『リリカル恭也&なのは』






第32話 「恭也、なのはのその後」





朝早く、珍しく起きだしたなのはは眠い頭を振って懸命に覚醒させる。
その脳裏に浮かぶのは、昨夜の出来事である。
あの後、色々あって恭也に話を聞いていない事を思い出したのは家へと帰り着いてから。
今度はちゃんと聞こうと張り切るも、恭也はすぐには帰ってこず、
戦闘の疲れもあってなのははそのままベッドに突っ伏したのである。
それならばと、苦手な朝にも関わらずに何とか起きだしたものの、肝心の恭也は美由希と鍛錬へととうに出ていた。

「うぅ、帰ってきたら聞こう。……ふにゃぁぁ」

眠気に勝てず、そう結論を出すともう一度ベッドで眠りに入るのだった。



「……は、……のは。いい加……きろ」

「う、うにゅぅぅ。……あ、お兄ひゃん」

「あ、お兄ちゃんじゃない。幾ら夏休みだと言っても、ちゃんと起きないと駄目だぞ。
 まあ、どうしても眠いのならまだ寝てても良いが」

そう言う辺りがなのはに甘いと言われる所以なのだが、恭也は全く気付いていない。
起こしに来た恭也に曖昧な返事を返していたなのはは、すぐに昨夜の事を、
今朝思っていた事を思い出して目を開ける。
慌てたように恭也へと話し掛けようとするが、

「おに……」

「なのは、朝起きたら?」

「あ、お、おはよう」

「ああ、おはよう。晶になのはの分の朝食も一緒で良いと伝えてくるから、着替えたら降りて来るんだぞ」

「あ、うん」

完全にタイミングをずらされたなのはを残し、恭也はさっさと部屋を出て行く。
それを見送った後、なのはは着替えるためにベッドから降りながら、朝食の後に聞こうと改めて決意する。
とは言え、やはり恭也の事が気になり、何処となく落ち着かない気持ちではある。
早く知りたいけれども、他の者たちの前では聞けない。
そんなジレンマを抱えつつ焦れるなのはを前に、恭也は至って普通に声を掛けてくる。

「なのは、どうかしたのか。何か落ち着かないようだが」

「そ、そんな事はないよ。お兄ちゃんこそ……」

「俺がどうかしたのか? 晶、おかわりを頼む。大盛で」

「……何でもない」

何事も無いように普段通りに振舞う恭也になのはは言葉をなくす。
そんな感じで朝食が進み、そろそろ全員が食事を終えるかと言うとき、

「む〜」

本当に何もなかったかのように振舞い続ける恭也に対し、なのはは少し不満そうに兄の顔を見遣る。
その視線に気付き、恭也は自分の口周りに何か付いているのかと手を這わすが、特に何も見つからず、

「なのは、朝から何を不機嫌な顔をしているんだ」

「む〜、お兄ちゃんはずるいです」

膨れて丁寧な物言いをするなのは。
訳が分からないといった顔で軽く肩を竦めると、恭也はさっさと朝食を終えて食器を片付ける。
慌ててなのはも食事を取るが、喉を詰まらせてしまう。

「急に慌てて食べなくても良いんだぞ。落ち着け」

お茶を手渡してやりながらそう言う恭也であったが、お茶を渡すとさっさとリビングから出て行く。
この後は庭で盆栽を弄るか、もしくは美由希と打ち合うか。
大体、休みの日の恭也の過ごし方を思い描きつつ、なのははそれでも少しだけペースをあげて朝食を食べる。
ようやく食べ終えると、なのはは恭也の部屋へと向かい、

