『リリカル恭也&なのは』






第34話 「思わぬ再会」





恭也に連れられてリビングへと入るアルフとフェイト。
ふとリビング内を見渡し、恭也はソファーの陰に座り込んでいるなのはを見つける。

「なのは、床に直接座って何を……ああ、いや良い」

何をしているのかと覗き込みつつ尋ねるも、すぐに手元に転がる機械類を見て納得する。
恭也が顔を出すとほぼ同時に機械の点検を終えたなのはは立ち上がり、恭也に呼ばれるままにその横に立つ。

「こちらがアルフと……」

また名前に付いて何か言われるかと少し間を置いた恭也であったが、なのはは恭也の言葉さえ聞こえていないのか、
ただ呆然と目の前、正確には恭也によって引き合わされたフェイトへと向かっている。
見ればフェイトの方もやや呆けたような顔をしており、二人の周辺だけ時が止まったかのように共に動きがない。
訳が分からずに顔を見合わせる恭也とアルフであったが、先になのはがその唇を僅かに震わせながら、

「……フェイトちゃん?」

呆然と呟かれた言葉に、アルフが不思議そうに尋ねる。

「あれ、なのははフェイトの事を知っているのかい?」

そう口にしたアルフの傍で、恭也はそっとアルフに耳打ちする。

「お前もなのはとは初対面という事になっているんだぞ」

恭也の注意に思わず口を押さえるも、二人の耳には届いていなかったらしく胸を撫で下ろす。
が、そんな安堵したアルフを緊張させるかのように、なのはの呟きに対してフェイトが距離を開けて不意に構える。
その手にこそデバイスは握っていないものの、明らかに警戒心を抱くフェイトに恭也とアルフは益々戸惑う。
対するなのはは少し悲しそうな顔をした後、ゆっくりとフェイトへと近付こうとして、
その体が身構えたのを見て足を止める。

「フェイトちゃん……」

悲しげな声でフェイトの名前を呼ぶなのはと、警戒心も顕わにして身構えるフェイト。
二人の様子にただ事ではないとようやく悟った恭也は、とりあえず二人の間に立つ。

「なのははフェイトの事を知っているのか?」

恭也の問い掛けに対し、なのははただ一つ頷く。
逆にこちらを見上げてくる顔には、何故恭也が知り合いなのかという疑問がはっきりと表れており、
対してフェイトの方にはアルフが同じような事を尋ねている。

「何度かジュエルシードを巡って闘った。今は管理局とも関係がある可能性もある」

その言葉にアルフは少しだけ逡巡するも、すぐにフェイトの横に並んでなのはに敵対するように立つ。
それをじっと見つめながら、なのはは恭也がその女性をアルフと紹介した事を思い出し、
まさかという思いと共に口にする。

「もしかして、うちにいたアルフなの」

真っ直ぐに見つめてくるなのはから思わず視線を一瞬だけ逸らすも、すぐになのはを見据える。
もし、なのはがデバイスを起動させたらフェイトを守れるように。
それが分かったのか、なのはは少しだけ寂しげな顔を見せるも、頭の中では色々と考えていた。
前に見た映像に映っていた女性と瓜二つである。
ただ耳や尻尾はない上に、フェイトに集中していたため今まで気付かなかったが。

≪つまり、ユーノくんみたいに変身してたんだね≫

≪多分ね。クロノが言っていた使い魔ってのが、多分≫

念話でユーノとやり取りしつつ、なのはは恭也を見上げる。
昨日言っていたジュエルシードの事を聞いた知り合いというのは、恐らくはアルフとフェイトの事なのだろうと。
なのはには闘う意志はないのだが、フェイトは未だに身構えたままでなのはを見つめ、
それにつられるようにアルフもまたなのはに対して身構えている。
その状況の中、恭也は静かに両者に声を掛ける。

「とりあえず、落ち着け。事態の整理が先だ。今、ここでなのはの方に争う意志はない。
 だから、フェイトもアルフもそう構えるな。なのはも聞きたい事があるだろうが、今は少し待ってくれ」

