『リリカル恭也&なのは』






第47話 「突入、時の庭園」





プレシアのいる、時の庭園と呼ばれる次元間移動庭園。
その地に、なのは、アルフ、クロノの三人、いや、なのはの肩にいるフェレットのユーノの四人は降り立つ。
エイミィたちの努力により、この庭園がいる位置を割り出せたのだが、
プレシアの方ももうすぐ目的が叶うからか、その辺りをあまり気にしていなかったようにも見受けられる。
とは言え、こうした侵入者に対する備えがないはずもなく、クロノたちの足は自然と慎重なものになる。
遠くに見える塔らしきものを目指し、元は美しい景観を誇ったであろう、
現在はすっかり見る影もない庭園を歩いていく。
草花の全くない、灰色の岩肌が広がる地を抜け、一向は何の妨害もなく入り口へと辿り着く。
流石に可笑しいと感じたのか、先程よりも慎重にクロノが扉へと手を掛け、両開きの扉を開ける。
吹き抜けのように三階分ほどの高さを誇る天井からは必要最低限程度の灯りが落ち、
大きく開けたエントランスの左右と、ずっと奥の正面には扉が見える。
左右の扉はどちらも薄汚れており、ここ最近誰かが触れた形跡すらない。
となれば、残るのは正面の扉かと顔を向けるクロノの考えを肯定するように、アルフが指差す。

「プレシアはあの扉のずっと奥にいるはずだよ」

「明らかに罠ですって感じだけれど、行くしかないよね」

なのはの肩でそう言うユーノの視線は、左右にずらりと並んだ鎧に向けられている。
各々、手に剣や槍、斧といった武器を手にして立ち並んでいる。
そこを許可なく通過する者の頭上に振り下ろさんとばかりに、両手で胸の前に抱えて。

「確かに怪しいけれど、このままここで立ち止まっている訳にもいかないだろう。
 よし、こんな時こそ使い魔の出番だ。ユーノ、君がまず先行してくれ」

「断る! と言うか、そもそも僕は使い魔じゃないって言ってるだろう!」

「冗談だ、そう怒るなよ」

「冗談って……。あのね!」

平然と言い放つクロノに怒鳴り返すユーノを、なのはが慌てて止める。
そんな様子を呆れたように眺めていたアルフであったが、埒が明かないと思ったのか前へと進み出る。

「罠かどうか分からないで悩んでて時間を潰すより、罠だったらその罠ごとぶち壊していけば良いんだよ」

両手の拳をぶつけ、アルフは構える。
今にも走りだろうとするアルフを、今度はクロノが呆れたように見返し、けれどもデバイスを構える。

「かなり乱暴だが、確かにその通りだ。どちらにせよ、僕たちには進むという選択肢しかないんだしね。
 でも、その前に……」

言ってなのはとユーノを見る。

「ここからなら、まだ引き返せるけれど」

最終確認だと言わんばかりにそう尋ねてくるクロノに対し、なのはすぐさまその目に強い力を篭め、
それだけで引き返す気はないと分かるほどの意思で、しっかりと見返してくる。

「勿論、行きます!」

既に分かりきっていた答えを改めて言葉にして聞かされ、クロノもそれ以上は何も言わずに頷く。
それを了承の証と受け取ると、なのはもデバイスを握る手に力を篭める。
未だ目覚めぬ恭也とフェイトを思い、いつまでも守られてばかりいる存在ではないと証明するために。

「とりあえず、アルフには少々危険だが先行してもらう。
 その後を僕が続く。なのはとユーノはこの場に居て、何かあった際に頼む」

クロノの指示に従い、アルフがまず奥の扉へと歩き出す。
それから少し遅れ、クロノがいつでも魔法が放てるように周囲を警戒しながら続く。

「一層の事、こいつらを壊しながら進んだらどうかな?」

「……いや、それは止めて置こう。魔法に反応して動き出すと言うタイプの罠かもしれない。
 もしそうなら、自分たちで無闇に障害を増やす事になる」

アルフの言葉に少し考え、クロノはそう返す。
トラップだとしても作動しないのであれば問題はないのだ。
なので、迂闊な行動は慎む。
二人が丁度中央辺りに差し掛かった頃、それまで何も起こらず、侵入者を通過させていた鎧に異変が現れる。
アルフがそこから一歩踏み出した瞬間、近くにあった四体の鎧が動き出して武器を振り下ろす。
四人に囲まれた形で攻撃を受けたアルフは、前の一体へと向かって突っ込む。
武器が振り下ろされる前に相手に肘を掴み、攻撃を止めさせると、その空いた胴へと力いっぱいに蹴りを放つ。
けたたましい音を上げながら吹き飛ぶ鎧人形は、腹部を凹ませながらも起き上がる。
蹴りを放ち無防備になったアルフの後ろから迫った二体は、クロノの魔法がしっかりと腹部と頭部を貫いていた。
残る一体は、アルフの拘束魔法で最初の攻撃に入った状態のまま動きを止められており、
そこをアルフの魔法が、起き上がった鎧人形共々沈黙させられる。
と、それを合図とするように、その場にあった全ての鎧が動き始める。
このままではかなりの数に囲まれる事になるが、その輪の外にはまだなのはが待機しており、
クロノとアルフの背後に立つ鎧人形は、順次行動不能へと陥っていく。
なのはの周りに形成された、複数の桜色の光球。
それが別々の鎧人形へと向かって飛び、鎧人形を打ち壊していく。
魔法に対する強度は殆どないのか、面白いほどに簡単に壊れていく。
そのくせ、アルフの拳や蹴りでは壊れず、歪み凹みを作りながらも立ち上がる。
なので、アルフも魔法を使って鎧人形を壊していく。

