『リリカル恭也&なのは』






第40話 「決着」






八本の尾が獲物を狙う蛇のように恭也たちへと迫る。
それらをフェイトが躱し、なのはがシールドで弾く中、恭也とクロノはそれぞれ一本の尾へと攻撃を繰り出す。
二人がそれぞれに攻撃を与えた尾は八本の内、再生が遅かった二本の尾であった。
互いに相手もその事に気付いていたと理解し、そのまま尾を打ち砕く。
九尾狐から距離を取りながら、恭也とクロノはたった今打ち砕いたばかりの尾を注視する。
二人の視線を受けながら、尾は何事もなかったかのように再生し、再び襲い掛かってくる。

「くっ。さっきの尾じゃなかったのか。
 ラウンドシールド!」

「いや、間違いなくあの二本だ」

互いに襲い来る尾をいなしながら、恭也はクロノの独り言へと答える。
それを受け、クロノはシールドで大きく弾かれて方向を変えた尾へと魔法を放ち、再び撃破してから考えを口にする。

「という事は、特定の尾ではなくて、一度に再生するのに限界があるという事ですか」

「そこまでは分からないが、確かにあの二本の再生がさっきは遅かったのは間違いない。
 あの時は六本を自身で吹き飛ばし、それより少し前に二本が吹き飛んでいた」

「つまり、流石に八本同時には回復できないという可能性もありますね。
 ですが、それなら何故、先に傷付いていた尾が回復しなかったんでしょう」

「……同じ尾に見えても優先順位があるのかもな。
 コアと思われる紅眼を守っている一本はやたらと堅い上に、可笑しなものまで生やすぐらいだ」

「なるほど。八本全てが攻撃のための尾ではあるけれども、そこに優先順位がある可能性ですか……」

二人して言葉を交わしながらも、一つ所に留まっていないのは流石と言うべきなのか。

「どちらにせよ、何も確証はない上に一々どれがどれよりも上かなんて確認していられないし、
 ずっとその尾だけを追っている訳にもいかないだろう」

恭也の言う通りで、どの尾も全く同じ形をしているのが八本。
例え順に1、2と数字を振り当てても暫く目を離せばどれがどれか分からなくなる。
生えている場所で区別する事も根元で一つになっているため、無理。

「……根元は一つ」

「無駄だ。あそこまで近づけるのなら、それこそコアまでいける」

クロノの考えていた事を察し、けれども恭也は反対する。
尾が密集しているとも言える場所。それ故に隙間なく攻撃が降り注ぐし、根元の行くほど硬度が増す。
それらを踏まえ、クロノもまた同じ考えに達して黙って頷く。
立場的には対立する位置にいる二人であるが、
恭也はクロノの年齢以上に戦い慣れしている事や戦闘時の判断などは素直に評価し、
魔法では間違いなく知識でも技量でも上だと分かるからこそ意見を求める。
逆にクロノの方でもまた恭也の戦闘力や判断力などをちゃんと評価しているからこそ、こちらからも考えを尋ねる。
そして、二人が出した答えは共に同じものであった。

「やはり先ほどのように八本全部を破壊してみるのが一番だな」

「そうですね。できる限り同じ状況を作り上げれば何か分かるかもしれません」

二人が結論を出した所へフェイトがやって来る。

「恭也さん、どうします」

幾ら倒しても再生する尾に流石に僅かな疲労の色を見せつつも、フェイトは静かに九尾狐を見詰めながら尋ねる。
意識してか、クロノと恭也の間に入り、視界の外へとクロノを追い出して背中を向けて。
フェイトの立場からすれば仕方ないのかもしれないと思い、
恭也はその事には気付かない振りをしつつ今出した結論を告げる。
背後から襲ってくるかもしれないとアルフがちゃっかり三人の上から目を光らせるも、
その顔は僅かに不安そうな色が浮かぶ。
この状況でもしクロノがフェイトに仕掛けたとして、果たして恭也がどうするのか。
庇ってくれるのか、それとも傍観するのか。
勿論、恭也を巻き込みたくないという思いはある。
あるのだが、それ以上にその事によってフェイトに与える精神的なダメージの方が、
こんな時にでも気になるアルフであった。
当然、そんなアルフの様子に気付きつつ、恭也は安心させてやるためにフェイトを少しだけ自分の傍に寄せる。
位置的にクロノが何かすればすぐに背後へと庇える位置に。
クロノもそれがどういう意味か気付いたが、最初の態度もあるので何も言わずにいる。
フェイトとアルフが若干だが嬉しそうな顔を見せるのだが、
それを離れた所で見ていたなのはは面白くなさそうであった。

