『リリカル恭也&なのは』






外伝7 聖なる夜のサンタさん2






「ねぇ、なのは。もうすぐクリスマスだけれど、サンタクロースさんへのお願いって今年もして良いのかな」

学校帰りの翠屋、その一角で不意にフェイトがそう呟く。
フェイトの口から出たサンタクロースという言葉に、アリサがまだ信じているのかと突っ込みそうになるも、
なのはの目が笑っていない笑顔に沈黙する。
一方、はやての隣の席に座っていたヴィータが初耳とばかりに首を傾げる。

「サンタクロースって何だ? うめぇのか。クリスマスに関係しているのなら、ご馳走か?」

顔を輝かせてはやてへと尋ねるヴィータ。
その近くの席ではシグナムやシャマルといった他の騎士たちも顔を見合わせ、
互いに知らないと分かるとはやての言葉を待つ。
そんなヴィータたちへとフェイトは恭也たちから教えられたサンタに付いて説明をしてやる。
その隙を突くようにして、なのはたち四人は顔を寄せ合い、小声で話し出す。

「なのは、どういう事なのよ。もしかしなくても、サンタを信じているのは分かったけれど……」

「えっと、前にクリスマスの時にお兄ちゃんがこっそりとね……」

なのははクリスマスに恭也がこっそりとフェイトの枕元にプレゼントを置いた事を話す。
それ故に信じ込んでいるので、それを壊さないためにも黙っているようにも頼む。

「ま、そういう事なら分かったけれど……。くぅぅ、恭也さんからのプレゼントなんて羨ましいぃぃ」

拳を握り締め、ハンカチでも持っていれば唇で噛み締めんばかりの表情で唸るアリサに苦笑を漏らす面々。
その間にフェイトの説明が終わり、

「すげーな、その爺ちゃん。そっか、好きな物をもらえるのか」

「そのような御仁がおられるとは。中々、素晴らしい人のようだな」

「それにしても、家人に気付かれずに侵入するなんて魔法使いみたいですね」

ヴィータは顔を輝かし、シグナムは褒め称え、シャマルは感心する。
狼の形態を取り店の外に居たザフィーラもまた、念話で話を聞いていたのか感心する。

「とは言え、子供が対象では私たちには無縁ですね」

「ちぇ、仕方ないけれどしょうがないか」

そう言ったヴィータであったが、見た目で言えば問題ないだろうとシグナムがからかう。

「我らが将はそのおっぱいのお蔭で子供には見えないからな」

「なっ、む、胸は関係ないだろう、胸は」

途端に騒がしくなる一角を放置し、なのははフェイトの最初の質問に答える。

「今年もお願いしても大丈夫じゃないかな。手紙に欲しいものを書いて、リンディさんかお兄ちゃんに渡せば」

「そうか、ありがとうなのは」

「どういたしまして、フェイトちゃん。でも、何か欲しいものでもあるの」

「えっと……秘密」

恥ずかしそうにそう告げるフェイトに、なのはもそれ以上の追求は止めて、なのは自身も今年欲しい物を考える。
隣の席でははやてがヴィータたちの喧嘩を仲裁し終え、

「まあ、ヴィータたちは初めてやから、多分プレゼントがもらえるんとちゃうかな」

「本当か!? だったら、アイスをもらえるのか」

「うーん、出来ればアイスは止めた方がええんとちゃうか。
 枕元に置いて行くから、冬とは言え暖房も効いているし朝になったら溶けてしまうかもしれんで」

「うぅ、だったら何を頼もうか……」

「あはは、そない慌てんでもまだ大丈夫やって。
 シグナムたちも何か欲しいのがあったら、手紙に書くと良いで。うちが纏めて出しておくから」

はやての言葉にシグナムたちも頷くのを、なのはは微笑ましく見詰めるのだった。



 ∬ ∬ ∬



翠屋での一件から数日が経ったある日。
ここ高町家ではちょっとした密談が開かれていた。
幸いにして、現在家の者は出払っており、密談を行う三人以外には誰もいない。

「という訳で、これがうちの子たちの欲しいものらしいねんけれど」

言ってはやては手紙を四つ取り出す。

「ヴィータのぬいぐるみは分かるが、ザフィーラの防犯ってのは何だ」

「ああ、多分、昨今の物騒なニュースを見て、家の防犯を気にしてたからとちゃうかな。
 自分のプレゼント言うてんのにしょうがないな〜」

はやても見るのは初めてなのか、ザフィーラの手紙に苦笑を漏らす。
だが、まだそれは良いと言い、恭也は残る二人の手紙をはやての前に開いて差し出す。

「シャマルの料理の腕や、シグナムの強者、というのはプレゼントというよりも望みじゃないのか」

「あ、あははは。うちの説明がちょっとまずかったんやろうか」

「まあ、その要望を加味して何かプレゼントを考えよう。
 それでリンディさん、フェイトたちの方は」

「アルフの方は前と同じで犬の玩具が欲しいみたいね」

「普段は狼だと言うくせに、ですか」

本人がいないというのにからかうよな口調でそう口に出す恭也。
対するリンディはただ苦笑するだけに留め、次にフェイトから預かった手紙を手にする。