恭也の言葉にもまだ警戒を解かないフェイトではあるが、
ただじっとこちらを見つめてくる恭也の目と視線がぶつかる。
無理強いするつもりも何もなく、ただフェイトが自分の意志で決めるのを待つかのようにただ黙って、
揺るぐ事無く静かな眼差しで見つめてくる恭也の瞳と。
それを見て、フェイトはそっと構えを解く。同じように、こちらはやや安堵したように構えを解く。
決して長い付き合いではないが、それでも今まで恭也が見せてくれた態度や、
掛けてくれた言葉の数々が、フェイトに恭也を信じさせる。
なのはの方は元よりこういった時の恭也を殆ど無条件で信用している為、
恭也の言葉に尋ねたい事もあったが、ただ堪えて静かに待つ。

「さて……。アルフ、前にジュエルシードを発掘した者が独自に回収していると話しただろう」

「そう言えば聞いたね。まさか、それが……。いや、なのははこの世界の住人だから協力者か」

「そうだ。こちらのユーノがその発掘者だ」

恭也の言葉になのはの肩に乗っていたフェレットが頭を下げる。

「なるほど、変化の魔法か」

アルフの呟きにユーノは再び頷き、どうすれば良いのか窺うように恭也を見る。
本来なら管理局へと連絡を入れてフェイトを取り押さえ、ジュエルシードを全て回収すべきなのだろうが。
だが、なのはが恭也の言葉に従って大人しくしている以上、
協力を頼んでいるユーノも勝手にそれをしようとは思わない。
後でクロノに嫌味を言われるのを覚悟で、それだけで済めば良いが、
ともあれ、ユーノもここは大人しくする事にしたらしく、それ以上は何もせずにただフェイトたちを見る。
とりあえずは落ち着いた四人を見渡し、恭也は今までの経緯を簡単に話せる範囲で話していく。
傷付いたアルフを助け、その時にジュエルシードの事を知ったと。
以降はアルフに手を貸す形でジュエルシードの回収をしていたことなどを。
だが、プレシアに関しては一切何も言わずに。
それを聞いて納得するなのはであったが、改めて恭也を見て呆れたように小さく嘆息する。
自分が魔法を使えるようになってもかなり苦労したジュエルシード集めを、
アルフの手伝いとはいえ、魔法も使えない恭也がやっていたという事実に。
この時点で恭也は自分がデバイスを手にしている事を説明するのを完全に忘れていた。
と言うよりも、なのはが魔法を使って回収しているから、
自分も回収しているイコール、デバイスを持っていると勝手に思い込んでいただけだったりするが。
ともあれ、何処か呆れたようにこちらを見つめてくるなのはにやや憮然としながらも、
今度はなのはの事情を問いただす。
なのはの方の事情も簡単に説明すればすぐに終わるような事で、
恭也と同じように傷付いたユーノを助けた事。
元々はユーノたちの部族が発掘して輸送中に飛び散ったこと。
それらの話を聞き、またユーノがなのはの魔法の才能に気付き、今まで集めてきた事などを。
そして、最後に今は管理局に協力していると。
それを聞いた瞬間に再びフェイトとアルフが身構え、それを恭也が止めようとするが、
逆にアルフが先に口を開く。

「恭也、アンタはどっちに味方するんだ?
 あの子か、フェイトか」

嘘は許さないとばかりに睨みつけてくるアルフに恭也もまた真剣な顔で答える。

「なのはは大事な妹だ」

恭也の言葉にアルフが分かっていた答えとは言え、目付きをきつくして、牙を剥くように睨み付け、
フェイトは悲しげに顔を伏せてしまう。それが益々アルフの顔を厳しいものへと変えていく。
そんな二人の様子を前にしても恭也は平然とした態度のまま、俯くフェイトを見詰める。
視線を感じて顔を上げるフェイトに、恭也は変わらぬ顔でただ事実だけを口にする。

「フェイトも今では大事な存在だ」

その言葉に先ほど恭也が言った言葉を忘れたかのように、ただ素直に嬉しさを表してはにかむフェイトと、
そんなフェイトを見て、ほっと胸を撫で下ろすアルフ。
だが、結局は恭也がどちらの味方をするのかという答えにはなっていない。
それに気付いて、アルフはじっと恭也を見詰める。
その視線に込められた意味を汲み取り、恭也は静かにだがはっきりと断言する。