「とりあえず、一人二本で計八本の尾を同時に落とすという事で良いか」

「ええ、構いませんよ」

恭也の言葉に頷くフェイトたちであったが、計算が合わないと気付く。
ユーノを除いてもここに居る魔導師はアルフを居れて五人。
そこまで考えてクロノはすぐに恭也の意図に気付く。

「なのはには八本の尾がなくなった瞬間に九本目を、あわよくばその後ろのコアを狙ってもらう」

「確かにそれなら成功すれば無事にジュエルシードを回収できますし、
 失敗してもさっきの再生に関する事を調べるという目的は達成できますね」

なのはにはクロノがその事を伝え、それぞれがその為の準備に備えて散らばる。
四方向へと散った四人に対し、尾は都合良く二本ずつ襲い掛かる。
なのはの居る場所は元から尾の射程範囲外のままなので、やはりそちらは無視されている。
追って来る尾から逃げるように飛びながら、タイミングを計る。
互いに念話で絶えず連絡を取り合い、ようやくそのタイミングが揃う。
今まで逃げていた四人は同時に逃げるのを止め、恭也は左右から挟み込むように迫る尾を斬り裂く。
フェイトは足を止めて、予め何時でも放てるように唱えていた魔法を解放して目前に迫った二本を吹き飛ばす。
反撃するために今までとは逆に尾の方へと飛び込み、アルフは拳で一本を、魔法でもう一本を同時に破壊する。
二つの尾がバインド――予め設置していた捕縛用の魔法によって絡め取られて動きを封じられる。
だがそれも少しの間の事で、すぐにバインドを打ち破ってクロノへと迫る二本の尾。
それを冷静に見据えたまま、クロノはデバイスを前に向けて魔法を放つ。
重なるようにして迫っていた尾は貫通力の高い魔法により、一発で同時に千切れ飛ぶ。
殆ど同時に八本の尾が破壊され、同時になのはの魔法を放つ声が響く。

「ディバインバスター!」


レイジングハートに収束された魔力が一気に放出されて帯状の砲撃を繰り出す。
が、その行く手を阻むように八本の尾が持ち上がる。
半分近く吹き飛んだはずの尾が瞬時に再生し、ディバインバスターを受け止める。
が、やはりその威力を完全に受け切れずに吹き飛ぶ。
八本の尾を貫いたなのはの魔法は九本目の尾へと突き刺さるも、やはり八本の尾が事前に盾となったためか、
その威力も激減しており、貫くまではいかなかった。
だが、流石に無傷とまではいかなかったらしく、恭也の攻撃では大した傷も付かなかった九本目の尾に傷が付く。
が、やはりその傷もすぐに再生されていく。
その事に今更驚きはしないが、恭也とクロノは別の事に驚いていた。

「今度はすぐに再生しましたね」

恭也の傍にフェイトがやってきてそう漏らすのを恭也は頷いて返す。

「つまり、再生するのに本数は関係ないということか。
 なら、何故あの時は再生が遅かったんだ」

クロノも同様に思考を巡らせる中、ずっと敵を見ていたアルフがその事に誰よりも早く気付く。

「ちょっと見てよ、恭也。今度は八本とも再生してない」

アルフの言葉通り、八本共が再生せずに本体の傍でゆらゆらと揺れている。
まるで再生の順番を待つように。
始めは九本目の尾が優先だからかと思ったが、それにしてはまだ再生が始まる気配がなかった。
再生しないのならチャンスとばかりに考えるのを一時止め、恭也は今のうちに潜り込めないかと動き出す。
が、その腕をフェイトが止める。
それから半瞬ほどで、八本の尾が再生を始めた。
あのまま近付いていけば、八本の尾の集中攻撃を受ける所であった。

