『リリカル恭也&なのは』






第48話 「進撃」






なのはたちが足を踏み入れるなり、四体の巨大な鎧が一斉に動き出す。
扉を通しはしないとばかりに、その前に立ち塞がる。
動き出した当初は緩慢な動きであったが、なのはたちを敵として認識して、
攻撃を繰り出す頃にはその速度は決して遅いものではなく、その巨体にしてはかなり素早い攻撃を仕掛けてくる。
前二体が大きさこそが武器だとばかりに、クロノの身長どころかアルフの身長さえ超える拳を打ち下ろしてくる。
一斉に飛び退くクロノたち。
大きな震動と土煙が立ち昇る中、後ろ二体の兜の隙間から覗く、目に当たる部分が一瞬だけを光を放ち、
次の瞬間、そこから光線が飛び出して空中に退避したクロノたちへと飛来する。
驚きつつも回避すると、そこへ先ほど拳を振るった二体の鎧が再び拳を打ち出す。
シールドで受け止めるという発想など浮かぶ間もなく、クロノたちは一斉に後退する。
そんな一同へと広間の天井にまで手が届くほどの巨体を武器に、二体が更に前へと突進してくる。
その後ろからは、同じように光線が打ち出される。

「さて、出来る限り魔力を温存して倒したいところではあるけれど……。
 なのは、アルフ、前の二体は任せても良いかい?」

前の二体が邪魔をして、後ろの二体へとこの場から直接攻撃をするのは難しい。
それはクロノも同じはずなのだが、何か考えがあるのだろうとなのはもアルフもその言葉に頷く。

「それじゃあ、任せる。あ、悪いけれど君の使い魔を借りるよ」

「だから、僕は使い魔じゃ……」

ユーノの返事も待たず、クロノはその首根っこをネコを掴むみたいにして摘み上げ、迫る鎧に向かって飛翔する。

「ユーノ、冗談はここまでだ。君にやってもらいたい事がある」

冗談を言ったのはクロノだ、という反論を飲み込みユーノはクロノ腕から肩へと場所を移す。
すぐ傍を通り過ぎて行く鎧の巨腕の風圧に飛ばされないようにしっかりと掴みながら、大声で尋ねる。

「何をすれば良いのさ!?」

「なに、簡単な事だよ」

二体の拳を躱しながら、クロノは上昇する。
天井すれすれの高度まで上り詰めると、今度はそのまま後ろの二体に向かって突っ込んで行く。

「暫くの間、防御系の魔法で僕を守ってくれ」

真っ直ぐに飛んでくる光線を大きく螺旋を描いて躱しながら、クロノは二体のうち右の一体へと向かう。
その横から、同士討ちなど気にしないかのように、左の鎧が放った光線が襲い来る。
だが、それはクロノに当たる事無く、その前に張られたシールド魔法によって防がれる。

「やっぱり、なのはの魔法の先生だけはあるね。
 結界や防御に関しては、未だになのはが勝てないと言っていたから、やはり君に頼んで正解だった」

「こういう事をさせるならさせるで、もう少し先に言って欲しかったよ」

「それは悪い事をした。けれど、別に今のを予測していた訳じゃないんだ。
 僕もまさか、同士討ちすら気にしないとは思ってなかった」

クロノはそう言いながら、右の鎧の肩に降りる。
そのままそこに膝を着き、掌を鎧の肩に着ける。

「ここで暫く防御をお願いしたかったんだよ。
 という訳で、頼んだよ」

言って何か呟きながら目を閉じるクロノ。
その横手からは左の鎧から光線が、頭上からは自身の肩へと振り下ろされた鎧の拳が同時に襲い掛かる。

「だぁぁっ! だから、もっと早くに言えっての!」

文句を吐きながら魔法を発動させる。
頭上とクロノの背中側、二箇所に防御魔法を展開し、拳と光線を受け止める。
ただし、先程とは違って移動していないため、ユーノは魔法を展開し続けなければならない。
同じ魔法とは言え二つ同時に起動させ、更にはそれを維持する。
なのはの魔法の先生の面目躍如と言った所か。
クロノの肩で高度な防御魔法を二つ展開して維持するフェレット、もといユーノ。
だが、いつまでクロノを守れば良いのか。
尋ねようにもクロノは何かをしている様子で、声を掛けることも出来ない。
その内、と言っても二、三秒程度だが光線の方は止まる。
だが、すぐに目が光を集めている事から、すぐにでも再攻撃が来るだろう。
拳と防御魔法で力比べをしながら、冷静に次の攻撃に備えるユーノ。
その顔に疲労は全くなく、彼の防御魔法に関する腕が高いことが分かる。
とは言え、いつ終わるのか分からない以上、焦れを感じるのは仕方ないが。
だが、それは杞憂に終わる。ユーノが次の光線に備えたのと同じ頃、クロノは閉じていた目を開ける。

