『リリカル恭也&なのは』






第50話 「決戦」






危ない所を助けてもらったクロノは、恭也へと礼を言う。
その礼を受け取りながらも、恭也はすぐに目の前で展開する傀儡兵による壁を見据える。
大まかな事情はエイミィと名乗る女性から聞いている。
故に、急がないといけない事も理解しているのだが、その数があまりにも多すぎる。

「なのはみたいに大出力の魔法で穴を開けることが出来れば……」

「大出力の魔法か。一つだけあるにはあるが……」

「あるんですか?」

クロノの呟いた言葉に恭也は反応を見せるも言いよどみ、その理由を口にする。

「ああ。ただ、時間が掛かりすぎるのが欠点でな。
 なのはみたいに素早くは撃てない」

「なら、その時間は僕が」

「……頼む。壁に穴が空いたら、俺の事は気にせずに君はそのまま上を目指せ」

クロノの提案に少しだけ考え込むも、恭也はその提案を受け入れる。
クロノは恭也の言葉に頷きで返し、付け足すように言う。

「あの傀儡兵の壁さえ抜ければ、後は問題ありませんから恭也さんはなのはたちの所へ行ってあげてください」

「しかし、それでは君の所にあの傀儡兵とかいうのが殺到するだろう」

「大丈夫です。あの傀儡兵は魔力で動いてますから、駆動炉には近づけないように命令されているみたいです。
 多分、万が一にでも干渉するのを恐れてプレシアがそうしたのでしょう。
 現に、傀儡兵が待ち構えていたのも塔の中間辺りですし、あそこより上に行ったものは一体もいませんでした」

言ってクロノがデバイスで指す高さを見る。
全体の五分の一の高さといった所だろうか。
これだけの数の敵に囲まれながらも、ちゃんと周囲を見ているクロノに恭也は小さく感心する。
感心しながらも、恭也はクロノが指した高さを目で捉えたまま、

「つまり、あそこまで上がれば後は邪魔はないと」

「恐らくは。まだ何か罠があるかもしれないので、油断は出来ませんが。
 ですが、プレシアの方に行ったなのはたちの方が危険かもしれません。
 彼女はランクSの魔導師ですから」

そのランクというのはよく分からなかったが、とりあえずはなのはたちの方も危険なのだという事だけは分かった。
一応、そっちにはフェイトが向かっているはずだが、プレシアを前に大丈夫なのかという不安はまだある。
だが、突入する際に話したフェイトに、強い意志のようなものを感じて任せてきたのだ。
ならば、自分はそれを信じようとグラキアフィンを強く握り締め、

「そうだな。なら、ある程度数を減らしたら、その言葉に従ってなのはたちの所へと向かおう。
 どちらにせよ、まずは目の前の敵をどうにかするのだ先決だ。
 時間稼ぎは任せたぞ」

「はい」

今まで組んだ事もない以上、下手な連携は却って危ない。
だからこそ、完全に役割を分けてそれぞれにできる事をする。
恭也は少し下に下がり、クロノは上へと上がる。
二人が話をしている間に、下にいた傀儡兵たちは全て立ち塞がるように上へと移動して壁となっている。
先ほどよりも厚くなった壁を前に、クロノは必要以上には近付かず、こちらへと攻撃してくる傀儡兵の相手をする。
その間に恭也はグラキアフィンへと魔力を送る。

「頼むぞ、グラキアフィン」

【任せてください、マスター】

恭也の言葉に力強く応えるグラキアフィンを恭也は頼もしく思う。
そもそも、恭也は魔法と言われても未だによく分かっていないのだ。
その殆どをグラキアフィンが構築、制御をしてくれているのである。
故にこそ、恭也はこれまでの戦いでグラキアフィンを信頼しているし、
グラキアフィンもまたその信頼を感じ取り、恭也のために力を尽くす。
白い宝玉を光らせ、恭也の左腕に巻かれている鎖が伸びて目の前の空間を走る。
描くは上下反転させた三角形二つで形作られる六芒。
その周りを二重に描かれた円形が囲む。外側は右に、内側は左へと逆に回転しながら、鎖は六芒星を形作る。

