『リリカル恭也&なのは』






第35話 「なのはとフェイト」





目的地である温泉へと向かうバスの中、賑やかな声があちらこちらで上がっている。
そんな中、沈黙を保つ一角があった。
言わずと知れた、最後尾である。
恭也はなのはがフェイトに話し掛けようとしていると悟り、ただ事態を見守るように沈黙する。
そんな空気に気付いていないのか、アルフは楽しそうに窓から見える景色にはしゃぎ、
その度にフェイトへと話し掛ける。
その所為で、なのはは中々フェイトへと話し掛けるタイミングを掴めないでいた。
フェイトの方もアルフと話をしながらも、なのはの方が気になるのか時折、視線だけをなのはへと向けるのだが、
すぐに正面かアルフへと戻してしまう。
このままでは埒が開かないと考えた恭也が、少しでも話す切っ掛けになれば良いかと口を開くも、

「なのは、なのは!」

前の席で手招きするアリサによって何も発する事無く閉ざす事となる。
呼ばれたなのはは一度だけフェイトを見ると、後ろ髪を引かれる思いでアリサの傍へと近寄る。
傍まで来たなのはの首に手を回し、じゃれ付きながらも小声で尋ねる。

「ねえ、あの子となのはは知り合いなの?」

「あ、ううん。お兄ちゃんのお友達というか……。お友達のい、妹さん」

少しどもりながらも不自然ではないようにそう言う。
そんな様子を見遣り、興味なさそうにふーんと呟くも、アリサは不意に真剣な顔を覗かせる。

「なのははあの子と何か話をしたいんでしょう」

アリサの言葉に驚いたような顔を見せるなのはに、アリサとすずかの二人は笑ってみせる。

「あの子、何となく昔の私やすずかみたいに見えるのよね。
 色々あっても一人で抱え込んでいるというか……」

「なのはちゃんも何か感じる所があったんでしょう。それで仲良くなりたいって」

「うん。でも、中々話し掛けれなくて……」

二人の言葉になのはは思わず弱気になり、そう口にする。
そんななのはにすずかは微笑を向け、アリサは首に回した腕に少しだけ力を込める。

「なに難しく考えてるのよ。なのははいつだって全力でぶつかってきたじゃない。
 私やすずかの時だって深く考えてた訳じゃないでしょう。
 大体、なのはにそんなに難しい事を考えるなんて無理なんだから」

「アリサちゃん、それって結構酷いと思う」

アリサの言葉に流石になのはは拗ねたようにそう言うも、
その顔は先程のように落ち込んだものよりも随分とましになっており、微笑も浮かんでいた。

「アリサちゃんの言い方は少し乱暴だけれど、なのはちゃんはなのはちゃんらしくすれば良いって言いたいんだよ。
 私たちが友達になった時だって、なのはちゃんは真っ直ぐに言葉を投げてきてくれたでしょう。
 だから、今度だって同じようになのはちゃんが思っている事をそのまま伝えれば良いんじゃないかな。
 上手く言葉に出来なくても、きっと気持ちは伝わると思うよ。
 もし駄目でもなのはちゃんの事だから諦めないんでしょう。
 それに、辛くなったら私たちに頼ってくれても良いんだし。
 アリサちゃんもそう言いたいんだよね。ねえ、アリサちゃん」

「べ、別にそこまでは言ってないわよ。
 大体、私たちに相談もせずに一人で悩んでいる薄情者なんて知らないわよ」

照れたように顔を赤くしつつなのはを解放して反対側を向くアリサへと、
なのはとすずかは顔を見合わせて小さく笑う合う。
二人に小さく御礼を言うと、なのはは気合いを入れるように拳を握った両腕に小さくぐっと腰の横で力を入れ、
もう一度恭也の隣へと戻る。
隣に再び戻ってきたなのはをちらりと横目で窺い、またすぐに視線を逸らす。
互いに再び沈黙したままで何も話そうとはしない。
先程は何とかしようと口を開きかけた恭也であったが、
なのはが何かを決意したようなので、もう暫く様子を見る事に決めてとりあえずはフェイトへと飲み物を手渡す。

