『リリカル恭也&なのは』






外伝5 七夕






「ふぅ、こんなものか。なのは、貰ってきたぞ」

中庭で一仕事を終えた恭也は、家の中へとそう声を掛ける。
恭也の声にドタバタと走ってくる音が聞こえ、恭也が注意するよりも先に庭にある恭也の仕事結果を見て、
花も綻ぶとばかりの満面の笑みでお礼を言ってくる。
その笑顔に仕方がないなとばかりに肩を竦め、恭也は縁側に上がる。
それと入れ替わるようになのはが中庭へと降り立ち、その後ろに付いて来ていた少女が中庭を見て、

「笹、ですか?」

「ああ。今日は七夕だからな」

「七夕?」

「うん、七夕。今日七月七日は七夕と言ってね……」

疑問顔の少女――フェイトへとなのはは嬉々として七夕の説明を始める。
織姫と彦星の話を聞いては悲しそうな顔を見せたかと思えば、
笹に願い事を吊るすと聞いては何を願うかと頭を悩ませ、そこには年相応の女の子の姿があった。
それを微笑ましく見守りながら、恭也は二人が話している間に用意したお茶の入った湯飲みを傾ける。
その足元に丸まった子犬姿のアルフが欠伸を一つ漏らし、二人の邪魔にならないように配慮したのか、
念話で恭也へと話しかける。

≪それにしても、アンタはアンタで年不相応だね相変わらず≫

≪そういうアルフも相変わらず失礼だな。
 それが妹に頼まれて一仕事を終えたばかりの疲労した人間に言う言葉か≫

≪相変わらずなのはには甘いね。それに、あれぐらいならアンタにとっては大した労力でもないだろう≫

≪そんな訳あるか。あれだけの笹を商店街から一人で持って帰ってくるだけでも一苦労だったというのに。
 そんな事をいう奴には今日のおやつはなしだな≫

「なのは、フェイト、こっちに来ておやつでもどうだ。
 笹を貰ってくるついでではないが、かーさんからケーキの差し入れを貰ったんだ」

「やったー。フェイトちゃん、食べよう」

「あ、うん」

フェイトの手を引いてこちらへとやって来るなのはを見遣りつつ、恭也は立ち上がる。
その足元ではアルフが甘えた声を出して擦り寄っている。

≪恭也〜、あたしが悪かったよ≫

≪今更だ、と言いたいけれどアルフの分もちゃんとある。
 とりあえずは人の形態に戻って手を洗って来い≫

既になのはとフェイトは手を洗いに行っており、
恭也は三人分のケーキとジュースを準備するためにキッチンへと向かう。
その後を尻尾を振りながら追いかけつつ、アルフは犬型から人型へと姿を変えるのだった。




おやつを食べ終えた二人は、早速笹に飾る飾りを作り始める。
そこへ美由希たちも帰ってきて二人に加わり、先程よりも賑やかとなった光景をやはり一人お茶を啜って眺める恭也。

「ふぅ、平和だな」

しみじみと呟き再び湯飲みを傾けるも、既に中は空っぽだったらしく、恭也は湯飲みを置く。

「どれ、俺も何か作ってみるか」

言って近くにあった折り紙を手にし、お世辞にも細いとは言えない指で器用に紙を折り畳んでいく。

「ふむ、出来た」

自ら作り上げた飾りを前に誇らしげに胸を張る恭也に対し、フェイトやアルフをおおっ、と感嘆の声を漏らすも、
美由希たちはやや引き攣った笑みを浮かべていた。

「恭ちゃん、どうして兜なんて折ってるの?」

「どうしてと言われてもな。元々鎧兜には身を守って無事に成長するという願いが込められていて……」

「そうじゃなくて! それは端午の節句でしょう!
 今日は七夕なの、た・な・ば・た! それに、そっちのそれはなに!?」

「これか? これはな……」

突っ込みながら美由希が指したのは、折り紙で折られた兜の隣に置かれた十字に折られた折り紙であった。

「ふっ!」

十字の一端を手で掴み、それを美由希へと投げる。
投げられた十字型の折り紙――手裏剣は回転しがら美由希の額に当たり、

「いたっ! ちょ、これ折り紙のくせにとっても痛いんだけれど!」

「たかが紙と侮るからそういう目に合うんだ。
 それは先端部分に飛針が……」

「って、危ないじゃない! って、それで重いのこれ!?」

「まあ、流石にそれは冗談だが、先端部分には必要以上に紙を折り重ねたからな」

無意味に凝った手裏剣を作った恭也にフェイトやアルフなどは感心するが、
このままでは間違った七夕を覚えかねないと慌てたなのはが二人に必死にあれは違うと説明をする。
そんななのはの横で美由希は折り紙を数枚重ね、山折り谷折り、とパタンパタンと折っていく。
出来上がったものの端を手で持ち、即席のハリセンを作り上げるとそれを振り被り、

「った!」

恭也のデコピンを喰らって額を押さえて蹲る。
そこへ追い討ちとばかりに落とした美由希作のハリセンで威力はないながらもペチリと頭を叩いて屈辱を与える。

「七夕、それは飽くことなき剣士たちの戦い……。
 かの松尾芭蕉も七夕の戦いで散った剣士や笹の葉を見て、かの有名な句、
 夏草やつわものどもが夢の跡を詠んだくらいだからな、うんうん」

