『リリカル恭也&なのは』






第28話 「謎の襲撃者」





ジュエルシードの反応を感じ取ったフェイトは、その場へと急行すべく宙を舞う。
そんなフェイトのすぐ横から同じように宙を飛ぶ二つの影。
恭也とアルフの二人である。

「管理局という存在がまた出てくる可能性があるんだな」

恭也の確認するような言葉に小さく頷くフェイトに、恭也も覚悟を決めたように頷き返す。

「恭也さんは魔導師との戦闘経験はないんですよね」

「ああ。今までごく普通とまでは言わないまでも、それなりに普通に過ごしていたからな。
 ジュエルシード絡みで変わったものと戦闘はしたが、純粋な魔導師という存在とはないな」

「それなら、管理局の人が出てきたら逃げてください。
 魔導師の質にもよりますが、ロストロギアが絡んだ事件に出てくる以上、
 一筋縄でいかない腕の持ち主のはずだから」

フェイトの言葉に何か言おうとするも、その真剣にこちらの身を案じる表情に恭也は黙って頷く。
頷きながらも、実際にそのような場面がきたとしても逃げる気は、
いや、逃げるのならフェイトも一緒だと決めているが。
そんな考えをおくびにも出さずに頷いて見せた恭也にフェイトは安心するが、
アルフはそれはありえないと、短らぬ付き合いで理解しており、それでも口には出さない。
やがて、ジュエルシードの反応のあった近くへと三人は近付き、ゆっくりと速度と高度を落とす。
繁華街にほど近い、そこそこ高いビルの立ち並ぶ一角。
幾つか並ぶビルの屋上に降り立った三人は、ビルとビルに挟まれた谷間、裏路地とも言える薄暗い通路を見下ろす。
反対側の表通りでは日も暮れ始めた中、別の賑わいが生まれ始めているが、
今、三人が目を下ろす先は人もおらず、ただただ静寂だけが横たわっている。
ジュエルシードの反応は、そこから感じられる。だが、すぐに近付かなかったのには理由があり、
ジュエルシードとは別に全身黒でコーディネートした少年がいたからである。

「あれが魔導師」

恭也の呟きにフェイトは頷きながらも、少し付け加える。

「管理局の人間で、この前私の前に現れた人です。
 あの人、かなり強いです。闘い慣れているって感じでした」

なら三人でとアルフが提案するも、恭也がそれを止める。

「俺はまだ他の魔導師とやった事がないから、魔法というものがどこまでのものか知らなさ過ぎる。
 加えて、アルフはフェイトとも、俺とも連携できるが、俺とフェイトは共に戦うのは初めてだ。
 更に、アルフとて俺とフェイトが共に戦った時にフォローできるかどうか分からないだろう。
 練習もなしでいきなり実践というのは流石に心許ない」

「だからってこのまま回収されるのを指を咥えて見てるだけなんて」

フェイトもアルフの言葉に同意するように恭也を見上げる。
不満を顔に出す二人に、恭也は苦笑を見せると、

「誰もそんな事は言ってないだろう。
 俺たちの目的は、あの子を倒す事じゃなくてジュエルシードを回収する事だ。
 だとしたら、正面からやる必要はないと言っているんだ。
 今、ここで出て行ったら、最悪、ジュエルシードとあの子の二つを相手にしなければならないんだ。
 だが、ここでもう暫く様子を見ていれば、ジュエルシードの方はあの子が何とかしてくれるだろう。
 で、あの子が戦いに勝ってジェルシードが本来の姿に戻った隙をつく。
 そうすれば、こちらは無駄な戦闘を一つしなくて済む。
 更に、戦うのが目的ではないから、回収してすぐに離脱する事だけを考えればいい。
 向こうはこちらを捕まえようとするにも、攻撃しようとするにも魔法攻撃に移るまでに僅かな隙が出来る。
 逆にこっちは……」

「先に準備しておけるという事ですね」

恭也の言葉を取りそう尋ねてくるフェイトに恭也は頷く。
後ろでアルフがずる賢いとか何とか言っているが、それは聞こえなかった事にして恭也は眼下を見下ろす。
少年はフェイトの言うように闘い慣れているらしく、
魔法を上手く使い分けて中距離、遠距離と相手を追い詰めていく。
この分なら、すぐに決着がつくだろうと、恭也はフェイトに少年を牽制するための魔法の準備をさせようとして、
既にバルディッシュを構えているフェイトに、少なからずとも感心する。

(フェイトもそれなりに戦い慣れているという事か。
 もしくは、それだけ戦闘に関する事を教育されたか)

