『リリカル恭也&なのは』






第38話 「ジュエルシードと霊能力者と狐さん」






人の滅多に踏み入らないような林の中、しかもかなり奥まった場所にそれはあった。
石を幾つか積んだような形で、名前も何も刻まれていない碑らしきものはあったのであろう。
だが、今それはバラバラに崩れており、
そこから霊能力者なら感じられるであろうあまり良くない気が微弱ながらも流れ出ている。
その碑を前にして、那美はこれこそがさくらが霊を封じたものであると直感する。
同時にその封印が解けてしまったという事も。
感じる事のできる力は封じられていた所為か弱く、那美の力でも充分に除霊が可能である。
だが、それとは逆に那美の勘とも言うべきものが危険だと告げていた。
話が通じる相手ではないとすぐに分かったからこそ躊躇は一瞬で、すぐに除霊すべく一歩を踏み出す。
このまま放置すれば力を取り戻すかもしれないと思い至り、それこそが危険がと告げている原因だと考えて。
油断なく碑の傍へと近寄り、その手に短刀雪月をしっかりと握り締める。
手順に沿ってお祓いをしようとしたその時、崩れて散らばっていた碑の中から何かが飛び出す。
驚いて後ろに一、二歩下がる那美の眼前に浮かび上がったのは青く輝く宝石であった。
よく分からずに思わずその宝石――ジュエルシードに見入る。
ジュエルシードからは特に何も感じられなかったので警戒が薄らいだのか、
那美はその宝石に思わず手を伸ばそうとする。
状況から見て無関係とは思えない事からの行動であったが、那美が手を伸ばそうとする横で
久遠が構えて小さく唸り、那美を止めるようにその裾を引っ張る。

「なみ、だめっ!」

しかし、久遠の静止はほんの少しばかり遅く、ジュエルシードが一際強く光を放ったかと思うと、
その光に触発されるように那美の足元から突如闇が膨れ上がり、その身体を飲み込むように包み込む。
すぐさま久遠が闇へと雷を放つも、当たった部分は削り落とされたように掻き消えるも、
他の部分がすぐさまそれを補うかのように伸びて那美の身体を取り込もうとする。
何度も雷を放ちながら、久遠は那美の腕を掴むと闇から引き摺りだろうともがく。
だが、その久遠までも取り込もうと闇はその密度を増す。
それを見て那美は久遠だけでも逃そうと試みるも、手足を闇に捕らわれている那美は満足に動く事さえもできない。

「久遠、逃げて!」

「いや」

「お願い、戻ってこの事を恭也さんたちに伝えて。
 それで、薫ちゃんに連絡するようにって」

久遠を説得している間にも闇は那美の身体を覆っていく。
闇が首に達した所で、那美の意識は完全になくなりぐったりとする。
だが、呼吸に合わせて上下に動く胸からまだ生きている事は分かる。
まだ闇に覆われていない左腕を掴んでいた久遠であったが、苦悩の末にその手を離す。
しかし、それは少し遅すぎた。
既に久遠の背後を覆うような形で地面から伸びた闇は、退路を絶つとそのまま襲い掛かる。
抵抗を見せる久遠であったが、那美が居るためにあまり大きな力も使えず、とうとう闇に飲み込まれる。
視界が黒く染まっていくその中で、久遠は那美と同じぐらいに大好きな二人の姿を見たような気がしたが、
それを確認する間もなく、その意識を手放した。



恭也たちが現場へと駆けつけた時、その場にはまるで自身の影に飲み込まれたような那美と久遠の姿があった。
二人は共に意識を失っているらしく、その姿は完全に闇の中へと消える。
怒りからか無謀に何も考えずに突っ込もうとするなのはの腕を掴んで止めると、恭也は二人の安否を確認する。
二人の気配が闇の中にあることが考えても、どうやら命に別状はないと分かる。

「落ち着けなのは。二人とも無事だから。
 とりあえず、あの影みたいなのはジュエルシードの所為だと考えても間違いないのか」

確認するようにフェイトたちの方を見る恭也に、フェイトとアルフの二人は頷いて返す。
だとすれば、ジュエルシードを回収すれば二人を助ける事ができる。
その考えをなのはにも話して落ち着かせるも、やはりなのはは心配そうに闇を見つめる。
問題はあの闇が最後まで那美たちの安全を保障するかどうかである。
那美に憑いて発動したのならば、那美を傷付ける事はないかもしれないが。
実際にジュエルシードが発動した切っ掛けが分からないのだ。
現状から見れば那美か久遠なのかもしれないが、恭也はその足元に散らばる石のようなものが気になっていた。
忍から聞いた話を思い出し、それなら那美たちがいるのも分かると納得する。