「どちらも大事な存在で、俺にとっては守るべき者である事には変わらない。
 管理局がどう動くのか分からないが、フェイトにはフェイトの事情があるし、
 なのはにはなのはの考えがあるんだろう。だから、今はその件は置いておこう。
 この旅行の間はそういった事を忘れて、ただの女の子に戻って楽しんでくれ。
 それが終わってから、どうするのか決めれば良い。
 今までと同じように行動しても良いし、違う事が思いついたのならそれを選んでも良い。
 問題の先送りかもしれないが、それで納得してくれないか。
 勿論、俺はフェイトやアルフの方を手伝うから」

恭也の言葉になのはが何か言おうとするが、恭也はそれを制し、

「なのはの方がバックアップもあるんだから、これぐらいは良いだろう。
 元々、俺はアルフの手伝いをしていた訳だしな。今回の件がなければ、互いにまだ知らないままだったんだ。
 何も問題ないだろう。勿論、俺はなのはと闘うつもりなんてないよ。
 ただ、ジュエルシード集めを手伝うだけだから」

そう言ってなのはをじっと見つめる。
同じように恭也を見つめ返していたなのはは、やがてゆっくりと一つ頷く。
この旅行の間は管理局に連絡しない事も約束して。
その言葉にまだ警戒を完全には解いていないフェイトであったが、恭也からの頼みでもあり、
またこの旅行の後に今までと同じ行動を取るとしても、恭也が協力してくれると言ってくれたので、
フェイトも大人しく従う事にする。
ようやく緊張の解けた中、なのはは遠慮がちに、けれどもフェイトへと話し掛けようとする。
当初考えていた予定とは違うが、それでもこうして目の前に話をしたいと思った少女が居るのだ。
少し緊張気味に呼びかけようとする。
それを眺めながら、恭也は前になのはが言っていた子がフェイトの事なのだろうと察し、
邪魔しないようにアルフの腕を引いて少し離れる。
自分に向かって何か言おうとするなのはに、フェイトはただ緊張したように身を固くしたまま動かない。
二人の距離はそのままに、なのはが呼び掛ける。

「フェ……」

「なのは〜、ごめん。ちょっと良い? 玄関に……って、あれ?
 えっと、私は何か悪い事をしてしまったのでしょうか」

リビングへと姿を見せながらなのはへと声を掛けていた美由希は、何とも言えない複雑な空気を感じ取り、
恭也、なのは、アルフ、果てはユーノにまで、これまた何とも言えない視線を向けられて思わず立ち止まる。

「とことん空気の読めない奴だな、我が愚鈍なる妹よ」

「な、何かよく分からないけれど、よく分かったような気がするよ。
 でも、そんな何処か醒めたような目で見ないでよ、我が容赦なきお兄さま」

最後の言葉に思わずデコピンを喰らわせる恭也に対し、美由希も乾いた笑みを見せる。
自分でもお兄さまは合わないと思ったらしい。反省、反省と呟きつつ、当初の用事を思い出してなのはへと、

「そうそう、玄関にある荷物ってなのはのでしょう。
 さっき下をちゃんと見てなくて、軽く蹴っ飛ばしてしまったんだけれど大丈夫かな?」

「玄関の荷物は着替えとかだけだから問題ないよ。カメラとかはここにあるし」

「あ、本当に。良かった〜」

ほっと胸を撫で下ろす美由希は、そこでもう一人のお客さんに気付く。

「あ、なのはのお友達かな? 私はなのはの姉で高町美由希って言うんだけれど。
 宜しくね。えっと……」

「フェイトです」

「うん、フェイトちゃん、宜しくね」

言って手を差し出す美由希に困惑するフェイトであったが、やがておずおずと差し出して握手する。
その様子を見てなのはが拗ねたような顔を見せた後、珍しく怒った顔で美由希を睨む。
突然睨まれた美由希は、やっぱり玄関の荷物を蹴ったのが悪かったのかと見当違いの事を考えて必死に謝るのだった。
まあ、事情を知らないから仕方ないのだが、
とことんバカな奴だと恭也が呟いたのを聞いたのは、アルフただ一人であったのは幸いだったのだろうか。
必死で謝る美由希を許し、フェイトが恭也の知り合いだとなのはが言えば、途端に信じられない顔を見せる。