フェイトの待遇を思い出して僅かに滲む不快感を抑え込み、恭也は再び下へと視線を落とす。
そんな恭也の隣で、フェイトは小さくお願いするように恭也へと話し掛ける。

「恭也さんはどこか物陰に隠れていてください。
 失敗したら、私に構わず逃げれるように」

何か言おうとする恭也に対し、懇願するように見つめてくるフェイトに負け、
恭也は仕方なく頷くと少年に気付かれないようにそっと場所を移動する。
ここから離れた物陰に恭也が隠れたのを見て、フェイトは安堵した表情を見せるもすぐにそれを引き締める。
後ろから人型となったアルフが近付き、フェイトに何か言い掛けるもそれを首を振って止める。

「優しくしてくれた人を巻き込みたくないもの。大丈夫だよ、アルフ。
 私が失敗しなければ良いだけだから。ごめんね、アルフ。
 アルフには付き合わせる事になっちゃうけれど」

「なに言ってるんだよ。
 あたしはフェイトの使い魔なんだから、来るなって言われても付いて行くに決まってるだろう。
 それに……」

アルフは言葉を区切り、視線を恭也の隠れた個所へと移す。
口には出さないが、恭也もきっと来てくれるだろうとアルフは信じている。
フェイトとリニス以外にアルフが信用できると思った人物だから。
直感というものとは違うかもしれないが、その考えをアルフは疑ったりしていなかった。
だが、フェイトの気持ちも分かるので、心配させるであろうその事は口にはせず、
ただ横に並び、いつでも飛び出せるように身構えるのだった。



それから数分もせず、その時が訪れる。
少年――時空管理局執務官クロノがジュエルシードを本来の姿へと戻し、それを回収しようとした瞬間。
アルフがまずビルから飛び降りざまに魔法の射撃を行う。
元々精密な射撃はあまり得意ではないアルフだが、数をクロノの周辺と適当に撃ち出す。
いきなりの攻撃にも慌てる事なく、クロノは自分に当たる分だけを手にしたデバイスで打ち払う。
勿論、ただのデバイスではなく何らかの魔法を纏わせているのだろうが。
周囲に着弾した魔法によって、辺りに土煙が舞う中、フェイトはジュエルシード目指して真っ直ぐに飛ぶ。
が、目晦ましに広がったはずの煙がクロノの魔法によって起こされた強風によってあっという間に晴れていく。
互いの姿を認識し、

「また君か。今度こそ大人しく……こちらの話を聞く気はなしか」

何も答えずにジュエルシードへと向かうフェイトを見て、それを汲み取ったクロノは魔法を唱えようとし、
そこにアルフが突っ込んで行く。
クロノの目の前に魔法陣が浮かび上がり、それがそのまま盾のようになってアルフの攻撃を弾く。
クロノはアルフには目もくれず、デバイスをフェイトへと向け、
既に魔法を放つ準備をしていたフェイトの方が先にクロノへと攻撃を仕掛ける。
雷光を伴う魔力の槍が幾つもクロノへと襲い掛かる。
それらを上手くやり過ごしながら、クロノはフェイトへと魔法の光弾を放つ。
しかし、それはアルフによって防がれる。

「使い魔か。なら……」

使い魔共々動きを封じようとするクロノに気付き、アルフはクロノへと突っ込み、
フェイトは次なる魔法、アークセイバーを放つ。
刃状に固定された魔力の刃を弧を描き、クロノの背後から押しかかるように投げ放つ。
前からはアルフ、後ろからは魔力の刃。
更にフェイトはクロノの頭上へと位置を変えると、先程放った雷光の槍を再び放つ。
クロノは頭上とアルフへと手を翳し、二つをシールドによって防ぐと、
背後から来る刃には高速の光弾魔法、スティンガーレイで迎撃をする。
全ての攻撃を弾いたかに思えたが、シールドで弾き飛ばされるはずのアルフはシールドに触れる直前に進みを止め、
足元に拳を叩き付け、そのまま魔法を放つ。新たな目晦ましとして、地面が爆ぜる。
だが、アルフはまだ止まらず、その近距離から最初の奇襲に用いた魔法、フォトンランサーを撃つ。
近距離からの攻撃に今度こそ仕留めたかと思うアルフであったが、クロノはそれさえも全て凌いでみせる。
舌打ちを残して距離を開けるように飛ぶアルフにフェイトから念話が入る。
顔を動かさずに目だけでフェイトの姿を見れば、どうやらジュエルシードの回収はしたようである。
それにクロノも気付いたのか、険しい顔を二人に向け、デバイスを突きつける。