「もしかしたら、ジュエルシードを発動させたのは昔さくらさんが封じた霊かもしれない」

「だとしたら、早く回収しないと那美さんたちが危ないかも!」

恭也の言葉に悲壮感を漂わせるなのはへと、恭也は再度落ち着くように言う。

「落ち着け、なのは。戦場で冷静さを欠いては判断も鈍るし、自分の力をちゃんと出す事もできないぞ」

「分かってるけれど……」

「助けたいと思うのならば尚更だ。焦るなとも怒るなとも言わない。
 だが、それらのみに捕らわれるな。常に冷静な部分は残しておけ」

「う、うん」

普段の優しい口調とは少し違う、やや厳しい口調で告げる恭也の言葉になのはは神妙に頷く。
やる事は一つで、あの影だか闇だかを倒してジュエルシードを回収して那美たちを助ける。
その為にも焦るだけでは駄目だと言い聞かせ、じっと前方の闇を見据える。
既に起動させたレイジングハートを手に握り、同じく自分のデバイス、バルディッシュを構えたフェイトを見る。
フェイトも今日会ったばかりとはいえ、多少は親しくなった人が取り込まれたのだから焦りもあるはずだ。
だが、それを感じさせないほどに落ち着いた目で闇を見ている。
これが取り込まれたのが恭也やアルフならまた違ったのかもしれないが。
そんな二人と共に肩を並べながら、恭也もデバイスを起動させる。
グラキアフィンを起動してバリアジャケットを纏った恭也は、
あの中から那美たちを取り出せないかと考えを巡らせる。
何か手はないかフェイトとなのはにも意見を聞こうとして、固まったままこちらを見上げてくるなのはと目が合う。
その顔には驚愕がはっきりと浮かび上がっており、

「どうかしたのか、なのは?」

「デ、デバイス!? お、お兄ちゃんが何でデバイスを持ってるの?
 えっ! という事は、もしかして魔法も使えるの!?」

多少混乱気味のなのはに呆れたような顔を向けるも、即座に鋭く声を発する。

「飛べ!」

その声に突き動かされるように、なのはとフェイトが同時に空へと飛び上がる。
下を見れば、今まで三人が居た地面かた闇が立ち昇っていた。

「俺たちも取り込むつもりだったのか」

同じように自分の隣で宙に浮いている恭也を見て、なのはは恭也も魔法が使えると理解する。
自然とその目は恭也の持つデバイスへと注がれるも、その形状にやはり苦笑を見せる。
とても兄らしいなと。
その視線に気付いたのか、恭也はなのはの眼前にグラキアフィンを掲げる。

「こいつはグラキアフィンだ。アルフから協力要請した時に譲り受けた」

【初めまして】

日本語で話し掛けてくるデバイスに少しだけ新鮮味を抱きつつも、恭也の来るぞという声にすぐに視線を下に戻す。
影のように薄っぺらく特定の形を持たないのか、ゆらゆらと陽炎のように揺れていた闇の中から何かが飛び出す。
真っ直ぐに飛来するそれを苦もなく躱す恭也たち。
だが、闇の中から同じようなものがまた飛び出して来る。
何かの力をただ拳大ほどの大きさにして撃ち出しているだけのようで、速さこそそれなりではあるが、
真っ直ぐに飛んでくるだけなので、躱す事は難しくはなかった。
ただ、その弾から魔力のようなものを感知し、フェイトは小さく漏らす。

「もしかして、魔法に似たようなものを使うのかも」

今は魔弾を撃ち出しているだけだが、その内違う攻撃をしてくるかもしれないと付け加える。
そうなると厄介なことになるかもしれないと、恭也は闇へと向かって降下する。
その後をアルフが追い、なのはも続こうとした所でフェイトに止められる。