「問題はフェイトさんなんだけれど、絶対に中を見ないでと念を押されてしまって」

「とは言え見ないと分からないですし……」

困ったように言うリンディであったが、恭也の言うように見ないと欲しい物が分からない。
困り果てる二人であったが、はやてが苦肉の策として進言する。

「ここは一つ、恭也さんだけが見るというのでどうやろう」

「そうだな。許せ、フェイト」

ここにはいないフェイトへと侘びを入れ、恭也は手紙を開く。
そして、そこに書かれた内容を見て思わず感動してしまう。

「全く自分の欲しい物を書けば良いというのに、あの子は……」

思わず呟いた言葉に中身が気になって仕方ない二人に、これなら良いかと恭也は手紙は見せずに口にする。

「本来なら黙っている方が良いかもしれないんだけれどな。
 フェイトが欲しいのは、俺が使うマフラーだそうだ。
 朝の鍛錬などで偶に見かける俺に、風邪を引かないようにとマフラーをお願いしてきた」

フェイトらしいという思いから、二人の顔にも微笑が浮かぶ。
が、恭也が手紙の内容を口にした理由も理解する。
つまり、フェイト自身に何をあげるか、という事だ。

「うーん、流石にそのままマフラーをプレゼントしたら、それを恭也さんにあげるやろうしな」

「そうね、本当に優しい子よね。
 でも、すんなり決まったのはアルフさんとヴィータさんだけね」

「まあ、ザフィーラには何か防犯グッズでも渡しておくとして、他は……」

「シグナムさんのプレゼントは恭也さんでも置いておけば良いかしら」

「あきませんて、リンディさん。そんな事をしたら、他の子が怒りますよ」

「それ以前に人をプレゼントにしようとしないでください」

あれやこれやと意見を出し合い、どうにか全員分のプレゼントを用意する事ができたのであった。



 ∬ ∬ ∬



クリスマスイヴの深夜。既に日付も変わってしまっているが、そんな夜遅くにぽつんと佇む影一つ。

「再び、サンタ登場」

深夜の住宅街、ポツリと呟く一人の男。
その肩には確かにサンタらしく白い大きな布袋が担がれている。
だが、十中八九、殆どの人がそれを見た瞬間にサンタではなく泥棒を思い浮かべるだろう。
何故なら、男――恭也の格好は上下共に真っ黒な服装で固められているからだ。
そして、その手には一年ぶりに活躍するであろう、あの道具。

「今年も鍵が閉まっている可能性があるからな」

呟き手にした道具を内ポケットへと仕舞い込む。
そして扉に手を掛け、予想に反して今年はちゃんとリンディも起きていたのか内側から開けられる。
こうして、フェイトとアルフにはすんなりとプレゼントを渡し終え、次なる標的を向かう。

「さて、ここは流石に気を付けなければいけないな」

事前にはやてには窓の鍵を開けておいてもらっているので、その窓から中へと侵入する。
問題は住人に気付かれる事無く任務を遂行できるかどうかである。
気配を完全に殺し、恭也は暗い家の中を足音を消して歩く。
事前の下見とはやてから聞き出した家の間取りを思い出しながら、まずは最初のターゲットであるヴィータの部屋へ。
慎重に扉を開けてベッドへと近寄る。
が、警戒する恭也の心配を他所に進入に気付いた様子もなく、また目を覚ます気配もない。

「ふむ、寝ている所を見れば見た目相応に可愛らしいものだがな」

誰が今のヴィータを見て、身の丈もあるハンマーを振り回すと想像できるだろうか。
そんな事を思いつつも、恭也はヴィータの枕元に大きなうさぎのぬいぐるみをそっと置くと部屋を出て行く。
次に向かうのは、自分もプレゼントを貰えるとは思っていないはやての部屋である。
それとなく聞き出したはやての欲しい物を袋から取り出し、こちらはそんなに苦労する事無く枕元に置いてやる。
ついでに少しずれていた掛け布団を直してやり、その安らかな寝顔に満足して部屋を後にする。
続けてシャマルへと包丁をプレゼントし、リビングで寝ているザフィーラにも配り終える。

「さて、ここからが一番の難所だな」

念話などを使ってシャマル辺りに察知されるとまずいので、念の為に予め念話をしないようにしていた。
故に声も出さずに意思疎通する為として、同意するようにグラキアフィンが暗闇の中で小さく光る。

「ここからは更に慎重に動かないとな」

先程までよりも更に気を使い、歩く速度も若干落としてより慎重にシグナムの部屋の前に立つ。
これまた慎重にドアノブを回し、一旦動きを止めて部屋の中の様子を伺う。

「……起きた気配はないな。よし」

殊更ゆっくりと扉を開け、恭也は何とかシグナムの部屋に入り込む。
ゆっくりとシグナムの枕元へと近付き、これまた慎重な手付きでシグナムの枕元にプレゼントのトレーニング器具を置く。
気付かれずに置けた事で安堵しそうになるも、すぐに気を引き締めて同じように慎重にシグナムから遠ざかろうとする。
が、シグナムが僅かに身を動かし、その口が僅かに開いたような気がして動きを止める。