「お兄ちゃん、いる?」

呼びかけるも返事はなく、庭を見ても姿はなかった。
道場かと思いそちらにも顔を出すが、そこには美由希が一人で鍛錬をしているだけで恭也の姿はない。

「あれ、なのはどうしたの? なのはがこっちに顔を出すなんて珍しいね」

「あ、うん。お兄ちゃんいるかなって」

「恭ちゃん?」

「うん」

美由希の問い掛けに探し人の事を尋ねると、美由希からその行方が語られる。

「何か用事があるって外に出かけたよ」

「何処に?」

「そこまでは聞いてないけれど。もしかして、何か悩み事?
 私で良ければ聞くけれど」

少し可笑しかった朝の態度を思っての言葉に、しかしなのはは首を横へと振る。
それを見て美由希は大げさに悲しそうな顔をしてみせる。

「う、うぅ、なのはにさえも頼りにされてないんだ」

「そ、そうじゃないよ。ただ悩みなんてないから」

「本当に?」

「うん。それに、わたしお姉ちゃんの事頼りにしてるよ」

「なのはぁっ!」

なのはの言葉に嬉しそうに抱き付く美由希。
困った顔をしつつも無碍に払えないなのはを見上げ、ユーノは小さく嘆息するのだった。



「それでね、恭ちゃんったら酷いんだよ。って、聞いてる、なのは?」

「うん、聞いてるよ。多分、お兄ちゃんは照れ臭いんだよ。だから、素直に褒めれないんじゃないかな」

「それにしても、もうちょっと褒めてくれても良いと思うんだけれどな。
 褒めて弟子の力を伸ばすっていうのも大事だと思うんだよ」

「あ、あははは……。えっと、お兄ちゃんは照れやな上に偶にいじめっ子だから」

「だよね。あ、でも本当はすっごく優しいよね。この間だって……」

「うん、うん。そうだよね。わたしはこの前……」

恭也の愚痴から、いつしか恭也に優しくされた話へと移り変わり、なのはも美由希に負けじと話し始める。
そんな様子を眺めながら、ユーノは恭也が戻ってくるまでは詳しい話を聞くのは無理だと早々に判断し、
道場の隅で聞くとはなしに二人の話に耳を傾けつつ、軽いまどろみに身を委ねるのだった。



 ∬ ∬ ∬



恭也は朝食をさっさと終えると、なのはからの質問を躱す為、またフェイトの様子が気になっているため、
さっさと外へと出掛ける。
向かう先は勿論フェイトのマンションで、念のためになのはが後を付いてきていないか確認してから、
マンションへと入っていく。
恭也が預かっているスペアキーで中に入ると、フェイトが丁度起き出す所であった。
恭也に気付いたフェイトは、

「あ、おはようございます」

「ああ、おはよう。アルフはまだ寝ているのか」

「そうみたいですね」

フェイトのベッドに顔を埋めながら眠るアルフの横顔を穏やかな笑みを浮かべて眺めつつ、
そっとその髪を梳くように撫でてやる。

「あれ、そういえば私……」

ようやく自分が普通に着替えてベッドで寝ていた事に思いつく。
帰ってきてアルフの姿を見た途端に気が抜けたように倒れて、そこからの記憶が全くなかった。

「あの……」

何か聞きたそうに、けれども恐れるかのようにこちらを窺うフェイト。
けれども、傷付いていたはずの個所がしっかりと手当てされている事もあり、
やはり恭也にまた迷惑を掛けたのかと落ち込み、同時に嫌がられていないかと不安になる。
そんなフェイトの心中を察したのか、恭也は出来る限り優しく見えるように心がけながらゆっくりと笑みを見せる。

「もう大丈夫か」

「はい。やっぱり手当てしてくれたんですね」

「まあな。でも、あんまり気にする必要はない。
 寧ろ、遠慮させたりする方が悲しいから」

「あ、はい」

恭也の言葉から、フェイトは自分の考えていた事が見透かされているようで少し恥ずかしそうに俯く。
実際はその通りなのだが、恭也はそれを顔に出さずに持ってきていた荷物を軽く上げて見せる。

「これから簡単だけれど朝食を作るつもりだったんだ。
 フェイトも手伝ってくれるか」

「……あ、はい!」

前に交わした小さな何でもない約束。
それを覚えていてくれた事にフェイトは思わず喜びの声を上げる。
その時、アルフが小さく呻き寝返りをうつ。
思わず手を押さえるフェイトであったが、恭也は苦笑する。

「もう朝だから、起こしても良いんじゃないか。
 と言うか、起こすべきだろう」

「あ、そうですね。あまりにも気持ち良さそうだったからつい」

フェイトも同じように苦笑を浮かべつつ、そっとアルフの肩に手を置いて起こす。
数度揺さ振られ、アルフはゆっくりと目覚めていき、その視界にフェイトが映るなり飛び起きる。