「あなたと私の役割は砲台になること。恭也さんたちが敵の注意を引き付けてくれている間に呪文の準備」

言ってフェイトは更に細かい指示をなのはへとするだけして、自分はさっさとバルディッシュを構える。
それを見てなのはも黙って即座に自分の役割を果たすべく高度を上げる。
上空にいる二人へは魔弾は向かわず、迎撃するためなのか魔弾は全て恭也とアルフへと向かって飛ぶ。
それらを躱し、時に弾きながら二人は闇へと接近する。
擦れ違いざまグラキアフィンで闇を斬るも、すぐに何事もなかったかのように元に戻る。
また、恭也自身にも何かを斬ったという感触もなかった。
まるで煙を相手にしているかのように、ただグラキアフィンが空をかいた感じである。
だが、向こうからの攻撃は間違いなく質量を持っており、グラキアフィンで受け止めた際にそれは分かっている。
恭也とアルフの周囲を囲むように伸びた闇は、一斉に二人の頭上よりも高く伸び上がり、
一気に二人を押し潰さんと降り注ぐ。先端を鋭く尖らせたそれらを見据え、恭也はグラキアフィンを薙ぐ。
アルフは左手にシールドを発現させて受け止めると、右手で闇を殴り飛ばす。
やはり共に手応えはないものの、斬った部分や殴った部分は霧散する。
そうして出来た隙間に身を躍らせ、闇の包囲から抜け出すとそのまま頭上へと飛び上がる。
二人と擦れ違うようにして、背後から迫る闇へとフェイトの魔法が突き刺さる。
そこから時間を置かず、すぐさまなのはの魔法が二人の横を通って背後へ。
フェイトの魔法で闇の表面部分を削り、そこへそれらが元に戻る前になのはの魔法を即座に叩き込む。
闇の部分が簡単に再生する事から、本体はその奥だろうと考えての策だったのだが。
上空で四人が見下ろす中、闇は完全に消えており上手くいったかに見えた。
だが、再び地面に影のように黒い円形が浮かび上がり、そこからやはり闇が湧き上がる。

「やはり本体は那美さんたちが捕らわれている方か」

だとすれば、那美達の救出が先だと恭也が動こうとしたその機先を制するように闇から攻撃が放たれる。
しかも、今度は魔弾だけではなく雷がそこから飛び出す。
雷の方は威力は高くないようだが、放射状に広がる分魔弾よりも避け難い。
攻撃を躱す四人であったが、その攻撃の前に近づけないでいる。
しかも、限られた範囲で避けていたため、フェイトとアルフがぶつかってしまう。
そこを狙い済ましたかのように魔弾が襲い掛かる。

【ラウンドシールド】

二人に当たると思われた魔弾は、咄嗟に飛び込んだなのはの防御魔法によって防がれる。
助けに行こうとしていた恭也が胸を撫で下ろす中、フェイトは何と言えば良いのか困ったような顔を見せる。
多分、お礼を言いたいのだろうけれどそれを口に出来ず、躊躇うようになのはの様子を窺う。
それが分かるのか、なのははただ笑顔でフェイトを見つめ返す。
ようやくフェイトが口を開こうとするも、それは恭也によって遮られる。

「散れ!」

恭也の声にまたしても反射的に動いた三人がバラバラの方向に散開する中、一条の帯状の魔力光が突き抜けていく。
どうやら空は飛べない上に、あの闇の部分も一定以上の高さには伸びてはこない。
故に四人は一度空中で注意しながら集まる。

「ジュエルシードが魔法を使うなんてね」

アルフのぼやきに何かを考えていた恭也が考えが纏まったのか口を開く。

「その事なんだが、あれはもしかしたら那美さんの霊力による攻撃じゃないか。
 雷の方は……」

「くーちゃんの」

恭也の言葉をなのはが受け継ぐ。言われてみればという感じでなのはは納得し掛けるも、
その辺りの事情を知らないフェイトとアルフには訳が分からない。
状況が状況だけに仕方がないと恭也は霊力に関して簡単な説明だけをする。
その間にも繰り出される攻撃を躱しながら、念話を使って。

≪霊力と言うのはこの世界で言う魔法みたいなもんだと思ってくれ。
 いや、多分同じなのかもしれない。と、今はその辺りはどうでも良いな。
 とりあえず、那美さんはその霊力を使って少し変わった事ができるんだ。
 で、久遠はアルフみたいなもんだと思ってくれ≫

