『リリカル恭也&なのは』






第49話 「再び」





人形の群れを撃破して進むなのはたち。
あれ以降、妨害らしいものもなく一つの扉の前に立つ。

「この向こうに居るはずだよ」

アルフは扉の向こうを睨むように目付きを鋭くし、扉に手を掛ける。
軋んだ音を立てて開かれた扉の向こう、入ってすぐの所はまるでバルコニーのようになっており、
部屋を見下ろすような作るになっている。
下へと続く階段は左右の端に作られており、そのどちらにも妨害するようなものはないように見受けられる。
ふとアルフを見上げたなのはは、その視線から殺気にも似た怒気を感じ取り、自然とその視線の先へと目を移す。
アルフが睨みつける先、部屋の中央よりも少し奥へと行った辺り。
そこは他の床とは違い、祭壇のように高くなっており、祭壇の四隅には天井にまで大きな柱が一本ずつ伸びている。
何の装飾もないただ白いだけの、それでも神殿を思わせる部屋の内装に似つかわしい見事な柱にはしかし、
黒いコードが何本も絡み付いていて、外観を台無しにしている。
だが、この部屋の主はそんな事など大して気にも止めていないらしく、
柱に絡みついたコードはそのまま床にまで伸び、特に整理される事もなく、全てが一箇所へと伸びている。
祭壇の最も奥に置かれた二メートルほどの透明な何かへと。
カプセルか何かなのか、中は液体で満たされ、その上部と下部には何か機械のようなものが見られる。
コードは上部へと伸びるものと、下にある機械に伸びるものとで分かれている。
液体で満たされた中に人のような影を見つけ、なのはは目を凝らす。
ゆらゆらとカプセルの中を漂うのは金色の髪。
傷一つない白い肌は力なく伸ばされ、その双眸は眠っているかのように閉ざされている。
何より、その顔立ちになのはは思わずポツリと漏らす。

「フェイトちゃん……?」

呟き、すぐに違うと理解する。
カプセルの中で眠っている少女こそが……。
その答えを告げるかのように、祭壇の中央でアルフたちが入ってきた後も、
じっとカプセルを見つづけていたプレシアがもの凄い形相で振り向き、なのはを仇でも見るかのような目で射抜く。

「私のアリシアを、あんな失敗作と間違えないで!
 その名でこの子を呼ばないで!」

その怒気に思わず足が竦むも、なのはは心までは負けないとプレシアを睨み返す。

「貴女こそ、フェイトちゃんをそんな風に言わないで下さい!
 わたしのお友達を、わたしがお友達になりたいと思っている女の子を悪く言わないで!」

「友達? 友達になると言ったのかしら? あの人形と。
 変わった趣味をしてるわね。まあ、別に欲しいのならあげるわ。
 私にはアリシアさえ居れば良いのだから……。だから、邪魔しないで!」

プレシアの言いように、なのはは更に強く睨み返す。
その視線の先で、プレシアは一度胸と口を押さえるも、すぐに手を戻して興味なさそうに背を向ける。

「もう良いでしょう。あの人形をあげるから、さっさと出て行ってちょうだい。
 あなたたちに構っている暇はないの」

何処か覚束ない足取りでカプセルの方へと歩き出すプレシア。
だが、その言葉を聞いてなのはは叫ぶ。

「フェイトちゃんは人形なんかじゃない。まして、貴女のものでもない!
 あげるなんて、そんな言葉……。全部取り消してください!」

煩そうになのはを一瞥するも、やはりすぐに背を向ける。

「確かにあげるというのは間違いね。だって、私はアレをもう捨てたんだもの。
 好きに拾えば良いわ。尤も、あの様子ではもう壊れてしまっているかもね。
 同じ壊れるのなら、姿形こそ壊れて欲しかったわ」

そう言った瞬間、アルフが床を蹴ってプレシアへと真っ直ぐに向かう。
策も何もなく、ただ怒りに任せて突っ込むだけ。

「プレシアー! アンタだけは絶対に許さない!」

高速で突っ込んでくるアルフに対し、プレシアはただ鬱陶しそうな瞳を向け、ただ両手を目の前に翳す。
祭壇を守るように薄い幕のようなバリアが広がり、アルフの拳がそこにぶつかる。
バリアブレイクを発動させようとするよりも早く、アルフが触れた瞬間にその身体は弾き飛ばされ、
真後ろへと吹き飛ぶ。その速度はプレシアに向かったときと同じかそれ以上で、
このまま壁にぶつかれば、流石にただではすまないと思わせた。
だが、壁よりも先になのはとユーノに受け止められ、数メートルほど進んで止まる。

