『リリカル恭也&なのは』






外伝6 ハロウィン






「ハロウィン?」

聞きなれない単語に首を傾げるフェイト。
途端、恭也の顔が僅かに輝いたように見えたのは、きっと見間違いだろう。
ともあれ、フェイトの漏らした呟きにここ高町さん家にリビングに居た者たちが教えようとするも、
またしても恭也が真っ先にフェイトへと話しかける。

「ハロウィンというのはな、子供がお菓子くれなきゃ悪い子になって悪戯するぞと周りの大人たちを脅迫する行事だ。
 因みに、これで悪い子になった子供がこの前教えたクリスマスのサンタクロースによって、
 プレゼントを餌に再び良い子に戻ると言うシステムで……」

いつものように真顔で嘘を吐く恭也に美由希たちは呆れたような顔を見せるも、
やはりと言うか、なのはがぷぅと頬を膨らませて嘘を教えようとする恭也を叱り付ける。

「お兄ちゃん、フェイトちゃんにまた嘘を教えようとして」

「だ、大丈夫だよ、なのは。
 恭也さんの嘘も大分、分かるようになったし、皆の反応からこれがいつもの冗談だって分かったから」

腰に手を当ててプンプンといった感じで、恭也から見れば可愛らしい仕草で怒るなのはを宥めるフェイト。
ある意味、成長したとも言えるフェイトの言葉に、アルフは感心したように呟く。

「うんうん、フェイトも成長したね〜」

「うん。だって、前のクリスマスのプレゼントを餌にとかは冗談だったから。
 だから、それを言った時に気付いたの」

「それまでは信じてたの、フェイトちゃん」

「まあまあ、なのは。それでもフェイトにしては成長だよ」

「ふぅ、俺としては寂しい限りだ」

アルフの言葉に嬉しそうにするも、続き恭也の言葉に申し訳なさそうな表情を見せるフェイトの頭に手を置き、
恭也は冗談だと告げると、今度は本当のハロウィンを説明してやる。

「ハロウィンというのは、悪戯好きな子供たちがお菓子をくれないなら悪戯するぞと宣言し、
 それを鬼の面を被り、包丁を片手に持った者が、悪い子はいないかと唸りながら見つけ出すと言うイベントだ。
 見つかるとそれまでに集めたお菓子を没収され、時間内まで逃げ切れた者はお菓子を手に入れれるという……」

「お兄ちゃん!」

「え、もしかして今のも嘘なんですか?」

「全部が嘘という訳じゃないかな。恭ちゃんが相手だと、まともに教えて貰えないだろうし、
 仕方ないからお姉さんがフェイトちゃんにハロウィンを教えてあげよう」

なのはに再び叱られる恭也を笑いながら見つめ、美由希がお姉さんぶったようにそう口にすれば、
それをちゃっかりと聞いていた恭也がすかさず突っ込む。

「誰がお姉さんだ、誰が。無駄に年を喰っているだけでお姉さんぶるとは片腹が痛い。
 寧ろ、普段の行動を見る限りお前の方が妹ではないのか」

「恭ちゃん、いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないかな?」

「ほう。数日前の駅前」

「……あ、あはははは、な、何の事か分からないかな〜」

「そうか、分からないか。そうか、そうか。
 転びそうになってフェイトに支えられた覚えはないと。なら、偶々見たと思ったが、俺の勘違いなんだろうな。
 だが、この前行った遊園地の件は?」

「あ、あははは。あ、あれは偶々道が分からなくなっただけで……」

「で、フェイトに手を引かれて合流地点に現れたと。
 いやはや、立派なお姉さんだな」

「う、うぅぅ、相も変わらず兄が、兄が優しくないんです。
 言葉の刃が襲ってくるんです」

言って傍に居たフェイトに嘘泣きして抱きつくと、フェイトは戸惑ったものの美由希の頭をよしよしと撫でる。
これは流石に予想していなかったのか、美由希も驚いて思わず呆けてしまうが、
フェイトは気付かずに美由希の頭を撫で、かつて恭也にしてもらったように優しい声音で話しかける。

