『リリカル恭也&なのは』






第52話 「最終決戦」






プレシアは叫び、何故、恭也の手にリニス作のあのデバイスがあるのかという当然の疑問を抱く。
存在しない筈のものが存在し、しかも、見知らぬ男の手にあるデバイス。
前者はリニスがプレシアの命令に背いたという事で説明できるが、後者に関してはリニスと恭也には接点がない。
となれば、当然の如く、手渡したのはフェイトかアルフという事になり、
プレシアはようやく、アルフがここから逃げ出す事となった時に握っていたデバイスこそが、
初期の試作段階の失敗作などではなく、グラキアフィンだったと気付く。
気付き、アルフへと憎しみの篭もった視線で睨み付ける。
その視線を正面から受け、アルフもリニスの言葉を思い出す。
プレシアには内緒だと言った言葉を。
それを思い出し、アルフは不敵な笑みを見せる。
リニスを馬鹿にしたプレシアに一泡吹かせた事に対し、ざまあみろという感じに。
だが、そんなアルフの小馬鹿にしたような笑みにもプレシアは興味はなく、
ただ己の迂闊さを呪うように、自己の甘さを吐き捨てる。
起動しておらず、また、アルフが握り締めていたためにはっきりとその全貌が見えなかったとはいえ、
グラキアフィンを見逃してしまった、己の観察の甘さ。
設計図を見た際、リニスの言葉からグラキアフィンはフェイトのデバイスだと思っていたので、
バルディッシュがフェイトのデバイスとなった時点で、
まさか、それがアルフの手に渡ったなどとは、考えもしなかった。
そして何よりも、使い魔が主の言い付けを破るなどとは思ってもおらず、
グラキアフィンを破棄したと思い、アリシアしか居ないと言っておきながらリニスを信じた事。
既存のものに囚われず、様々な研究を行ってきた自分が、
主従におけるルールとも言えるものに囚われていたと自嘲する。
グラキアフィンはリニスがフェイトだけでなく、プレシアのためをも思って作られたと知っても、
決して信じはしないだろう。最早、自身の使い魔であるリニスでさえも信用するに足らない存在へとなっていた。

「そのデバイスもろとも、消え去りなさい」

急速に膨れ上がるプレシアの魔力。その足元に魔法陣が浮かび上がり、その視線は恭也を射抜くように真っ直ぐに。
視線同様に、上がった左腕もまた真っ直ぐに恭也へと向けられ、雷を帯びた魔力の帯が放出される。
プレシアの放った魔法――サンダースマッシャーを飛んで躱し、恭也はグラキアフィンを振るう。

【飛刃】

三日月型の魔力の塊が、恭也の振るった軌跡を辿るように作られ、プレシアへと飛んでいく。
それをシールドで軽く受け止め、二人は上空と地上とで対峙する。

「あのデバイスを起動させたらしいから、どんな奴かと思えば……。
 人形に肩入れする愚かな男だったとはね。満足に魔法も使えないようだし、まさに宝の持ち腐れね」

小馬鹿にしたように吐き捨てるプレシアに、恭也の眉が僅かに動く。
それを見たプレシアが笑みを浮かべ、更に挑発するように言葉を発する。

「事実を指摘されて腹でも立ったのかしら? でも、貴方の魔力資質が低いのは事実でしょう」

「そんなものは知らないし、関係ない。
 お前の言うように、グラキアフィンは俺なんかには勿体無いぐらい優秀なデバイスだからな。
 その点に関しては、特に反論もない。だが……、人形と言うのはまさかフェイトのことか?」

淡々と静かに、けれども威圧するような雰囲気を放ち問う恭也に対し、
思わず気圧された事を隠すようにプレシアは高笑いをあげる。

「人形を人形と言って何が悪いのかしら? 知らないのなら教えてあげるわ」

「フェイトの身体を見たことがあるか。
 あの白い肌が紅く腫れ上がるぐらいに散々鞭打たれた痛々しい姿を」

遮るようにプレシアに向かって恭也の静かだが、怒りを込めた声が放たれるも、
今度はプレシアも涼しい顔でその言葉を受け流す。

「道具が壊れたら新しい物を作るだけ。貴方だって機械の調子が可笑しければ叩いたりしない?
 ペットの躾が悪ければ怒って教えたりするでしょう」

「フェイトは物じゃない。人間だぞ」

「人間? 誰が? 貴方、私の言った事を聞いてなかったのかしら。人形だって言ったでしょう。
 あの子はね……」

「全て知っている。いちいち説明などしていらない。
 だが、それがどうした。フェイトには心がある。それを否定する事だけは絶対にさせない」

グラキアフィンを握り直し、恭也はその切っ先をまっすぐプレシアに突き付ける。
その力強い瞳を前に、何を言っても揺るがないと悟りプレシアはこれ以上の口論を繰り広げるのを止める。
恭也の後ろでフェイトが嬉しそうな表情になるのが偶然目に入り、それがまたプレシアの癪に障る。