「大丈夫ですか、アルフさん」

「ああ、ありがとう」

なのはへの礼もそこそこに、アルフはすぐにでもプレシアへと向かいそうな勢いで床に足を下ろす。
先走りそうなアルフをなのはが抑える。
そこへプレシアの魔法が襲い来る。

「くっ!」

魔力を収束して放たれた砲撃魔法を、咄嗟にユーノがシールドで防ぐ。
だが、やはり一流の魔導師だけあり、砲撃は未だに止まらずにユーノのシールドを貫こうと放出され続ける。
なのはとアルフもシールドを展開して重ねるようにしてプレシアの砲撃を耐える。
何とか凌いだものの、プレシアは既に二撃目の態勢に入っており、すかさず二撃目が襲いくる。
同じように三人でシールドを展開して耐えるも、その横手から二体の鎧が飛翔してくる。
やはり、この部屋にもガーディアンが設置されていたらしく、このタイミングで襲いくる。
今からではなのはの魔法では間に合わず、ユーノはプレシアの攻撃を受け止めるのに必要。
となれば、自然とアルフが迎撃にあたるのだが、アルフの位置が最もガーディアンから遠い。
間にユーノ、なのはと挟んでいるためすぐさま魔法は放てない。
二人を飛び越すように飛翔するアルフであったが、その背後からも二体ガーディアンが現れる。
一瞬の躊躇、それが僅かとは言え動きを鈍らせる。

「アルフは後ろを!」

その声に湧き上がる熱いものを胸に感じながら、アルフはすぐさま反転して背後から迫るガーディアンに吶喊する。
口元に浮かぶ笑みもそのままに、力強く振るわれる拳。
殴られたガーディアンは後ろのもう一体を巻き込んで後方へと吹き飛んでいく。
その二体へとアルフの魔法が間髪置かずに放たれ、ガーディアンを打ち砕く。
逆側からなのはたちに迫っていたガーディアンは、頭上より舞い下りた黒い影の金翼に切り裂かれる。

「あ……、フェイトちゃん……?」

自分の傍に降り立つ少女の名をここに居るのが信じられないように呆然と呼び、
だが、幻でも何でもなく、確かにそこに居ると分かるなり、すぐさまその顔に満面の笑みを浮かべる。

「フェイトちゃん!」

今度は喜びの混じった呼びかけに、フェイトはどう答えて良いのか分からないように戸惑いを見せ、
ただ静かになのはにはにかむ。
それだけでもなのはは喜びを体全体から表し、同時に漲ってきた力と共にレイジングハートを握る。
そんな一連のやり取りをつまらなさそうに眺めていたプレシアが、億劫そうな口調を出す。

「貴女まだ居たの? なに、今度はお友達ごっこ?
 つくづく使えないわね」

その言葉に身体を震わせるも、フェイトは静かな眼差しでプレシアを見詰める。

「お母さん……」

「呼ばないでと言ったはずよ!!」

即座に激昂と共に否定の言葉を投げられ、フェイトは辛そうに俯く。
けれど、すぐにその顔を上げる。
その瞳には悲しみが浮かんでいるが、それだけではない。
強い意志が、その瞳にははっきりと見て取れる。

「私はお母さんを止める。何をしようとしているのかは分からないけれど、止めるよ。
 もう一度元のお母さんに戻って欲しいから」

「だったら、邪魔をしないで! 時間がないのよ。私にもアリシアにも……。
 それに、元も何もその記憶はアリシアのものよ!」

「分かっている。でも、それはつまり、記憶にある優しいお母さんは嘘じゃないって事だよね。
 私の記憶がアリシアのものなら、彼女は優しい子だから、きっとお母さんを止めようとすると思う」

「知ったような事を言わないで! あの子は! あの子なら……。
 そう、止めるかもしれないわね。でも、もう私は止まれないのよ!
 あの子と二人、幸せに暮らすためになら何だってすると決めたの!
 それを今更邪魔なんてさせない!」

一瞬だけ悲しげな表情を見せるも、それはすぐに掻き消え髪を振り乱しながら叫ぶ。
今まで自分がやってきた事を、改めて自身に言い聞かせて肯定するかのように。
亡くなったアリシアと暮らすと言うプレシアの言葉に疑問を抱きつつも、なのはは悲しげな顔を向ける。

