『リリカル恭也&なのは』






第44話 「なのは対フェイト」





朝も早い午前五時の少し前。
海鳴市の南側、海に面した自然も多く広い敷地を持つ公園――海鳴臨海公園に五つの影があった。
二つずつ固まり、距離を開けて立つ。
残る一つの影はその中間に位置取り、

「時間までは後三分といった所か」

時計で時刻を確認しながらそう呟いた恭也の言葉に、なのはとフェイトは互いの顔を見遣る。
それぞれ付き添う人型となっているユーノとアルフは、互いのパートーナーを心配そうに見詰める。

「約束、覚えている」

心配するユーノに軽く微笑みかけながらも、その注意の殆どはフェイトへと向かっているなのは。
そんななのはの言葉にフェイトはただ小さく頷く。

「私が勝ってジュエルシードを手に入れ、そしてこれで終わりにする」

「わたしだって負けない。それに、終わりになんかならないよ。
 だって、まだわたしとフェイトちゃんの関係は始まってないんだもの。
 今、これからが本当に始まり。正直、勝ち負けはどっちでも良いの。
 わたしはただ、フェイトちゃんとお友達になりたいだけなんだもの。
 でも、それだとフェイトちゃんは分かってくれないみたいだから……。
 だから、勝つよ。勝って全部聞かせてもらう」

「私も負けない」

暫し沈黙して見詰め合う二人が気付くぐらい、大きな結界が突如海面から発生する。
大規模な結界はそのまま海際に居る恭也たちの所まで広がり、五人を結界の中へと入れた所で止まる。
すぐにこれが管理局側の用意したものだと理解すると、二人は無言のまま空へ。
残る三人はその場で見守るべく、ただお互いのパートーナーを見詰め、恭也は二人を静かに見詰める。
それらの視線を受けつつ、なのはとフェイトは戦いの場を海上へと移す。
一方、次元の狭間で待機するアースラでは、
クロノたちが今回の戦いにおける結界の維持とは別の作業に取り掛かっていた。
プレシアが何かアクションして来た場合、プレシアの居場所を探知できるように。
何もして来なかった場合は、せめてフェイトの潜伏先を探るべくその準備を。
なのはには悪いと思うが、こればかりは仕方ないとクロノは割り切り、全ての準備が整ったという報告を受ける。
後は完全にこの対決と傍観者に徹するべく、映し出されるモニターに視線を向ける。

「どちらもAAAランクの魔導師。経緯や立場などは兎も角、正直興味はあるね」

「なのはちゃんは感覚で魔法を組み上げる、ある意味凄い才能の持ち主よね。
 で、対するのは才能と理論のどちらもしっかりと持ち組み上げる、これまた天才と言えるような子と。
 クロノくんはどう見る?」

「勿論、なのはに勝って欲しいね。
 ただ二人のやりあいだというのなら、僕は口出しはしないさ。
 けれども、ジュエルシードまで賭けてやられる以上は、なのはに勝ってもらわないとね」

「そういう事が聞きたいんじゃないんだけれどな……」

つまらないと愚痴を零すエイミィに真面目にやれと注意をした後、クロノは少しだけ考える素振りを見せ、

「正直、経験や戦術、戦略ではフェイトの方が上なのは間違いないだろうな。
 そもそもなのはは魔法を知ってまだ二ヶ月程度なんだ」

「つまり、フェイトちゃんが勝つって事?」

「そう簡単にはいかないとは思うけれど。
 なのはは確かに感覚で魔法を組み上げているみたいだけれど、努力だってしている。
 そもそも、感覚で魔法を組むからこそ恐ろしい。
 僕らが理論を理解し、それから組み上げて自分のものにしていく。
 実際に使う際にも、その魔法の特性や短所などを考え、使いどころを見極めて使用する。
 そういった部分を全てすっ飛ばしているんだから。
 逆に言えば、その状況、状況で必要な魔法を瞬時に発想し、組み上げているんだ。
 正直、無茶苦茶だ。けれども、だからこそその才能はとんでもなく凄いし、そう簡単には勝負は着かないだろうね」

