『リリカル恭也&なのは』






第31話 「出会った兄妹」





ぼんやりと、だが相手の顔がある程度まで見分けがつく位の明るさの中、
向き合った二人は呆然といった感じで声を発する。
互いに相手の名を口にし、そのまま呆然と見詰め合う。
だが、その胸の内では様々な思いが飛び交っている。

初め、なのはは恭也がレンを心配して来たのではないかと考えた。
その時、自分が病室に居たから、怪しい奴だと勘違いしたのだろうと。
普段からなのはが悪戯しようと恭也に背後から近付く度に、実行に移る前に気付かれるなのはとしては、
兄が気配を読むことが出来るのだと分かっているし、何よりも兄や姉自身が時折、そんな事を口にしているから。
だとすれば、どうこの場を誤魔化そうか。

恭也もまた、なのはがレンが心配でこっそり来たのではと考えた。
しかし、恭也は不審な点を見つける。
何故、窓から。どうやって窓から。
入り口から入ったのではないだろう事は、なのはの向こう、窓が開いている事から間違いないだろう。
もしくは、普通に来て窓を開けたのかと。
だが、部屋の前に立つまでは確かに気配はレン一人だけだった。
恭也が入ろうとする前に、気配が一つ増えたのだ。とすれば、やはり窓から侵入したという事だろう。
もしくは、目の前のなのははジュエルシードの作り出した幻か。
だが、気配ははっきりとあるし、何よりもその気配がなのはであると告げている。
魔法で作り出された幻が何処まで精巧なのかは知らないが、気配まで作れるのか。
そんな風に考えながらなのはを見遣ると、ふと普段のなのはとは違う違和感を覚える。
それを念頭に置いてもう一度なのはを見れば、すぐにそれが何か分かる。
自分の攻撃を弾いたあの杖だ。
また、恭也の本気ではないにせよ、捕らえようとして放った不意の一撃をなのはが防いだ事もそうだ。
それらから、恭也は訝しげになのはを見詰める。

同様になのはもまた、目の前の恭也がジュエルシードによるものではないかという可能性を思い描いていた。
ユーノへとその可能性を念話で尋ねてみる。
暫くの沈黙の後、魔法による痕跡は感じられないと返ってくる。
既に発動していて、それさえも隠せるような魔法なら兎も角、ジュエルシードによるものなら、
何らかの跡が感じ取れるはずだと。
それを聞き、また自らも目の前の恭也が本物だと感じ取ったなのはは、
緊張が解けたように安堵した顔を見せるも、すぐに顔を引き締める。
今、ここはジュエルシードの反応があって危ないのだと思い出して。
何とか恭也を部屋の外に出そうと口を開きかけ、先に恭也が口を開く。

「こんな遅くに何をしているんだ?」

「え、そ、それは。そういうお兄ちゃんも」

「俺は鍛錬の帰りだが?」

「あ、あう」

確かに、恭也なら鍛錬の帰りに寄ったとしてもおかしくはない。
面会時間が過ぎているという事や、普通ならこんな深夜に入れるのか、そういった常識的な部分を考えなければ。
だからこそ、なのはは恭也がレンの様子を見に来たのだとすんなりと納得する。
が、納得したところで、自分に関して本当の事を言えるはずもないなのはは、言葉に詰まる。

「えっと……レ、レンちゃんの事が気になったから……」

「それで、こんな夜中に一人で出歩いたのか?」

恭也の目が細くなり、まるで偽者か本物かを見定めるように見詰めてくる。
恭也としても目の前のなのはは本物だと殆ど確信に近いものを抱いてはいる。
だが、それにしては不可解な点があり過ぎるのだ。
そんな恭也の葛藤が分かるのか、なのははただ乾いた笑みを貼り付けつつ、
どうやって恭也を誤魔化すかを必死に考える。
互いにジュエルシードを気にしつつも、次の行動に移れないでいる中、遂にジュエルシードの反応が高まる。