「……分析完了。ブレイクインパルス!」

クロノの魔法が発動し、乗っていた鎧の肩が粉砕される。
それは肩だけでなく、胸へ頭部へと連鎖するように広がり数瞬後には完全に破壊される。

「魔法に対する処置もされていたみたいで、分析にちょっと時間が掛かったけれど、
 あっちのもこれと同じだろうからね。今度はすぐに済むよ。
 という訳で、ユーノ、防御は任せる。少しでも時間が惜しいから、このまま真っ直ぐに突っ込む!」

言いながら既にクロノは二体目へと向かって突っ込んでおり、放たれた光線を避けようともしない。
それだけユーノの防御を信じているのかどうかは分からないが、
クロノの肩に乗っているユーノも同じように突っ込む形となり、慌ててシールドを展開する。
放たれた光線を眼前のシールドで防ぎきり、光線を掻き分けるようにして鎧の元へと飛ぶ。
近くまで来たところで急降下し、光線の中から飛び出すクロノ。
そのまま防御はユーノに任せ、真っ直ぐに鎧へと向かう。
その信頼に応えるように、繰り出される拳をユーノがシールドで受け止める。

「チェックメイト」

シールドと拮抗してクロノの眼前で止まる拳に自身のデバイスで触れ、先ほどと同じ魔法を放つ。
同じように目の前で粉砕されていく鎧。

「これで二体。残りは……」

言って残る二体の対処をすべく振り返れば、

「今だよ、なのは!」

「はい! ディバインバスター!」

桜色の魔法陣を展開させ、魔力の温存など気にせずに鎧二体を貫く一筋の魔力帯が。
その向こうで、この程度の魔力消費など、特に大した事ないとばかりに、
広いとはいえ室内で長距離魔法をぶっ放つなのはが映る。
鎧二体分の装甲で、壁に大したダメージはないが、そこまで考えていたかどうか。

「多分、何となく大丈夫って思って撃ったんじゃないかな」

「……幾ら感覚で魔法を組むといっても限度があるだろう。
 無事に戻ったら、基礎部分をちゃんと教えた方が良いんじゃないか」

少年二人がそんな事をこそこそと話している先で、なのはとアルフは手を叩き合って上手くいった事を喜んでいた。
特に難しい作戦と言うほどでもなく、単にアルフが囮となって二体に接近戦を挑みながら、
なのはから離すように誘導する。その上で二体がなのはの攻撃範囲に重なるようにして、合図を送っただけである。
とは言え、なのはの砲撃の強さ、アルフの敏捷さなどがあってこそだが。
ともあれ、手伝わずとも撃退した二人に労いの言葉を投げながら、クロノは扉へと向き直る。
慎重に扉を開き、罠がないか確認しながら中へと踏み込む。
そこは円形の部屋で、入った扉から見て右手奥に上へと続く階段が壁に沿うように天井へと伸び、
正面には更に奥へと続く通路がある。
アルフは心底嫌そうな顔で部屋を、中央のそこだけ少し高くなっている場所を睨みつける。

「下への階段はあの通路の先だよ」

知らず強く握られる拳に、不機嫌そうな声を出すアルフ。
思わずなのはが見上げると、その視線に気付いたアルフは何でもないと笑う。

「ただ、ここはちょっとあまり良い思い出がなくてね」

アルフの脳裏に思い出されるのは、鞭打たれるフェイトだけ。
その映像を振り払うように頭を振ると、さっさと正面の通路に向けて歩き出す。

「ほら、時間もないんだろう」

「ああ、そうだな。ここからは別行動だ。
 僕は先にも言ったように、上にあると思われる駆動炉に行く。
 君たちは地下に」

「気を付けてね」

「ああ。君たちも」

短く言葉を交わし、クロノとなのはたちは別々の方へと進む。
階段を登り、二階へと向かったクロノ。
そこは、塔の内部と思われる形状の円形のフロアであった。
下の部屋よりも幾分小さな部屋には何もなく、ただ壁に沿って延々と階段が上に伸びている。
はるか上空に天井が見え、恐らくはあそこが塔の天辺なのだろう。
クロノは正直に階段を登るなんて事はせず、当然ながら魔法で真っ直ぐに塔の天辺目指して飛ぶ。
が、その勢いが途中で弱まる。

