『リリカル恭也&なのは』






最終話 「またね」






崩壊する時の庭園から脱出した恭也たちの前に、先に脱出したリンディとクロノが姿を見せる。
その顔は素直に事件の解決を喜んでいるとは言い難いものの、辛うじて笑みを見せる。
それはフェイトの吹っ切ったような顔を見たからこそ、自然と出たのかもしれない。

「とりあえずは一件落着と言いたいんだけれど、
 まだ次元震の余波があるから、納まるまではアースラで待機することになる。
 それと……」

言ってフェイトを見るクロノ。
庇うようにアルフが間に割り込むのを、フェイトが手で制するとクロノを正面から見返す。
覚悟を決めたような眼差しを前に、クロノは静かに言葉を紡ぐ。

「何も知らされず、ただ母親のためにその願いを叶えようとしていただけの女の子を重い罪に問うほど、
 管理局も冷徹じゃないよ。この件は僕に任せてくれないかな。
 裁判にはなるけれど、無罪になるように働きかけるから」

クロノの言葉にフェイトは頷き、アルフも大人しく従う。
リンディが静かに見守る中、ふと恭也が尋ねる。

「俺も捕まって裁判か?」

「いえ、恭也さんの場合は、目の前で困っていた見知らぬ少女を庇っただけと言うことにしますから。
 まあ、実際その通りですし、次元震を押さえる上で協力もしてもらいましたから。
 調書を取らせてもらい、書類を本局に送ってそれでお終いになると思いますよ」

クロノの言葉にフェイトとアルフはほっと胸を撫で下ろす。
これで裁判にまで恭也を巻き込んでしまえば、それこそ二人の落ち込みは激しくなる所だろう。
恭也の方は無罪を勝ち取る事を約束してくれたとは言え、フェイトが裁判にかかるという事で複雑な心境ではある。
とは言え、あれもこれもと望む事など無理で、自分に出来る事など限られている事を理解している。
少なくとも、自身が裁判になればその間はこの世界を離れる事になり、
どうしても家族が心配するだろうから、この結果に満足する事にする。
フェイトの事が気にはなるが、クロノを信じてその件には口を挟まない。

「ただ……」

故にクロノが続けた言葉に、フェイトやアルフだけでなくなのはまでが反応してクロノを見る。

「ああ、慌てないで。恭也さんに関しては、さっきも言ったようになるから。
 ただ、一応本局から連絡が来るので、それまでの間はアースラに拘留という形になると思います」

前半をなのはたちに言い、後半を恭也に向けて伝える。
その程度なら問題ないと恭也は頷く。

「多分、一週間ほどになると思いますけれど。
 次元震の余波の関係で、アースラがここに待機するのもそれぐらいの期間になると思いますから、
 すぐに自分の世界に戻れますよ」

そう言ってクロノは話を締め括る。
一区切りが着いたのを見て、リンディが全員へと今回の事件の終了を告げ、

「それじゃあ、帰りましょうか」

アースラへの帰還を口にする。
エイミィがそれに応えて、すぐにアースラへの転送魔法が展開され、恭也たちをアースラへと収納するのだった。



 ∬ ∬ ∬



事件から数日、艦内は次元震の余波に対する警戒態勢の中にあったが、
それでもようやく終わった事件に誰もが少し寛いでいるような、そんな空気の中、
クロノはフェイトの裁判に向けての証拠集めや書類の作成、
リンディは各方面への説明などに追われて忙しそうにしていた。
そんな中、アースラの一室では。

「……………………っ! だー、恭也! ちょっとは大人しくしておくれよ!」

突然、ベッドの上から叫び声をあげるアルフに、恭也は床に両手を付いたまま顔だけを向け、
その上に座っていたフェイトは驚いたような表情で、本から顔を上げてアルフを見詰める。
今、この場面だけを見ればうつ伏せになった恭也にフェイトが乗っているという状況なのだが、
当然そんな事はなく、単にする事のない恭也が腕立てをし、その重石代わりとして、
本を読んでいたフェイトに乗ってもらっているというだけである。
フェイトにしても、本を読むためにただ座っているだけで恭也の役に立てるとあり、
あっさりとその頼みを引き受けたのである。
で、する事のないアルフは一人ベッドの上をごろごろと転がったり、ジタバタと手足を動かしたりしていたのだが、
やはりそれぐらいで暇を潰せるはずもなく、時間を持て余していたのである。
そして、その隣で黙々と鍛錬をする恭也に対して、先ほどのような事をのたまったのである。
ある程度は艦内を自由に出歩いても良いという許可を恭也は得ていたが、フェイトが今の立ち場上、
大人しく部屋にいる事を選択したため、恭也もそれに付き合っているのである。
そんな訳で、恭也は空いた時間を実に有効に、部屋で鍛錬するといった事にあてていた。
アルフの文句を聞き、それでも腕立てを再開させながら、恭也は逆にアルフへと言い返す。