「「ジュエルシードが!?」」

思わず呟いた言葉は、タイミングもその内容も全く同じ物で、互いに驚いた顔で見遣る。

「お、お兄ちゃん、何でジュエルシードの事を知ってるの!?」

「そういうなのはこそ、何故知っているんだ?
 いや、知っているという事はこれが危険だという事も知っているだろう。早くここから離れて……」

ここでジュエルシードの反応が生まれた事により、目の前のなのはが本物だと確信した恭也は、
聞きたいことよりもなのはの安全を先に考えて逃がすようにする。
しかし、なのはは力強い目で恭也を見たまま首を横に振る。
何処となくコンサートの時の美由希を思わせる目に、恭也は苦笑するもやはり危険な目に合わせまいとする。

「わたしなら大丈夫だから。魔法も使えるし。それこそ、お兄ちゃんこそ逃げて」

「魔法!?」

恭也の驚きの声を違う意味で取ったのか、なのはは矢継ぎ早に続ける。

「信じてもらえないかもしれないけれど、わたし魔法が使えるの。
 ユーノくんとレイジングハートのお蔭で」

「ユーノ?」

なのはの言葉に混乱しつつも、恭也は肩に乗っているフェレットを見遣り、またなのはを見る。
やや鋭くなった眼差しに少し怯みつつ、なのはは簡単な事情を説明する。
元々、ジュエルシードはユーノたちが発掘した事や、最初の出会いなどを。
それらを聞きながら、恭也は自分とアルフみたいなものだと納得していた。
眼差しが鋭くなったのは、別に疑った訳でも何でもなく、
ユーノがアルフのようにただの小動物ではないと思ったからである。
話を聞く限りでは、なのはに害を加えるどころか、助けられているみたいなので胸を撫で下ろす。
色々と疑問もあるが、のんびりしていて管理局が来ると面倒だし、
先程なのはが疑問に思った事をまた思い出して聞かれても、
自分の事情の説明をするとフェイトが絡んでくるので、そう簡単に話せる事でもない。
だから恭也はさっさと話をジュエルシードへと戻す事によって、なのはの恭也に対しての疑問をうやむやにする事に。

「大体の事は分かった。とりあえず、今はレンの方が先決だ」

恭也の言葉になのはは素直に頷くと、すぐに注意をレンへと向ける。
その素直さに我が妹ながら微笑ましいという思いと同時に、不安も覚える恭也であった。

「ユーノくん、ジュエルシードの反応がレンちゃんから離れて行くけど」

「……なのは、離れて!」

ユーノの叫び声と同時に、レンの付近から周辺を吹き飛ばすかのような強風が吹き上がる。
咄嗟に恭也はなのはを抱き上げ、その場から飛び退く。
強風が吹き荒れる室内でありながら、しかし、他の物は一切動く事なく、恭也たちのみ吹き飛ばされそうになる。
と、恭也となのはの眼前になのはの張った障壁が現れて、強風から二人を守る。
感心したような声を漏らす恭也に、なのはは小さく笑う。
基本の部類に入る防御魔法にそこまで感心されて、どこかくすぐったそうに。
だが、恭也にしてみれば驚きなのである。
恭也が仕える防御用の魔法は、鎖が網目状に変化するもので、小さなものや風や水などは全く防げないのだから。
まさか、これが基本魔法などとは思わない恭也は、なのはの展開した魔法に感心する事しきりであった。
対してなのはは、恭也のその反応が初めて魔法を見たからだと思い込む。
風が止んでも暫くは障壁を展開していたなのはであったが、何もないと分かると障壁を消す。
薄暗い中見れば、レンの様子に変化はなく、未だに眠り続けている。
だが、その傍らに立つ影が新たに一つ。
暗がりに目を凝らして見詰めるなのはであったが、その細部がよく見えない。

「誰?」

そう問い掛けるなのはに対し、影は無言のまま立ち尽くす。
更に問いかけようとするなのはを制し、恭也は良く見るように促す。
見れば、影は文字通りに影そのもので、目も鼻も何もなかった。
ただ黒い人の形をしたモノがそこには立っていた。
そして、その形は傍らで眠るレンに非常に酷似、いや、そのものである。
ご丁寧に、手にはレンが偶に使っている棍と呼ばれる棒状の武器が握られている。