「結局の所、分からないってことか」

エイミィが思わず呟いた言葉に、クロノは顔を顰めるも口を閉ざしてただモニターへと視線を移す。
そこでは結界のほぼ中央まで来た二人が距離を開けて対峙していた。



 ∬ ∬ ∬



「いくよ、レイジングハート」

「バルディッシュ」

自身のマスターの声にデバイスが答え、同時に魔法を発動させる。
フェイトの周囲に黄色に輝く小さな光の球が五個。
対するなのはも同じような、こちらは桜色の光の球をこれまた五個。

「フォトンランサー」

「ディバインシューター」

フェイトの声に応じ、フェイトの周囲に浮かんでいた光の球――フォトンスフィアが雷光を纏う槍を撃ち出す。
一直線になのは目指して飛んで行く速度は、同時に放ったなのはの魔法よりも速い。
対し、なのはの呪文に応えて、光の球――ディバインスフィアからそのままの球体が撃ち出される。
速度は遅いが、一直線に迫るフェイトのフォトンランサーに対し、
なのはのディバインシューターはフェイトを包囲するように、上下左右、そして背後へと回り込む。
術者が弾道を誘導できるのか、避けたフェイトを五つの光弾が追う。
フェイトの放たれた魔法を躱し、避けきれない一つをシールドを展開して防ぐなのは。
その衝撃にも光弾のコントロールを乱さず、五つの光弾はフェイトに追いすがる。
だが、フェイトもただ逃げていただけではなく、その得意のスピードで光弾と距離を開け、
光弾が密集してすぐ後を追ってくるのを見ると、即座に反転。
鎌のような形態――サイズフォームにバルディッシュを変えると、その光刃で擦れ違いざまに光弾を斬る。
後方で上がる爆音を背に、フェイトはなのはへと向かう。
フェイトの見詰める先で、ディバインシューターを破壊されたなのはは次なる魔法を唱えている。
レイジングハートの先端をフェイトへと向ける。
レイジングハートを囲むように帯状の魔法陣が浮かび上がり、魔力が先端に収束されていく。
フェイトが接近するのをしっかりとその目に焼き付け、なのははその一撃を放つ。

「ディバインバスター!」

放出された魔力が帯状にフェイト目指して飛んで行く。
砲撃のような攻撃に対し、しかしフェイトはひたすら真っ直ぐに飛ぶ。
そのままぶつかると思われたその瞬間、フェイトは身体を捻り、速度を落とす事なくなのはの砲撃を躱す。
が、なのはは未だにディバインバスターを放出し続けるレイジングハートを横に、フェイトの避けた方へと振る。
その動きに合わせ、まるで剣でも振るうかのようにバスターの軌道が動く。
流石にこれは予想外だったのか、フェイトは高速移動魔法、ブリッツアクションを発動して上へと逃れる。

「強引にも程があるだろう。力技で無理矢理バスターの軌道を変えるなんて。
 本当に何て無茶苦茶な……」

モニター越しに観戦していたクロノが、思わず呆れたような声を上げる。
けれども、そんな事が出来るほどにデバイスとの相性が良く、またその少し変わった発想には素直に感心する。
が、表情はあくまでも渋面のままだが。
二人の戦いを見守っているユーノとアルフも、同じように呆れた感じである。
ただ、その二人の間に立つ恭也だけはただ感心したようにしていたが。
この辺り、魔法に疎い故だろうか。
フェイトもまた呆れたようになのはを見据えつつ、バルディッシュを大きく振りかぶり、

「アークセイバー」

上から下へと振り下ろす。
光刃がバルディッシュから発射され、なのは目掛けて飛んで行く。
速度は先程のフォトンランサーよりも遅い。
が、コントロールが効くのか、避けたなのはの後ろから再びターンをして迫り来る。
背後から迫る光刃にシールドを展開し、反対側から来るフェイトにはレイジングハートを向ける。
光刃がシールドに触れ、暫し互いに押し合うように震える。
アークセイバーを防いだなのははフェイトへと魔法を放とうとして、
しかし、次の瞬間には光刃がシールドを破壊してなのはへと迫る。
両サイドから迫るフェイトと光刃。
なのはは両手をそれぞれに向けて広げる。

