『リリカル恭也&なのは』






第29話 「ぶつかる想い」






クロノがフェイトたちと対峙し、謎の第三者が存在する事を知ってから数日、それらしき反応も特にないまま、
なのはは放課後の時間をアースラで過ごしていた。
だが、その胸中はジュエルシードとは違う事に向いている事をユーノは知っていた。



「レン!」

いきなり、朝食の席で胸を押さえて倒れこんだレンの元に恭也は駆けつけると、
レンの身体を支えるようにそっと持ち上げる。
薄っすらと瞳を開けて、脂汗が滲む顔をそれでも無理矢理に笑みの形にして口を開く。
しかし、そこからは何の言葉も出ては来ない。
だが、恭也はその口が心配しないでと言おうとしていると理解し、
同時にそれさえも口に出来ないという現状に、こうなるまで気付けなかった自分に腹を立てる。
元々心臓に持病があるレンは長時間や激しい運動は出来ない。
それ以外でも注意すべき事もあり、恭也は出来る限り気を掛けていたつもりだったが。
今はそんな事を悔やんでいても仕方がないと、レンの身体をそっと抱き上げてソファーに横たえる。
そんな恭也へと病院に電話をしていた桃子が戻ってきて話し掛ける。

「とりあえず、病院には電話したから……」

『桃子ちゃん、そんな大げさな』

いつもならそんな軽口が出てくるであろうレンは、
苦しそうに喘ぎながら朦朧として焦点の合わない瞳でどこかを見つめたままであった。
何が起こったのか不安そうに見つめてくる晶となのはの対応を美由希に任せ、
恭也と桃子はレンを病院に運ぶためにすぐに動き出すのだった。



恭也と桃子が病院にレンを運び込んで少し経った頃、
ようやく落ち着いて話の出来るようになったレンの病室に二人して入る。

「あ、桃子ちゃんまですいません。お店の方は大丈夫なんですか」

「大丈夫よ。松っちゃんに頼んだから。それに、お店よりもレンちゃんの方が大事に決まってるでしょう」

申し訳なさそうにするレンに、そんな事を気にするなと言わんばかりに笑みを見せながら出来るだけ明るく告げる。
それに小さく笑い返しながら、レンは無言のままこちらを見つめてくる恭也へと安心させるように顔を向け、

「お師匠も学校があるのにすいません」

「いや、気にすることじゃない。それよりも……」

恭也は桃子と顔を合わせると、桃子が小さく頷く。
それを受けて恭也は場所を開けるように後ろへと下がり、代わりに桃子がレンの傍に寄ってくる。
レンの顔を見下ろしながら、桃子は真剣な顔でその口を開く。

「レンちゃん、手術を受けてみない」

先程、レンが目を覚ます間に聞かされた話を思い出しながら、桃子は簡単にレンにも説明をする。
その上で、もう一度受けないかと尋ねる。
しかし、レンは無言のまま桃子と恭也の顔を見て、小さく頭を振る。
それから徐に元気そうな声で、受けなくても大丈夫だと告げるが、当然ながら二人がそれを信用する事はない。
それでも、本人が受けようとしない以上、
恭也たちも今の所は何度言っても無駄だと判断して、一旦は大人しく引き下がる事にする。
二人の性格などから、それを悟るレンではあったが、今は何も言わずにおく。
また言ってきたら、その時にも断るつもりで。
とりあえず、今の所はもう殆ど痛みも苦しみもないみたいなので、
レンは桃子へとさっきの出来事がなかったかのように、普段通りに明るく話し掛ける。

「桃子ちゃん、うちはもう大丈夫ですから。そろそろお店に戻った方がええんとちゃいます。
 あんまし遅いと、松尾さんがカンカンに怒りますよって」

「うん、それは大丈夫だと思うんだけれどね。まあ、レンちゃんがそう言うんなら、私はそろそろ戻るわ。
 恭也、後はお願いね」

「分かった」

恭也に後を任せて桃子が病室を出て行くと、恭也はレンに念のために二日ばかり入院だと告げる。

「そうですか」

「ああ。さっき家に電話して美由希に着替えとかを持って来るように言ったから」

「美由希ちゃんにまで心配掛けてしもうたんですね」

「そう思うのなら……」

「手術は受けませんよ、お師匠」

恭也が何か言うよりも早く、先手を打つようにレンはそう告げる。
やはり、今は何も言っても無駄かと小さく嘆息を零しつつ、恭也は話を変えるように昔の事を懐かしそうに話し出す。
レンもその話に同じように懐かしそうに、当時の事を話す。
面白くも何ともない、代わり映えのしない入院生活。
その中にあって、楽しかった恭也や美由希との出来事を。
どれぐらいレンは話していたか、丁度、話が一区切りした時、扉が控え目にノックされる。
恭也はそっと椅子から立ち上がると扉を開ける。