「六芒星!? ミッドチルダ式じゃないのか!?」

思わず驚くクロノであるが、恭也の足元に展開する魔法陣はミッドチルダのものである。
だが、篭められる魔力はその六芒星の方に。
魔力が通ると、鎖で描かれた六芒星自身が光を放ち、円と円の間に不思議な文字が浮かび上がる。
六芒星から流れる魔力が再び恭也の元へと走り、グラキアフィンへと伝わる。
そこから更なる魔力が六芒星に戻る。その動作が繰り返される度、魔法陣に流れる魔力量が増えていく。

「魔力を増幅しているのか。そんなの聞いたこと……」

思わず恭也を注視してしまったクロノの背後から、数体の傀儡兵が襲い掛かる。
慌ててそちらへと注意を戻して撃退する。今は余計な事を考えるのはよそうと、再び目の前の敵に注意する。
その間にも魔法陣には魔力が注がれていく。
時間にして数分、傀儡兵の相手をしていたクロノに恭也の念話が届く。
その言葉を合図にクロノはその場を急いで離脱する。
それを確認して、恭也は溜め込んだ力を解放する呪文の言葉を発する。

「闇霊砲雷刃」

静かに放たれた言葉にグラキアフィンが応え、魔法陣に篭められた魔力が一気に六芒星の中央に収束し、
なのはのディバインバスター以上の砲撃が放たれる。
放たれた帯状の魔法には、魔力による放電が見られる。
真っ直ぐに突き進む光線が傀儡兵の群れを貫き、その近くにいる者も直撃こそ免れたものの、
光線に絡むように螺旋状に纏わり付いた放電により、無事ではすまない。
光線の通った後だけでなく、その周囲をも巻き込み、
幾重にも重なった傀儡兵の群れを真っ直ぐに貫いていく恭也の魔法。
それが収まると、大半の傀儡兵が撃ち落され、作られていた壁にも大きな穴が開く。
その穴を埋めようと傀儡兵が動き出すよりも早く、クロノはその穴を抜けていく。
途中、襲いくる傀儡兵を薙ぎ払い、突き進む。
背後から来る傀儡兵は、どうやら恭也が足止めしくれているらしく、クロノはただひたすら前へと突き進む。
最後の傀儡兵による壁を突き抜け、クロノは自身が推測した高度に飛び込む。
と、後ろを振り返ればその推測は正しかったらしく、追って来る傀儡兵は一体もいない。
それだけを確認すると、クロノは前だけを注意して飛ぶ速度を上げるのだった。



 ∬ ∬ ∬



プレシアと対峙する四人。プレシアは祭壇から降り、静かにフェイトたちを見遣る。
静けさが満ちる中、最初になのはが仕掛ける。
桜色の光弾を三つ周囲に作り、それぞれが別の軌道でプレシアへと向かう。
対するプレシアはただ静かに右手を上げ、自分の周囲を囲むようにシールドを展開する。
それに触れる直前、光弾――ディバインスフィアは軌道を変えて宙へ戻り、再びプレシアへと向かう。
だが、先程とは違ってディバインスフィアの前にアルフが割って入り、プレシアのシールドに拳をぶつける。