「君たち、それをこちらへ渡すんだ。分かっているのか。
 それはとても危険な……」

それに対する返答はなく、二人はクロノの口上も聞かずに飛び立とうとする。
クロノはデバイスを翳し、二人に向ける。

「スティンガースナイプ」

言葉と共に振られたデバイスより、先程と同じような光弾が撃ち出され、フェイトへと向かう。
アルフがそれを打ち落とそうと魔法を放つも、それらを躱しながら光弾は進む。
どうやらクロノによって操作されているらしい光弾に、打ち落とすのを諦めて二人は速度を上げる。
だが、光弾は二人の後をしっかりと追いかけ、その距離をあっという間に縮める。

「くっ」

身を捻り、僅かに掠らせる程度で済ませるも、光弾は未だに存在しており、
二人の行く先を塞ぐように頭上をぐるぐると回る。
フェイトたちの背後からは、クロノが光弾を制御しながら近づいてくる。
逃げ道を塞がれ、戦うしかないという状況に追い込まれた二人はクロノと向かい合いつつ、
背後の光弾にも注意を向ける。

「まだ大人しくするつもりはないみたいだな。
 仕方ない。少し手荒くなるが……。スナイプショット!」

クロノの発したキーワードにより、光弾の速度が更に増して二人に襲い掛かる。
躱すので精一杯となる二人の注意は、クロノから完全に光弾へと映る。
その隙を狙いクロノは二人を捕縛するためにデバイスをゆっくりと構える。
ただでさえ、打ち出した光弾を制御するのは難しいのに、
今は更に綿密な制御を必要とする高速機動する光弾の制御をしているのだ。
そこに捕縛用の魔法を同時に展開できるかどうか。
だからこそ、クロノは二人の注意が完全に反れた今、光弾の魔法を中断してすぐさま捕縛の魔法に変えようとする。
だが、その為には光弾が消えて捕縛用の魔法を発動させても、その隙に逃げられないようにしないといけない。
そのタイミングを計っていたクロノであったが、二つほど過ちを犯していた。
一つは、その精密な制御にかなり精神を使っているため、周囲の警戒を怠ってしまったこと。
そして、もう一つ、これは仕方のない事かもしれないが、
フェイトを一人、いや、使い魔も入れて二人だと思ってしまったことである。
なのはからの話で一人であると思い込んでいたので、これについては本当に仕方ないかもしれないが。
今回、この場に置いてはそれは失敗であった。
もう一人、フェイトに協力する者がこの場に居たからである。
こういう事態になったら逃げるように言われていた恭也であったが、
彼はそれを素直に聞くような人物ではなかった。
魔法には詳しくない恭也だが、あの光弾をクロノが制御しているのだろうとは見ていて分かった。
念のためにグラキアフィンへと尋ねてみれば、やはり肯定の声が返る。
そこで恭也は静かに建物の影からクロノの背後へと周り込み、そっとグラキアフィンを構える。
狙うタイミングは、制御を失ったとしても光弾が二人に当たらない角度、向きに来たとき。
その瞬間が来た時、恭也は物陰に隠れたままクロノの背中目掛けて魔法を放つ。

【サンダーショット!】

フェイト直伝の魔力弾は真っ直ぐにクロノへと向かい、クロノが気付いて振り返るよりも早くその背中に当たる。
当たった瞬間に身体を軽い電流が流れ、一瞬だが身体を痺れさせる。

「くっ」

その痺れに光弾の制御を手放してしまい、光弾はそのまま何処か上空へと飛んでいく。
それを見てフェイトとアルフは即座に逃げ出す。

「ま、まだ仲間が居たのか? しかし、どこに。
 いや、考えるのは後だ。逃がさない」

若干痺れが残るものの、すぐにデバイスを構えるクロノの頭上から、フェイトとアルフの魔法が降り注ぎ、
それを防ぐクロノの周囲に威力は大した事のない魔法が、しかし数だけは馬鹿みたいに降り注いでくる。
真っ直ぐにしか飛んでこず、威力も弱いが速くて数が多い。
そのため、クロノは今までのように弾いたり躱したりせずにシールドで身を守る。
威力が弱いお蔭でシールドを張りながらでも前へと進めるのだが、中に恐らくはフェイトの放った魔法だろう、
威力の強い魔法が時折降り注ぎ、その足を否応なしに止めさせられる。
当然ながら、魔法の雨が止んだ時にはそこには誰の姿も残ってなどいなかった。
クロノは悔しそうに顔を歪めるも、すぐにエイミィと連絡を取りアースラへと戻るのだった。