「大人しくも何も、ここは俺にあてがわれた部屋だぞ。
 なのに、何で文句を言われないといけないんだ?」

「うっ。それはそうなんだけれどさ……」

正論なため、アルフは口篭もり視線を逸らす。
逸らすも、すぐにじっとしているのに飽きて再び叫ぶ。

「だー! 暇だよ〜。ねぇねぇ、フェイト〜」

暗に出歩こうと誘うアルフに二人は揃って苦笑を見せる。
だが、それに気付かずアルフはベッドの上からひたすら暇、暇と繰り返す。

「大人しく本でも読んでろ」

「この前の御伽噺とかなら読んでも良いけれど、ないしね。
 あ、そうだ。何か話を聞かせてよ」

「聞かせてと言われてもな……。
 まあ、良いか。喋りながら運動すれば、更に良い鍛錬になる」

単に苦しくなるだけではと思うものの、フェイトは口を噤む。
フェイトもまた、恭也が何を話してくれるのか楽しみであったから。

「何かを話すというよりも、少し疑問に思ったことがあるんだが……」

少し考えた後、恭也はそう切り出す。
てっきり何かを話してくれると思っていたアルフは脱力したようにベッドに顔を埋めるも、
すぐに顔を上げると続きを促す。

「あたしに答えられることなら良いよ」

「アルフにといいうよりも、グラキアフィンに、だな。良いか?」

恭也のその言葉に、左腕に着けられた白い宝玉が小さく輝き主に応える。
それを肯定と受け取り、恭也は休む事なく身体を動かしながら尋ねる。

「何で、俺を主に選んだんだ?
 色んな経験をしてきて思ったんだが、他にももっと適正のある人は居ただろう。
 ましてや、俺には魔法資質は殆どないらしいじゃないか」

クロノたちから聞いた話では、恭也自身の魔力量は多くないとの事である。
魔力量だけでなく、魔法の知識もなければ、構築なども雑らしいのだが。
それらは全てグラキアフィンが代わりにやっていた為、
恭也は今まで魔法とはそういうものだと思っていた節すらあった。
更には、一連の調査などから分かったのは、恭也の魔導師としての資質はとてつもなく低いという事であった。
それなのに、インテリジェントデバイスに振り回されることなく、見事な相性を見せるのである。
調査が終わり、恭也からも話を聞いたクロノはグラキアフィンの特殊さに本気で感嘆し、
エイミィなどは今にも分解しそうな勢いでグラキアフィンを見詰めていた。
勿論、実際にそんな事はしないだろうが。
そんな事を聞き、恭也は改めてグラキアフィンが凄いデバイスであると認識すると共に、
先のような疑問を抱き、故にグラキアフィンに尋ねたのである。

【……優秀すぎる魔導師だと、私の力が存分に発揮できないからです。
 その点、マスターは魔法の知識もなく資質もありませんでしたから】

「つまり、魔法の才能がないから選ばれたのか」

言い辛そうに告げるグラキアフィンに、恭也はただ苦笑だけする。
事実なのだから仕方のないことだし、グラキアフィンには何度も助けられている。
恭也にとっては既に相棒と呼べるものなのだ。
だから、正直に話してくれて嬉しいという感情はあれど、責めるような感情は湧いてこない。
それをグラキアフィンも感じ取り、こちらも少し嬉しそうな声で返す。

【やはりマスターを選んで良かったです。
 無闇に力を振るわない、何かを守ろうとする、それも条件にありましたから。
 それに加え、マスターは魔法を使わずに戦う術を持っていました。
 私の力を完全に発揮でき、マスターの力になれるという私の願いにもぴったりの人。
 故にあの時、私は貴方をマスターにしようと決めました】