「多分、レンさんの元気に動きたいという願いによってあの影が生み出されたんだと思う」

ユーノの言葉になのはは恐る恐るレンの影を見る。

「もしかしなくても、レンちゃんと同じぐらいに強いのかな」

「多分。ジュエルシードの分、もっと強くなってるかも。
 兎に角、なのは、接近戦は避けて」

なのはとしてもそれには当然のように頷く。
が、僅かに下がったなのはへと影は襲い掛かる。
完全に虚を付かれたなのはは咄嗟に障壁の展開をしようとして、その視界を黒が埋める。
恐怖の象徴ではなく、なのはにとっては見慣れた、そして何よりも安堵できる黒いその背中が。
なのはとレンの間に割って入り、恭也はレンの攻撃を八景で受け止める。
そのまま前へと出て、グラキアフィンを横薙ぎに振るう。
影は軽い身のこなしで後ろへと跳んで恭也から離れる。
狭い病室内では不利と見たのか、影はそのまま背後の扉から外へと飛び出す。
慌てて後を追う恭也となのは。
ここが深夜の病院だと分かっていても、足を止める訳にはいかない。
下手をすれば、とんでもない被害を周囲に出してしまうからだ。
と、後を追う恭也たちに気づき、影は足を止めると再び向かい合う。
流石に廊下で騒げば誰かが来るかもしれない。
何とかできないかと尋ねる恭也に、ユーノはすぐに返す。

「何処かに影をおびき出して、そこに外と内とを隔てる結界を張るというのはどうですか。
 この場で張るのもありですけれど、ここだと狭いですし、出来れば外、それももう少し広い所が良いんですけれど」

ユーノの言葉に恭也はこの先の中庭を提案する。
それを受けて準備に多少の時間が掛かるという事で、ユーノは先に中庭へと走り出す。
準備が整うまで恭也となのははその場に影を足止めする。
まず恭也が影へと接近を挑み、その後ろでなのはが魔法を撃つ。

「ディバインシューター・マルチショット!」

全部で五つの桜色の光弾が恭也の背中越しに影へと向かう。
両手、両足、頭をそれぞれ狙い飛ぶ光弾。
恭也はまっすぐに影へと突き進む。
これで、回避するには大きく動かなければならない。
なのはの援護に恭也は心の内で感嘆しつつ、影へと小太刀を突き出す。
右へと身体を回転させながら、三つの光弾と恭也の小太刀を躱し、
背中越しに振り回した棍で腕を狙った光弾を弾き飛ばし、残る足元の光弾は軽く跳んで躱す。
レンのように軽い身のこなしに舌を巻きつつ、恭也は背中を向けた状態の影へとニ刀を縦と横に振るう。
が、後ろに目が付いているかのように恭也のニ刀をそのまま背中越しに棍を斜めにして受け止めると、
信じられない事に背中側なのに足が普通に折れ曲がり、恭也の腹へと膝蹴りが来る。
咄嗟に飛び退く恭也と、それを援護するようになのはの魔法が影に襲い掛かり、追撃を阻止する。
なのはの魔法は回転させられた棍で防がれるも、それを見ていた恭也はようやく理解する。
相手は影なので表裏がない、この場合は前面と背面の方が良いか、
ともかく、そういった背中だなんだと言ったものがないと。
一応、人の、レンの形を取っているから、関節などは人と同じように動くみたいだが、
前と後ろを入れ替える事が出来るみたいである。
なのはにもそれが分かったらしく、恭也を見てくる。
驚きはしたものの、それが分かれば気を付ければ良いだけだと安心させるように一つ頷くと、再び影へと襲い掛かる。
影に向かって行く恭也を見て、なのはもすぐに援護を再開する。
向かい撃つように影も前へと出て、地面を蹴ると跳び蹴りを繰り出す。
それを受け止めた恭也であったが、着地せずにもう一方の足から蹴りが繰り出される。
レンが時折見せる動きであったからか、恭也はそれも受け止める。
未だに空中にあるレンへとなのはの魔法が着弾し、影は後ろへと吹き飛ぶ。
が、何事もなかったかのように足から着地を決める。
無言で睨み合う形となった時、なのはへとユーノから念話が入る。