「フェイト〜! 怪我は大丈夫なの!?」

抱き付きながら心配するアルフを宥めつつ、フェイトは笑ってみせる。

「もう大丈夫だよ。アルフも手当てしてくれたんだよね」

「ああ、当たり前だろう。とは言っても、殆ど恭也がしてくれたんだけれど」

「うん、聞いた。……あ、その、せ、背中とかも恭也さんが……」

不意に気付いたのか、背中にも手当ての跡があるのを感じ取り、フェイトは顔を赤くして尋ねる。
それにアルフは当然とばかりに頷き、逆にフェイトは更に顔を赤くする。
同じように恭也も顔を若干赤くしつつ、

「き、緊急だったからな。それに、手当てに集中していたから。
 その、悪いとは思ったが場合が場合だったので。勿論、背中しか見てないし、着替えはアルフが」

「わ、分かりました。えっと、ありがとうございます」

「いや」

何となく黙り込んだまま顔を合わせない二人の間で、アルフは首を傾げる。
と、不意に腹の音が部屋に響く。
恭也とフェイトは揃ってその音の主、アルフへと視線を向けると、そこにはただ笑みを見せるアルフが。

「あははは。お腹が減ったね」

「そうだな。なら、さっさと用意するとしよう」

「あ、手伝います」

「ああ。その前に着替えてからな」

「あ……」

恭也に言われてフェイトは改めて自分の姿を見下ろす。
アルフによって着せられた寝巻きのままである事に気付き、フェイトは恥ずかしそうにする。

「あう、こんな格好のままだったなんて」

「いや、気にする事ない。俺が勝手に入って来たのだから。
 それじゃあ、俺は台所にいるから」

「はい。着替えを終えたらお手伝いします」

「んじゃ、あたしはもう少し寝てるかな」

「駄目だよ、アルフも手伝うの」

「え〜」

「もう、面倒くさがらないの」

そんな話を背中越しに聞きながら、恭也は家から持ってきた材料を袋から取り出すのだった。
その日一日、恭也はなのはからの質問を避けるためと、フェイトの様子が気になる為、
ずっとフェイトやアルフと共に行動をしていた。
次いでとばかりに、旅行に必要な物を買いに行ったり。

「恭也! 恭也! これ、これ!」

「分かった、分かった」

「もうアルフ! ごめんなさい恭也さん」

大体必要なものを買った三人は、他に買い忘れがないかという確認も兼ねて、
デパートの中をぶらぶらと見て周っていた。
そんな中、アルフが何かを見つけて恭也にねだる。
困ったように呟くフェイトに、恭也は気にしなくて良いと答えると、ふと気付いたようにフェイトに言う。

「フェイトはちょっと遠慮しすぎだ。
 アルフみたいにとは言わないけれど、もう少し我侭を言っても良いと思うぞ」

「でも……」

今まで甘えると言う事を殆ど知らずに育ったフェイトにとって、かなり難しい注文だったのか、
フェイトは少し考えてしまう。
そんな生真面目なフェイトに微笑を見せつつ、そっと頭を撫でてやる。

「そうだな。何か一つプレゼントをしよう。
 何か欲しいものはないか」

恭也の言葉に戸惑いつつ、フェイトは周囲を見渡す。

「まあ、急いで決める必要はないさ。色々と見て周ってから決めても良いしな。
 とりあえずは、アルフの我侭を聞いてくるか」

フェイトの頭をポンポンと軽く叩いてから、恭也は未だに自分を呼ぶアルフの元へと向かう。
そんな恭也の背中を見送りながら、フェイトは改めて周囲をじっくりと見るのだった。



鼻歌まで歌いながらご機嫌なアルフと恭也の間で、フェイトは大事そうに紙袋を抱えて笑みを見せる。
その様子に恭也とアルフも思わず顔を見合わせて小さな笑みを零す。

「どうかしたの、アルフ」

「ううん、なんでもな〜い♪」

楽しそうにそう答えるアルフに気にはなったものの、フェイトはそれ以上は尋ねず、
またそっと紙袋を見て微笑む。
そんな主の様子にアルフは更にご機嫌になっては、恭也へと本当に感謝する。
仲良く並んで歩きながら、三人は帰宅するのだった。





つづく、なの




<あとがき>

今回は、恭也が逃げる!
美姫 「なのはの質問からね」
まあな。事情を恭也の一存では話せないからこその苦肉の策だが。
美姫 「そうは言ってもいつまでも逃げれないわよね」
まあな。さてさて、次回、次回と。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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