それが正解であり、とても満足していると伝えるグラキアフィンへと優しい眼差しを向け、笑みを零す。

「これからも宜しくな」

【こちらこそ、マスター】

そんなやり取りをする恭也たちを、フェイトたちはただ静かに見詰めていた。



 ∬ ∬ ∬



人もいない早朝の海鳴臨海公園。
その一角に、事件から一週間が経ったその日、晴れて釈放となった恭也の姿があった。
いや、正確には今、ここで自由の身となったのである。
思わず背伸びをする恭也の隣には、フェイトとアルフ、クロノの姿もあった。
四人で待ち人を待っているのだが、既に待ち合わせの時間まで後数分。
未だに現れない人物を待ちながら、恭也は時計を見遣る。

「やはり朝早くは無理だったか……」

諦めたように漏らす恭也に、クロノが申し訳なさそうに言う。

「すみません、こんな時間にしてしまって」

「いや、それは仕方ないだろう。アースラが帰還するんだからな。
 寧ろ、その前にフェイトと会う許可を貰えた事に礼を言わないとな」

二人の会話からも分かるように、次元震の余波もすっかり収まり、
これからクロノたちはミッドチルダへと戻るのである。
その前になのはとフェイトにお別れをさせてあげようとリンディが気を利かしたのだが、
時間の方がどうしても早朝となってしまったのである。
一緒に帰るはずのユーノもなのはと一緒に高町家に行っているため、ここには来ていない。
このままでは、別れの挨拶は愚か、ユーノを置いてけぼりにして発つ事にもなり兼ねない。
そんな懸念を抱きそうになるが、実際にはまだ待ち合わせの時間までは数十秒残っている。
と、朝靄の中に近付いてくる黒い人影。
かなり急いでいるらしく、荒い呼吸音も聞こえてくる。
クロノはそれに気付いていないのか、また話し始める。

「まあ、あのフェレットがこの世界に残る事になっても何も困りませんけれどね。
 寧ろ、使い魔として主人の傍に居れる方が幸せでしょうし。
 もしかしたら、その為になのはを起こさずにいるのかもしれませんね。
 全く、当分会えないだろうから別れの挨拶をさせてやろうと艦長が手配したというのに。
 使い魔は兎も角、なのはとフェイトが可哀想ですよ」

「だから、何度も言わせるな! フェレットじゃない!
 それに使い魔でもないって言っているだろう!
 というか、絶対に僕たちが来ているのに気付いて言っているだろう!」

「ああ、やっと来たのか。まあ、時間ピッタリだから遅刻でも何でもないか。
 しかし、フェレットじゃないと言っておきながら……」

そう言うクロノの視線の先には、なのはの肩に乗っているフェレットに変化したユーノが。

「こ、これはっ!」

「ご、ごめんなさい。
 ユーノくんも起こしてくれたんだけれど、わたしが中々起きれなくて、慌てて飛び出してきたの。
 だから、ユーノくんも元に戻っている暇がなくて」

昨夜、フェイトと別れる事を考え、中々眠れずにいたために寝坊したなのはが謝る。
そんななのはを呆れたように見遣りつつ、恭也は話し掛ける。

「まあ、遅刻をした訳でもないし、そんなに気にしなくても良いだろう。
 それよりも、時間も限られているんだ。フェイトと話をした方が良い」

言ってフェイトの背中をそっと押し、なのはの方へ。
近付いた二人は暫し無言で見詰め合い、どちらも何を言えば良いのか悩む素振りを見せる。
他の者が気を利かせて二人きりにしてあげるべく離れて行く中、
なのはとフェイトの手が恭也の上着と袖をそれぞれ掴む。

「あの……、恭也さんにも挨拶したいです」

「お兄ちゃんも一緒にお別れしよう」

恭也はさっきまでずっとアースラでフェイトと居たのだが、改まって別れの挨拶などはしていなかった。
故にフェイトとなのはの言葉に頷き返すも、確認するように尋ねる。

「俺も一緒で良いのか」

「はい」

「うん」

すぐさまに二人から返事が返り、恭也は二人の間に立つ。
そうして改めて三人で向かい合うと、恭也もまた何を言って良いのか分からなくなる。
とはいえ、このまま沈黙だけしていても時間は過ぎていくので、何とか言葉を見つける。