「バリアブレイク!」

アルフの拳が触れた瞬間、まるで打ち壊されるかのようにシールドが破壊され、
その背中から、コントロールされたディバインスフィアが飛び出してプレシアへと襲い掛かる。
アルフは下がらずにそのまま正面からプレシアを殴るように拳を振り上げ、三つのスフィアは左右、
背後から襲い掛かる。だが、プレシアは驚愕もたじろぎもせず、まず突っ込んでくるアルフへと左手を翳し、
その拳を受け止める。勿論、普通に受け止めたのではなく、アルフの拳とプレシアの掌の間には魔法障壁が展開している。
アルフが再び障壁を破壊するよりも先に、アルフの身体が吹き飛ばされ、
後ろのスフィアはこちらも障壁で防がれ、左右のスフィアはプレシアの両掌から放たれた魔力弾による相殺される。
アルフを避けて回り込んだ分、スフィアの方がプレシアに届くのが遅くなり、
その僅かな差がプレシアに対処する時間を与えてしまう。
プレシアは余裕の笑みを張り付かせる。
が、吹き飛ばされたアルフを受け止めるユーノの更に後ろから、フェイトが飛び出して来る。
その手に握られたデバイス、バルディッシュを鎌のように光刃を伸ばした状態で振り下ろす。
プレシアまでまだ距離はあるが、振り下ろされたバルディッシュから光刃が切り離されてプレシアへと。
それを追い掛けるように、なのはのディバインシューターが五発。
金色の刃と桜色の光弾を前にし、それでもプレシアは余裕の態度で手を翳す。
展開されるシールドは、フェイトが放ったアークセイバーのバリア破壊を考慮してか、
二枚重なるように展開され、その一枚一枚が強固であると窺わせる程に強い魔力が篭もっている。
この二重展開のシールドに、なのはとフェイトの攻撃が弾かれると見えた瞬間、プレシアが咳き込み口を押さえる。
展開していたはずのシールドが消え、プレシアへと襲い掛かるが、
蹲るように身体を丸めたお陰で直撃は受けずに済む。口を押さえた手から零れ落ちる赤い液体。
それに驚き、なのはもフェイトも放った魔法のコントロールを手放してしまう。
本来なら、制御されて再び軌道を変える事も可能な光弾と光刃はそのまま奥へと突き進み、祭壇の柱に衝突する。

「こんな時に! ……やはり、もう時間がないのね」

手に付着した血を擦り、口元を拭うとプレシアはふらつく身体に力をいれてすっと上体を起こす。

「お母さん、今のは……」

「しつこい人形ね。貴女にそう呼ばれる謂れはないと何度言わせるの」

心配するフェイトに蔑みの視線を投げ、プレシアは掌をなのはたちに向ける。
そこから放たれるのは魔力弾。速射性にすぐれているのか、プレシアはそれを続けざまに何発も撃ち込む。

それをアルフとユーノがシールドを張ってなのはたちを守る。
その間に反撃のチャンスを待つのだが、休みなく放たれる魔力弾の前になのはたちは反撃に移れない。

「あまり大きな魔法を使わないと思ったら、身体が耐えられないのかもしれない」

先ほどのプレシアの様子を思い返し、ユーノはそう口にする。
口にしながらもプレシアの魔力弾を受け続け、顔を歪める。

「とは言え、初級のフォトンバレットなのにこの威力。流石はランクSの魔導師」

一撃ごとにシールドを揺さ振られながらも、ユーノとアルフの二人はプレシアの攻撃を受け止め続ける。
その間にもフェイトはプレシアへと声を掛けるが、プレシアは聞こうともしない。
それどころか、フェイトが話し掛ければ掛けるほど、顔を憎悪に歪めていく。

「……やっぱり、このまま旅立つのは無理ね」

不意に攻撃が止み、訝しみながらもアルフたちはシールドを解除する。
二人の油断を誘うための芝居でも何でもなく、プレシアは濁った瞳でフェイトを睨みつける。

「さっきはああ言ったけれど、準備が完了すればどうでも良いと思っていたのよ。
 貴方達がどうなろうとね。でも、やっぱり貴女だけは完全にこの世から消すわ。
 アリシアと同じ姿をしたものはいらない。ただ、私を苛つかせるだけの人形は。
 アルハザードへと旅立つ前に、消し去ってあげる」

アリシアに似た人形を壊すと決めたプレシアは、時間稼ぎを止めて魔力を収束し始める。
今までの攻撃が全て時間稼ぎだと知り、またプレシアの語った内容を聞いたリンディがなのはに通信を入れる。
通信をプレシアにも聞こえるようにしてもらい、リンディは出撃準備をしながらプレシアへと話し掛ける。

「プレシア、それが貴女の目的だったのね。
 でも、アルハザードはただの伝承よ。そんなものの為に、我が子を捨てるなんて」

「何処の誰かは知らないけれど、何度も言わせないで頂戴。
 私の子供はアリシアただ一人。それにアルハザードは伝承なんかじゃないわ。
 確かに存在するのよ。そこへ続く道もね」