【ラウンドシールド】

レイジングハートがプロテクションよりも強靭な防御魔法をなのはの両手にそれぞれ発動させる。
両掌の前に現れた魔法陣でフェイトの攻撃と光刃を受け止める。
拮抗するようにフェイトと光刃がその場に留まり、押し切ろうとした瞬間、

「ブレイク」

なのはの声に応え、盾となっていた魔法陣が爆発する。
その爆発の勢いに光刃は消え去り、フェイトは吹き飛ばされる。
だが、爆発の瞬間に自ら後ろへと飛んでおり、ダメージは少ない。
それでも、デバイスを握っていた腕は僅かに痺れていたが。
これまた見ていた三人は、シールド魔法そのものに弾き飛ばすような機能を付加していたのではなく、
瞬間的にシールドに魔力を送って、内部から爆破させたなのはに何とも言えない視線を送っていた。
そんな事は知らないなのはは、距離の開いたフェイトへと再びディバインバスターを放つ。
対するフェイトも、上空に居るなのはへとバルディッシュを構え、

「サンダースマッシャー!」

雷光を伴った帯状の魔力をぶつける。
互いの魔法がぶつかり合い、せめぎ合う。
しかし、それは一瞬の事でフェイトの魔法がなのはの魔法を貫く。
驚きつつも回避するなのは。
フェイトの魔法は、右肩を掠るようにフェイトの魔法は天へと突き抜けていく。
非殺傷とは言え、やはり痛みは感じるのか左手で右肩を押さえる。
それでも視線は逸らさずにフェイトへと向けられている。
動きを止めたなのはへと、フェイトは再び接近する。
今までの戦いから、なのはが接近戦を得意としていないと見抜いた上で。
なのは自身もそれが分かっているから、ディバインシューターでフェイトを牽制して距離を開けようとする。
だが、フェイトはそれらを魔法で相殺し、時折ブリッツアクションでなのはを撹乱するように動き近付いていく。
右に現れたかと思えば、こちらが魔法を放つよりも先にまたブリッツアクションを発動して姿を見失う。
次に現れたのは背後。急ぎ反転しレイジングハートを向ける頃には、その姿は今度は上に。
完全にフェイトの動きに翻弄されるかのようにきょろきょろと周囲を見るなのは。
その距離は徐々に近付いてきており、なのはの顔に僅かに焦りが浮かぶ。
何度目かのブリッツアクションでフェイトをまたしても見失うなのは。
その背後にフェイトは現れ、サイズフォームのバルディッシュを振り下ろす。
なのははフェイトに気付いておらず、その一撃がなのはの背中を斬り裂く。
かと思われた瞬間、今度はなのはの姿が一瞬にしてその場から消える。

【フラッシュムーブ】

フェイトの耳にレイジングハートが発した声のみが届き、気が付いた時には逆に背後をなのはに取られていた。
だが、フェイトのバルディッシュのように接近戦用へと変形できなレイジングハートでは、
打撃としての攻撃力は少ない。また、すぐ真後ろという近距離故に、なのはが魔法を唱えるよりも、
フェイトのアクションの方が速いと判断し、フェイトは逃げずにバルディッシュを振りぬくように身体を回転させる。
が、背後に回ったなのはは続けざまレイジングハートを両手で握り締め、

「フラッシュインパクト!」

フラッシュムーブによる移動に加え、圧縮された魔力を乗せてレイジングハートを叩き付ける。
閃光を放ちながら小さな爆発を起こし、フェイトを吹き飛ばす。
フェイトの素早い動きに対応するためになのはが考えた接近戦用の魔法。
だが、接近戦ではフェイトに分がある上に、速度でも勝てない。
だからこそ、フェイトが近接攻撃をして来た際のカウンターとして使用すべく、
なのははこの状況を待っていたのである。わざとらしく狼狽した振りまでして。
海面目指して落ちていくフェイトを見下ろしながら、なのはは更に上へと上昇する。
距離をもう少し開け、後はフルパワーで魔法を放つつもりである。
上昇していたなのはの動きが突然止まる。
本人が意図しての事ではないらしく、その顔には戸惑いが浮かぶ。
一方、落ちていたフェイトも途中で止まるとなのはを見上げる。
流石にノーダメージという訳にはいかなかったみたいではあるが、まだその目は戦意を失っておらず、
寧ろ罠に掛かった獲物を追い詰めるかのように鋭い。
すぐにフェイトの魔法だと気付いたなのはが顔を下に向けると同時、フェイトは小さく呟く。

