『リリカル恭也&なのは』






第36話 「なのはとフェイトU」





貸し切りで他に人がいないためか、やけに静かな旅館を珍しそうにキョロキョロと見渡しながら、
フェイトは部屋へと向かって歩く。
フェイトとアルフの二人で一部屋割り当てられており、これは忍の配慮でもあった。
なのはは少しつまらなさそうにしていたが、
行き成り見知らぬ人たちばかりの部屋では疲れるだろうと判断してである。
勿論、事前に恭也を通してフェイトの希望を聞いての事である。
部屋に着くなり、フェイトは一つ大きな息を吐き出す。

「どうしたの、フェイト。やっぱり疲れているんじゃ」

フェイトの様子を気遣わしげに窺いつつ、その隣に座る。
心配そうに見てくるアルフに大丈夫だと言いながら、珍しそうに畳敷きの和室部屋を見渡す。

「これは畳って言うんだよ」

「アルフは物知りだね」

フェイトの言葉にアルフは嬉しそうに顔を綻ばせる。

「恭也の部屋もこんな感じだから教えてもらったんだよ。
 他にも……」

フェイトの言葉が嬉しかったのか、アルフは部屋にある物のうち、フェイトの知らない物を指差しては説明する。
とは言え、そんなに多くのものがあるはずもなく、すぐにそれ自体は終わってしまったのだが、
それでもアルフが説明する度にフェイトが感心してくれる事に、アルフは満足した顔を見せる。
フェイトもまた、そんなアルフを見て僅かながらも笑みを浮かばせる。
そこへ部屋をノックする音が響く。
フェイトが扉を開けると、そこにはなのはの姿があった。

「えっと、お邪魔しても良い?」

警戒した素振りを見せつつも、フェイトはなのはを部屋へと上げる。
やって来たのがなのはだと分かり、アルフも少しだけ複雑そうな顔を見せる。
なのはとフェイトのどちらに着くかと問われれば、迷いなくフェイトを選ぶであろう。
それでも、やはり今までなのはと接してきたアルフとしては、出来れば敵対して欲しくないと思う。
同時に、なのはならフェイトを助けてくれるかもしれないという思いが、
本人も自覚してないながらもあるのかもしれなかった。
緊張しているのがはっきりと分かるほど、ぎくしゃくとした動きで卓袱台を挟んでフェイトの対面に正座すると、
何から話すか考えて少しの間だけ沈黙する。
共通する話題はジュエルシードの事だが、何故集めているのかなどを聞けるほどにはまだ打ち解けてはいないし、
それを口にした瞬間に、今のこの状態でさえもが壊れるであろうと予想は出来た。
だから、どう切り出せばよいのかと悩むなのは。
その脳裏に、ふとバスの中でのアリサやすずかの言葉がよみがえる。
難しく考える必要はないんだ。
そう思ったなのはは、もう一度ゆっくりと自分が何故フェイトにここまで必死になるのかを思い出そうとする。
時折見せる寂しげな瞳、周りを拒否するかのような態度。
それを見て何を思ったのか。つまりは、何の事はない。
ジュエルシードや魔法が絡んでいたから、知らずに複雑に考えてしまっていたんだ。
ただ単純に、高町なのはという少女は、フェイトという一人の少女と友達になりたいんだと。
その為に少しでも相手の事を知りたいから、だから必死に声を掛けようとしたし、
今もこうして向かい合っているんだと。
分かってしまえばする事はそんなに難しくはない。
なのは俯いていた顔を上げて、まずは友達となる為の最初の一歩を言葉にしてフェイトにぶつける。

「改めて自己紹介。わたしはなのは、高町なのは。
 良かったら、あなたのお名前を教えて欲しいな」

そう言って笑顔を向ける。
戸惑いを見せつつも、フェイトはそれにつられるように口を開く。

「フェイト・テスタロッサ 」

素っ気無い上に、ただ名前を言っただけであるがなのはは嬉しそうな顔を見せる。
隣で黙ってやり取りを見ていたアルフも嬉しそうな顔になり、

「あたしはアルフって言うんだ。尤もなのはとはもう会ってるんだけれど」

「お兄ちゃんが連れてきたアルフだよね」

「そうだよ。あたしはフェイトの使い魔で、あっちの方が元々の姿みたいなものだから」

ユーノとは逆なんだなと思いつつも、なのははもっと話がしたくてフェイトへと話し掛ける。

「えっとね、バスの中にいた同じ年の女の子がアリサちゃんとすずかちゃん。
 私のお友達なの。それでね……」

そのまま周りの人たちを簡単に説明していくなのはを、フェイトはただ黙って聞いている。
自分ばかりが喋る形となってしまっているが、フェイトは時折小さく頷いてくれている。
その事になのはは安堵を覚えつつ、全員の説明が終わる。
再び降りる沈黙に対してなのはは次に話す事は決めていたのか、すぐに話し始める。
ジュエルシード以外での二人の共通点となる事柄に思いついたから。
これならば、フェイトからも話をしてくれるかもしれないと。