「やっぱりそう簡単には行かせてくれる訳ないか」

目の前に現れた大量の小さな人形――傀儡兵を見据えてそう零す。
S2Uを握り締め、クロノは突破するべく弱めていた速度を一気に加速させるのだった。



通路を少し進みT路地に差し掛かる手前、左手に地下へと続く通路が現れる。
なのはとアルフは揃って階段へと足を踏み下ろす。
延々と下へと続いて行く薄暗い階段。
時折、思い出したかのように踊場があるだけで、地下へと続く階段は他に何の変化も見せない。
壁側に転々と等間隔に灯されたランプのお蔭で、何とか視野は確保されているが、何処か不気味な雰囲気を感じる。
恐る恐るといった感じで降りていくなのはの前を、アルフが気にもせずずんずんと下っていく。

「ま、待ってください」

「うん? ああ、ごめん。ちょっと早かった?」

「いえ、その……」

言いよどむなのはに首を傾げつつ、アルフは背を向けて今度は速度を落として階段を降り始める。
その背中を追いながら、なのはは改めて周囲を見渡す。
薄暗くて如何にも何か出ますという感じで、ついつい歩調が遅くなる。
けれど何も言わずに懸命に後を追うなのは。
と、その鼻が突然止まったアルフの背中にぶつかる。

「ついたよ。って、ごめんなのは」

「い、いえ、大丈夫です」

少し涙目になりながらも、アルフの後ろから前を覗き込む。
確かにアルフの言葉通り、長かった階段もようやく終わりを見せ、目の前に通路が続いている。
通路の突き当たりにこの階段はあるらしく、通路は一方へのみ伸びており、アルフと共に今度は通路を歩き出す。
途中で角を曲がり、更に少し進んだ所でアルフが立ち止まる。
いよいよプレシアの居ると思われる場所に着いたのかと緊張するなのはだったが、

「誰だ!?」

アルフの声は通路の向こう、闇に閉ざされた先へと投げられる。
だがそれに答える声はなく、アルフは敵と判断して魔法を放つ。
突然の事になのはは驚くも、この場所このタイミングで味方とは確かに考え辛く、
自身もまたレイジングハートを構える。
アルフの放った魔法で闇が一瞬だけ振り払われ、その中に人影が浮かぶ。
が、それも本当に一瞬ですぐに爆発が起こる。
すると、それを合図とするかのように、通路の先からぞろぞろと一メートルぐらいの人形が出てくる。
その数はざっと見ても十は軽く超えていた。

「邪魔すんじゃないよ!」

通路に姿を見せた人形へと、アルフが再び魔法を放ち粉々に吹き飛ばす。
十以上の人形が一発の魔法で吹き飛ぶ。どうやら、ここに来るまでに見た鎧の人形よりも耐久力はないようだ。
また、その動きも鈍くのろのろとこちらへと向かってくる。
今のところ攻撃してこないのは、単に同士討ちを避けるためなのか、遠距離の攻撃手段を持たないのか。
その辺りの判断は後に回し、アルフに続きてなのはも魔法を放つ。
またしても粉々に吹き飛ぶ人形たち。
だが、その数が異常に多く、攻撃して減らしても減らしても後ろからぞろぞろと現れる。
今のところ、全く攻撃してこないことから見ても時間稼ぎではと思わせる。

「相手にしないで上を飛んでいったら駄目かな?」

何度目かの魔法で近付く人形を吹き飛ばし、なのははふと思いついた考えを口にする。
ぞろぞろと歩いてくる人形たち。だが、その身長は一メートル。
そして、通路の高さは三メートルほど。
人形を天井を交互に見遣り、アルフはニヤリと笑う。

「それで行こう!」

即断即決、決めた瞬間にアルフは宙に。

「ちょっと待って! それぐらいプレシアだって予想しているはず……」

ユーノが止めるような発言をし、なのはは飛翔魔法フライアーフィンを途中でキャンセルする。
が、既にアルフは天井近くに浮かび上がり進んでいる。
人形の頭上に達した時、不意にアルフの身体を何かが縛り上げる。