「もう大丈夫だから」

「え、えっと……」

「お姉さん、ね」

困惑したままフェイトを見上げるも、フェイトは優しく微笑むだけ。
そこへ恭也がポツリと呟いた言葉。それを耳にした美由希はすぐさま我に返って身体を起こす。

「も、もう大丈夫だからフェイトちゃん」

「そうですか」

「うん、もう元気、元気。えっとそれよりもハロウィンについてだったよね」

わざとらしく何か言いたげな視線を飛ばしつつ、敢えて何も言わない恭也。
その視線に居心地の悪さを感じつつ、美由希は誤魔化すようにフェイトへと説明を始め、
他の面々はいつもの事だとただ笑ってそれを眺めるのだった。



 ∬ ∬ ∬



「トリック・オア・トリート!」

「お、お菓子くれないと、い、悪戯しちゃいます」

学校から帰宅し、家に入るなり二人の魔女に出迎えられる。
しかも、開口一番の台詞がこれである。
だが、今日がハロウィンだと分かっていた恭也は、黒いマントにローブ、
とんがり帽子とお揃いの格好をする――ただし、一人は楽しそうに、一人はやや照れながらと反応は少し違うが――、
可愛らしい魔女二人を前に鞄をあさり、予め買って来ていたお菓子を取り出すと二人に渡す。

「ありがとう、お兄ちゃん」

「ありがとうございます」

お礼を言ってくる二人に改めてただいまと告げ、家へと上がるなり走りよって来る一人の女性。

「恭也! トリック・オア・ミート!
 肉くれないと噛み付くぞ〜!」

「色々と突っ込みたいが、とりあえず先に一つ。
 アルフ、お前は仮装していないだろう」

「ちゃんとしてるって。ほら、自前の尻尾と耳で狼男じゃなかった、狼女だよ」

言ってピコピコと尻尾と耳を動かすアルフに嘆息しつつ、恭也は鞄からまたお菓子を取り出す。

「残念なががら肉ではないがな」

「いやいや、あれはついと言うか、うっかりと言うか。
 とにかく、ありがとさん」

誤魔化すように笑いながらお菓子を受け取ると、やはり嬉しいのか尻尾をフルフルと振るわせる。
その背中を苦笑混じりの顔で見送り、恭也は一旦部屋へと向かう。

「しかし、本物の魔法使いが魔法使いの仮装というのもあれだな」

着替えをしながら、これまた苦笑混じりに呟くも、それに答える声が響く。

【あれがこの世界での魔法使いの格好なのですか?】

「実物がいるかどうかは別として、大概、絵本などで出てくるのはああいった格好ではあるな。
 魔法使いというよりも魔女と言って、殆どはお婆さんだったりするんだがな」

【ですが、お二人のお姿はとても可愛らしかったですね。
 マスターも鼻の下が伸びていました】

「ラキア、あまりからかうな」

自身の左腕に付けたデバイスを軽く睨み、
もしかすると主である自分よりも感性豊かになってきたのではと思わなくもないが、とりあえず注意をしておく。
本気で怒っている訳ではないと理解しているのか、グラキアフィンも軽く謝罪の言葉を口にするものの、
ちゃっかりと恭也の脳内に送られてくる映像では、舌を出して片目を閉じ、
顔の前で軽く片手を上げている少女という何とも言えないものであった。

「前々から疑問だったんだが、そういった知識はどうやって仕入れているんだ?」

【主にメンテナンスと称する作業の際にエイミィ殿からですが】

「称するって、まるでメンテナンスをしていないような物言いだな」

【そうですね。私の場合は自分でメンテナンスしているようなものですから。
 厳密に私をメンテナンスできるのは、私を作ったリニスだけでしょう。
 そもそもリンカーコアを持つデバイスなど私以外に……】

「あー、その辺りの技術的な事は聞いたとしてもよく分からないから良い。
 とりあえず、ラキアが凄いデバイスで、頼りになる相棒というのは分かっているし、それで充分だろう」

【勿論です、マスター】

恭也の言葉に満足そうな声で答えるとグラキアフィンは沈黙する。
同時に部屋の外に立つ気配に気付き、恭也は何事もなかったかのように着替えを済ませる。

「恭ちゃん、入っても良いかな?」

「ああ、着替えも済んだし構わないが」

恭也の許しを得て美由希が部屋に入ってくる。
当然ながら美由希もまた仮装しており、その姿はいつもとは違っている。
ただし、ただ浴衣を着ただけという格好ではあったが。