「助かった、フェイト」

「いえ。偶々気付けただけですから。
 それよりも、何ですぐに再生しなかったんでしょうか」

照れ臭そうに話を逸らす、と言うよりも恭也も感じていた疑問を口にする。
アルフも同じ様に考え込むが、すぐに髪を掻き毟る。
思わず頬が緩みそうなるフェイトであるが、自身もまた考え出す。
そんな中、さっきから黙ったままだったクロノがまさかと小さく呟きを零すが、
周囲には誰もいないのでそれを聞く者は居ない。
クロノは邪魔される事なく、思い浮かんだソレをもう一度検討してみる。

≪なのは、君が今撃った魔法の構成はどうなっている?≫

≪構成?≫

≪つまり魔法を構築するにあたって……いや、そう言えば君は感覚で魔法を組んでいるんだったな≫

若干呆れたような響きを感じさせつつ、クロノは改めてなのはではなくユーノへと尋ねる。

≪さっきの魔法、もしかしてシールド破壊も組み込まれていないか≫

≪うん、組み込まれているよ。元々、なのはがあの魔法を覚えた状況がそれを必要としてたから……。
 って、まさか≫

≪ああ、僕もこんな単純なからくりだとは思いたくもないんだが、それ以外に思いつかない≫

二人の念話が聞こえている恭也やなのはは何を言っているのかが分からず、
フェイトは少し遅れてユーノと同じ事に気付く。
念話を交わしている間にも尾の攻撃は繰り出され、クロノは自身の考えを確かめるように新たな魔法を放つ。
デバイスから伸びた炎が尾を焼失させる。
だが、いつもならすぐに再生する尾は再生をしない。
それを見てクロノは確信を抱く。

≪やっぱり。
 再生が遅かった尾に共通していたのは、いずれもなのはのディバインバスターで吹き飛ばされたやつだったんだ≫

≪なのはのディバインバスターと他の皆の魔法の違いは出力なんかを除くと付加属性。
 つまり、なのはの魔法にはシールド破壊の効果が付いていた≫

≪その通りだ。僕らは具現化している所為で破壊力のある魔法で尾を粉砕しようとしていた。
 それだけの威力があるのだから、普通はシールドも貫けるからそんな余分な効果はわざわざ付けなかった≫

≪すまないが、よく分からんのだが≫

全て分かったとばかりにクロノとユーノの二人は話をするが、恭也となのはは未だに理解が及ばずにいた。
そんな恭也へとフェイトが自身に迫る尾を同じようにシールド破壊を付属させた魔法で吹き飛ばして、
やはり再生しないのを確認しながら念話を飛ばす。

≪つまり、あの八本の尾は具現化している物体ではなくてシールド魔法だったんです。
 だから再生が早いというよりも、シールドを張りなおしているだけだったんです。
 しかも、完全にシールドは消失していないから新たに魔法を構築するのではなくて魔力を注ぐだけで再生する。
 どんな構成でそれが可能なのかは分かりませんが、そいう魔法なんでしょう。
 でも、シールド破壊効果を持つ魔法で壊すと、魔法構築そのものが一旦崩れるから、
 尾を再生させるのに一から魔法を発動させなおさないといけなかったんです。だから、時間が掛かった≫

フェイトの説明に恭也だけでなくなのは、
そしてアルフも感心したように頷き、フェイトへと尊敬するような眼差しを向ける。
それをむず痒く感じて照れるフェイト。
それらを眺めながら、クロノは一人気付いたのは僕なんだがと呟くも、特には何も言わずに思考する。