 ∬ ∬ ∬



検査が終わるなり、その事を聞かされたなのはたちは管制室へとその足でやって来ていた。
クロノも既に戻ってきており、記録していた先程の戦闘を改めて見ている。

「初めから戦うつもりがない相手が二人がかりでは流石に分が悪かったかもな」

「でも、途中まではクロノくんの方が優勢だったんだけどね。
 流石はAAA+の魔導師だね」

「お世辞は良い。彼女はどうやらAAAクラスみたいだな」

「うん、なのはちゃんと一緒だね」

さっき出たなのはの検査結果を口にしつつ、エイミィもじっと画面を見つめる。
そんな二人に声を掛けることも出来ず、なのはとユーノも大人しくその画面へと視線を向ける。
見れば、二人を相手にクロノの方が追い詰めている感じである。
だが、いよいよ捕縛しようとしたその時、
いきなり背後から魔法が飛んできてフェイトたちは光弾から逃げ出す事に成功する

「という訳で、いきなり背後をつかれて逃してしまった。
 えらそうに言っておきながら、すまないな」

なのはたちにそう言って顔を向けるも、すぐにエイミィへと顔を戻すと、

「それで、もう一人の正体は分かったか」

「それが全然。そんなに大きな魔力反応もないし、何より姿は捉えることが出来なかったからね。
 あの女の子の使い魔って可能性もあるかも」

「使い魔を二匹も、か。だとしたら、認識を改めないといけないな。
 僕を背後から襲ったあの魔法だけど、あの二人のうちどちらかが撃ったという可能性は」

「それはない」

そこははっきりと断言するエイミィに、クロノは根拠なども聞かずに受け入れる。
その辺りは信用しているという事だろうか。
これ以上は見ても無駄だと悟ったのか、クロノは画面から顔を離す。

「どうも、今回は向こうの作戦にしてやられた感じだな。
 初めから用意周到に準備していたようだ。
 前回の行動から、ジュエルシードがあれば何を置いても回収しに来るかと思ったんだが」

そこまで呟いてから頭を振り、思考を切り替えるとクロノはなのはたちへと向き直る。

「とりあえずは、検査の結果を簡単に教えておこう。
 その上で、改めてこちらから協力を要請したいと思う」

第三者の存在となのはの実力を見たからか、クロノがそう口にすると、ユーノは驚いたように、
なのはは嬉しそうにその言葉に頷くのだった。



 ∬ ∬ ∬



クロノから逃れた恭也はフェイトの部屋へと戻る道すがら、フェイトに責めるような眼差しで見られていた。

「あれだけ逃げてって言ってたのに」

「そうは言うが、見捨てられる訳ないだろう」

「そうだよ、フェイト。それに、そのお蔭で助かったんだし」

「それはそうだけど……」

まだ納得いかないのか、珍しく拗ねたような表情を覗かせるフェイトに、
しかし、恭也とアルフは嬉しそうに小さな笑みを零す。
幸いにして、フェイトにそれは気付かれなかったが。
二人にしてみれば、年相応にそういった表情を見せるようになっているという事が嬉しいのだが。

「大体、今更巻き込みたくないはなしだって前にも言わなかったか?」

「……うん。それに、やっぱりあの人は強かった。
 恭也さんがいなかったら……。ありがとう……じゃなくて、ありがとうございます」

やっぱり、少しは緊張していたのか、恭也に対する口調がアルフに対するものに近くなっており、
年上には丁寧にと教えられたフェイトは慌てて言い直す。
だが、恭也はそんなフェイトを制し、そのままで良いと告げる。
しかし、冷静になってそれを渋るように眉を寄せるフェイトに、

「アルフと同じように親しい者だと思ってくれたんだろう。だったら、そっちの方が嬉しい。
 フェイトがどうしても駄目だと言うのなら、俺もこれ以上は言わないけれど。
 だが、これだけは聞かせてくれ。これからは俺もちゃんと協力させてくれるな」

「あ、その……」

恭也の言葉に少し躊躇った後、フェイトは消え入りそうな声で、けれどもしっかりと、

「よ、よろしく……お願いします」

暫く間を空けてから、やはりそう答えるフェイトに、恭也とアルフは顔を見合わせて笑い、
今度はそれに気付いたフェイトがまたしても拗ねたような、照れたような顔をして、
それを隠すように飛ぶ速度を上げて二人の前へと出る。
その背中を見守るように見つめながら、恭也とアルフは機嫌を取り成すために、
こちらもまた速度を上げるのだった。





つづく、なの




<あとがき>

管理局と敵対しちゃった恭也。
美姫 「でも、まだ正体はばれてないわね」
まあな。因みに、今回のタイトルの襲撃者ってのは、クロノにとっての恭也の事です。
美姫 「そう言えば、それに決まる前の今回のタイトル、最初は『出会う黒と黒と黒』とか、
    『三黒』、『黒三つ』とかだったのよね」
いや、流石に最後の二つは冗談だがな。
さて、いよいよ残るジュエルシードも後三つ
美姫 「本当にラストが近付いてきたわね」
おう! 益々頑張るぞー!
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」







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