「それは何の格好なんだ?」

「えっと座敷わらし」

「ハロウィンは海外の行事だったな。で、座敷わらしは日本の……」

「い、良いじゃない、日本でやるんだから日本の妖怪に仮装しても」

「いや、別に悪いとは言っていないだろう。珍しいと思っただけで」

更に言うなら、それは仮装と言えるのか、という突っ込みは流石に飲み込み、次に来るであろう言葉を待つ。

「それじゃあ、改めて……コホン。
 トリック・オア・ブック! 本をくれないと悪戯しちゃうぞー!」

「お前は根本的にハロウィンを何と勘違いしている」

「だってお菓子よりも欲しい本が……」

「別に欲しいものが貰える祭りではないんだぞ」

「いや、言うだけならただだし、もしかしてという可能性も……あるはずないですね」

アルフも似たような事をしたのだが、その対応は少し違い、恭也は目であからさまにバカ弟子という意味を込めて見詰め、
その意味をしっかりと読み取った美由希はいじけたように肩を落とす。

「はぁ、馬鹿な事をしてないで、大人しくこれを受け取っておけ」

言って恭也は美由希にもお菓子を渡す。
恭也の言葉に顔を上げ、大人しくそれを受け取ると、さっきまでの出来事がなかったかのように二人してリビングへと向かう。

「それにしても、用意が良いね」

「まあ、数日前にハロウィンについて話していたからな。
 こうなるんじゃないかと思っていた。後は晶とレンだな」

「もしかして、二人の分しか用意していない?」

「ああ、そうだが。ひょっとして、那美さんか忍でも来ているのか」

「あ、あははは。えっと、自分で確かめた方が早いと思うよ」

言って美由希はリビングへと続く扉を開き、自身は入らずに恭也を先に通す。

「師匠、トリック・オア・トリート」

「同じく、トリック・オア・トリートです」

入るなりそう言ってきたのは、やはり仮装した晶とレンで、恭也は用意していたお菓子を渡す。
だが、続いてやって来た人物を意外そうな目で見てしまったのは仕方ないだろう。

「恭也さん、トリック・オア・トリート……です」

「もう恥ずかしがってどうするのよ。もう一度、やり直しよクロノ」

そこにはマントを付け、シルクハットを被った、正確には被らされただろうが、クロノが渋々と言った様子でいた。
恐らくはドラキュラの仮装なのだろうが、それにも驚いたがそれよりも、といった感じでその隣を見る。
背中に羽の付いた衣装を身に着けて、頭の上には襟元から伸びた針金のようなものに支えられた金色の輪っか。
手には弓と鏃がハートの形をした矢を持ったリンディが、言い直したクロノに続いて、

「トリック・オア・トリート」

満面の笑みを浮かべてそう口にする。

「リンディさん?」

「愛の伝道天使、ラブリーリンディと呼んでね。
 難しいなら、リンディちゃんでも良いわよ」

「母さん! いい年して――」

「あらあら、何か変な言葉がこの辺から聞こえたような気がするけれど、きっと気のせいよね」

クロノのほっぺたを抓み、左右へと引っ張って続く言葉を封じる。
涙目になって手を振り払おうとするも、リンディは中々手を離さない。

「ぼ、僕が悪かった。だから、いい加減に手をはないへふふぇ」

「き〜こ〜え〜な〜い〜。どうも、最近年の所為か耳が遠くなったのかもしれないわね。
 何か言っているような気もするんだけれど」

目で恭也に助けを求めるクロノが哀れになったのか、恭也は親子の間に入っていく。

「リンディさん、クロノが本気で痛がってますからその辺で」

「あらあら、ただのスキンシップだというのに、この子ったら。
 それともいい年したお母さんとはスキンシップすらしたくないのかしら」

言ってまだ手を話さないリンディに恭也は年の事から話を逸らそうとする。

「天使の仮装ですか。可愛らしくて似合ってますね」

「うん、本当によく似合っています」

「あらあら、ありがとう恭也さんにフェイトさん。
 やっぱり何処かの誰かさんとは違うわね」

嬉しそうに顔を綻ばせ、クロノから離した手を頬に当てて照れた振りをしてみせる。
解放されたクロノは恨めがましい視線を向けつつもリンディから離れ、赤くなった頬を撫でる。
それを横目に見やりつつ、恭也はリンディの相手をする。

「は、はぁ。それにしても、驚きましたよ。リンディさんたちまで参加されているとは。
 そうとは知らなかったものですから、お菓子を用意してなかったんですが……。
 まさか、仮装する側で参加してもらえるとは」