≪つまる所、なのはの直感による戦い方が巧を奏した訳か≫

≪お兄ちゃん、もう少し言い方があるんじゃないかな?≫

≪ん? 何か可笑しな言い方だったか?≫

≪もう良いです。なのはだってちゃんと考えているのに……≫

ぶつくさと文句を呟くなのは。
だが恭也の言い方は確かに正しく、感覚で魔法を組み、理論は後回しだったために、
最初に覚えた通りに魔法を撃っていたなのは。
それに対し、フェイトやクロノはそうではなく、ちゃんと理論も組み立ても知っているからこそ、
より効率的な魔法を使おうとする。
故に、今回の敵に対してはシールド破壊などを付ける必要はないために付けずに魔法を構成していた。
恭也に至っては、そこまで魔法を扱えていないし知らない上に、
デバイスを剣として用いての物理的攻撃であるから言うまでもなく付いていない。
必要ならグラキアフィンが判断して勝手に付けてくれるであろうが。
やはり今回の敵を前にその機能は付けていなかった。
だからこそ、なのはの魔法――ディバインバスターのお陰である。
ただ、なのはは恭也に考えなしと言われたようで面白くなく拗ねている。
この直前に恭也がフェイトの説明に感心していた事も多少影響しているかもしれないが。

≪とりあえず話を戻しても良いかい?≫

何となく脱線しそうに感じたのか、クロノは再び話を九尾狐を倒すためのものへと切り替える。
とは言え、最終的に狙うのはコアと思われる紅眼に変わりはなく、その為に九本の尾は邪魔なままだが。

≪恭也さん、僕、それとそこの使い魔の三人で八本の尾を攻撃、及び注意を引き付ける。
 八本の尾を撃破した瞬間になのはにはさっきと同じように九本目の尾を狙ってもらう。
 それらの隙を付いて、この中で一番早いフェイト・テスタロッサが紅眼を仕留める。
 これでどうですか?≫

現状の戦力で出来る事をその特性から振り分ける。
反対意見は出ないかと思われたが、恭也が反対ではないが意見を出す。

≪すまないが、その作戦には問題がある≫

≪どの辺りでしょうか? 遠慮しないでお願いします≫

≪ああ。俺たちが八本の尾を引き受けるという事だが、当然そのシールド破壊という奴を使ってだろう?
 俺はそれを使えないというか、知らないんだが≫

恭也の言葉に呆然となる一同の中、フェイトとアルフだけは恭也の魔法の腕に関して知っているために納得する。

≪そう言えば、恭也は初歩的な魔法も殆ど苦手だもんね≫

≪むぅ≫

【問題ありません、マスター】

アルフの言葉に唸る恭也を安心させるとうにグラキアフィンが声を発する。

【私がシールド破壊の魔法を魔刃に組み込みますので。と言うよりも、既に組み込みました】

「それは助かる。……で、何処か変わったんだ?」

グラキアフィンに礼を言った後、恭也は刀身を見る。
だが、今までと同じように刃に魔力が薄く纏わり付いているだけで何の変化も見られない。

【目に見える変化はありませんよ。ですが……】

グラキアフィンの言葉の途中であったが、先ほどから執拗に恭也を狙ってくる尾が足元から迫る。
恭也は身体を捻って躱し、目の前を通過する尾を切断する。
斬られた尾は今までと違い、すぐに再生する兆しを見せなかった。

【あのように効果はちゃんと】

「ほう。凄いなグラキアフィン」

恭也の言葉にグラキアフィンは嬉しそうにその宝玉部分を明滅させる。
が、そんな中クロノはじっと恭也のデバイスを見詰める。
確かにインテリジェントデバイスは魔法を自動機動させたりする。
するが、あそこまでデバイス自身が魔法を発動させるだろうか。
今回のシールド破壊程度なら分かるが、思い返せば恭也自身が魔法を使っている場面を見ていないのだ。
あのクロノが前に喰らった魔法を放つ時でさえ、恭也は呪文を唱えていなかった。
とは言え、あれもそんなに難しい魔法でもないため、おかしな所がないと言えばないのだが。
ただクロノが疑問を感じているのは、今までの戦闘を見る限り恭也は魔導師と言えるのかという事であった。
多分、正確にランクを測ったらCですら危ないのではと。
だが、実際に共に戦っているとAランク以上だと実感できるのだ。
恭也が御神流と言う剣術をやっていると知らないクロノは、
魔法を使わずに戦っている恭也という存在を不思議に感じていたのであった。
ともあれ、恭也の方も問題がなくなったという事で作戦を実行に移そうとする。
だが、またしても恭也によって止められる。