「本当に目障りな人ばかりね」

ぽつりと呟くと、プレシアは魔弾を数発打ち出す。
それらを魔力を纏わせたグラキアフィンで弾いていく恭也。
シールドを張る訳でも、躱す訳でもなく、デバイスを剣のように振るい弾くという、
ミッドチルダの魔導師としてはプレシア自身、初めて見る方法で防御する恭也。
それならばと、弾けないような大きな魔法を放てば、今度は素早く回避行動に移り掠らせもしない。
魔導師のタイプとしては、砲撃系ではなくフェイト同様に中近距離の戦いを主としていると見抜き、
プレシアは小技を絡めて距離を離し、大きな魔法を放つ。
躱すばかりではいずれ疲れが見え始めるか、集中力が途切れて攻撃を喰らうであろうと。
だが、プレシアはグラキアフィンとそれを持つ恭也のことばかりに囚われすぎていた。
この場に、優秀な魔導師が二人も居ると言う事を忘れてしまうぐらいに。
事前に打ち合わせした訳でも何でもないが、恭也は自分の持つデバイスに拘るプレシアを見て、
プレシアの注意を引き付けるように動き、攻撃する素振りを時々見せつつ、プレシアに攻撃をさせる。
それを見たなのはがすぐに砲撃態勢を整え、魔力の収束を開始していたのである。
そして今、収束された魔力は魔法となり放たれる。

「ディバインバスター!」

レイジングハートから放たれる桜色の砲撃魔法。
気付いた時にはプレシアの眼前に迫っており、咄嗟にシールドを張るも易々と打ち抜く。
が、やはり相手は超が付くほど一流の魔導師。
シールドを何重にも張り巡らし、なのはの砲撃を防ぎきる。
砲撃を放った直後のなのはへと手を向け、魔弾を打ち出す。
決まったと思った一撃で油断した瞬間をついた一撃は、しかしユーノのシールドが受け止め、
その向こうでなのはは笑みを浮かべる。
それを疑問に思うよりも先に、背後からバルディッシュを振りかぶりフェイトが近付き、それを振り下ろす。
反射的に張られたシールドを、フェイトの背中から姿を見せたアルフのバリアブレイクが打ち砕く。
バルディッシュの金色の刃がプレシアの肩から腰へと振り下ろされ――ない。
決まったかに見えた一撃は、後少しと言う所でシールドで阻まれる。
間近で見詰め合う二人の目には、哀しみと憎悪という全く違う感情が浮かび、互いの姿を写し込む。
プレシアの手がフェイトの腹部に触れ、そこから魔力弾が打ち出される。
咄嗟にフェイトもシールドを張るも、その小さな身体は後方に吹き飛ばされる。
飛んできたフェイトをアルフが受け止め、その勢いを利用して後方に大きく飛び退く。
逆方向から恭也が迫り、それを視界の端に捉えたプレシアは左手を上げ、
大きく半円を描くように振り下ろしながら恭也の方へと身体の向きを変える。
フェイトに背中を向ける形になるが、フェイトは飛び掛らずに周囲の空間に何かを感じ取って、
アルフ共々後ろへと大きく飛び退く。

「恭也さん、離れて!」

避けながらのフェイトの声とほぼ同時、恭也もまた何かを感じ取って急制動をかけると後ろへと飛び退く。

「フォトンバースト」

ほんの僅かに遅れてプレシアの静かな声が響き、
フェイトの居た位置から、恭也が突っ込もうとしていた範囲までの空間が爆発する。
範囲内の魔力が圧縮されるのを感じ取り、咄嗟に飛び退いて被害を免れた三人は、
プレシアを挟み込むように立ち、仕切りなおしとばかりに構えなおす。
恭也の持つデバイスとフェイトを忌々しげに見詰め、プレシアもまた戦闘を再開せるべく魔力を溜め、
不意に喉元まで上がってきた血を飲み下す。
先ほどの少し大きな魔法の所為で、身体に負荷が掛かり過ぎたと理解し、本当に時間がないと焦りを抱く。
そろそろ次元震が起きても良いはずだと、まともに戦うのではなく逃げ切る方へと作戦を切り替える。
憎々しい物を二つも残していく事になるが、アリシアとの生活には変えられないと割り切り。
だが、一向に次元震の発生する気配はない。それどころか、戦っていたために気付かなかったが、
先ほどからずっと続いていたはずの揺れが心なしか小さくなっているように感じられる。
恭也たちに注意を払いつつ、プレシアは背後の機械類を見るも、正常に動いているようにしか見えない。
充分な魔力は供給したはずだが、まだ足りないのかと魔力を注ぎ込もうとする。
それを遮るように、再びリンディの声が聞こえてくる。