「目の前に、貴女の事をお母さんと呼んで慕うもう一人の娘がいるのに……。
 フェイトちゃんと二人で暮ら……」

「黙りなさい!」

なのはの言葉を遮るように、これ以上は話しても無駄だと言うように魔力弾を放つ。

「何度も言わせないで、私の娘はアリシアただ一人」

静かに呟き、魔力弾の向かう先を見詰める。
なのはへと向かった不意打ちのような魔力弾は、しかし距離が開きすぎていた事もあり簡単に弾かれる。
ただし、なのはではなくフェイトによって。

「……私に逆らおうっていうの?」

自分から捨てたと口にしながらも、やはり創造主に逆らうのは許せないという感じでフェイトを睨むプレシア。
そんなプレシアの視線を正面から受け止め、寂しげな顔を一瞬だけ浮かべるもしっかりとした口調で告げる。

「……はい。友達に、友達になろうって言ってくれたんです。
 でも、私はその手を払い除けてしまった。
 それでも、また手を差し出してくれたから、だから、今度は私が応える番だから」

バルディッシュを手に、真っ直ぐにプレシアを見詰める。

「なら、全員ここで纏めて消えてもらうだけよ。
 人形の分際で私に逆らった事を後悔して消えなさい!
 そして、そんな人形を庇って消えると良いわっ!」

プレシアの両手に魔力が集まり、一気に膨れ上がる。
放たれた魔法は三本の雷となり、互いに絡み合って直進する。

プレシアの言葉に傷つきながらも、フェイトはバルディッシュを構えて全力でシールドを張る。
そのバルディッシュに重なるように、横からレイジングハートが置かれ、なのはが笑い掛ける。
先ほどのフェイトの言葉が嬉しくて仕方ないのだろう。
こんな状況でもつい浮かんでくる笑みを隠そうともせず、

「頑張ろう、フェイトちゃん。もっと話し合えば、きっとお母さんも分かってくれるよ。
 わたしもフェイトちゃんの力になるから。その為にも、まずはプレシアさんを止めよう」

真っ直ぐな瞳でそう見詰め返してくる。
前までなら、幸せな家族に囲まれたなのはには分からないという反論が出たかもしれない。
だが、今はそのなのはの言葉を素直に受け入れる事が出来る。
そんな心境に自分自身でも驚きながらも頷く。不思議となのはの言葉に力が湧いてくる。
新たに湧き上がる力を更に注ぎ、シールドを強固なものにする。
フェイトのシールドに重なるように、なのはのシールドが展開され、重なったシールドはプレシアの攻撃を受け止める。
だが、重い攻撃に身体がゆっくりと押され始める。
その二人の背中を支えるようにアルフが背後に立ち、続いてアルフのシールドも重なるように展開される。

「あたしは正直、プレシアなんてどうでも良いんだ。
 でも、フェイトがそうしたいってんなら、全力で手伝うよ。
 だって、あたしはフェイトの使い魔だからね」

誇りを持って言い放つアルフに、フェイトはお礼を口にしながら照れたように笑う。
フェイトの笑顔を見て、アルフは俄然やる気を出してシールドの強度を上げる。
まだ続くプレシアの雷は一向に衰えを見せず、力尽くで押し破ろうと三本の雷がシールドの向こう側で踊り狂う。
そこに三人よりも強固なシールが新たに張られる。

「ユーノくん」

なのはの言葉にユーノは一つ頷くと、シールドを強くする。
四人の張ったシールドの前に、プレシアの魔法は徐々に威力を失っていき、とうとう消え去る。
雷による帯電が僅かに空気に残る中、忌々しげに顔を顰めるプレシア。
そんなプレシアにフェイトが一歩近付く。
更なる言葉を掛けるように、バルディッシュを下ろし。
だが、それに対するプレシアの返答はやはり魔法による攻撃で返される。
溜めもなくただ放たれた魔力弾。それを四人はその場から飛び退いて躱す。
こうなったら、力尽くで止めるしかないと決意し、なのはとフェイトはデバイスを構える。
再び両者は静かに対峙する。





つづく、なの




<あとがき>

さて、フェイトサイド。
美姫 「終盤に入ってから、結構続くわね」
あははは。
まあ、後数話だがな。
今しばらくお付き合いください。
美姫 「それじゃあ、また次回で」
ではでは。







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