「ライトニングバインド。これでもう動けない。
 終わりだよ」

バルディッシュを静かに構え、フェイトは魔力を収束させる。
見れば、なのはの周囲に金色の魔力が浮かび上がる。
なのはを撹乱するように動きながら、フェイトはこのバインドをなのはの周囲に設置していたのである。
本来のバインドとしての捕縛効果以外に、フェイトのライトニングバインドには、
周辺の雷撃系魔法の威力を上げるという効果も持っている。
接近戦で勝負を決めるように見せていたフェイトであったが、最後の決め手として考えていたのは砲撃魔法であった。
なのはが自分の速度と接近戦闘を警戒しているだろうと考えて、
フェイトは拘束と自身の雷系魔法の威力アップをするライニングバインドを、
どうなのはの周囲に配置するかを考えていたのである。
バルディッシュに集まっていく魔力。フェイトが放とうとしている魔法、
それは先程なのはのディバインバスターを打ち抜いたサンダースマッシャーであった。
バインドから抜け出そうともがくなのはへと、フェイトはその一撃を放つ。

「サンダースマッシャー!」

さっきよりも大きな砲撃がなのはへと襲い掛かり、そのまま吹き飛ばす。
直撃を受け、バインドの拘束も解けたなのはは真っ直ぐに海へと落ちていく。
僅かだけ悲しげな瞳でなのはを見るも、フェイトはすぐに頭を振ると前を向く。
これで自分の勝ちだと証明するかのように。



「フェイトの勝ちだね。早く助けに行かないと、このままだと溺れちゃうよ」

二人の戦いを見ていたアルフが、何処か複雑そうに、けれどもほっとしたように声を上げる。
しかし、それに対する答えは、

「まだ分からないよ」

ユーノの静かな、けれども力強い声だった。
怪訝そうに見遣るアルフであったが、恭也もまたじっと海面を見ているの気付く。

「来るぞ」

アルフが恭也の言葉の意味を聞くよりも早く、海面から空へと一本の桜色の光が立ち上る。
それはフェイトの横を掠める程度で当たりはしなかったが、フェイトは驚いたように海面を見詰める。
いや、光の立ち昇った先、更に正確に言うのならば、海面からあれを撃った人物を。
他でもない、白い防護服に身を包んだ少女、なのはその人を。
海中から放ったディバインバスターが当たらなかった事には特に何も思わず、なのははゆっくりと浮上する。
仕切りなおしを宣言するかのように、レイジングハートをフェイトに向かって構える。

「いける、レイジングハート?」

マスターの問い掛けにレイジングハートは短く、けれども頼もしく肯定の言葉を返す。
その声に笑みを向け、再びフェイトを見上げる。

「いくよ、ディバインシューター・フルパワー!」

なのはの周囲に十を越えるスフィアが生成される。
それらが一斉にフェイト目掛けて襲い掛かる。
流石にこれだけの数だと全てをコントロールは出来ないのか、幾つかはそのままフェイトを通り越して飛んで行く。
それでも半分はフェイトへと向かう。