「お兄ちゃん、そこの窓からその影を外に落として」

なのはの声に応えるように影へと再び迫り、ニ刀による連撃――奥義の一つ花菱を繰り出す。
それらを防ぎつつも、止まる事のない斬撃に防戦一方となり徐々に後ろへと下がる影。
距離を開けるべく大きく跳び退った瞬間、なのはの魔法がその腹に直撃し、影を後ろへと吹き飛ばしていく。
窓を突き破って外へと飛び出した影は、しかしゆっくりと地面に降り立つ。
窓から下を見下ろしつつ、恭也はざっと周辺を見渡さす。
辺りは音もなくやけに静かで、何処となく色が褪せているようにも見える。

「ここは結界の中だよ、お兄ちゃん。物理的に空間を切り離しているから、
 外とは連絡も取れない代わりに、音が外に聞こえる事もないし、実際の場所には何の被害も出ないの。
 掴まって」

言いながら恭也の手を掴むと、なのはは魔法で恭也と一緒に空を飛ぶ。
なのはに支えられる形でゆっくりと地面に降り立った恭也は静かに影と対峙する。
なのはは恭也のやや後ろの上空に浮かび、影を見据える。

≪結界の内部にアースラとの中継点がないから、こっちの状況は向こうには伝わらない。
 でも、この結界には気付いたはずだから、あまりにも遅いようなら向こうでも何とかしようと動いてくれるはずだよ≫

ユーノの言葉に頷きつつ、なのはは更に上昇する。

「これで思いっきりやれるね」

それにレイジングハートが短く応える。
が、そんなやり取りなど見えていない恭也は地面を蹴って走り出す。
素早く動き回りながら攻防を繰り返す二人に、なのはも中々狙いを定められないどころか、
下手をしなくてもこのままだと恭也を巻き込む事は必至であった。

「お、お兄ちゃん……」

困ったように眼下を見下ろすなのはに気付かず、恭也は目の前の影の体術に知らず笑みが浮かびそうになる。
そんな場合ではないと分かっているのだが、目の前の影の動きの癖やスピード、
その体捌きなどは間違いなくレンのそれである。
つまり、健康になって思う様に動けるようになったレンとも言える訳である。
天賦の才を持ちながら、持病によって全力を出せなかったレンの動きが如何なく発揮されているのである。
魔法を使うのも忘れ、小太刀のみでついやり合ってしまう。
高速で繰り出される棍を使っての巧みな攻撃。
棍の持つ位置を変える事により、近距離から中、遠距離と自在に攻撃を加える。
棍による攻撃だけでなく、そこに蹴りや掌底などの攻撃も入り、恭也へと襲い掛かる。
それらを捌きながら、恭也もまた負けじと攻撃を繰り出す。
ほぼ互角にやり合っているかに見えたが、ニ刀を振るう恭也の方が手数で言えば上だったらしく、
上手く棍を用いて捌いていたが徐々に影の方が押され始める。
影と切り結びながら、恭也は少しでも早くジュエルシードを回収してこの場を立ち去らないといけないと思い出す。
管理局が来ると厄介だと今更ながらに思い出したのだ。
この時点で恭也はまさかなのはが管理局に協力しているとは思っていないらしく、
個人的にユーノの手伝いをしているのだろうと考えていた。
距離を開けたがったのか、これ以上の打ち合いを嫌がったのか、影は恭也へと大振りな一撃を放ち、
同時に後ろへと跳ぶ。恭也は影の思惑に気付きつつも、後を追わずに同じように後ろへと跳んで距離を開ける。
一度だけ上空にいるなのはを見ると、すぐに視線を影に戻して八景を鞘に納めてグラキアフィンを持つ手を引き絞る。
奥義の一つ射抜の構えを取り、影が警戒するように棍を手に腰を落とした瞬間に地面を蹴る。
真っ直ぐに影へと向かい、引き絞った腕を弓から解き放たれた矢の如く突き出す。
高速で繰り出される突きに棍での防御が間に合わず、身を捩って躱す。
だが、刺突の軌道が変化し、影の肩に突き刺さる。
そのまま恭也は更に前へと突き進み、影は大きく吹き飛ばされる。
恭也から影が離れたのを見て、なのははレイジングハートを影に向けて構える。