「ありきたりだが、身体には気を付けるんだぞ」

「はい」

「ほら、なのは」

隣で口を噤んでいるなのはの背中も軽く押してやり、フェイトの方へ。
なのははフェイトの顔をじっと見ていたが、やがてその唇が震えるように開かれる。

「……いっぱいお話したい事があったはずなんだけれど。
 でも、今は何にも浮かんでこないよ。フェイトちゃん…………」

名前を呼び、それっきり肩を震わせて顔を俯かせる。
そんななのはにフェイトはどうすれば良いのか分からずに困惑するも、おずおずと手を伸ばしてなのはの手を取る。
両手でなのはの手を包み込み、顔を上げたなのはと正面から目を合わせる。
潤んだ目を見詰め、フェイトは静かに言葉を紡ぐ。

「…………ありがとう、なのは」

あらゆる意味を込めたお礼の言葉。
拒絶しても話し掛けてくれ、勝負まで持ち出してまで友達になろうとしてくれ、
心配してくれた、一緒に共闘もした、ずっと言葉を投げてくれた。
そして、最後の最後まで友達になろうと手を差し伸べてくれたこと。
今まで、フェイトとなのはが出会い、繰り広げてきた全てに対し、フェイトは万感の想いを込めて口にする。
想いの篭もった言葉を受け止め、なのはは泣きそうな顔に満面の笑みを浮かべて、フェイトの手を両手で握り返す。
二人は共に目に涙を堪え、それでも笑みを浮かべる。

「友達と別れるのって、とても悲しいんだね」

「うん」

「それだけお互いに大切に思い合っているということだ。
 喜びも悲しみも共感し、分かち合える。本当に良い友に出会えたな、なのは、フェイト」

恭也の言葉にただ黙って頷く二人の頭に手を置き、恭也は静かに続ける。
手に友達の温もりを感じながら、優しさに包み込まれる安堵感に目を細め、ただ黙って恭也に撫でられる。

「今、ここで暫しのお別れとなるけれど、二人ならきっと大丈夫。
 どんなに離れていても、きっと心は繋がっていられる」

恭也の言葉に、互いの瞳に肯定の意志を宿して言葉にしなくとも互いに分かり合う。
それでも、一つの約束として形を残すかのように、まずはなのはが口を開く。
そんな二人の邪魔にならないよう、恭也はそっと二人から少し離れる。

「また会える日が来るのを待っているからねっ!」

「うん……。絶対に会いに来るから」

嗚咽を堪えて一息に言い放ったなのはに、フェイトは少しだけ言葉を詰まらせるも、大事な部分をはっきりと伝える。
名残惜しそうにゆっくりと手を離し、遂に堪えきれずに互いの頬を雫が伝う。
それを拭う暇もなく、なのはは思いついたように手を髪にやり、ツインテールを括るリボンを解く。
風の中に踊るように解けた髪が靡く中、なのははそのリボンを握って手を真っ直ぐにフェイトへと差し出す。
短い間だけれど共に過ごした思い出の一つとして、そして……。

「これから大変だろうけれど、わたしは傍に居られないから。
 何の支えにもならないかもしれないけれど、これをわたしの代わりに」

フェイトはなのはのリボンを手にすると、今度は自分のリボンを解いて同じようになのはに差し出す。

「なら、これをなのはに。何かあったら、今度は私がなのはを助ける。
 それまで、私の代わりに」

それ以上の言葉はなく、二人はリボンを手に見詰め合う。
吹き抜ける風に髪を揺らしながら、涙を堪えて微笑み合う。
当分会えないのなら、笑っている顔を覚えていて欲しいと。
互いに記憶に刻み込むように見詰め合い、そのまま数歩後ろに下がる。
恭也の隣に立ったなのはは、今度は兄の番だとばかりに恭也の背中を押す。
フェイトもなのはから恭也へと視線を移し、まずは頭を下げる。

「恭也さんには、アルフ共々とってもお世話になりました。
 何もお返しできないけれど……」

「気にするような事じゃない。俺がしたくてしただけの事だから」

相変わらず礼儀正しいフェイトに苦笑を漏らしつつ、そう返すともう一度フェイトの頭を撫でる。
そうされるのが気に入っているのか、フェイトは少し目を細めてそれを受け入れる。