「まさか、その為の次元震なの?」

リンディの言葉を肯定するように、プレシアは笑う。
御伽噺として語られる、失われた秘術が眠るとされる地、それがアルハザードである。
その説明を聞いたなのはは、何か思いついたのかプレシアを呆然と見る。

「もしかして、そこならアリシアさんを生き返らせれると思って?」

「伝承に詠われるアルハザードと呼ばれる地があったとしても、死者を甦らせるなんて……」

なのはの言葉を肯定するかのように沈黙するプレシアを見て、ユーノもまた呆然と呟く。
だが、プレシアは何かを確認しているかのようにその目に強い力を滾らせる。

「復活の魔法、それがアルハザードにはあるのよ。それさえあれば、アリシアは私の元へと還ってくる。
 邪魔は、邪魔はさせないわ」

瞳に篭められた力に狂気を僅かに宿し、プレシアは膨大な魔力を操る。
それは攻撃用の魔力であると同時に、もう一つのためのものでもあった。
膨大な魔力は、プレシアの足元に伸びていたパイプのような、コードのような物を伝い背後の祭壇へと流れて行く。
その奥にあった装置を思い出し、ユーノが叫ぶ。

「大きな魔法を使わなかったのは体調だけが原因じゃなかったんだ!
 ずっと次元震を起こすために魔力を供給していたんだ」

「その通りよ。でも、もう遅いわ。次元震に必要は魔力はもう供給を終えた。
 後はその人形を壊して、お終いよ」

話している間にも魔力を掌に集めていたプレシアは、薄く笑みを刻んでなのはたちへと腕を突き出す。

「しまった!」

避ける暇はないと判断した四人がシールドを展開させるのと、プレシアが魔法を放つのは同時であった。
耐えたように見えたのはほんの僅かで、すぐに四人は押される。
このままではシールドが破られるのは誰の目にも明らかであった。

「僕が押さえる間に、なのはたちはこの場を離れて!」

「そんなの出来ないよ」

ユーノの言葉になのはが真っ先に反論する。
続いてフェイトも、ユーノの意見に反対する。

「もし私たちが離れたら、その途端にシールドは破られる」

フェイトの言う通りで、そうなれば離脱しようとしていたなのはたちも結局は砲撃の餌食である。
とは言え、このままではもってあと数秒といった所である。
それに加え、更に震動が大きくなっていく。
正に絶体絶命という状況にあって、なのはとフェイトはまだ諦めた様子を見せない。
そんな二人を見て、ユーノも更に踏ん張ってシールドを展開するのに魔力を注ぎ込む。
それでも、やはり状況に好転は見えそうもない。だが、最後まで諦めないと四人の表情は物語っていた。
そんな四人の努力を認めるかのように、上から一閃。黒い風がプレシアの砲撃を断ち切る。
ほんの数秒間だけ断ち切られた砲撃は、すぐに勢いを取り戻して獲物を飲み込まんと突き進む。
だが、その数秒でなのはたちには事足りた。
砲撃が途切れた瞬間、ユーノはフェレットへと変化してなのはに捕まり、フェイトはアルフの腕を掴むと、
なのはとフェイトは高速移動魔法を発動してその場から飛び退く。
その直後、四人の足元をプレシアの砲撃が通過して行く。
プレシアの砲撃を斬るなんて真似をするのは、四人が知る中でも一人しかおらず、
果たしてその想像通り、なのはたちの眼下には剣型のデバイスを手にした恭也の姿があった。

「少し遅くなってしまった」

「お兄ちゃん!」

「恭也さん!」

その姿を認め、嬉しそうな声を上げる二人に、恭也は優しい目でただ見詰める。
労うような視線に二人も知らず頬を緩める。
と、そんな雰囲気を打ち壊すように、恭也のデバイスを見たプレシアが怒りを目に宿す。

「そのデバイスは!? リニス!」

激昂して声を荒げるプレシアを、恭也は静かに振り返るのだった。





つづく、なの







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