「あ、恭ちゃん。これ、レンの着替えとか色々。
 レンは寝てる?」

遠慮しがちに扉からそっと中を窺い、当のレンと目が合う。

「あ、もう起きてたんだ」

「あははは。うちはもう大丈夫です。美由希ちゃんもそない心配せんでも」

「そうは言うけれど、いきなり倒れるんだもん。心配するなってのが無理だよ」

この時間なら普通なら学校に行っているはずなのだが、その事にはレンはわざわざ触れない。
言った所で、返ってくる言葉など分かりきっているのだから。
本当に心優しい兄妹に感謝を捧げつつ、レンは美由希に続いて遠慮がちに入ってくる晶となのはを見る。
これまた予想していた顔ぶれに笑顔を見せるレンに、なのはは安心したように近付き、
晶はまた憎まれ口が出てくるかと待つも、妙に大人しい様子でベッドに近づいてくる。
その事を不審に思いつつも、レンは二人にも元気だと告げ、
それを強調するかのようにベッドの中で力コブを作る真似までしてみせる。
苦笑を漏らしつつも大人しく寝ているように言うなのはの言葉に従い、レンはベッドにもう一度潜り込む。
一方の晶は何を話し掛けても生返事のように、一言、二言しか返してこない。
それに何か感じる者があったのか、レンの瞳に少しばかり剣呑なものが浮かぶ。
だが、すぐにそれを押さえ込むレンに、しかし恭也は気付いて美由希となのはへと声を掛ける。

「レンに何か飲み物を買ってこようと思うんだが、お前たちも一緒に行くか。
 ついでだから、全員の分を買ってくるつもりだが、俺一人では持てないしな」

恭也の言葉に何かを感じ取ったのか、美由希はそれに頷き、渋る様子のなのはを促して病室を後にする。
晶とレンのリクエストを聞いてから、恭也も美由希たちの後に続くように病室を出る。
恭也は身体を半分病室の外に出したまま、

「ちょっと席を外すから、その間レンの話し相手になってやってくれ。
 いつもみたいに喧嘩するなよ。個室とは言え、病院では静かにしないといけない」

レンの身体ではなく、周囲の事を心配するような言葉を残して恭也が立ち去ると、
レンは目を細め、上半身を起こして晶へと話し掛ける。



少し遠い場所にある自動販売機までわざわざ行き、そこでジュースを買った恭也はゆっくりと病室に戻る。
やはり、恭也には何らかの意図があったのだろうと思う美由希ではあったが、
信用しているからなのか、それを聞くような事はしない。
なのはもはっきりと感じ取ったわけではないが、何となく感じているのか、ゆっくりと歩く恭也に何も言わない。
そのまま三人でゆっくりと病室へと戻り、扉の前で少し止まる。
その時、中からレンの声が、それもかなり大きな声が聞こえてくる。
何やら言い争うような二人の声に、なのはが止めるために扉に手を掛けようとするも、
その手を恭也と美由希が揃ってそっと抑える。
何で止めるのかと咎めるような視線を向けるなのはへと、二人は揃って首を横に振る。
でも、と言いかけるなのはの声を掻き消すように、レンの同情するなという声が聞こえてくる。
それに対して晶も思ったことを口にして、二人は本心をぶつけ合う。
その洩れ聞こえてくる言葉に、その口調に何かを感じ取ったのか、なのはは扉に掛けていた手を下ろす。
三人は扉から離れると二人の話が終わるまで待つ。
やがて静かになったのを見計らい、それでももう少し時間を置いてから恭也は扉をノックする。
レンと晶の返事が重なって返ってくると、恭也は扉を開けて病室へと戻る。
何となく気恥ずかしそうな二人の空気に気付かない振りをしながら、少し温くなったジュースを渡す。
そのまま四人はレンの病室に昼を過ぎても居り、夕方に差し掛かる頃、ようやく帰ることにする。
その去り際、恭也はもう一度とレンに手術の話を持ちかける。
もしかしたら、なのはが言えばという気持ちも少しあったが、それ以上に晶に何かを期待するように、
皆の居る場所でもう一度、それを口にする。
流石にそこまでの状態だとは思っていなかった美由希たちは少し驚いたようにレンと恭也を見て、
レンがやはり受けないと口にすると、口々に受けるように言う。
だが、レンは頑なにそれを拒み続ける。
と、それまで黙っていた晶が静かにレンの元に歩み寄ると、その胸倉をいきなり掴み上げる。
流石に止めに入る美由希となのはを手で抑え、恭也はもう少しだけ様子を窺う。