≪コアには俺が行こう≫

≪何故ですか?≫

尋ねるクロノに恭也は淡々と返す。

≪あいつには尾以外にも雷という攻撃方法がある。
 コアに近付いたところでいきなり放たれたら、フェイトが危ないからな≫

それなら誰でも同じだと言い返そうとしたクロノであったが、恭也はそれよりも早く言葉を紡いでいた。

≪瞬間的に出せる速度なら俺の方がフェイトよりも速いからな。
 避けるだけなら出来るだろう≫

クロノが確認するようにフェイトとアルフを見るも、二人も認めるように頷いている。
それを見てクロノはフェイトと恭也の役目を入れ替える事を承諾し、作戦を実行するタイミングを計る。
だが、クロノとは違って二人は不安そうに恭也を見詰める。
そんな二人を安心させるように恭也は軽く頭を撫でるのだが、それがまたなのはには面白くない。
自分にも滅多にしない事なのにと拗ねるのだが、状況が状況だけになのはも邪念を振り払うように頭を振る。
それぞれの準備が整ったのを見てクロノが合図をする。
なのはは更に高く飛び、シューティングモードにしたレイジングハートを構える。
九尾狐に向って行く振りをするフェイトたちに紛れ、恭也は九尾狐の下方へと降りて出番を待つ。
三人は同時に八本の尾を破壊するために動き回りながら尾を一箇所へと集めていく。
あからさまに一つ所へと誘えば気付かれる可能性もあるが、フェイト、クロノが三本の尾を、
アルフが二本の尾をそれぞれ別の個所へと集めていく。
一箇所に集めて三人の攻撃で纏めて破壊するのではなく、それぞれに分担した尾をクロノの合図で破壊する。
急造のチームワークに頼るよりもこちらの方が良いと判断したのだろう。
それに、完全に同時でなくても良いのだ。
少しぐらいのズレは今回の作戦においては問題ないのだからという事で、この方法となったのである。
近くを飛び周り、隙あらば紅目へと飛び込む仕草を見せる三人へと自然と尾の攻撃も集中しだす。
なのはと恭也から完全に注意が逸れ、かつ三人へと揃って尾が伸びた瞬間にクロノから合図が念話で出される。
フェイトはタイミングをずらしてやって来る尾に対し、
光刃を発生させて鎌に似た形状へと変化させたサイズフォームのバルディッシュで一番近くに迫った尾を叩き切る。
同時にブリッツアクションを発動させて、急加速する。
姿がぶれたかと思えば、フェイトの姿は二本目の尾の傍に現れてバルディッシュを振りかぶっていた。
二本目も一本目同様に切断され、少し遠くにある三本目の尾へとフェイトはバルディッシュを構える。

「フォトンランサー!」

雷光を伴う魔力の槍が幾つも生み出され、真っ直ぐに尾へと向かって飛来して三本目の尾も粉砕する。
アルフの方はフェイトが二本目の尾を破壊した時には、逆に二本の尾に左右から挟撃されていた。
だが、特に慌てる事なく不敵とさえ見える笑みを浮かべて迫る二本の尾をぎりぎりまで引き付けると上へと逃れる。
すぐ足元を通過した尾から遠く離れる事なくすぐに反転し、左右の拳をそれぞれに叩き付ける。

「悪いね。私が得意とする魔法なんだよ、これは。バリアブレイク!」

アルフの拳が激突した瞬間、まるで硝子細工が砕け散るようにあっさりと霧散する。
残る三本の尾は、その時にはクロノのブレイズキャノンによって二本が吹き飛び、
その隙を付いてクロノへと迫っていた三本目の尾は即座に振り返って放たれたクロノの光の弾丸の前に簡単に消え去る。
八本の尾が消えるなり、上空から高密度の魔力の塊が生まれる。
ずっとこの時を待ち構えていたなのはが、収束していた魔力を一気に解き放つ。