「何かあったら、遠慮しないですぐに連絡をするんだぞ。
 出来る事は限られているが、力になってあげるから」

「……ありがとうございます」

遠慮する言葉を飲み込み、フェイトはただ感謝を伝える言葉だけを口にする。
なのはとは別の方法で温もりをくれた恭也の、自分の頭を撫でている手を取り、両手で包み込む。
ごつごつとした堅い、けれども優しく温かい手を胸元に抱きしめ、そのまま腕をそっと引く。
少し屈む形となった恭也の顔を見上げる。

「恭也さんにもまた会いに来ます」

「ああ、楽しみにしている」

そう言って微笑を見せる恭也を前に、堪えきれなくなった涙を隠すように恭也の首に抱き付く。
暫くそうやって流れ落ちそうになる涙を隠し、顔を上げる頃には恭也へと笑みを見せる。
何処か照れ臭そうに、けれどもしっかりと笑みを湛えて。

「本当にありがとう」

前に言われたように、アルフに対するみたいな口調でそう告げると恭也は嬉しそうに目を細める。
そんな恭也の頬に素早く顔を寄せ、軽く触れる程度に口付けをする。
思わず呆然となる恭也から離れ、フェイトは真っ赤になりながらも口早に説明する。

「ま、前にアルフがこの世界の親愛の挨拶はこうするって言ってたから」

「いや、まあ海外ではそうだから、間違ってはいないが……」

軽く触れられた頬を必要以上に意識し、未だに感触が残り温かいような錯覚を覚える中、
恭也は自然と頬に手を当てる。そんな風に戸惑う恭也の隣で、なのはは膨れる。

「ひょっとして、何か間違ってました?」

本当に知らないらしく、二人の様子にフェイトもまた戸惑いを見せる。
フェイトとしては、前に恭也に言われたアルフに対するようにという願いを叶えるべく、
恥ずかしいのを堪えて親愛を示すといわれた行動に出たのだが。
戸惑うフェイトを見て、恭也は落ち着きを取り戻し、なのはも何とか溜飲を下げる。

「海外では確かにこういった挨拶はあるけれど、日本では珍しいからな。
 まあ、うちでは姉的存在のお蔭で、全くない訳ではないが。
 何にせよ、ありがとうフェイト」

「あ、いえ……」

フェイトのその気持ちを悟り、それに対して礼を言う恭也にフェイトは照れたように俯く。
先ほどまでのしんみりした雰囲気はかなり和らいでいたが、クロノからの遠慮がちなもうすぐ時間だという念話に、
再びしんみりとした空気が流れる。
それでも、次の再会の約束を胸に、笑顔でフェイトは二人に背を向ける。
フェイトの足元に転送用の魔法陣が浮かび上がり、光を放つ。