「フォトンランサー・マルチショット」

フェイトもスフィアを数個生成し、ディバインシューターの迎撃にあたらせる。
迎撃できない分は、前と同じようにバルディッシュに生み出した光刃で斬り伏せる。
ディバインシューターの中を突き進み、フェイトはなのはへと近付く。
自分の後ろを追ってくる、破壊できなかったディバインシューターへと一度だけ目を向けるも、
すぐにその視線は目の前のなのはへと向けられる。
フェイトの接近を見て、逃げれないと思ったのかなのははその場でフェイトを迎え撃つように構える。
振り下ろされるバルディッシュをラウンドシールドで防ぎ、
続けざまに振るわれる二撃目は後ろに下がってやり過ごす。
完全には躱せずにバリアジャケットの左腕部分に切れ目が出来るが、
なのははフェイトの後ろから近付いてきたディバインシューター三つのコントロールに集中する。
三撃目がなのはへと繰り出される前に、一つ目のディバインシューターがフェイトの足元から上へと弧を描く。
なのはとの距離が開くも下がって躱すフェイトの後ろと頭上、その二方向からもディバインシューターの光弾が迫る。
身体を横に回転され、後ろから迫る光弾を迎撃。
その勢いのまま横にずれて上からの光弾をやり過ごす。
二つの光弾は互いに螺旋を描くように動きながらフェイトへと真っ直ぐに向かう。
フェイトがバルディッシュで迎撃しようとする動きを躱し、そのまま背後を突くように回り込む。
後ろから迫る光弾に対し、フェイトは前へと出た勢いのまま空中で縦に回転して光弾の背後へ。
そのまま落下するようにバルディッシュを一閃。
一振りで二つの光弾を破壊する。
が、その眼前にフラッシュムーブで移動したなのはが現れる。
フラッシュインパクトを警戒したフェイトに対し、フラッシュムーブの前に既に準備していた魔法を放つ。

「ディバインバスター・フルパワー!」

この近距離での砲撃魔法は予想していなかったのか、シールドを展開しようとしていたフェイトは直撃を受ける。
フラッシュインパクトなら威力をかなり軽減できたであろうシールドも、
なのはのディバインバスター、それもフルパワーで撃たれたソレの前にはまるでガラスのように簡単に砕け散る。
先程とは逆に今度はフェイトが海上へと落下をする。
するも、海上すれすれでフェイトは踏み止まる。
互いに息が上がり、纏ったバリアジャケットもボロボロ。
しかし、その目には強い力が、意志がまだはっきりと見える。
だから、アルフもユーノも止める事は出来ず、ただやきもきしながらも見守る事しか出来ない。

「やっぱりフェイトちゃんは凄いね。直撃したはずなのに」

「……それを言うのならあなたも。でも、負ける訳にはいかない」

「それはわたしも同じだよ。どうしても、お話を聞かせてもらうんだから」

「……本当に呑気というか。多分、今までずっと幸せだったんだろうね。
 恭也さんのようなお兄さんがずっと傍に居て、ただ幸せで居られる。
 寂しさや孤独など知らずに。だから、そんな事を言えるんだ。でもね、そんなに世界は優しくない。
 何でも思うようにいくとは限らないんだよ。それを教えてあげる」

淡々とした口調でありながら、なのははそこに何かを感じたのか、ただ黙ってフェイトの話を聞く。
感情を顕わにした訳ではないが、そこに確かにフェイトの苦しみや悩み、そして感情を見たような気がする。
だからこそ、フェイトに勝たなければならない。
フェイトと仲良くしたいと思っている子が、少なくとも一人はここに居るって事を伝えるために。
今までに何があったのかは分からないけれど、それでもこれからは今までとは違うという事を。
友達として何かをしてあげたい。何も出来なくても、傍にいてあげたい、というこの気持ちを。
その為に、友達になるためにも今は。
話しを終えて自分へと向かってくるフェイトを見詰めながら、なのはもまたレイジングハートを強く握る。
出会ってからずっと共に戦ってきたパートーナーに、今の考えを伝えるかのように。
そしてそれはしっかりとレイジングハートにも伝わったのか、何も言わずにただ宝石を光らせる。
フェイトのバルディッシュをシールドで防ぎ、開いた僅かな距離で魔法を構築して放つ。
それは避けられるも続けてもう一発。
今度は躱しながら近付いて来て、逆に防御に回る。
フェイトの続けざまの攻撃を不格好ながらも躱し、なのはは何度目かの高速移動で距離を開ける。
だが攻撃はせず、なのはは今度は自分の番とばかりに口を開く。
フェイトの口からだけ語らせるのは不公平だから。
少しでも、どんな事でも言葉を交わす事で距離が縮めれるかもしれないから。
何もしないで無駄だと思う事こそ無駄だ。
前に恭也に言われたように、一度や二度振り払われたぐらいでは諦めない。
そんな思いと共に、なのははフェイトに声を掛ける。