「ちっ、どうやら魔力を消費させるための罠って事か」

それらを見てそう判断したクロノだったが、魔法以外では破壊にてこずるであろうから、やはり魔法での破壊になる。
とは言え、やはり必要以上に魔力の消費は押さえたいと考え、クロノは一番近くにいたアルフの背後に立つ。

「少しの間、背中は頼むよ」

一方的にそう告げると、返事もまたずに自身のデバイスS2Uを頭上に掲げる。

「スティガースナイプ!」

クロノのデバイスから魔力光弾が一発だけ放たれる。
それは鎧人形を粉砕した後、消えずに次の獲物へと襲い掛かる。
クロノの制御によって次々と鎧人形を壊していく魔力光弾。
その制御に集中するクロノを、迫る鎧人形からアルフが守る。
ほどなくして、その場にいた鎧人形は全て破壊される。

「それじゃあ、行こう」

なのはたちが合流してくるなり、クロノはそう言うと歩き出す。
この現状を作り出した事など大した事でもないとばかりに。

≪クロノくん、凄いね≫

≪うん。魔力量こそなのはたちよりも少ないけれど、
 魔法の構築、攻撃速度、操作技術などは明らかになのはたち以上だよ≫

先を歩く背中を追いながら、なのはとユーノは念話で話をする。
そんな二人に気付いた訳ではないが、クロノは振り返って二人を急かす。

「プレシアの企みを何としても止めないといけない」

そこまで言った時、地震が起きたのか地面が大きく揺れる。
咄嗟に倒れるのは免れるが、震動は止まず小さいながらも震え続けている。
何が起こったのか警戒する一同であったが、クロノへとアースラから通信が入る。

「エイミィか。どうした?」

「多分、そっちでも何か異変があったと思うけれど、時間がないから単刀直入に言うからね。
 今さっき、大きな次元震が観測されたの。その発生地点と思われるのは……」

「まさか、ここなのか」

「そのまさかだよ。これがプレシアの行動によるものかどうかは断定できないけれど、
 その手に多くのジュエルシード、そして、目的を達成できると告げてから時間が経っていない事。
 他にも色々と挙げれるけれど……」

「いや、充分だ。だとすれば、尚更急がなければ」

慌てるクロノに対し、なのははいまいち分かってないようで、
そんななのはにユーノが邪魔にならないように念話で説明をする。

≪簡単に言えば、災害のようなものだよ。ただし、その規模は幾つもの世界を滅ぼすほど大きなものから、
 小さくても近くの世界に何らかの影響を与えたりするんだ。
 でも、今回の規模は多分……≫

その声のトーンから、決して小さくはないと理解するなのは。
二人がそんなやり取りをしている間にも、クロノの方はエイミィと何やら言葉を交わしていた。

「つまり、どこかに駆動炉があるという事か」

「そう。その駆動炉を止めるか、プレシアを止めるかのどちらか。
 急いで、クロノくん! かなりの規模の次元震だよ、これ。
 艦長も出れるように準備を始めているぐらい!」

「母さ……艦長が!?
 とりあえず、分かった。元より承知だよ」

エイミィとの通信を打ち切ると、クロノはなのはたちに声を掛けて走り出す。
その顔には若干の焦りが流石に見られる。
走りながら、クロノはこれからの行動を告げる。

「アルフ、駆動炉らしきものに見当は? プレシアの居そうな場所でも良い」

「……多分、プレシアは地下だと思う。いつも、あいつは居たから。
 駆動炉はちょっと分からないけれど、絶対に近付くなって言われた場所なら知ってる」

「それは何処だ?」

「このまま真っ直ぐ進むと広間に出る。
 そこから上へと続く階段があるから、その上だよ。多分、塔の一番上」

「外から見たあそこか」

クロノは突入時に見て、ここに来るまでの目印にしていた塔を思い出す。

「君たちはプレシアの元へ、アルフの案内で行ってくれ。
 僕は駆動炉を止めるために上に行くから」

クロノの言葉に全員が頷き、それぞれにやるべき事を見据える。
そんな一同の進む先が開け、また大きな広間へと出る。
その向こうにはこれまた大きな扉がその口を固く閉ざしている。

「あの扉の向こうが、地下と上へと続く階段のある部屋だよ」

アルフの言葉にクロノたちは顔を見合わせ、静かに頷き合う。
ここにもまた、如何にもな、エントランスにあったのとは比べものにもならない大きさの鎧が四体鎮座している。
それを見据えながら、四人は広間へと足を踏み入れるのだった。





つづく、なの







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