「フェイトちゃん、お兄ちゃんに意地悪とかされてない?」

どうやって知り合ったのかを聞きたいが、それを聞くとジュエルシードの話になりそうなので、
敢えてなのははそれを避けて、けれども共通の話題となりそうな恭也の話を持ち出す。
恭也の話題だった為か、フェイトはこの日名前以外に自分からなのはへと声を掛ける。

「とても優しくしてくれる」

その時の安らいだ、信頼しきった表情を見て、それが本当なのだろうと思う。
優しいだけじゃなくて厳しい面も持っている恭也だが、本当に困っているときは助けてくれる。
それを理解しているからこそ、フェイトの言葉もすんなりと信用できた。
けれど、なのははやはり少しだけ面白くなさそうな顔になる。

「う〜、わたしには意地悪するのに〜」

唸るようにしてここには居ない恭也へと恨めしそうな顔を向ける。
そんななのはの仕草にフェイトは知らず声もなく小さな、
注意していないと見落としてしまいそうなぐらいに本当に小さな微笑を零す。
じっとフェイトを見ていたなのはがそれを見逃すはずもなく、思わず小さな声を上げる。
怪訝そうにこちらを見てくるフェイトに、自分が笑った事に気付いていないと悟ったなのはは首を横に振る。
自分の子供っぽい態度を笑われたという事は少し恥ずかしいが、
それでもフェイトの笑顔を見れた事は純粋に嬉しい事であったため、まあ良いかと思う事にする。
恭也の話を更に続けようとした所でノックの音がする。
出鼻を挫かれたような感じとなり、思わずなのはは邪魔されたと感じてしまうも、
すぐに首を横に振ってその考えを振り払う。
自分以外にもフェイトを気にしている人がいるんだと思い直し、誰が尋ねてきたのかとドアへと顔を向ける。
もしかしたら、アリサやすずかかもしれない。
だとしたら、四人で話をすれば良いかなと。
だが、そこに表れたのはその二人ではなく、だがある意味は当然かもしれない人物、恭也であった。

「ん? なのはもここに居たのか」

「うん」

もしかして邪魔だったかとなのはとフェイトに尋ねるも、二人は揃って首を振りながらそれを否定する。
なのはは大きく、フェイトは小さくという違いはあるものの、
似たような反応をする二人に、アルフは思わず微笑を浮かべる。
そのアルフの態度が分からずに首を傾げる恭也であったが、部屋に入って腰を下ろす。
微妙に緊張している二人を見て、そう簡単にはいかないかと思うものの、それを指摘するような事はせず、

「夕飯まではまだ時間があるから、お風呂に入るなりこの周辺を散策してみるのも良いんじゃないか」

恭也の言葉になのはがフェイトの様子を窺うと、フェイトはなのはではなく恭也を見ていた。

「あ、あの、お家のお風呂とは違うんですよね」

「そうだな。家にあるのよりも大きいし、ここのは露天だから外にあるしな」

「そ、外、ですか?」

恭也の言葉にやはり想像が付かないのか困惑した顔を覗かせる。
そんなフェイトになのははチャンスとばかりに今から一緒に入ろうと誘う。
思いきって誘ったものの、断られたらどうしようという不安が僅かに頭をもたげるもそれを考えないようにする。
悪い事ばかり考えて行動できなくなるよりも、楽観的と言われても今は少しでも行動をしようと。
そんななのはの様子に恭也は小さく微笑を零しながら、少しだけ援護するようにフェイトに話し掛ける。

「そうだな、なのはが一緒なら問題もないだろうし、今なら他には誰もいないから行ってきたらどうだ」

恭也の言葉通り、美由希と那美は部屋で寛ぎながらユーノと遊んでいるし、
忍とノエルはこの旅館の人と何やら話をしている。
今回、さくらの親戚という事でわざわざ貸し切りとしてもらったので、挨拶でもしているのだろう。
アリサとすずかの二人は元気に旅館の外へと出掛けていった。
あの二人の事だから、気を使ってなのはとフェイトを二人にしてあげたのかもしれない。
それぞれの現状を思い出してそう切り出した恭也を見上げ、次いでなのはを見る。
少しの逡巡の後、フェイトは小さく頷く。
嬉しそうな顔を見せるなのはに、恭也もほっと知らず止まっていた息を吐き出す。
だが、続く言葉に恭也はまたしても呼吸が止まる。