「…………気付かれていないな」

単なる寝返りだったらしく、恭也は冷や汗を拭う。
そして、現在の状況を冷静に眺めれば、寝ているシグナムに覆いかぶさっているようにも見える自分。
こんな状況で目を覚まされたら、果たして言い訳を聞いてもらえるだろうか。
恐ろしい考えがふと浮かんで消えて行く。
恭也は気付かれないように慎重になりつつも、急いでシグナムから離れる。

「相手が子供じゃないだけに、見つかれば下手な言い訳も通じない所だったな」

気付かずにまだ眠っているシグナムを見て、恭也は改めて安堵の吐息を漏らすと、
いつまでも居ては気付かれるかもしれないと速やかに部屋を後にする。
その足で再び入ってきた窓から外へと出て、こうして無事に恭也のサンタ任務は幕を閉じたのだった。



 ∬ ∬ ∬



明けて翌日、ハラオウン家の玄関先で嬉しそうにしている騎士たちの姿があった。

「何だはやてたちも来ていたのか。てっきり、直接うちに行っているのかと思ったが」

本日高町家で行われるパーティーの為にフェイトを迎えに来た恭也がそう口にする。

「ちょっとリンディさんにも用があったから。それより、恭也さんもありがとうさん」

後半は恭也にだけ聞こえるようにそう口にし、すぐにそれがプレゼントの事だろうと察して恭也は一つ頷く。
そこへフェイトとアルフもやって来て、なのはにサンタが来た報告をする。
それを聞いてヴィータたちもサンタが口に来たと言い出す。

「分かったから、とりあえず移動しよう。玄関先で立ち止まっていると迷惑にもなるしな」

恭也の言葉に移動を開始する一同であったが、
なのはは恭也の首に巻かれているマフラーとフェイトが身に着けているマフラーが同じだと気付く。

「ああ、これは昨日忍び込んできた不審人物から貰った。
 捕まえてそのまま警察に差し出す所だったが、フェイトからのプレゼントだと聞いて解放してやったんだ」

「恭也、それはどんな奴だった。間違いない、それがサンタクロースだぞ」

「ほう、私でさえも気付かなかったが、恭也は侵入に気付いたのか。
 やはり気配察知ではお前の方が上という事か」

何となく事情を察したのか、なのはは何も言わず、さっきのはやてのお礼の意味を理解する。
恭也にのみ向けて言われた言葉であったが、恭也の隣に居たなのはにもあの言葉は聞こえていたのだ。
はやてもまた、それを察したのか、なのはの隣で人差し指を立てて唇の前に立てる。

「分かっているよ、はやてちゃん」

前を行く騎士たちの何処となく嬉しそうな顔を眺め、なのはとはやてもまた嬉しそうに微笑む。
そんな二人の後ろでは、恭也がフェイトにお礼を口にする。

「ありがとうな、フェイト」

「い、いえ、私じゃなくてサンタクロースが……」

「でも、頼んでくれたのはフェイトだろう。だから、ありがとう」

「あ、はい」

恭也のお礼の言葉とお揃いのマフラーをしている事にはにかみながらも嬉しそうな顔を見せ、
照れている顔を隠すように首に巻かれたマフラーへと少し顔を埋めて表情を隠すフェイト。
そんなフェイトの頭を優しく撫でてやると、フェイトはくすぐったそうに首を傾げる。

「お兄ちゃん、フェイトちゃん、早くしないと置いて行っちゃうよ」

少し遅れた二人の下へとなのはがやって来て、二人の手を取る。

「分かったから、そんなに引っ張るな」

「なのは、そんなに引っ張ったら危ないよ」

皆に遅れないように後を追いながら、恭也はなのはとフェイトに挟まれて手を繋ぐ。
嬉しそうに笑いながら話をする二人を眺める恭也の口元にも微笑が浮かぶのだった。





おわり、なの




<あとがき>

ぐるりと季節は巡り、再びクリスマス。
美姫 「そして、例の如く本編とは〜以下略ね」
今回ははやてたちも加わったクリスマスを。
美姫 「そして、ちょっとした没ネタもあるのよね」
うんうん。

没ネタ

「フェイトの夢を守るため、高町サンタ闇夜に乗じて再び参上」

閑静な住宅街に全身を黒で包み込んだ怪しげな男のシルエットが浮かび上がる。
自称、サンタクロース、傍から見ればただの怪しい人と化した高町恭也その人であった。

と、まあ、こんなネタを。
美姫 「うん、没にして良かったわね」
だな。流石に悪乗りしすぎたか。
ともあれ、何故か外伝も7話目という驚きの事実。
美姫 「本当よね。まあ、本編とは〜以下略だしね」
という事で、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る