「と、友達が少ない、少ないと思ってたけれど、いや、実際に忍さんと勇吾さん以外にはいないと思っていたけれど、
 だからって、まさか、こんな小さな子を毒牙に……。う、うぅぅ。我が兄ながら怖い」

本気か冗談か判断できない事をほざいた弟子には、しっかりとこの世の因果応報というものを叩き込んで黙らせ、
念のために床に倒れ伏す美由希にしっかりと言い聞かせておく。

「友達と言っているだろうが。毒牙ってのは何だ、毒牙というのは」

最早聞こえているのかどうか分からない美由希を見下ろしながら、恭也は出かけても居ないのにかなり疲れていた。
朝から色々あり過ぎだろう。そう胸中で零しつつ、玄関に見知った気配を感じ取る。
同時にチャイムが鳴り、続いて元気な声がここまで届いてくる。

「なのは〜。おはよ〜」

「あ、アリサちゃんだ」

フェイトの事を気にしつつも、呼ばれた事で玄関の方を窺う。
そんななのはへとフェイトは淡々と告げる。

「行ってきて」

「……あ、うん。後でアリサちゃんも紹介するから」

フェイトと話したそうにしつつも、とりあえずはアリサの元へと向かうなのは。
それを見送りつつ、恭也はフェイトの事をじっと見ていた。
今のは素っ気無いように見えるが、実際は同年代の子とどう接していいのか戸惑っているという所かと分析しながら。
やっぱり、多少の時間は必要なと思いつつ、少し強引なアリサならとも思う。
そんな恭也の考えが分かったのか、アルフはフェイトに聞こえないように恭也に呟く。

「アリサは元気過ぎるけれど、その方が良いかもね」

「そうだな。どちらにせよ、今回の旅行がフェイトにいい影響を与えてくれる事を願うさ」

「そうだね。…………あと、ありがとう」

行き成り礼を言うアルフを不思議そうに見つめる恭也に、アルフは少しだけ恥ずかしそうに続ける。

「ほら、さっきフェイトにこれからも協力してくれるって……」

「まあ、乗りかかった船だからな。前にも言わなかったか? 最後まで付き合うと。
 それにこの旅行でフェイトとなのはが仲良くなれれば、敵対しなくても良い方法が見つかるかもしれないだろう」

「うん。正直、あたしもなのはとはちょっとやり辛い所があるしね。
 でも、フェイトに敵対するってんなら容赦はしないよ。例え、アンタの妹でも」

「……二人が闘うのなら、悪いが俺は傍観者にならせてもらう。
 基本的には手は出さないが、どちらかが傷付きそうになったその時は止めに入るからな。
 ただ軽い怪我程度で済むようなら手は出さないで置くように心掛けよう」

恭也の言葉はなのはだけでなくフェイトにも向けられており、アルフはただ黙って頷く。
本当ならフェイトの味方だけをして欲しい所だが、それは自分が居るから我慢しようと。
そんな事を考えるアルフへと、恭也は小さく、元々誰かに聞かせようと口を開いたのではなく、
単に思っていた事がふと出てしまった感じの呟きを、けれどもアルフはしっかりと耳にする。
ふと呟いた言葉にしては、やけに強い言葉を。