「ディバインバスター・フルパワー!」

レイジングハートから放出された一撃は九本目の尾へと突き刺さり、僅かな抵抗を見せるも尾は引き千切られる。

【瞬移】

守りに徹していた尾が砕けた瞬間、グラキアフィンが短距離用の高速移動魔法を発動させる。
紅眼へと近付く恭也の目前に九つの雷球が発生する。
雷球が伸び、雷へと変じて恭也へと襲い掛かろうとする瞬間に恭也は神速を発動させる。
モノクロの中、雷球が太く大きな雷に変わっていくのを視界に捉えながらも逃げるのではなく前へと進む。
これを逃せば同じ手が通じるとは限らないから。
だが、恭也の行く手を阻むように雷は捻り曲がり降り注ぐ。
紅眼へと最も近い距離を結ぶ線上に僅かな隙間を見つけるも、このままではそこもすぐに雷で防がれる。
神速でも間に合わないと判断した恭也はグラキアフィンを握る手に力を込める。
恭也の意図を察し、止める時間も恭也が引き返す気もないと判断し、
グラキアフィンは恭也の求める魔法を発動する手助けを始める。

「刹神」

【刹神】

恭也とグラキアフィンの声が重なり、瞬間恭也の身体は弾かれるように更に加速する。
閉じかけていた隙間へとぎりぎりで飛び込み、魔法が切れた時には紅眼――コアが目の前に。
休ませろと訴える意識を、痛みを訴える身体を無理矢理押さえつけ、
恭也は刹神で得た勢いもそのままにコアへとグラキアフィンを突き立てる。
突き立てられたグラキアフィンは、刀身から魔力を放出する。
内部に直に魔力を注ぎ込まれ、コアに皹が入る。
そして、とうとう乾いた音を立ててコアが破壊される。
紅眼が消え去ると動じに、九尾狐を形作っていた薄い煙めいたものが空気に溶けるように消えていき、
代わりと言わんばかりにそこに青い宝石――ジュエルシードが浮かび上がる。
魔力の消費と最後に使った魔法による肉体的疲労から朦朧となっていた恭也に変わるように、
グラキアフィンがそれを回収する。
それを見て何か言おうとするクロノであったが、恭也はそのまま意識を手放したのか落下していく。
慌てて後を追ってそれを支えたのは、なのはとフェイトの二人であった。
二人は左右から恭也を支えるようにしながらも、自分たちも流石に魔法の使いすぎだったのか、
頼りなさげにふらふらと下に降りていく。地面に降りた二人は恭也の体重を支えきれずに腰を下ろす。
どうやら完全に疲れきっているらしく、捕まえるには絶好のチャンスである。
が、クロノとフェイトの間にはアルフが立ち塞がる。
こちらも動き回ってやはり疲れてはいるものの、
魔力の方にはまだ余裕があるようで牽制するようにスフィアを生成して見せる。
じっと恭也とフェイトを見詰めた後、クロノはなのはを見る。
お願いするような眼差しを向けてくるなのはにクロノは肩を竦めると、後はなのはに任せたとばかりに踵を返す。
実のところ、クロノ自身もほとんど魔力が尽きかけており、ここで更に一戦するほどの余裕はないのであった。
だがそれをおくびにも出さず、ただエイミィへと帰還用の召喚をお願いしてこの場を後にするのだった。
何もせずに去ったクロノにアルフもほっと胸を撫で下ろす。
幾ら魔力に余裕があったと言っても体力的には限界に近かったのだ。
アルフは恭也とフェイトの傍に降りると、意識をなくした恭也を抱き上げる。

「とりあえず、さっさと戻ろう。このままだと、あたしたちもこの場所から動けなくなっちゃうよ」

アルフの言葉になのはとフェイトも何とか身体を起こして立ち上がるも、すぐに那美と久遠のことを思い出す。

「あの二人は僕が魔法で運ぶよ。
 そのまま部屋まで運んで後は夢だったと思ってくれるのが一番なんだけれど……」

それはちょっと難しいだろうなとなのはは思うものの、
今日は本当に疲れたので考えるのは明日とばかりに歩き出す。
身体が睡眠を欲しているのだ。フェイトも同じらしく、無言のまま後に続くように歩く。
こうして、一つの事件が幕を閉じたのだった。
翌朝、一つの事件が起こるなどこの時には誰にも分かるはずもなく。