「きっとまた、なのは、恭也さん」

肩越しに振り返り、笑顔でそう言うフェイトになのはもまた満面の笑みを浮かべて力強く返す。

「うん、またねフェイトちゃん。わたし、待ってるから!」

「ああ、またな」

二人がフェイトに言葉を返すと、フェイトの姿はその場から消える。
離れた場所で見ていたクロノたちも同様に光に包まれる中、恭也たちに頭を下げる。

≪恭也、本当にありがとう。なのはも。あの子が笑える日が来るなんて、本当に……≫

≪ああ、ほら、アルフ。君まで泣いてどうするんだ≫

アルフとクロノのやり取りに苦笑を漏らしつつ、恭也はアルフに念話を送る。

≪礼を言われるほどの事が出来たかどうかは分からないがな。
 それより、これからもフェイトの傍に居て支えてやれよ≫

≪アルフさん、フェイトちゃんをお願いしますね≫

≪言われるまでもないよ! フェイトは私の大事なご主人様なんだからね。
 今度、またフェイトと一緒に来るから≫

言うなりアルフの姿が消え、次いでクロノがやはりお礼の言葉を投げてくる。

≪事件解決の協力に感謝します≫

≪いや、元々個人的に関わっていた事だったからな。
 寧ろ、最後まで関わらせてくれた事にこちらこそ感謝する≫

≪クロノくん、フェイトちゃんの事お願いね≫

≪分かっているよ。絶対に無罪にしてみせるから≫

そう約束してクロノもまたアースラへと帰還する。
残ったユーノはなのはへと掛ける言葉を探し、結局はお礼がその口から出てくる。

≪なのは、本当にありがとう。大変な事を頼んだのに、最後まで付き合ってくれて≫

≪お礼を言うのはこっちの方だよ、ユーノくん。
 ユーノくんのお蔭で魔法を知って、レイジングハートと出会えた。
 そして、フェイトちゃんっていう新しいお友達も出来た。
 ……本当に、ユーノくんにはお礼を言い足りないぐらいだよ。
 それに最後まで付き合ってくれたのはユーノくんの方じゃない。
 途中からはわたしの我が侭みたいなものだったし。
 ありがとう、ユーノくん≫

≪……そう言ってくれるのなら、僕も嬉しいよ≫

素直になのはのお礼を受け取り、ユーノはなのはにレイジングハートを託した事を誇らしく思う。

≪恭也さんにもお世話になりました≫

≪こちらこそ妹が世話になった。元気でな≫

≪はい。それじゃあ、なのは≫

≪うん。元気でね≫

≪なのはも≫

そう言って最後にユーノの姿も消えると、早朝の公園には恭也となのは以外は誰も居なくなる。
二人はその場から立ち去らず、どちらともなく空を見上げる。
既にその先にはアースラはいないであろうが、それでも自然とそういう行動に。

「……また会おうって約束してくれた」

「そうだな。早くその日が来ると良いな」

「うん」

なのはの手からフェイトのリボンをそっと取り、解けたままになっている髪を手櫛で整えると、
黒いリボンでいつもの髪型にしてやる。
大人しく恭也に髪型を整えられながら、なのはは後ろに立つ恭也を見上げる。

「ほら、まだ動くな」

「へへへ、はーい」

いつものように仏頂面でそう注意してくる恭也に、
なのはは何故か笑顔でそう返すと、殊更甘えるように恭也に凭れ掛かる。
やり辛いと文句を言いつつも、恭也は引き離したりせずにその態勢で器用になのはの髪を纏めていく。

「ほら、出来たぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「ほら、そろそろ帰るぞ」

なのはの頭を髪がぐしゃぐしゃにならない程度に少し強く撫で、恭也は歩き出す。
置いていかれては堪らないとばかりに足早で恭也の横に並ぶと、その手を握る。
追いついて来たなのはの歩調に合わせて歩く速度を落としながら、恭也はただ黙ってなのはの手を握ってやる。
それを受け、なのはは甘えるように腕に抱きついてくるも、やはり黙って好きにさせてやる。

「お兄ちゃん、わたしもっと魔法を覚えたいな。
 これからも魔法の練習をしても良い?」

「……そうだな、良いんじゃないか。
 なのはも今回の事件で色々と考えただろうし、その上でそうしたいと思ったんだろう。
 だったら、思うようにやってみたら良い」

「うん。今度フェイトちゃんと会った時に、びっくりさせるぐらいに」

「ああ、頑張れ。尤も、まずは早起きの努力から必要だろうがな」

「む〜、またすぐにそうやって意地悪するんだから」

拗ねたように頬を膨らませて恭也を怒るが、その顔には笑みが浮かんでおり、
しっかりと恭也の腕を抱いたまま、並んで歩く事から本気で怒っている訳ではないのだろう。
そんななのはの様子に微笑を浮かべつつ、恭也はもう一度だけ顔だけで振り返って空を仰ぐ。
小さな友人との再会を祈り、ただ静かに。



アースラに与えられている部屋の中で、フェイトは一人ベッドに腰掛けながら手の中にあるリボンを見詰める。
その口には小さな微笑を湛え、大事な宝物であると言わんばかりにそっとリボンを撫でると、
解けたままの髪に手をやり、そのリボンでいつもの髪型へとするべく手を動かす。
慣れた手付きですぐにいつもの髪型へと整えると、壁に掛かっている鏡を眺める。
鏡の中に映るリボンに目を細め、左手で愛しそうに撫でながら飽きる事なく見詰める。
と、視線が少し下がり、とある一点に注がれる。
空いていた右手がゆっくりと持ち上がり、鏡の中に映り注視していた唇にそっと触れる。