「ああ、別にお菓子は良いのよ。単にこちらのお祭り行事というものに参加したかっただけだし。
 それに折角のお祭りなんだから、これぐらいしないと駄目でしょう」

言って本当に楽しそうに笑うリンディ。
他の面々もリンディへと話し掛け、それを見て恭也は輪の中から外れるとソファーに腰を下ろす。
隣にはさっさと逃げ出したクロノが憮然とした顔で座っているのを見て、思わず苦笑を見せる。

「しかし、意外だな。クロノが参加するとは。
 別に悪いと言っている訳ではなく、嫌がるんじゃないかと思ったんでな」

「僕だって嫌でしたよ。ですが、母親と上司という二つの所から命令されまして無理矢理……」

何となくクロノの苦労を我が事のように理解し、恭也は慰めるようにその肩にそっと手を置いてやる。
それで何かを感じ取ったのか、クロノの脳裏には桃子の顔が浮かび、恭也の慰めに対してこちらもまた慰めるような目を向ける。
男二人の間に強い友情が生まれる中、女性陣の方でも何やら友情らしきものが出来ている。

「そうなのよ。うちの息子ったら口を開けば、やれ仕事中だの、勤務中は上司と部下ですからだの。
 本当に無愛想で可愛げがなくて……」

「分かりますよ、リンディさん。恭ちゃんも無愛想で可愛げなんて欠片もないですから。
 おまけに意地悪だし……」

「美由希さんも苦労しているのね〜。
 でも、このままだとあの子、仕事一筋でガールフレンドの一人も出来ないんじゃないかと」

「うちのかーさんも恭ちゃんにそんな心配してましたよ。
 とは言え、それに関してはまあ、出来なくても良いというか、出来ない方がと言いますか」

「ほうほう。そういう事ね。だったら、お姉さんが男の子を喜ばす方法を教えてあげるわ」

「本当ですか! 是非とも!
 あ、でも鈍感で朴念仁で鈍いという言葉すら緩いような人にも通じますかね」

「うーん、それはやり方次第かしら。そうね、それじゃあ、まず……」

二人で密談を始めるかのごとく顔を寄せ合う二人の頭上に影が射す。
嫌な予感を覚えつつ顔を上げる二人の隣には、やはりというか、恭也とクロノがいつの間にかやって来ており、

「無愛想で可愛げがなくてすみませんね、母さん。
 そうそう言い忘れていましたが、今日休んだ分の仕事は明日中に終わらせてくださいね。
 エイミィたちにも手伝わないように厳命しておきますが、明日の昼までにお願いしますよ艦長」

「ちょっ、クロノ。昼までってそんなの無理……」

「美由希、今日の鍛錬が非常に楽しみだな」

「え、あ、お、お手柔らかにお願いします……」

などと言うやり取りを年長組みがしている頃、そんな殺伐とした雰囲気とは打って変わり、
なのはとフェイトの姿はキッチンにあった。

「ああ、フェイトちゃん、そこはちゃんとふるいに掛けて」

「はい。こうですか、晶さん」

「そうそう。で、こうしてふるいに掛けたやつを次は――」

「なのはちゃん、しっかりとかき混ぜた?」

「うん。こんな感じかな」

「そうやね。なら、今度はそこへ砂糖を――」

晶とレンの二人に教わり、何やら料理をしていた。

「と、師匠にあげるなら少し砂糖を減らした方が良いな」

「あ、恭也さん甘いもの苦手でしたものね」

「そういう事。で、砂糖の代わりにこれを使えば甘さを控えつつ仕上がりを――」

「こっちがお師匠用やね、なのちゃん」

「うん。対お兄ちゃん用です」

「流石にその辺りは慣れたもんやね」

「えへへへ、そんな事ないよ」

実にほのぼのとした様子で、なのはとフェイトの二人は恭也に渡すためのクッキーを作る。
その顔はあげた時の事を考えているのか、二人とも始終笑顔であった。





おわり、なの




<あとがき>

という事で、今回はハロウィンで。
美姫 「本当に時事ネタが増えているわね」
だな。
と言うわけで、恒例になりつつある文句をば。
美姫 「今回も本編とは関係ないという事で」
ということです。
美姫 「そんな訳で、この辺でね」
ではでは。







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