「何、逃げてんだ!」

「別に逃げてなんかあらへんわ! うちの身体や! うちが決める!」

怒鳴りつける晶に対し、レンもまた感情を顕わにして叫び返す。
先程のようにお互いの本心をぶつけているのに違いないのだが、そこには怒りや壁が感じられる。

「それを逃げてるって言うだろうが!
 傍から見てたら、ただ手術が怖くて逃げてるだけにしか見えないんだよ!」

「なんやて! 健康なもんに、健康じゃないもんの気持ちなんか分かるか!
 ましてや、うちの病気は心臓なんや! 晶に何が分かるいうんや!」

「ああ、分からないよ! でもな、今のお前が逃げてるだけだってのは分かる」

無言で睨み合う二人を心配そうに見守る美由希と、普段とは違う二人の喧嘩に少し気後れするなのは。
そんな二人の間で恭也だけは、ただ静かに事の成り行きを見守る。

「情けない。これが、俺がいつか倒すと思っていた奴かよ。
 今のお前相手なら、俺でも勝てる」

「調子に乗んな、おサル。幾ら病気で弱ってるいうても、まだアンタなんかに負けるか」

「なら、やってみるか?」

「おもろい。これでうちが勝ったら、もうその事は口にせえへんと誓え」

「誓ってやるよ。ただし、勝負はお前が退院してからだ。
 万全じゃなかったとかって言い訳はされたくないしな」

晶の言葉にレンはただ無言を貫く。晶も言いたい事は言い終えたとばかりに病室を後にする。
いきなりの事態に付いていけない二人を置いて、恭也はレンに尋ねる。

「もし、晶に負けたら手術を受けるのか?」

「それは……」

そんな約束はしていなかったが、レンは恭也を見上げる。

「受けるとは言えません。ただ、考えるぐらいはしても良いかもしれません」

「そうか。とりあえず、俺たちもそろそろ帰るとするよ。
 レンもしっかりと休むんだぞ」

恭也の言葉に頷き、ベッドに横たわるレンの病室を後にする。
晶は既に先に帰ったのか何処にも姿は見えず、恭也たちは三人で帰宅する。
その帰路を歩く途中、恭也は俯くなのはへと語り掛ける。

「いつもみたいに喧嘩は駄目だと止めるか?」

恭也の言葉に、しかしなのはは首を横へと振る。
ただの喧嘩ではないと分かっているからこそ、止める事はできない。
口を出したとしても、二人とも今回ばかりは止まらないだろう。
今のなのはにはその気持ちが少しだけ分かるような気がするのだ。
だからこそ、なのははただ黙って見守るしかできないと実感していた。



 ∬ ∬ ∬



病院での一連の出来事があった翌日、朝の鍛錬から戻った恭也たちをリビングで晶が待っていた。
粗方朝食の準備を済ませ、エプロンを外してリビングで正座している。
戻ってきた恭也に真剣な面持ちを向ける。

「師匠、朝食の前に少し良いですか」

いつになく真剣な晶に恭也は答えると、美由希を風呂場へとやり、晶の前にこちらも正座で座る。

「改まって、一体何の用だ」

前置きも何もなく、真っ直ぐに尋ねてくる恭也へと晶は行き成り頭を下げて懇願する。

「師匠、俺を鍛えてください」

「晶、お前は御神流を習うのを諦めて、空手に専念すると昔に宣言しなかったか」

一年と少し前の事を思い出し、そう口にする。
戦うことを教え、それから師匠と呼ばれ始めたのはもう随分と昔のことである。
それから暫くして、御神流を教わりたいと言ってきたのには驚いたが、恭也は当然としてそれを受け入れず、
父、士郎の友人である巻島がやっている空手道場を紹介したのである。
その後、空手をやりながらも時折、思い出したように御神流を習うために奇襲してくるといった事をしていたのだが。
しかし、それも先の一年少し前のレンとのやり取りで、空手の方が性に合うと言って諦めたはずである。
思わずそんな昔の事をつらつらと思い出して無言になっていた恭也に、晶は真剣な口調のまま恭也の勘違いを正す。