≪正確には使い魔とかじゃないんだけれどね。ちょっと人とは違う力を持ってて、雷を操れるの≫

恭也の説明になのはが付け加えるように説明をすれば、恭也は最後に自分の想像を伝える。

≪もしかしたら、アレは取り込んだ人の力を使えるのかもしれない≫

どちらにせよ、本体を叩くには那美達の救出が先だと締め括る。
その意見にはなのはだけでなくフェイトたちも異論はなく、
目標を攻撃してくる闇から二人を取り込んだまま動かない闇の塊へと変える。
とは言え、そちらには攻撃などできる訳がない。

≪那美さんたちを助ける者と、あっちの闇を相手にする者とで分かれよう≫

簡単に取り込まれた者を解放するかどうか怪しく、闇塊の方にも何か罠みたいなものがあるかもしれない。
そう考えて恭也は自分が那美たちの方へ行く事にする。
フェイトたちに闇の相手を頼み、恭也は闇塊へと向かう。
それに気付いたのか、闇の攻撃が一斉に恭也へと向かう中、アルフがその間に立ち塞がる。
その肩にはユーノが乗っており、アルフの前に広範囲に渡ってシールドが展開される。
恭也へと向かった攻撃は全てこのシールドに阻まれる。
シールドが解除されるなり、アルフは闇へと突っ込んで行く。
更なる攻撃が闇より放たれんとする所へと、上空からなのはの砲撃が降る。
一撃でその半分ほどの闇が削られる。
その一撃の大きさにアルフでさえも驚く中、
バルディッシュを鎌の形――サイズフォームにしたフェイトが一気に降りてくる。
削り取られた半分が戻って行く中、フェイトはバルディッシュを振るい、闇を斬っていく。
斬っていくはしから再生していく闇であるが、それでも構わなかった。
要は恭也へと攻撃させなければ良いのだから。
闇の方でも遠くの恭也よりも近くのフェイトたちを敵と見なしたのか、
フェイトたちへと攻撃が繰り出される。
それを避け、時にユーノのシールドで防ぎながらフェイトとアルフは闇を斬り、殴り、霧散させていく。
その合間、合間に上空からなのはの砲撃が闇を大きく抉る。
四人がそうして闇と相手をしている間に恭也は闇塊の前へと辿り着く。
が、ここに来るまでに何の妨害もなかった事に逆に警戒心を高める。
警戒しつつもグラキアフィンを慎重に突き立て、闇塊を斬り裂く。
意識はないが体の何処にも怪我がない那美と久遠の姿がその中から現れ、その事にまずは胸を撫で下ろし、
次いで二人を引きずり出そうと手を掛けた瞬間、それは起こった。
那美と久遠に手を伸ばした恭也までも取り込まんと、闇塊から手のようなものが幾つも伸びてくる。

【縛鎖】

グラキアフィンの宝玉が輝き、咄嗟に魔法を展開する。
恭也の左腕に巻きつけられていた鎖が伸び、迫る闇の手を全て絡め取る。
だが、即座に絡め取られた腕とは別の腕がまたしても生まれ恭也へと迫る。
目前に迫る手を前にしながらも、恭也は那美と久遠を引っ張り出す。
後ろへと倒れながら那美と久遠を抱き止め、同時に迫る腕から距離を開ける。
倒れる恭也を追って迫る腕をグラキアフィンで斬り飛ばし、飛翔の魔法を発動させる。
二人をしっかりと両腕に抱きかかえたまま、恭也は一気にこの場から離れる。
それを見ていたフェイトたちも再び上空で恭也と落ち合うためにこの場を離脱する。
那美たちを助けたと同時に攻撃方法もなくなったのか、闇たちからの攻撃もなくなり簡単に合流できた。
未だに気を失っている那美と久遠をユーノに任せ、四人は眼前を見下ろす。
この場から離れた場所に那美たちを運び、そこでシールド系の結界を張るユーノからは闇の様子は窺えないが、
恭也たちはその異変に気付く。
離れていた闇と闇塊が一つに集まり出したのだ。
那美と久遠を引き離したからか、分かれている意味がなくなったのかもしれない。
しかし、恭也たちは嫌な予感を感じ取っていた。
一つとなった闇はその濃度が薄くなり、今までは夜に紛れるかのように黒かったのが、
今では灰に近い色へと変わっていた。その中心には目と思われる赤く輝く双眸が不気味に光を放つ。
形自体は最初の闇のようにしっかりとしたものを持っておらず、まるで煙が一箇所に固まっているようである。
だが、そこから発せられる魔力だけは恭也でさえも感じ取れるほどに強く、
時折、周辺にパチパチと青白い雷が放電したように飛び出している。
四人が見守る中、煙めいたものが徐々に形を作っていく。
その色や向こうが薄っすらと透けて見える煙みたいな特質はそのままに、形だけが徐々に変化していく。
まず最初に変化したのは赤い双眸の間、鼻らしき部分が前へと突き出る。
それはそのまま上下に開き、口を連想させるように何度か開いては閉じる。
次いで腕と足だろうか、顔の下と地面に接する部分から二本ずつ細く伸びていく。
空中へと浮かび上がり、四足のように身体を前に倒す。
獣に似た姿となる。後ろ足の間に当たる部分がゆっくりと伸び、大きく膨らんだ尻尾となる。
が、その数が二本、三本と増えていき、最終的に九本の尾を形作る。
大きな耳と突き出た口、四本足に加えて九本の尾。
けれども色は灰色のままで、やはり煙のように向こう側は透けて見える。
姿を変えた元闇だったものは、産声を上げるように大きな咆哮を一つ上げると恭也たちを見上げる。