「ありがとうございます」

「ああ。アルフも」

「ありがとう」

同じようになのはにも手渡し、自分の分を口にする。
と、そこへフェイトが話し掛けてくる。

「恭也さん、温泉っていうのは」

「そう言えば、温泉は初めてか?」

「はい。大きなお風呂なんですよね」

「まあ、間違いではないが……。そうだな。温度の高い湧き水といった所か。
 それを風呂のようにした浴場だな」

「えっと……」

恭也の説明に少し考え込み、何となくだが頷く。
とりあえずは大きなお風呂で良いと、詳しい説明が思いつかずに語る恭也の隣でなのはが苦笑を見せる。
その間にもフェイトは恭也と話を続け、恭也やアルフにのみ微笑とはいえ笑みを見せる。
それを見ながら、なのはは面白くなさそうに足をぶらぶらとさせる。

「う〜」

「なのは、何を唸っているんだ」

「だって……」

気付いた恭也が声を掛ければ、なのはは拗ねたように恭也を見上げる。
フェイトと話す恭也に嫉妬しているのか、もしくは逆なのか。
どちらにせよ面白くなさそうな顔を見せるなのはに恭也はただ首を傾げる。
と、二人の様子を見ていたフェイトと目が合い、なのははここぞとばかりに話し掛ける。

「あ、あのね、フェイトちゃん!」

「……なに」

まだ何処か固い口調ながらも返事が返ってきた事に顔を綻ばせると、
逃がさないとばかりになのはは一気に言葉を続ける。

「温泉初めてなんだよね。一緒に入ろう」

「……でも」

戸惑ったように、助けを求めるように恭也やアルフを見る。
恭也はフェイトに苦笑を返しつつ、

「流石に俺は一緒には入れないし、丁度良いんじゃないか」

「なのはやあたしとは入ったのに?」

アルフの発言に恭也は思わず吹き出しそうになり、フェイトは僅かに頬を赤くさせる。
別に恭也と一緒に入ろうというつもりで見たわけではなく、
ただどうなのはに返答すれば良いのか分からなかったから見ただけなのだが。
思いがけないアルフの言葉であった。

「ア、アルフ。言葉はもう少し考えてから口にしてくれ。
 あの時は犬だったじゃないか。それに、なのはは妹だろう」

恭也も思い出して少し照れながら、やや早口でそう捲くし立てる。
そんな恭也の様子になのはとフェイトは自然と目を合わせて声を上げずに笑い合う。
やや憮然と腕を組んで知らない顔をする恭也であった。
だが、少しは二人が打ち解ける事に協力できたようなので、少しばかりはアルフに感謝もする。
が、そんな四人へと突き刺さる二対の視線があった。

「むー、恭也ってば。なのはは兎も角、あのフェイトって子ばかり構って」

「仕方ないんじゃないかな。恭也さんとアルフさん以外に知っている人もいないんだし。
 恭也さん、優しいから」

「だとしてもよ! もうちょっと私にも気を使っても良いと思わない」

「それだったら、私だって……」

アリサとすずかは後ろを振り返りながらそんな事を交わす。
互いに恭也に構ってもらいたいと顔に出しながらも、なのはとフェイトの事があって我慢するのだった。
一方のなのはは、少しとは言え打ち解けたフェイトへとジュエルシードを集める理由を聞くかどうか悩む。
それを口にした瞬間、今のこの状態が壊れるような気がして。
なのはの様子からそれを察したのか、恭也はなのはの頭を軽く撫でる。
すぐに手は離れたが、ちらりと見上げた恭也の顔からなのはも恭也の言いたい事を察し、
ジュエルシードの件は忘れる事にする。
もっと自然と仲良くなれば、きっとフェイトから話してくれるだろうという期待を胸に抱いて。
とりあえずはそうなる為にもと、まだぎこちないながらもなのはは懸命にフェイトへと話し掛け、
フェイトも短い相槌を返す程度だが、なのはを邪険に扱わずに何とか頑張って対するのだった。
そうこうする内にバスはようやく目的地へと到着するのだった。





つづく、なの




<あとがき>

今回はちょっと短いが…。
美姫 「ほーう」
いや、とりあえずは目的地に着くまでという事で。
美姫 「で、二人の仲は良くなったの?」
そんなにすぐには無理無理。
とりあえずは、次回を待ってくださいって感じかな。
美姫 「この旅行中に仲良くなって真相を聞けるのかしらね」
その辺りも含め、次回!
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」
ではでは。







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