「あ、あの、恭也さんも一緒に……」

勿論、一緒に入るということに恥ずかしさを覚えたが、
それ以上になのはと二人だけだと何を話して良いのか分からないという様子である。
アルフも居るのだが、何かあった場合にアルフは自分の味方をしてくれると分かっている。
だから、逆に中立の立場の誰かを求めたのかもしれない。
だが、選ばれた恭也としてはその辺りの事情を汲み取れたとしても問題がある。

「いや、流石にそれは……」

珍しく困惑した表情を覗かせて慌てるという恭也を見ていたアルフであったが、

「別に良いじゃないか。フェイトがこうしてお願いしているんだし」

「そんな訳にいくか。そもそも、こういった場所の風呂というのは男と女では入る所が別々で違うんだ」

「そうなんだ。でも、貸し切りなんだったら、問題ないんじゃないの?」

アルフの言葉にけれども恭也は首を縦には振らない。

「そういう問題じゃないんだ」

どこか疲れた声でそう呟くも、アルフは分からないと首を捻る。

「あのな、お前も一緒に入るつもりだろう。今回は前のように犬の状態じゃないんだぞ」

「ああ、そういう事か。別にアタシも構わないよ」

アルフの言葉に恭也は絶句するも、アルフは構わずに続ける。

「まあ多少の恥ずかしさは流石にあるけれど、そんなに恥ずかしいとは思わないしね。
 それに、恭也だったら別に一緒に入っても嫌じゃないし」

深い意味があって言ってるのではないと分かるのだが、あまりにも純粋な言葉に恭也は思わず照れる。
そんな恭也の傍へとなのははやってくると、お願いするように見つめる。

「お兄ちゃん……」

なのはとて、流石に前のような状態ではない正常な状態では少し恥ずかしくはある。
だが、フェイトと一緒に入りたいのだ。
その為には、フェイトが少しでも安心できるように間に恭也を置いた方が良いと、フェイトの言葉からも理解する。
だから、なのはは恭也にお願いするようにじっと見つめる。
正面から見上げてくるなのは、その隣ではフェイトも恥ずかしそうにしながらも、
何処か縋るように視線を投げてきており、アルフも恭也の答えを待ってじっと見つめてくる。
追い詰められた状態の恭也は、今までにない程の緊張感を覚える。
言葉を懸命に探し、けれども三対の純粋な瞳の前に何も見つからず、やがて力なく頷く。
高町恭也、戦えば勝つと言われる御神流の青年が敗北した瞬間であった。
それでも、最後の足掻きとばかりに、

「ただし、男湯の方だからな。これだけは譲れない」

彼としては、もし美由希たちが入って来たらという状況を考えての妥協案であった。
当然、この事を口止めするのも忘れない。
その条件を受け入れた三人にようやく恭也は、渋々とだが立ち上がる。
そんな恭也の様子を見て、なのはとフェイトは思わず顔を見合わせて小さな笑いを零す。
フェイトはすぐに自分が笑った事に気付き、誤魔化すようになのはに背中を向けて風呂の準備をする振りをする。
その事に少しだけ寂しさを覚えつつも、
また見れたフェイトの笑顔になのはは改めて何かを決意するように拳を握り締める。



 ∬ ∬ ∬



先に脱衣をさせて風呂場へとフェイトとなのはを送り出した恭也は、その後に続くアルフの背中へと視線を送りつつ、
小さく溜め息を零す。恭也が居るにも関わらず、気にもせずに一気に裸になったアルフに対してである。
その時の事を思い出して顔を赤くさせる。
なのはとフェイト、そして恭也の強い説得もあり、身体にタオルを巻き付ける事を了承させたが。
またその時の事を思い出しそうになり、邪念を払うように頭を激しく振ると恭也は自分も裸になる。
こうしてタオル一枚を巻いただけの姿になっても尚、諦め悪く少しでも引き伸ばせないかと考えてしまう。

【マスター、早く行かれた方が宜しいかと】

「む、そうなのかもしれないがな」

【このままですと、アルフさん辺りが戻ってきて引き摺られる事になるかもしれませんよ】

グラキアフィンの言葉に説得力を感じ、恭也は覚悟を決めて脱衣場を後にする。
その背中に主人を気遣うデバイスの声が届く。

【頑張ってくださいマスター】

その声に背中を押されるように、恭也は浴場へと足を踏み入れるのだった。

(男湯なのに、何故こうまで緊張しないといけないのだろう)