「恭也さん、なのは……またね」

リボンと唇に触れながら、フェイトは交わした小さな約束を大事に大事に胸に仕舞い込む。
初めて得た友人たちとの再会を心待ちにして。





おしまい、なの




<あとがき>

という訳で、ようやく最終話のお届けです。
美姫 「待たせすぎよね」
それに関しては反省。
美姫 「まあ、何とか完結できて良かったわね」
ああ。良かった、良かった。
美姫 「最後まで読んでくださった方、ありがとうございます」
もう、あちこち無茶苦茶だったりとか、
文章が可笑しな部分とかあったりしましたが、最後までお付き合い頂いてありがとうございます。
美姫 「こうして完結できたのも、皆さんのお陰です」
これにて『リリカル恭也&なのは』は完結です。
美姫 「それでは、この辺で幕引きを」
ではでは。



と言った割に、これは何でしょうか?
美姫 「ずばり、今回の没ネタね」
最終話だから、綺麗に終わろうぜ
美姫 「いや、あるものは使わないと勿体無いじゃない」
むむ、そう言われると……。
美姫 「そんな訳で、レッツゴ〜」



<没1>

大人しく本を読んでいたアルフであったが、それにも飽きて恭也に何か話をするようにせがむ。

「なら、昔父さんと修行していた時の話だが……」

そう言って、恭也は過去の話を幾つかしていく。

「……と、まあ、そんな訳で何とか無事に家に辿り着けたという訳だ」

幾つ目かの話を終え、ようやく恭也は一息入れる。
と、今まで黙って聞いていたアルフが目に涙を僅かに見せる。

「苦労したんだね、恭也。フェイトは虐待されていたけれど、恭也は苦労を……う、うぅぅ」

「いや、待て! 俺はそこまで同情される程酷い目には逢ってないぞ。
 フェイトよりも随分とましだ」

「い、いえ、私もそこまで小さい頃はリニスが居たので……。
 それにお母さんには色々と叱られましたけれど、流石に恭也さん程では……」

「そうだよ。大体、夕食の奪い合いで真剣まで抜くなんて」

【マスターの今の性格を形成した理由の一端を垣間見た気がします】

グラキアフィンにまで同情したような声で言われ、恭也は肩を落としつつ器用に首を捻るのだった。



<没2>

なのはが二つあるリボンの一つを解き、フェイトへと渡す。
それと交換するように、フェイトも二つのリボンを解き、それぞれ恭也となのはへと。
フェイトのリボンを受け取った恭也は、手を髪へと持っていき、

「なら、俺もリボンを……」

「お兄ちゃんはしてないでしょう」

「冗談だ。流石にリボンはしていないからな。
 ……代わりに鋼糸を……という訳にもいかないな」

「当たり前でしょう、お兄ちゃん」



<没3>

素直になのはのお礼を受け取り、ユーノはなのはにレイジングハートを託した事を誇らしく思う。

≪恭也さんにもお世話になりました≫

≪いや。ユーノに関しては、本当に何もしていないからな。
 寧ろ、妹の無茶に付き合わせたようだし……≫

≪お兄ちゃんっ!≫

≪……冗談だ≫

≪今の間は何ですか?≫



<没4>

「ちょっと出掛けてきます」

「なのは、どこに行くの?」

高町家の玄関から元気な声が響く。
問い掛ける姉の言葉に、なのはは玄関の扉を開けながら答える。

「友達をビックリさせるための特訓に!」

そう言って飛び出していくなのはの声をリビングで聞きながら、恭也はただただ苦笑を漏らす。
その手には一通のビデオレター。差出人はフェイトである。
内容は、アースラでの生活について。
そして、クロノ相手に魔法の特訓をしているといったものであった。
その中でフェイトは、もう一つの約束をなのはにしようと持ちかけた。
それは……。

「なのは、今度会った時にもう一度勝負。今度は私が勝つから」

それを見るなり、なのははああして飛び出して行ったのである。

「わたしだって負けないからね、フェイトちゃん!」

空に向かって叫ぶと、なのはは走り出すのだった。



とまあ、これだけの没が。
特に没4は最後におまけとして付けるかどうかと悩んだ挙句に削除したという。
美姫 「四つも没が」
うん。さーて、没も出し終えたし……。
美姫 「これで本当にお終いね」
ああ。それでは、この辺で。
美姫 「ではでは〜」








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