「九尾の狐……。まさか、久遠の祟りを吸い取っていたのか!?」

それを肯定するかのように、九尾狐から先ほどまでとは比べるまでもない程大きな雷が放たれる。
咄嗟に回避した恭也たちであったが、その威力は空気を振るわせる程であった。



かつて、愛しいものを殺された怒りに怨念が取り憑き、祟りとして恐れられる程の力を得た妖狐がいた。
無差別に人を殺してきた妖狐であったが、300年程前に封印される。
しかし、その封印は過去に一度解けており、その時再度封印された。
それが久遠の正体である。久遠を怒りという感情に飲み込ませ、その力を存分に振るわせようとする祟り。
その封印は今年には解けると言われており、本来なら力を持たない久遠であるうちに討つべしという声もあった。
だが、久遠を失いたくない那美は、久遠との絆を信じる事にしたのだ。
恭也はいざと言うときのために剣を教えて欲しいと言ってきた那美からこの事情を聞いており、
今目の前に居る者が、その祟りを吸収したと瞬時に見抜く。
ある意味、那美や久遠にとっては良い結果だとも言えるであろう。
久遠の中にいた退治すべき祟りがここに具現したのだから、これを倒せば久遠の中から祟りは消える。
だが同時に最悪の相手でもある。
退魔を生業として長き歴史を持つ神咲の者たちが、
それも当時の当主たちが集まっても封印がやっとであった祟りが相手なのだから。
だからと言って引く訳にもいかない。
その事情を簡単に恭也は説明する。
目の前の相手はそれぐらいの脅威だと。
流石にそこまでは知らなかったなのはであったが、恭也の話を聞いても久遠を嫌ったりはしない。
寧ろ、目の前の祟りを倒す事に余計に熱心になる。
その様子を目を細めてただ黙ってみたまま、次いでフェイトへと視線を移す。
ある意味、これは恭也たちの問題だと。
だが、フェイトは首を横へと振る。

「ジュエルシードがありますから」

「そうか。なら、もう何も言わない。後はただあれを倒すだけだ」

恭也の言葉に全員が頷く中、なのはの肩へと戻ってきたユーノが注意するように言う。 

「さっきまでは完全に覚醒していなかったのか、
 それとも取り込んだ二人の力を使っていたからなのかは分からないけれど、
 近くに居る者にしか感じ取れないぐらい、そんなにジュエルシードの反応は小さかったんだ。
 でも、今は完全に覚醒している。つまり、管理局の方でも感知したと思うよ」

「なら、余計に短期決戦か」

そう簡単にはいかないだろうなと思いつつも恭也はそう口にする。
五人は眼下を見下ろしながら、ゆっくりと上昇してくる九尾狐を前に戦いを始める。
今までの中でも最悪と呼べる相手を前に。





つづく、なの




<あとがき>

久遠の祟りが発現〜。
美姫 「という訳で、かなり後書きは短いですが」
今回はこの辺で。急いで次回を書かなければ。
美姫 「それでは、また次回でね〜」







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る