やや理不尽なものを感じつつも掛かり湯をして湯に入っていく。
奥の方にいたなのはたちが恭也に気付くと湯に浸かりながら近づいてくる。
湯の中にゆっくりと肩まで浸かっていく恭也の体を見て、フェイトが小さな声を上げる。

「ん? ああ、これか」

全身に着いた傷の一つを指差し、恭也は少し恥ずかしそうに、そして少し誇らしそうに笑う。

「未熟な証でもあり、何かを守れた証、そして強くなるために出来た傷だな。
 とは言え、あまり気持ちの良いものではないだろう」

「そんな事ないです……」

恭也の言葉にフェイトは小さな、けれども強い意志の篭った声でそう返す。
確かに驚いたのは事実だが、ただそれだけのこと。
決して怖がったりはしていないという思いを込める。
それが伝わったのか、恭也はフェイトの頭を優しく撫でてあげる。
気持ち良さそうに目を細めるフェイトを見て、なのはもせがむように恭也を見遣る。
その視線に気付いた恭也は、仕方なさそうにしながらも同じようになのはも撫でてやる。
一通り撫でると、四人は並んで湯に浸かる。

「気持ち良い」

思わず洩れたフェイトの言葉に恭也たちは笑みを見せる。
湯に浸かってリラックスしたのか、先程よりも柔らかい表情を見せるフェイトに、なのはは思い切って話し掛ける。
先ほど服を脱いだ時に見た背中にあった幾つかの傷も気になるが、それよりも他に聞きたいことがあるのだ。
本当ならもっと色々な話をしたいし、さっき部屋では聞かないと決めたが、
やはりそれを聞かないと進めないような気がして。
もしも力になれる事なら力になってあげたいという事を伝えたくて。
だから、なのははこの旅行の間は聞かないでおこうと思ったことを口にする。

「フェイトちゃん、お話を聞かせてくれないかな? ううん、聞かせて欲しいの。
 どうしてジュエルシードを集めているのかを。
 管理局とかは関係なく、ただわたしが、高町なのはが聞きたいの。駄目、かな?」

思い切ってそう口にするも、やはり不安そうに最後の方は弱気になる。
思わず伏せそうになる顔を何とか支えつつ、なのはは恭也を間に挟んだ向こう、フェイトを見る。
恭也の陰になって、その顔は見る事はできないが、その体が僅かに強張ったのは分かった。
それでも、なのははただ黙ってフェイトからの返答を待つ。
時間にして二秒か三秒の沈黙の後、フェイトがゆっくりと恭也の陰から移動してなのはと正面から向かい合う。
けれども、前みたいにこの場から立ち去る事はなく、ただ静かな瞳でなのはを見返す。
長いような短いような沈黙が再び二人の間に横たわり、緊張感を高まらせる。
恭也とアルフの二人は口出しをする事もできず、ただ成り行きを見守る事しか出来ない。
今、ここで質問をしたのはなのは。
それはフェイトへと向かっており、フェイトもまたなのはに答えるべく向かい合っているのだから。
やがて、フェイトの口から静かな声が紡がれる。

「どうして、そんなに私に構うの?」

「それはお友達になりたいと思ったから。
 だからお話をして、力になれる事だったらなってあげたいの」

「友達? あなたの考え方は甘い。
 あなたと私の目的はジュエルシードを集める事。だとしたら、どうやって力になってくれるの?
 今まで集めたジュエルシードを私に渡してくれる? 無理でしょう。
 だとしたら、私たちは今までのように対立するしかできない」

「そんな事ないよ! フェイトちゃんが何の為に集めているのか分かれば、他の方法を探す事だって出来る。
 どうしても無理なら、その時はユーノくんにお願いしてジュエルシードを少しの間だけ借りて……」

「やっぱりあなたは甘い。そんな考え方では、次にジュエルシードを巡って対立した時に怪我をする。
 私には譲れない理由があるんだ」

「だから、その理由を教えて」

尚も喰らいついてくるなのはに対し、フェイトは小さく頭を振る。
ジュエルシードを集める目的などフェイトさえも知らないのだ。
ただ、母の求めるものがジュエルシードであり、その為にフェイトはソレを欲しているのである。
つまりは、他の方法などは絶対に存在していないのである。
ましてや、ジュエルシードは管理局が回収に躍起になるほど危険を孕んだロストロギアである。
一時的にでも、借りるなんて出来るはずがないのだ。
それが分かっていないのか、話せば管理局の人たちも分かってくれると思っているのか。
どちらにせよ、フェイトにとってなのはのその考え方は甘いと思うのである。

