『リリカル恭也&なのは』






第33話 「旅行前日〜当日」





いよいよ旅行を明日に控えた日、恭也は朝からなのはに部屋へと強襲を掛けられる。
ここ二日ばかり恭也に逃げられて捕まえられなかったなのはは、
苦手としている朝になら恭也も少しは油断していると考え、こうして何とか起き出して、
鍛錬を終えて美由希がシャワーを浴びる間に着替えを取りに戻った恭也の元へと駆けつけたのである。
その陰には、必死になってなのはを起こした一人の少年の努力があったりもしたのだが、
件の少年はフェレットの姿でぐったりと疲れた様子でなのはの肩に乗っかかっている。

「お兄ちゃん、お話を聞かせて」

「ん? 話か? しかし、今は夜ではないぞ。
 そもそも、もう枕もとで童話を読んでもらうという年でもあるまい」

「そうじゃなくて。もう、分かってて言ってるでしょう」

誤魔化そうとする恭也に膨れっ面を見せながら、両手を腰に当てて怒ってみせる。
その愛らしくも真剣な様子に恭也も真剣な顔付きに変わると、

「分かった。朝食が終わってからな」

恭也の言葉になのはは疑わしげに見るも、約束だと口にした途端に大人しく引き下がる。
なのはが部屋を出たのを見て、自然と溜め息が零れそうになるのを飲み込むと、
恭也はさっさと着替えを用意して部屋を後にするのだった。



朝食後、恭也の部屋にて向かい合うのは普段なら仲の良い兄妹。
だが、今は珍しく鋭い眼差しで兄を見つめるなのは。

「そこまで睨まなくても良いと思うんだが」

「べ、別に睨んでなんかいないよ。
 そ、それよりもどうしてお兄ちゃんがジュエルシードの事を知っているの?」

知らず強張っていた顔を両手で隠すように押さえながら、まるでほぐすように揉む。
そんな動作をしつつも視線だけは恭也を捉えて、逃がさないように見ている。
恭也は仕方ないとばかりに小さく肩を竦めると、その口を開く。

「細かい事は省くが、知り合いから聞いて知っていた。強い思いに憑依するとな。
 その形状が青い宝石だと言う事も。
 あまり詳しい事は、その人のプライベートにまで及びかねないから、そこは詮索してくれるな」

恭也がこう言う以上、その件に関しては何をしてもこれ以上は喋らないだろうという事はなのはにも理解できた。
何か言えないような事情があり、それを本人の了承もなしに喋る兄ではないと。
だから、なのはは違う事を尋ねる。

「お兄ちゃんは今までにジュエルシードを何個か集めれたの?」

「ああ、それは残念ながら、ないな」

平然と嘘を吐く恭也の事だからとじっと見つめるなのはであったが、平然としている恭也を見て、
幾らなんでも魔法もなしには無理だろうと納得する。
一方の恭也も嘘を吐いているつもりもなく、胸中でただ付け加えなかった部分を漏らす。

(ああ、集めれたよ。ただし、それらは残念ながら既になく、
 今、手元にある奴でもなのはに渡せるものは一つもないな)

最近、鋭くなってきたなのはに嘘だと見破られないよう、はっきりと言わない事で何とか誤魔化す恭也。
だが、最近なのはは恭也の嘘に鋭くなってきたのではなく、
単に騙されないための知識がある程度付いただけなのだが。
だが、昔のようにプレゼントの代わりにお仕置きをするサンタクロースをなまはげと呼ぶ、
というような類の嘘が通じなくなったのを、なのはが鋭くなったと思っている恭也であった。
一方、納得したなのはは知り合いが那美かと検討を付け、話せない事情というのも、
久遠の正体の時みたいなものなのかもしれないと一人で考えて結論を出してしまう。
流石のなのはも、恭也が魔法に目覚めて回収しているとまでは考えつかなかったようである。
ともあれ、ようやく納得したなのははほっとしたような、どこか胸の痞えが下りたような顔を見せる。

「あ、そう言えばお兄ちゃん」

「ん? どうかしたか?」

なのはの顔から疑問がもうなくなったと読み取った恭也は、いつものようになのはに問い掛ける。
そんな恭也になのはは何処か機嫌良さそうに、

「明日の旅行の準備は終わったの?」

「まあ、元々大して持っていく物もないしな。
 しようと思えばすぐに終わるが……」

「だったら、これから特に何かする事ってないよね」

「まあ、別に予定はないと言えばないが」

後でまたフェイトの様子でも見に行こうかと考えていた恭也は少し考えつつもそう口にする。
怪我も殆ど良くなっているし、逆に毎日訪ねるのも悪いかと思いつつ。
そんな恭也の考えになど気付かず、なのはは恭也の返事を聞くなりその手を握り、

「だったら、今日はなのはと遊ぼう。どこかに出かけるんでも良いし」

自分の事を少し昔のように名前で言いながら甘えてくるなのはを恭也も無碍にする事もできず、
また少し前になのはが悩んでいたのも知っており、それがどうなったのかまでは分からないものの、
久しぶりになのはの為に時間を割くことにする。
恭也からの了承を貰い、嬉しそうに笑うとなのはは急かすように恭也の手を引っ張ると玄関へと向かう。
そんな様子に苦笑を見せつつも、恭也もされるがままになのはの後に付いていくのだった。
その日一日、久しぶりに恭也とゆったりとしたなのははとってもご機嫌であったとか。