「……俺が刃を向けるのは、あの二人に害を成す者たちに対してだ。
 もし、そんな奴が現れた時は、相手が誰であろうと容赦はしない」

恭也は今の段階で、管理局もフェイトの母であるプレシアも完全に信用してはいない。
管理局に関しては、まだ自分があった事もないから。
だから、なのはが利用されていないとも言い切れないのだ。
普通に考えて、元々魔法がない世界の住人、それもまだ子供に協力を頼むだろうかという考えから。
なのはから協力を申し出たとの事だが、承認したのはやはり向こう。
その辺りの背景が管理局という存在そのものを全く知らない恭也には分からないのだ。
だからこそ、もしなのはを利用して傷つけようとした時はと考える。
フェイトの方にしてみても、アルフから聞く限りでは信用できないのである。
アルフが単にプレシアを嫌っていて、少し大げさに言っている部分もあるのだろうと当初は考えた部分もあるが、
実際にフェイトに接し、また母親の元から戻ってきたフェイトを見れば、アルフの言葉が事実だとすぐに分かった。
更には、プレシアの目的が全く分からないのである。
何のために娘にジュエルシードを集めさせているのかが。
だが、そんな事はどうでも良い。大事なのは、プレシアが今後、フェイトにどう出るかである。
今までの感じから、最悪フェイトの命と引き換えにしてもジュエルシードを優先するのではないかと、
恭也は信じられないと思いつつも、最悪の場合をも考慮に入れている。
今現在の恭也の立ち位置としては、フェイトとなのはを守るというのがその目的であり、
管理局もプレシアも完全に信用せずに要警戒といった感じなのであった。



思わず考え込んでいた恭也は、こちらに近づいてくる気配に顔を上げる。
フェイトは何処か隠れるように恭也とアルフの間にいつの間にか来ており、
それが幼い頃、人見知りをする子だった美由希を思い出させて知らず微笑を浮かべる。

「恭也〜」

ご機嫌に恭也の名前を呼びながらリビングへとやって来た少女は、しかし続く言葉を飲み込んでしまう。
どうかしたのかと首を傾げる恭也にではなく、アリサの視線は隣のアルフへと向かっていた。

「あ、な、え、な、なのはー!」

「ふにゃっ。
 も、もう、アリサちゃん、そんなに大きな声を出さなくても、こんなに近いんだから聞こえるよ」

急に止まったアリサの背中でぶつけた鼻を押さえつつ、もう一方の手は耳を押さえたなのはへとアリサは詰め寄る。

「あ、あれ、誰よ! ま、まさか、きょ、恭也の……」

「あ、アルフの飼い主さんの一人でアルフさん」

「あ、そうなんだ。もう驚いたじゃない。って、犬と同じ名前なの?」

アリサの言葉になのはは困った顔を見せる中、恭也が美由希にしたのと同じ説明をする。
その上で、本来の飼い主がフェイトであると紹介も兼ねて教える。

「そう。宜しくねフェイト。あ、フェイトって呼んで良いわよね。
 私の事はアリサで良いわ」

「えっと、宜しくアリサ」

またしても先を越される形となったなのはが膨れているが、俺の所為じゃないよなと自分に言い聞かせ、
こちらをやや恨めしげに見てくるなのはの視線は敢えて気付かない振りをしつつ、
恭也は玄関へと向かう。

「あれ、どこに行くのよ恭也」

それを呼び止めたアリサに、恭也は玄関を指差しながら、

「今、忍たちが到着したみたいだからな。先に荷物を運んでしまおうと思ってな」

バスで迎えに来る事になっていた忍の気配を読み、そう恭也が言い終わる頃、チャイムが鳴る。
いつの間にかリビングから居なくなっていた美由希の声が玄関から聞こえてくる。
どうやら間違いなく忍が来たらしく、美由希がその名前を呼ぶのも聞こえてくる。
驚くフェイトに対し、他の者たちは既に慣れているために特に驚きもなく玄関へと向かう。
その周囲の反応にも驚くフェイトの肩にアルフがそっと手を置く。

「まあ、フェイトは初めてだから驚くのも無理ないよ。
 あたしも最初は驚いたからね」

「探査系の魔法なの? でも、魔力は感じられなかったし……」

「いや、魔法じゃないみたいだよ。単に気配を読んでるって」

アルフの言葉にフェイトは納得し掛けるも、その気配を読む範囲の広さにまた驚く。
だが、恭也は至って当然とばかりだし、他の者も驚くフェイトを楽しんでいる節はあるものの、
恭也の行動そのものには驚きも何も感じている様子はなかった。
付き合いの長さを見せられたようで、少し面白くないと感じながらも恭也たちの後に続いて玄関へと向かうのだった。
そして、また玄関でもアリサと同じように騒ぐ忍の姿があったのだが、それは恭也の一言であっさりと収まる。