翌朝、朝食の為にロビーに集まった面々は中々起きてこない恭也を不審に思う。
フェイトやアルフの事は知らないし、なのはは朝が弱いから分かるのだが、恭也はこの中でも朝が早い方である。
その恭也が姿を見せないのだ。那美は朝早くに目覚めて、すぐに封印されている碑を見に行っている。
その際、昨日の事が夢ではなかった証拠に壊れた碑を見つけたが、あの悪霊の気配は全くなかった。
かと言って何処かに逃げたという残滓のようなものも感じられず、
うろ覚えながらも自分を久遠が助けようとした記憶から久遠に助けられたと考え、簡単に場を浄化だけしてきた。
なのはたちが心配せずとも、一人で完結した那美であったが、起きてこない恭也にもしかしてという思いを抱く。
慌てて恭也の部屋へと向かう那美の様子に、美由希たちも慌ててその後を追う。

「恭也さん、恭也さん」

部屋の前で恭也を呼ぶも待っても返事がない。
これも可笑しな話である。
躊躇う那美の横から美由希が扉に手を掛け、慎重にそれでも素早く扉を開ける。

「恭ちゃん、大丈夫!?」

何かあったのではという思いから一斉に部屋へと雪崩れ込んだ一同は言葉をなくして立ち尽くす。
そこには、恭也の腕を枕にして眠るなのはとフェイト、
そして、恭也の足の間から身体にかけて丸まるように眠るアルフの姿があった。
昨夜の戦いで全力を出し切り、疲れ果てていたために周囲に人が居てもいつものように起きない恭也。
恭也を運んだ所で力尽き、そのままここで眠ってしまったなのはたち。
昨夜の戦いが残した思わぬ置き土産であった。
何ともいえない空気が美由希たちから発せられる中、
まず恭也が目を覚まし、美由希たちの尋常ならざる様子に肝を冷やす。
同時に自分の身体が動かない事に驚き、その理由を見て更に驚く。
そんな恭也の動きでなのはたちも目を覚ます。

「……お兄ちゃん、おはよう」

「おはようございます、恭也さん」

「んんっ、後少しだけ寝かせて……」

三者三様にのんびりとした、状況を理解していない起き立ての頭で挨拶をしてくる。
それらに普通に挨拶を返しながら、部屋の入り口に立つ美由希たちを見て、美由希たちに対するフォローと、
はっきりと目覚めた時に慌てるであろうフェイトのフォローに、恭也は懸命に起き抜けの頭を巡らせるのだった。





つづく、なの




<あとがき>

ふー、何とか終わり。
美姫 「精進が必要ね」
ははは。反省……。
美姫 「まあ、それはそうと今回もまた没ネタがあるのね」
まあな。流石に状況から見てこれはあり得ないかなと。
美姫 「という訳で、今回の没ネタは……」



フェイトとアルフが若干だが嬉しそうな顔を見せるのだが、
それを離れた所で見ていたなのはは面白くなさそうであった。

「これだけの数のディバインシューターをコントロールするのは難しいね、ユーノくん」

「な、なのは? えっと、だ、大丈夫だよなのはなら!」

ただならぬ気配を感じてユーノはなのはの才能を褒めると、なのはは笑顔を見せる。
だが、それを見てもユーノは安心する事ができず、むしろ余計に薄ら寒いものを感じていた。

「一つや二つぐらいは制御できなくてお兄ちゃんの方に飛んで行っちゃうかもね。
 だよね、ユーノくん」

「いや、あの、僕に聞かれても……」

「だよね?」

「そ、そうだね。でも、やっぱり危ないから……」

「お兄ちゃんなら、一つや二つぐらいならきっと大丈夫だよ。
 だから、わたしも安心してもう少しスフィアを増やせるよ」

「…………既に制御できないという事を前程にして更に数を増やすのは可笑しいと思うんだけれど」

思いっきり冷や汗を流しつつ、ユーノは必死になのはを宥めるのだった。

(幾らサポートの方が得意だからって、これは何か違うよー!)

そんなユーノの苦労や心の叫びなど、恭也たちが知るはずもなかった。



ってな感じだな。
美姫 「なるほどね」
っと、今回の後書きはこの辺で。
美姫 「また次回でね〜」







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