 ∬ ∬ ∬



色々とあったものの、ようやく迎えた旅行当日。
高町家に来客を告げるチャイムが鳴り、アルフたちがやって来る。
偶々玄関に居た美由希が挨拶と共に出迎え、そのすぐ後ろから恭也がやって来る。
と、美由希は目の前の女性が前にやって来たアルフだという事に気付く。

「あ、この間の」

「ああ、えっとこの前はどうも。改めて宜しく。
 あたしの事はアルフで良いから」

「え、アルフって」

「あ、あー、まあ同じ名前なんだ。色々と事情があって、その、犬のアルフはアルフともう一人の主人がいてだな。
 元々、犬の方のアルフはもう一人の主人が、
 こちらのアルフさんが居なくても寂しくないようにと飼ったものなんだ」

「ああ、だから同じ名前を付けたんだね」

納得した美由希に何度か頷きつつ、恭也はほっと胸を撫で下ろす。
他の者たちにも同じように説明をすれば良いだろうと。
と、そんな恭也を余所に、美由希はふとアルフの首に目がいく。

「えっと、首輪……?」

美由希の言うように、アルフの首には首輪と思しきものが付いており、
その視線に気付いたアルフが嬉しそうにそれを指で触りながら、自慢するように言い放つ。

「あははは、良いだろう。気に入ってるんだ、これ。恭也にプレゼントしてもらったんだよ」

「プ、プレゼント? 首輪を……? きょ、恭ちゃん……?」

僅かに身を引きながら見つめて来る美由希に、恭也は慌てて弁解する。
ここでちゃんとした弁解が出来なければ、何かが終わってしまうような危機感まで抱き、
恭也は必死になって言い訳を考える。

「ご、誤解するな。犬の時に首輪がないと困るからであって……」

「犬の時? う、うぅ、不潔だよ。犬だなんて。
 人間扱いさえしないなんて、恭ちゃんって実はドが付くぐらいのS!?
 ああ、でもそれなら納得がいくかも。私に対する仕打ちの数々はそういうプレイだったんだね。
 ごめんね、恭ちゃん。私ってばそれに気付かないで。
 あげく、他の女性に対してこんな、け、汚らわしいことを……。
 ああ、妹として、この兄の暴挙を防げなかった事を何て詫びれば……」

震える拳を何とか押さえつつ、それでも声が若干震えてしまうのは仕方ない事だと割り切り、
恭也はあくまでも冷静にと自分に言い聞かせながら言う。

「何を勘違いしている。元々は、犬の方のアルフに買ってやったものだ。
 この前、飼い主に返す時にアルフにとな。どうやら、それが間違って伝わったみたいで……」

「ああ、こちらのアルフさんに渡ったって事か。
 まあ、チョーカーとかがあるぐらいだから、これはこれで可笑しくは……ないのかな?」

思わず疑問形になって恭也に尋ねた美由希であったが、そのまま言葉をなくして乾いた笑みを見せる。

「ア、アハハハハ。えっと、こんな所で話し込むのも何だし、上がってもらって。
 わ、私はお茶でも出そうかな……」

言って奥へと引っ込もうとした美由希の襟首を掴む。

「さっきの暴言、ちゃんと覚えておくぞ、バカ弟子よ」

「っ!? で、でも、あの状況じゃあ……」

「まあ、お前が誤解するのも仕方ないかもしれんな。
 だが、何だか納得するというような言葉を聞いた気がするんだが?」

「あ、あははは……、う、うぅぅ」

震え上がる美由希を見て満足したのか、恭也は一つ嘆息すると美由希を解放してやる。
思わず見上げてくる美由希にしっしと追い払うように手を振りつつ、

「まあ、今回は勘弁してやる。してやるから、お前は唯一台所で許可されている作業、お茶淹れをして来い」

「許してくれるのは嬉しいけれど、その言い方はあんまりだよ。
 そりゃあ、否定はできないけれど」

ぶつくさと文句を言いつつも、恭也の気が変わっては堪らないとさっさと美由希はキッチンへと向かう。
だが、その視線は一度だけ振り返ってアルフへと向かう。
犬のアルフに買ったものを、ましてや首輪なんだから分かるはずなのに自分で付けているアルフへと。
何でそんな事をしたのかと考え、それはつまり、そのプレゼントした者が恭也だからだという結論に達する。
正に凄いのは恋する乙女の想像力であった。
とは言え、普通は犬が人になるなんてそうそう想像も付くはずがないだろうが。
例え、身近に久遠という例があったとしても。
と、アルフの後ろからやや遠慮がちに小さな鞄を持ったフェイトが姿を見せる。

「あ、あの本日は……」

「ああ、堅苦しい挨拶はいらない。さあ、二人とも上がって」

フェイトの言葉を遮るようにそう言うと、恭也はフェイトとアルフを家に上げ、リビングへと案内する。
そこでは今ごろ、なのはがデジカメなどの最終点検をしているはずである。
恭也はこの旅行でなのはやアリサ、すずかといったフェイトと同じ年頃の三人に会わせる事で、
同年代の友達になれれば良いなと考えていた。
三人共に優しい子たちだから、きっと大丈夫だろうと。
アルフもその事を事前に聞かされており、三人を知っているアルフもまたそれに賛成した。
だからこそ、この初顔あわせが少し楽しみな恭也とアルフであった。
まさか、二人が既に顔を合わせているとは夢にも思っていなかったのである。





つづく、なの




<あとがき>

という事で、ここで次回!
美姫 「このバカ!」
ぶべらっ!
い、言いたい事は分かるが、とりあえずは次回をお待ちください……ガク。
美姫 「はぁぁ。という訳で、また次回でね〜」
ではでは。
美姫 「って、復活早すぎるわよ」
ぶべらっ!







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