「バインド!?」

「やっぱり罠だった……」

「ご、ごめんなさいアルフさん」

謝るなのはに気にしないように言いつつ、アルフはそのバインドを解除しようとする。
が、そんなアルフへと人形の手が伸びて手を足を掴んでいく。

「は、離せ! こら、やめろ!」

ジタバタと暴れるも、未だにバインドで身体を拘束され、手足は何体もの人形の手で押さえられているため、
全く力が入っていない。人形たちはアルフを引き下ろすように伸ばした手を縮めていく。
アルフが抵抗するように飛翔魔法で飛ぶからか、酷くゆったりとした動きである。
だが、次々と人形の手が伸び、アルフに取り付く。
更には人形たちの頭が二つに割れ、その中から鋭い針のようなものが出てくる。
アルフを串刺しにせんと手を戻していき、更に飛ぶ力を篭めるアルフ。

「アルフさん、ちょっとだけ我慢してくださいね」

言ってなのはは魔力を収束し終えたレイジングハートを構え、ディバインバスターを放つ。
通路を真っ直ぐに貫くように走る光。
自分の身体の下すれすれを通るそれに冷や汗を流すアルフ。
だが、すぐに杞憂だと分かる。アルフとディバインバスターの間にユーノの張った防御魔法が展開されており、
余波が行かないようにちゃんと考慮されていたからだ。
とは言え、なのはのディバインバスターはそのシールドさえ貫くので、少しでも照準を間違えば、
という恐怖はあるのだが。そこはなのはを信用するしかなかった。
人形たちの腕から解放され、見渡す限りにいた人形が一体も居なくなった床にアルフは下りる。

「助かったよなのは」

「いえ、元はわたしが言い出したことで」

「とりあえず時間もないし、先に進もう」

ユーノが間に入り、そう提案する。
その言葉に二人は頷くと再びプレシアの元目指して歩き出す。



傀儡兵たちを攻撃し、出来た隙間から進もうとするのだが、当然ながら相手もそれを予想してか、
その隙間を埋めるように新たな傀儡兵が後ろから出てきたり、またはそこに魔法を打ち込んでくる。
そう、魔法だ。これが先ほどから思った以上に距離を進めないでいる原因にもなっている。
大した魔法ではなく、単に小さな光球を一発撃ってくる程度なのだが、
そのタイミングや元々の傀儡兵の数の多さが問題となって、クロノは中々前に進めないでいた。
時間がないという事と重なり、知らず焦りが生まれる。
だが、それを懸命に押さえ込み、綿密に傀儡兵の壁を崩していく。
少しずつだが確実に天辺には近付いて来ている。

「スティンガースナイプ!」

魔力光弾を撃ち出し、それをコントロールして傀儡兵の壁に穴を開けていく。
そこには飛び込まず、壁を回り込むように上昇。
クロノの動きに合わせて傀儡兵も動き、そこでまだ制御下にある魔力光弾を呼び戻すように操る。
抜けた壁からクロノの位置までいた傀儡兵がそれで打ち落とされる。
そこへと身を躍らせ、一気に加速。
こうして一つの壁を抜けても、その先にはまた同じような壁があり、
後ろからは止まらざると得ないクロノを追い越して、目の前の壁の向こうへと消えていく傀儡兵。
先ほどからこの繰り返しである。
確かに進んではいるのだが。
次の手を考えてS2Uを振りかぶるクロノであったが、不意に横側から傀儡兵が数体向かってくる。

「しまった」

咄嗟にシールドを張るも、逆側に周った傀儡兵もおり、その攻撃がクロノへと迫る。
が、傀儡兵は下から突如飛び出してきた影にぶつかり、そのまま下へと落下していく。

「何とか間に合ったか?」

クロノへとそう声を掛けたのは、剣型のデバイスを手にした全身を黒で包んだ恭也だった。





つづく、なの




<あとがき>

という訳で、何とかぎりぎり今回のお話で恭也復活。
美姫 「フェイトは?」
次回かな。
美姫 「ほうほう。で、その次回は?」
それではまた……ぶべらっ!
美姫 「それじゃあ、また近いうちにお会いしましょう♪」







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