「フェイトちゃんの言いたい事は分かったよ。
 でも、フェイトちゃんが今までどうだったのかは分からない。
 ただね、わたしだって寂しい思いはしてたよ。
 フェイトちゃんに比べたら、それはまだ恵まれていたのかもしれない。それは分からないけれど。
 わたしが小さい頃はおかーさんもお店が忙しくて、お兄ちゃんやお姉ちゃんも剣の修行で。
 本当の孤独ってのはよく分からないけれど、それでも相手をしてくれる人が誰もいなくて、
 一人で家で誰かが帰ってくるのを待っていた。
 家の中はもの凄く静かなのに、遠くからは色んな音が聞こえてくるの。
 楽しげな音、賑やかな音が。だから、寂しいって気持ちは少しだけれど分かる。
 まあ、わたしの場合はその後、レンちゃんや晶ちゃんが来てくれたし、
 お兄ちゃんが気付いてすぐに寂しくなくなったけれどね。
 だから、フェイトちゃんの言うようにわたしは呑気で甘いのかもしれないね」

少し自嘲気味に笑うなのはの顔には、けれども暗いものは何もなく、
自分を放っておいた家族に対する恨みも見当たらない。
恭也から少しだけ話を聞いていたとは言え、
本人から聞いたことで、フェイトはなのはのその感情に思わず言葉を返す。

「構ってもらえなかったのに、何でそんな」

「うーん、当時はもの凄く拗ねたりしたかも。
 でも、ちゃんと理由があったって事は今は知っているし。
 それに、わたしはおかーさんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、皆大好きだから」

なのはも寂しい思いをしていたと知り、フェイトは何とも言えない表情を見せる。
しかしそれは一瞬で、フェイトは笑みを浮かべる。
それはなのはが始めてちゃんと目にしたフェイトの微笑み。
思わず嬉しくなるなのはに、フェイトは自分から話し掛ける。

「甘いと言った事は取り消す。あなたは強い。多分、私より」

その言葉に慌てるなのはに構わず、フェイトは更に続ける。
まるで自分にも聞かせるかのように。

「自分だけが辛いんだと思ってたけれど、そうじゃないんだよね。
 ううん、私は最近まで辛いなんて思わなかった。
 アルフが何気なく言った言葉に少しだけ考えさせられたんだ。
 生まれてからずっとお母さんのために頑張ってきたけれど、そこに自分の意志はないのかなって。
 考えてみたけれどやっぱり分からなかった。
 だって、それが当たり前だったし、何よりもお母さんの喜ぶ顔が見たかったから」

「お母さんのこと、好きなんだね」

なのはの言葉にフェイトはしっかりと頷く。
その顔には迷いはなく、フェイトは確認するように言葉を紡ぐ。

「さっき、あなたの言葉を聞いてはっきりと分かった。やっぱり、私はお母さんの事が好きなんだ。
 私は私の意志でお母さんの為に動いているんだって。
 だって、お母さんに喜んで欲しいと思うのは私の意志だもの。
 だから、この戦いに勝ってジュエルシードを手に入れる」

「分かった。わたしも全力全開で相手するよ!」

互いにデバイスを手に、フェイトは距離を詰め、なのはは魔法を放つ。
再び縮まる距離。先程と同じように、何度も互いに攻防を繰り返す。
当然ながら、徐々に体力を失っていく二人。
既に体力は限界近く、共に肩で息をする。
なのはの方が体力はないはずだが、機動を武器とするフェイトの運動量はなのはよりも圧倒的に多く、
結果として互いに体力を削りあうような形となっていた。
けれども、それと反するかのように二人の胸には何とも言えないものがこみ上げてくる。
温かい何かが。気付けば二人は知らず、薄っすらとその顔に楽しげな笑みを見せている。
それにすら気付かず、二人はまるでダンスをするかのように縦に横にくるくると回りながら攻防を繰り返す。
何度目の攻防か、フェイトの振り上げたバルディッシュになのはが防御に回る。
しかし、そこに攻撃は届かず、今まで執拗なまでに接近していたフェイトが一気に距離を引き離す。
突然の事に追いすがる事もできずいたなのは。
後退するフェイトは残る力を全て振り絞るかのように、魔力が集まり出す。
それが砲撃魔法だと悟る前に、フェイトの魔法が完成する。