「プレシア・テスタロッサ。次元震の進行は押さえています。
 予定していた時間通りには起こらないわよ。そして、起こさせない。
 今、クロノ執務官から連絡があって、もう数分もすれば駆動炉も止まるわ」

次元震の進行を押さえるのは並大抵の事ではなく、そう話すリンディの声もかなり辛そうではある。
そう長くは持たないだろうと思われるが、クロノが駆動炉を完全に停止させるまで押さえる事ができれば良いのだ。
それぐらいは押さえてみせようと、リンディはアースラから供給され、
体内に収められない余剰魔力を蓄積した四枚の羽根を制御するため、口を閉ざしてより一層集中する。
Sランクにあたる儀式魔法による妨害に、さしものプレシアも焦りを見せる。
見せるが、すぐに笑みを刻む。

「駆動炉を止めると言ったけれど、正規な手段で止めなければ暴走するわよ。
 溜め込まれた膨大な魔力が逆流し、それこそどうなるかしらね」

プレシアの言葉をなのはがエイミィに伝え、急いでクロノへと通信がなされる。
だが、クロノへの通信は繋がらない。
焦るエイミィに触発されるように、なのはもまた慌て様子でクロノを呼ぶ。
それによって事態がプレシアにも読み取れたのか、今度こそ本当に焦りを見せる。
と、不意に大きな揺れが一同を襲い、恭也たちは咄嗟に空に浮いてやり過ごすも、プレシアは膝を着いてしまう。
忌々しげに舌打ちをすると、プレシアは恭也たちなど目に入っていないかのように、機械のある祭壇へと向かう。
そこから何かしようというのか、駆けるように祭壇を駆け上る。
プレシアが壇上に辿り着いたとき、不意に機械が大きな音を立て、煙を上げる。
計器類が出鱈目に動き回り、回転する。その様を見詰めながら、プレシアは急いで操作を始める。
だが、無情にも機械はあちこちから火花を散らし、小さいながらも爆発を起こし、炎上するものまで出始める。

「……そんな。今までやってきた事が……」

自分の計画が失敗したと悟り、プレシアは呆然と佇む。

「どうして!? どうして世界はこんなにも優しくないの!
 私やアリシアが何をしたって言うの!」

あらん限りの声で叫ぶプレシアを見下ろし、なのはは静かに口を開く。
たどたどしく、上手く纏まっているとは思えないけれど、それでも思ったことを口にする。

「世界は思っている以上に優しくなくて、悲しい事や辛い事もたくさんあるけれど、
 だからって、他の人に悲しい思いをさせて良いって訳じゃないです。
 それに、もう少しだけ周りを見れば、世界は思っているよりはちょっとだけ優しくて、
 嬉しい事とか楽しい事もたくさんあって。プレシアさんは、それに気付かなかっただけ。
 まだやり直せるはずです」

精一杯、伝えようとたどたどしく言葉を紡ぐ。
しかし、プレシアはそれを聞いてもただ静かに佇むだけで何の反応も返さない。
なのはの言葉を考えているのか、それとももうどうでも良くなってしまったのか。
俯いた状態では表情も見えず、その沈黙が何を意味するのかまでは読み取れない。
フェイトが何か言おうと口を開いた瞬間、大きな揺れと何かが爆発する音が響き、天井に、壁に皹が入り始める。
崩れ始めたと理解し、恭也たちは時の庭園から脱出しようとする。
だが、プレシアはその場に佇んだままである。
崩落が始まる中、それすらも見えていないかのように同じ場所にずっと立ち尽くす。
崩壊し始める部屋の中で、プレシアとフェイトの視線が絡んだその瞬間、
プレシアの頭上に一際大きな塊が落ちて行く。





つづく、なの




<あとがき>

いきなりですが、久しぶりの没ネタをば。
美姫 「レッツゴ〜」



「フェイトの身体を見たことがあるか。
 あの白い肌が紅く腫れ上がるぐらいに散々鞭打たれた痛々しい姿を」

遮るようにプレシアに向かって恭也の静かだが、怒りを込めた声が放たれるも、
今度はプレシアも涼しい顔でその言葉を受け流す。
だが、それを受け流せない人物が一人居た。恭也の後ろで同じく宙に身を置き、デバイスを手にした白い少女、
高町なのはその人である。なのはは満面の笑みを湛えたまま、恭也へと問い掛ける。

「ところで、お兄ちゃん?
 何でフェイトちゃんの身体の傷を知っているの?」

「いや、それは、その……。そ、そう、ほら、前にお前も含めて温泉に入っただろう。
 それで」

慌ててそう口にする恭也を訝しげに見遣るも、筋は間違ってないかとなのはは納得する。
それを見て、なのはにばれないようにほっと胸を撫で下ろすのであった。



ってな訳で、今回のあとがきは没ネタのみで!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」







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