「別に御神流を教えて欲しいって訳じゃないんです。
 ただ俺を鍛えてください! 今度のレンとの勝負だけは絶対に負けれないんです!」

恭也の返事を待つ間、晶はずっと頭を下げたままでいる。
それ故に恭也の反応などは窺い知れないが、晶はただ素直な気持ちをぶつけ、後はただ待つのみと目を瞑る。
晶にとっては長く感じられた数秒を経て、ようやく恭也がその閉ざしていた口を開く。

「今更、その理由を聞くのは可笑しいのかもしれないが、何故そこまでしてまで頼むんだ。
 その勝負に晶が勝ったからと言って、レンが手術をすると約束した訳じゃないだろう」

ようやく開いた口から放たれた言葉に、晶はゆっくりと顔を上げて真っ直ぐに見つめ返す。

「それは分かってます。ただ、今のアイツに負ける訳にはいかないんです。絶対に勝たないと。
 普段のアイツなら、そりゃあ負けるのは悔しいですけれど、そこまでは思いません。
 上手く言えないけれど、今のアイツは普段のアイツと違う。後ろばかり見て、前を見ようとしていない。
 アイツはそんな奴じゃないんだ。だから、俺がアイツの目を覚まさしてやらないと。
 いつものアイツに戻れって、殴ってでも教えてやる。
 そうすれば、アイツはきっと手術だって受けるって言うはずです」

思いつくままに、ろくに整理もせずに語られた言葉は、けれどもしっかりとした想いが篭っており、
恭也は幾分か目を細め、思ったよりも成長している晶を嬉しそうに見遣る。

「分かった。そういう事なら引き受けよう。
 ただし、やるからには手は抜かないからな。しっかりと付いて来い」

「はい!」

晶の力強い返事に、恭也は懐かしいものを見るような目つきで晶を見る。

「前とは逆という事か」

「はい。……俺たちには前進あるのみと最初に言ったのはアイツですから。
 御神流を習おうと躍起になっていた俺と決闘を申し出て、空手に対する気持ちを気付かせてくれたのはアイツです。
 だから、今度は俺の番なんです」

そう言って晶は少し照れ臭そうに笑うと、この話はこれでお終いとばかりに立ち上がり、
ソファーに掛けてあったエプロンを身に付けると、そそくさとキッチンへと戻って行く。

「すぐに朝食を作っちまうんで、師匠も早く風呂に入るなり着替えるなりしてくださいね」

火を着ける音に続き、調理を始めた音が聞こえてくる。
少し前から準備をしていたみたいだし、この調子ならいつもよりも少し早く朝食が出来上がるかもしれないな。
そんな事を思いつつ、同時に晶の鍛錬メニューを頭の中で組み立てる。
僅か二日で何処まで出来るかは分からないが、とりあえずはレンの動きに慣れさせる事から始めようなど考えながら。
リビングから風呂場へと向かう道すがら、恭也は小声でぽつりと呟く。

「美由希、お前にも少し手伝ってもらうぞ」

「……うん」

いつの間にか戻ってきていた美由希へとそう声を掛け、恭也は風呂場へと向かう。
恭也とすれ違いながら、美由希はさも今来たという感じでキッチンに顔を出して冷蔵庫を開ける。

「うーん、美味しそうな匂い。今日の朝食も楽しみだね」

牛乳をコップに注ぎながら、晶の背中へといつものように声を掛けるのであった。



 ∬ ∬ ∬



レンが入院したのが今から三日前のことである。
その日、戻ってきたなのはに全て教えられたユーノも掛ける言葉を持っておらず、
ただこうしてその日を迎えたのである。
レンの退院は昨日であったが、勝負は今日の夕刻、まさに今、高町家の庭で二人はやり合っているはずである。
その結果が気になるのだろう、なのははこうして食堂で座っていても完全に心ここにあらずであった。