「今!」

【Divine buster】

なのはの言葉にレイジングハートが応え、なのはの足元、レイジングハートの周囲に帯状の魔法陣が形成される。
桜色の魔力が収束され、なのはの言葉と共に放出される。
真っ直ぐに伸びた大出力の魔法は、影を軽く吹き消す。
その威力に思わず呆然とする恭也の視線の先で、青く輝くクリスタルがゆっくりと宙に浮かぶ。
ジュエルシードの目の前に降り立ったなのはは、ジュエルシードへとレイジングハートを伸ばして回収を済ませる。
それを眺めながら、恭也は小さく嘆息するとさっさとこの場を立ち去る事にする。
明日から夏休みだから、いつもなら山篭りだなんだでなのはと暫く会わずに過ごせ、
その間にこちらに対する疑問も忘れてくれていればと思う所なのだが、
今年の夏休みは数日後に控えた旅行の計画が入っている。
それがなくとも、ジュエルシード探しの関係で長期の山篭りはできないのである。
出来れば、今の戦いでそれらを忘れていてくれればと思いつつ、気付かれないように、
勿論、フェイトの事が気になっているのもあり、さっさとこの場を後にするのだった。
なのはとユーノが恭也がいない事に気付くものの、すぐにアースラから状況を知らせるように声が届く。
恭也がジュエルシードの事を知っていたのは気になるものの、
那美辺りから何かそれらしき事を聞いたのかと勝手に推測し、
その場合でも可笑しな事件としては兎も角、ジュエルシードという単語が出た事には疑問を抱く所なのだが、
とりあえずはそれ以上深く考えるのは一旦止めて、リンディへとここで起こった事を報告する。
知らず、恭也がいた事の報告だけはせずに。
それが何故なのかはなのは自身にも分かっていなかったが、
ひょっとしたら何か予感めいたものがあったのかもしれない。
また、ジュエルシードを探していて、恭也と出会う事になるという予感が。



 ∬ ∬ ∬



フェイトのマンションまで出向いた恭也であったが、中には入らずにアルフへと念話を送る。
案の定、起きていたアルフからすぐに返答がある。

≪すまない。ジュエルシードは回収できなかった≫

≪そうか。それは仕方ないね。どうせ管理局の奴らが出張ってきたんだろう≫

≪……管理局の人間ではなかった≫

恭也の言葉にフェイトの横でその寝顔を見詰めていたアルフは思わず顔を上げ、玄関の方を向く。
だが、そこに恭也の姿は当然なく、ただ暗闇が横たわっているだけである。
恭也の言葉の意味が分からずに尋ねるアルフに、恭也は簡単に伝える。

≪元々のジュエルシードの持ち主、というよりも、ジュエルシードを発掘した者も回収しているらしい≫

≪なるほどね。今回はそいつが回収したのか≫

≪ああ。こっちは事情を説明したら、ひょっとしたら……≫

≪どうだろうね。世界を渡るような奴なら、管理局の存在を知っているだろうし、だとすれば……≫

≪管理局に逆らうような事はしない、か?≫

≪ああ。最悪、二対一になるよ。でも……≫

そこまで口にしておきながら、アルフは少しだけ考え込む。
それを邪魔しないように静かにしていた恭也へと、アルフから再び念話が届く。

≪管理局の存在を知っているのに、自分で集めているというのが腑に落ちないんだよ。
 ロストロギアは個人で所有するには危険だからね。管理局もロストロギアに関してはかなり厳しいし≫