「サンダースマッシャー!」

視界を塗りつぶさんと迫る魔法に、なのはは防御せずに前へと出る。

【フラッシュムーブ】

ぎりぎりで躱しながらフェイトへと近付くなのは。
魔法を放った直後を付くように、なのははそのままフェイトへとレイジングハートを振りかぶる。

「フラッシュインパクト!」

僅かに吹き飛ぶフェイト。
だが、それよりも閃光によって一時的に視界をやられた事の方が大きく、フェイトは視力が回復するのを待つ。
それ程の時間を掛けずに視力は戻るが、その間に攻撃してこなかった事を訝しむ。
なのはの本来の攻撃スタイルは長距離からの砲撃。
ならば、さっきの間に呪文を唱えているのではとその姿を探す。
その予想は当たり、少し離れた所で魔法を唱えるなのはを見つける。
残り体力も魔力も少ないフェイトには、なのはの砲撃を防ぎきれるか微妙である。
だからこそ、完成前に潰そうと近付く。それが、なのはの罠であったと知らずに。

「今! レストリクトロック」

なのはの言葉に応え、周囲の空間に魔力が満ちる。
何の魔法か気付いたフェイトは慌ててその範囲から逃れようとするが遅く、
フェイトの両手両足を桜色の魔力が拘束する。
フェイトが使った設置型のバインドではなく、空間そのものに掛け、その範囲内の者を捕縛する魔法。
砲撃系の魔法を警戒して突っ込んできたフェイトは、まさにその魔法の中に飛び込んできた事となる。

「幾らフェイトちゃんが素早くても、これでもう逃げれないよね」

言って笑うなのはを見て、フェイトはこれこそがなのはの狙いだと気付く。
最初から、なのはは自分を拘束してから砲撃魔法で仕留めるつもりであったのだと。

フェイトとの距離を開け、レイジングハートに魔力が収束していく。
その魔力はなのは本人だけでなく、周辺に未だに残っているなのはの魔法の残骸、魔力の残りまでも収束する。
レイジングハートの先端から、もの凄い量の魔力が感じられ、まるで小さな太陽のように輝く。
いや、そんなに強い照り付けるような光ではなく、包み込むような優しい光。
まるで、月か星のような輝きを灯す。
けれども、その魔力量から察するに、そんな優しいものではないだろう。
必死にバインドを解除しようと試みる。
だが、とうとうなのはの魔法が完成してしまう。

「いくよ、フェイトちゃん。本当の本当に全力全開!
 スターライトブレイカー!!」

星が最後の命を燃やし尽くす瞬間の眩い光を発しながら、なのはの魔法が放たれる。
スターライトブレイカーは、フェイトを飲み込み、そのまま海へと落ちる。
大量の海水を頭上へと噴き上げ、それが雨のように降る中、なのはは静かに海面を見詰める。
やがて、そこにフェイトが浮かび上がってくる。
どうやら意識は失ってないものの、全く力が入っていない様子で、すぐに海へと沈んでいく。
慌ててなのははフェイトの元へと向かう。
なのはもまたふらふらの状態でありながら、何とかフェイトの手を掴んで海上へと引き上げる。
だが、そこで力尽きたのか、そのまま海上へと落ちそうになる。
それを大きな手が掬い上げる。

「全く、二人ともとんでもない無茶を。見ているこっちの方が肝を冷やした」

そう言って優しく微笑む恭也の腕の中に納まり、
なのはもフェイトも、その温もりにどちらともなく笑顔を零すのだった。





つづく、なの




<あとがき>

ようやく対決も終わった。
いやー、やっぱりバトルは難しいな。
美姫 「最後はスターライトブレイカーってのは決めてたんでしょう」
まあ、これはな。やっぱり、最後は必殺技で。
美姫 「で、続きは?」
す、すぐに書くよ……。
美姫 「ほらほら、キリキリと働きなさい」
ひぇぇぇぇ〜!
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る