「って、違うでしょうお兄ちゃん!
 またそうやって嘘を教えたら駄目です! フェイトちゃんが信じたらどうするんですか」

両腕を組んで胸を張り、プンプンと言った感じでお説教をするなのはの頭に手を置き、

「なに、ちゃんとなのはが本当の事を教えてくれるだろう。
 つまり、なのはを信じているからこそ、俺も冗談が言えるんだ」

「お兄ちゃん……って、そうじゃなくて!」

思わず恭也の言葉に感動して口元を緩めかけるも、すぐに初めから嘘を言わないとお説教モードへと逆戻りする。
そんななのはを見て、昔は純真だったとその純真を弄び疑うようになった現況はしみじみと思うのであった。
恭也となのはのやり取りを微笑ましく見守りながら、残るメンバーは手を動かす。

「なあ、フェイトちゃん。七夕ってのはな……」

「あ、さっきなのはから聞きましたから、恭也さんのあれが冗談だってのは分かります」

「そうか、それなら良いんだ。にしても、師匠もよくやるよな」

「そう言うな晶。お師匠もなのはちゃんもあれはあれで楽しんではるんやから」

「本当にここの家の子達は皆、仲が良いね」

「その中には勿論、アルフさんたちだって入ってますよ」

そんな感じで仲良く話をする四人の下へ、芋虫の如く身体を床に這わせて美由希が近づく。

「うぅぅ、どうしていつも私ばっかり……。
 それに晶たちまで私を放置するなんて……」

高町さん家の長女さんが恨めしげに妹分たちを見ていたり、いなかったり。
そんな感じでわいわいと時間は過ぎて行き、夕方には中庭の笹の飾り付けは無事に終わるのだった。

「ほう、中々様になっているじゃないか」

「そうだね。あ、お願い事を書いた短冊を吊るすの忘れてた」

恭也の言葉に同意し、美由希はすぐに短冊を取り出す。
既に願いは書いてあるらしく、それを上の空いている所に吊るす。

「ふむ……差し詰め、ドジが直りますようにか」

「違うよ」

「なに? じゃあ、他に何があるというんだ。
 あ、料理が上手くなりますようにか」

「違う」

「お師匠、美由希ちゃんのことやから、好きな本がたくさん読めますようにじゃないですか」

「いやいや、案外、打倒師匠とかいう必勝祈願じゃ」

好き勝手言ってくれる恭也たちに美由希は剥れながらも自身の短冊を指差し、

「そうじゃないよ。家族皆の健康祈願だよ」

「なあ、レン。こういう場合、普通過ぎてどう突っ込めば良いのか分からないのだが」

「いや、うちかてどうしようか悩んでるんですが」

「まあまあ。美由希ちゃんらしいと言えばらしいじゃないですか。とっても普通で」

「何!? 何なの、この空気!?
 まるで私が悪いみたいになってるんですけれど!?」

何故か避難されているような気分となり誰ともなく突っ込んでみる美由希。
散々からかって気が済んだのか、恭也は珍しく優しく美由希の肩に手を置く。

「冗談はさておき、お前らしくて良いんじゃないか」

「確かに優しい美由希ちゃんらしいって」

「まあ、俺たちも似たようなもんだし」

「だったら、初めから素直に言ってよ……」

やけに疲れた声を出す美由希を見て、晶たちは笑う。
と、恭也は必死に背を伸ばして短冊を吊るそうとしているフェイトを見つけ、

「付けてやろう」

そう言って近づく。
なのはやアルフがあっさりと渡して来た短冊を受け取り、それぞれ上の方に付けてやる。
その際、アルフの願い事が目に入り、

「いや、まあ良いんだがな。しかし、肉と書いただけじゃ意味が分からなさすぎるぞ」

少々呆れた声を上げる恭也であった。
残るフェイトは自分で付けたいと恭也の申し出を断り、もう一度手を伸ばす。
それを見て、恭也はフェイトの背後に回るとそっと抱き上げる。

「これで届くだろう」

「あ、ありがとう」

小さく照れながらお礼を言うフェイトにどういたしましてと返し、

「ほら、早くつけたらどうだ」

「は、はい。あの、見ないでくださいね」

恥ずかしそうに短冊を胸に抱いて隠しつつ言ってくるフェイトに見ないと言ってやると、
ようやくフェイトは短冊を吊るす。
短冊を付け終えたフェイトを下ろしてやると、玄関から桃子の帰宅する声が聞こえ、なのはたちは家の中へと戻る。
その後に続こうとした恭也の目に、フェイトの短冊が目に入る。
見ようと思ったのではなく、本当に偶々目に入っただけなのだが、
その人よりも良い動体視力はその願い事をしっかりと読み取ってしまっていた。

『恭也さんとなのは、アルフとずっと一緒にいられますように フェイト』

その何とも可愛らしいお願い事に微笑を浮かべると、何もなかったかのように皆の後に続く。
玄関から縁側へとやって来た桃子が笹飾りを見て上手く飾れたわねと笑みを浮かべる中、
恭也は自然とフェイトとなのはの頭に手を置き、そっと撫で上げる。
突然の事に驚いて見上げる二人であったが、特に何も言わずにただ一人は嬉しそうに笑い、
一人は照れがちにはにかんでその掌を受け入れるのであった。





おわり、なの




<あとがき>

という事で、七夕のお話〜。
美姫 「何か、時事ネタで外伝が増えていっているような」
あははは、まあ確かにそうかも。
いや、ついつい手が動いちゃうんですよ。
美姫 「まあ、良いんだけれどね。今回も本編とは」
はい、関係ないという事で。
そんな訳で、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る