「ここに居たのか、なのは」

突然掛けられた声に顔を上げれば、そこにはクロノの姿があった。
まさかジュエルシードが見つかったのかと立ち上がるなのはに、クロノは首を振りながらそれを否定する。

「今日はもう探索の方も終わりだよ。ここ数日、殆ど休みなしで探索してたからね。
 ここらで少しでも休みを入れないと、逆に効率も落ちる。
 勿論、反応があればすぐに分かるからその点は大丈夫だ。
 まあ、そんな訳でなのはも今日はもう戻っても良いよ」

クロノの言葉をもう一度確認するように確かめた後、なのははすぐに帰宅するべく走り出す。
その背中を呆れたように見つめつつ、クロノは人が増え始めた食堂で肩を竦めるのだった。



 ∬ ∬ ∬



なのはが高町家へと戻り、その門を潜ってそのまま庭へと回り込むなり、晶の叫ぶような声が届く。

「……どっちに進むのか分かんねぇなら、いつものおまえなら迷わねーだろ!!」

同時に何かが折れる音、少し遅れて何かが倒れた音が。
なのはが庭へと駆けつければ、そこには拳を血に染めて尚、構える晶の姿と、
その少し先の地面に倒れているレンの姿があった。
レンの傍らには折れた棍も転がっており、どうやら晶の一撃によるものらしかった。
身体に力が入らないのか、地面に倒れたままのレンにゆっくりと近付く。

「俺たちには前しか、ねーじゃんかよ!!!
 いつだって、前に、前に……。後ろなんて……」

勝ったはずの晶が涙まじりにレンに投げかける言葉に、レンは小さく咳き込みながら応える。

「……せやな、うちらには後ろなんてあらへんかったな。いつだって前に。
 ほんま、阿呆のおサルらしい言葉やで」

「誰が阿呆だよ」

互いに涙を滲ませ、声を震わせながらも、その声音は優しく言葉が紡がれていく。

「立ち止まっても何もあらへん。
 何かを手に入れるんなら、幸せを求めるんなら……いつだって……闘って、勝たななー……」

「なら……」

最後まで言わす事なく、レンは小さく頷く。
頷きながら、その顔に笑みを覗かせる。

「手術ぐらい受けたる。そんで、完全に治ったらもう一度リベンジや。
 うちが晶なんぞに負けるなんてあり得へんからな。これもきっと病気で身体も心も弱っとったからや」

「ぬかせ。また返り討ちにしてくれる」

「ふん。精々、束の間の勝利を味わっとくんやな」

不敵な笑みを交換しつつ、晶の手当てをしようと救急箱を持ってきた美由希と、
恐らくは病院や桃子へと連絡しているのであろう恭也へとレンは話し掛ける。

「そんな訳ですんで、ちょっとうちは夏休みの予定が埋まってしまいました。
 お師匠や忍さんとの旅行、楽しみやったんですけど」

「元気になれば、いつだっていけるさ」

恭也の言葉にレンは頷きながら、自分には気を使わずに恭也たちには行くように言う。
行かなければ、逆に忍たちに迷惑も掛けるし、自分も心苦しいからと。
その言葉を受け取る恭也たちと違い、晶は複雑そうな顔を見せる。

「ああ、アンタは元々旅行には行かへんのやったな」

「ああ。明心館空手の合宿と重なってたからな。だから……」

「勿論、アンタはそっちに行くんやで。今回は偶々勝っただけやねんから。
 その合宿でちょっとは強うなっとかんと、次はこうはいかんで。
 お見舞いとかやったら、帰って来てからでも大丈夫や。それに、桃子ちゃんもおるしな」

「……分かってるよ! 誰が行かないなんて言った。
 今よりも強くなって、またこうしてお前を見下ろしてやる」

そんな二人のやり取りを静かに眺めていたなのはは、どうにか無事に事態が収まった事に安堵する。
そして、晶とレンの姿に自分とフェイトの姿を重ね、更なるやる気をその胸に熱く燃やすのだった。





つづく、なの




<あとがき>

今回はとらハ側メインのお話。
美姫 「ジュエルシード集めも後少しなのに!」
まあまあ、焦らない、焦らない。
この後の大体の流れは既に出来上がっているからな。
美姫 「なら、ドンドンと書いて欲しいものだわ」
が、頑張ります……。
美姫 「そう願いたいわね」
えっと、それじゃあまた次回で。
美姫 「まったね〜」







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