」

エイミィとリンディの言葉にそんなんじゃないとぶっきらぼうに返しつつ、クロノは管制室を出て行く。
その背中に慌ててエイミィがジュエルシードの反応が見つかった座標を伝え、
リンディはなのはの相手をしてもらう局員を数人選び出すと、別のオペレーターに呼び出しをお願いする。
一方、ジュエルシードが発見されたと知らされていないなのはとユーノはというと。

「ユーノくん、ひょっとしてやり過ぎちゃったかな」

「た、多分、大丈夫だよ。彼らはこういった実戦を多く経験しているからね。
 それに、非殺傷設定だから、魔力ダメージはあるだろうけど……」

とは言え、落下した事による怪我などは全く関係ないのだが、その事は黙っておく。
それにしてもと、ユーノは自分の言葉に安心するなのはの横顔を改めて見つめながら、
その魔力の大きさに驚きを隠せなかった。





つづく、なの




<あとがき>

いよいよ残るジュエルシードも後僅か。
美姫 「次はどうするの?」
次は、○○がXXで、△△して…。
美姫 「うん、全く分からないわ」
だろうな。ともあれ、また次回だ!
美姫 「それじゃあ、また次回で」
畳の目を数え続け、これが目を疲れさす魔法だと叫びながら待て!
美姫 「いやいや、それは魔法でも何でもないから」
と、突っ込みながら待て!
美姫 「もう良いって」
それじゃあ、本当に次回をお待ちください。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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