「忍、それはもうアリサが先にやったぞ」

「あ、そうなの。じゃあ、やめとくわ。それよりも、荷物を運んじゃいましょう」

アリサと違い、元からそういった関係ではないと見抜いた上で騒いでいた忍は、
恭也の言葉にあっさりと静かになると、そう口にする。
それを呆れたように眺めるアリサであったが、そのすぐに見抜く余裕のようなものに軽く嫉妬する。
また忍は忍で、そんなアリサへと挑発するような視線を向けるものだから、
間に挟まれたなのはとしては、ただただ困った顔を見せるしか出来ないのであった。
と、玄関の向こうに見えたもう一人の親友の姿に、助かったとばかりに駆け寄り、二人の間から抜け出す。
無言で睨むように視線を合わせる忍とアリサを、次いで後ろのアルフを見て、
すずかも大体の事情を察したらしく、中には入らずにやって来たなのはと一緒にバスへと向かう。
残された恭也は、丁度、なのはと入れ違いに二人の傍に立つこととなったのだが、
全く気付かずに、荷物を手にその間を横切っていく。
それに興を削がれる形となった忍とアリサも睨み合いを止め、アリサはすずかの元へと向かう。

「さて、それじゃあそろそろ出発しましょうか。
 荷物はこれで全部? だったら、ノエルに運ばせるけれど」

「あ、まだ那美さんが」

忍の言葉に美由希がそう返すと、忍は親指を立てて自分の後ろ、外を指さす。

「那美なら途中で拾ったわよ」

「あ、そうなんですか。じゃあ、これを運べばお終いですね」

アルフとフェイトの紹介は後で纏めてという事にして、美由希は玄関にあった荷物を手に外へ出る。
荷物を取りに来たノエルであったが、既に恭也と美由希によって全員分が運ばれた後であった。

「すみません、美由希さま」

「あはは、良いですよ、気にしなくても」

手ぶらで美由希の後を付いていく事に申し訳なさそうにするノエルに笑い返しながら、
美由希はさっさとバスへと乗り込む。
中に既にいた那美が小さく手を振ってくるのに振り返し、その隣に座る。
全員がバスに乗り込んだ所で、改めてフェイトとアルフの紹介がされる。
因みに、バスの最後尾に恭也を真ん中に挟んで左右になのはとフェイトが、その隣にはアルフが席を取っていた。
その事をアリサなどは大いに悔しがったが、まあこれは多少は仕方ないだろう。
フェイトにとっては、恭也とアルフ以外とは初対面な上、どう接していいのか戸惑いがある。
自然、恭也かアルフの傍へと。
そして、恭也とアルフもそんなフェイトの事を分かっており、慣れるまではと傍にいようとして、
知らず三人で座れる一番後ろに席へと腰を下ろす事となったのである。
そして、なのははフェイトと何とか話をしようと思っており、ずっとフェイトの様子を窺っていたのだ。
だからこそ、三人が最後尾へと座った瞬間に自分もそこへと向かい、空いていた一番フェイトに近い場所、
恭也の隣に座ったのである。
ともあれ、一行を乗せたバスはゆっくりと動き始めるのだった。





つづく、なの




<あとがき>

とりあえず、行き成り魔法を撃ち合うなんて展開にはなりませんでした。
美姫 「それはそれで面白そうだけどね」
いや、そんな事になったら簡単に家が吹き飛ぶぞ。
美姫 「まあ、恭也が間に入って何とかって感じね」
そうそう。で、いよいよ旅行が始まった訳だが。
美姫 「このまま旅行中に仲良くなるの?」
ふっ、それは今後をお楽しみにだよ。
美姫 「何を考えてるのか、ちょっとだけ教えなさいよ」
あはははは〜。焦れろ、焦れろ……ぶべらっ!
美姫 「言わないのなら、さっさと書け!」
ふぁ、ふぁぁい。
美姫 「それじゃあ、また次回で」
ではでは。







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