≪悪巧みを考えているかもしれない?≫

≪可能性としてはあると思う。寧ろ、そう考える方が個人で集めているという事に納得がいくんだけれど≫

恭也はふとユーノとなのはを思い出す。
そう悪いフェレットには見えなかったなと。それに、なのはがあそこまで信用しているのなら大丈夫だろうと。

≪多分、そんなんじゃなくて単に責任感が強いんだと思う。
 まあ、この件はそんなに心配しなくても良いと思うぞ≫

なのはの事を何故か隠したまま、恭也はそう返す。
話す事によって、アルフの態度が変わる事を懸念しての事である。
ただ、アルフと話をしながら、恭也は一度じっくりとなのはと話をしなければいけないなと考え直す。
とりあえず、明日はフェイトの様子が気になるので一日フェイトに付き合うとして。
そこまで考えて、恭也はすぐに旅行の日程を思い出す。その時にでも話をするかと。
なのはの事情を聞くだけでなく、こちらの事情も話さなければ、きっとなのはも納得しないだろう。
その辺りは誰に似たのか、意外と頑固な所があるなと苦笑を漏らす。
だが、こちらの事情を話すかどうかはフェイトに聞かなければならない。
そのためにも、今度の旅行は最適と言えるだろう。
二人は年齢も同じだし、旅行で顔見せもする。
この旅行で少しでも仲良くなってくれれば、その夜にでも話を切り出せるだろうと。
フェイトに同年代の友達を作ってやれ、しかもそれがなのはなら大丈夫だろうと兄バカのように一人頷く。
不意に黙り込んで何かを考え出した恭也に、アルフは話し掛ける事も出来ず、恭也が気付くまで待っている。
ようやく考えが落ち着いた恭也は、そんなアルフに気付いて話の続きをする。
いや、しようとして殆ど終わっていた事に気付いて気まずい感じで声を掛ける。

≪ま、まあ、そんな訳だから≫

≪どんな訳かは知らないけれど、恭也がそう言うんだったら信じるよ。でも……≫

≪分かってる。もし、何かを企んでいるのだとしたら、その時は……≫

恭也の声はアルフ以上に真剣さを秘めている。
何せ、もし本当に何かを企んでいるのだとした、それはなのはを騙して利用しているという事になるのだから。
それに加えて、フェイトのためというのもある。アルフ以上に恭也の声が鋭くなるのも仕方ないのかもしれない。
しかし、その辺りの事情を知らないアルフは恭也の答えに満足そうに目を細める。

≪とりあえず、明日またフェイトの様子を見に来るから≫

≪ああ、ありがとう≫

≪おやすみ≫

≪おやすみ、恭也≫

最後にそう言葉を交わすと、恭也は帰宅するために歩き出し、アルフは再びフェイトの隣に顔を埋める。
様々な思いが入り混じり、殆どの関係者が交わった今夜、しかし、その事にはまだ誰も気付いてはいない。
今宵はまだ、穏やかなままに時は流れていく。





つづく、なの




<あとがき>

ファーストコンタクトは互いに事情を知らず、ただジュエルシードの回収のみ。
美姫 「うーん、気付いても可笑しくないような…」
まあまあ。
互いに協力関係にある者にも黙ったまま。これにより、事態がややっこしい事に。
恭也の存在だけが管理局に知られていない事を除けば、皆が皆面識を。
美姫 「で、これからどうなるの?」
どうなるんでしょうね〜。まあ、今回は兄妹対決にはならなかったけれど…。
美姫 「その言い方だと、いつかなるように聞こえるんだけど」
多分、兄妹対決はない……?
美姫 「私に聞かれても」
冗談はさておき、それは…。
美姫 「それは?」
秘密♪ それを言ったら面白みがないじゃないか。
美姫 「あははは、そうよね〜」
そうそう……ぶべらっ!
な、何で……?
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
っ! い、痛い、イタイ! ふ、踏んでるって!
美姫 「ふんっ!」
な、なしてぇぇぇぇぇ〜〜!!







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