「あなたには話しても意味がないから。次に会ったら敵同士だけれど、恭也さんの妹だから一度だけ忠告。
 このまま魔法に関わるのなら、そんな甘い考え方でいると、いつか取り返しの付かない事になる」

敵に対してもその相手の事情を鑑みようとするなのはの考えを甘さとして断じる。
そんなフェイトに対し、なのはは反論する。

「違うよ、フェイトちゃん。わたしはフェイトちゃんが悪い人じゃないって分かるから。
 だから、どうしてこんな事をするのかを知りたいの。
 これから先、出会う人皆に同じような事をするのか、ううん、出来るのかは分からない。
 けれど、今お話しているのはそんな先のことじゃなくて、今この時、フェイトちゃんのことだから。
 わたしはフェイトちゃんが悪い人には絶対に思えないの。だって、初めって会った時の目が……」

「それがっ! それが甘いと言っているの! 私が悪い人じゃない?
 管理局にとっては既に私は悪人として認定されているはず。なのに、悪くないって言うの!?
 それに、私はあなたに酷い事をしたんだよ! 怪我だってさせた……」

恭也の居る前では言いたくなかったが、フェイトは感情を昂ぶらせてそう告げる。
思い当たる節があったのか、恭也は何となくあれだなとは思うものあくまでも黙したまま成り行きを待つ。
俯いて肩を震わせるフェイトが落ち着きを取り戻してゆっくりと顔を上げると、
そこには変わらないまま笑顔を見せつづけるなのはが居る。
ずっと手を差し伸べながら、同時に投げつづけてくれた笑顔を見せるなのはが。
なのははフェイトが顔を上げて自分を見ていると分かると、ゆっくりと話を再開させる。

「それでも、それでもフェイトちゃんは悪い人じゃない。
 わたしはあまり難しい事は分からないけれど、やっぱりフェイトちゃんが悪い人には思えない」

なのはの言葉に今度はフェイトの方が声を無くす。
そんなフェイトへとなのはは何かを決意したかのように、それを伝えるためにも口を開く。

「もし、わたしとフェイトちゃんが戦ってわたしが勝ったら、そうしたら、わたしは甘くないって認めてくれる?」

その瞳の強さにフェイトは思わず飲み込まれそうになる。
なるも、すぐに我に返ると静かになのはを見つめ返す。

「私に勝てるの? もう何度も負けてるんだよ」

「絶対に勝ってみせるよ。
 だから、その時はわたしの事を甘くないって認めて、理由を教えて欲しいの。
 無理矢理聞くのは違う気がするから、絶対って訳じゃないけれど。少なくとも甘くはないって認めてくれるよね」

「……良いよ。もし貴女が勝ったら、その時は教えてあげる。
 それで、いつ勝負するの?」

絶対に無理だと言外に匂わせる物言いにも関わらず、なのはは嬉しそうに頷く。
その上で勝負の日付を決める。

「この旅行から帰ってからでどう?」

「こちらは構わない」

静かに応じるフェイト。
そんな二人の様子に恭也とアルフも胸を撫で下ろす。
とりあえずは落ち着いたようだなと。
それを見計らい、恭也が二人に話し掛ける。

「ならば、その時は俺が見届け人となろう。勿論、どちらにも手は貸さない。
 これは二人の勝負だからな。アルフも」

「分かってるよ」

恭也の言葉にアルフも同意し、ここになのはとフェイトの勝負が決定するのだった。





つづく、なの




<あとがき>

ふ〜。やっとここまで来た〜。
美姫 「ただの旅行では済まなかったわね」
当然だろう。と、忘れるところだった。
前回、付け加えるのを忘れていたけれど、こんなシーンもあったんだよ。
美姫 「ああ、没シーンね」
ああ。
美姫 「それじゃあ、そのシーンをどうぞ」



<没ネタ>

「ユーノくんは勿論、俺と一緒だな」

「勿論です!」

「そ、そうだよね。この間みたいに一緒に入るのは良くないよね」

恥ずかしそうに呟いたなのはの言葉に、恭也は表情こそ変化しないものの、
そっとフェレットの肩らしき場所に手を置く。

「まあ、色々と男同士の話もあるしな。いや、楽しみだ」

「あ、あははは。きょ、恭也さん、ちょっと肩が痛いんですけれど…」



あとがきに乗せ忘れてたよ〜。
美姫 「没だから、どっちでも良いんだけれどね」
確かにな。まあ、それは兎も角、本当に終りが見え始めたぞ〜。
美姫 「きりきりと書きなさいよ〜」
分かってるって!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
ではでは。







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