『リリカル恭也&なのはTA』






第8話 「やれば出来る子なんですよ」





「ほう、中々悪くないな。今のはよくやったと褒めてやろう」

「えへへへ〜」

早朝、夏休みという事で朝のラジオ体操なども行われているようだが、それよりも早い時間に人気のない神社の奥で交わされる言葉。
褒められた美由希は頭を掻きつつ照れてみせる。
が、今は鍛錬の途中である。当然の如く恭也の小太刀が翻り美由希の首筋へと向かう。
しかし、美由希の方も心得たものですぐさま反応して見せると後ろへと飛び退る。
その眼前に飛来するのは御神流が暗器として用いる中距離用の飛針。
右手の小太刀で飛来した三本を払い除ければ、まったく同じ軌道で僅かに遅れて更に三本飛んで来る。
最初の三本の後ろに隠すようにして投げられていた飛針を、美由希は左手で鋼糸を振るって一本絡め取ると近くの一本にぶつけ、
残る一本は身を捻って躱す。同時に背後からの気配を感じ取り振り返らずに前へと踏み込み、すぐさま反転して攻撃に転じる。
美由希の振り返り様の一撃を半歩身を引いてやり過ごし、蹴りを放つもこれも美由希は後ろへと跳んで躱す。

「……回避するのにすぐに左へと躱す癖が直ったと思ったが、今度は後ろへの回避が多くなったか」

「そんな事はないと思うけれど。まだ左を意識している所為かも」

「ならそれも含めてもう少し改善する必要があるな。
 だが、先ほどの奇襲に対してすぐに反応できたのは悪くはなかった。
 とは言え、あれで喰らっていたら、それこそ今日一日鍛錬付けにする所だが」

「どうして師範代は素直に褒めるという事ができないかな」

鍛錬中であるために呼び方も普段とは違い、また、まだ終了と言われていないので油断なく構えながら恭也と対峙する。
そんな二人を横目になのはは黙々と、と言うよりも話す余裕などなく、只管腹筋を続ける。
いつもの早朝鍛錬の光景がそこにはあった。
それから暫くして、美由希を先に返すとそこから恭也となのはは魔法の鍛錬を始める。
今日の課題はなのはは数を増やして四つにした光球、スフィアをコントロールして空き缶にぶつけていく。
恭也の方は地面に座り、戦闘形態である小太刀の形態を取ったグラキアフィンを前に話し始めていた。

「それで今日は新しい魔法だったな」

【はい。以前より主様が仰られていた空中戦における足場の確保に関してです】

「なら、早速やってみようか」

グラキアフィンの声に心持ち急かすような色を感じ取り、恭也は説明してもらうのを省いてグラキアフィンに命じる。
元より説明を受けた所で魔法に関しては素人の上に自分では一切発動させられず、どういった魔法なのかという説明になるだけなのだ。
なら、実際に見せてもらい試した方が早いと言うのもある。
勿論、相手が魔法を使う場合も考えてどういった魔法があるのかなど、必要な知識は少しずつ教わってはいるが。
今はそれは関係ないとグラキアフィンに魔法を発動させる。
恭也の声に応え、グラキアフィンは恭也の胸ぐらいの高さに薄い一枚の板のようなものを発現させる。
一メートル程の白く薄い板のような物を前に恭也はその上に飛び乗る。

「思ったよりも頑丈だな。見た目は薄いからもっと頼りない感じがしたが」

足を数度叩き付け、反動や硬さを確かめながらそう口にする。
その言葉に満足そうにグラキアフィンは宝玉を瞬かせ、

「…………ふむ、良い感じだ」

【…………】

何かを期待するような空気を感じ取りつつ、恭也は無言になった己の相棒を見遣る。
無言を貫くデバイスを前に少し考え、恭也はまさかと思いつつ口にする。

「本当に良い出来だ。感謝する」

【主様よりお褒めのお言葉ありがたく頂戴いたします】

正解だったかと、今日、美由希を褒めた時に微かに反応したグラキアフィンに気付いていたからこそ出た答えに胸を撫で下ろす。

「それで、これは俺が移動したらどうなる?」

【飛行と同じく、主様が動こうとする方向に以前お教えしたように僅かな魔力制御を行って頂ければ、後は私が】

試しに一歩歩いてみれば足場も同じように付いて来る。
感覚としては地面を歩いているのと変わらず、傍から見れば足場の方が恭也の足元から離れずに引っ付いているような感じである。
走ってみても問題はないようで、

「もう少し早く走るぞ」

【どうぞ】

恭也が本気で走り出すと十歩も行かないうちに足場が遅れ出し、危うく踏み外しそうになる。

【大丈夫ですか、主様】

「ああ、何とかな。お前が咄嗟に浮遊させてくれたお蔭だ」

【いえ、寧ろ今回の事は私が原因ですから】

「しかし、どうして急に付いてこれなくなったんだ」

【恐らく主様の移動速度の方が指示を出すよりも早かったからだと。
 実際、直線だけなら問題なかったようですから。主様が僅かながらも移動先を示し、それに追随する形で私が足場を動かす。
 この魔法はそうして起動しています。ですが、複雑な機動を高速で行う際に魔法に慣れていない主様は指示が遅れるようで】

「なるほどな。つまりは俺が魔法に関してはど素人なのが問題なのか」

【いえ、これは私のミスです。主様が剣士であるのは承知していたはずなのに。
 すぐさま改良してみせます!】

意欲を燃やすグラキアフィンに改めて自分には出来すぎた相棒だと思わなくもない。
が、魔法に関しては何とも出来ないというのは間違いではないため、恭也は何も口出しできない。
とは言え、あまりにもデバイス任せのような気もしてついつい口に出してしまう。

「やはり俺も多少は自力で魔法の制御とか出来た方が良いかもな」

【そ、そんな。それでは私の存在意義が……】

「いや、別にお前がいらないと言っているのではなく、負担を少しでも減らそうと思ってだな」

【負担でも何でもありません。主様が魔法の素人であるからこそ、私もやりがいがあるのです。
 寧ろ、主様は魔法よりも剣術の鍛錬をしてください】

「ありがたい言葉なんだが。まあ、少しは出来た方が良いだろう」

少しはそういった鍛錬もしようかと続ける恭也に少し考え、グラキアフィンは言葉を返す。

【私の負担を減らそうとしてくれるのは嬉しい限りですが、やるとしても普通の魔導師とは少し変わった方法になりますよ】

「と言うと?」

【主様に行って頂く制御に関してですが、実際に魔法を使う際の制御となると魔力は私の物となります】

「まあ、俺の魔力はかなり少ないらしいからな」

【つまり自分の中にある力を制御するのではなく、外にある力を制御する事になります。
 受け渡すのなら兎も角、この場合は普通よりも難しくなるかと】

「今やっていたのは?」

【あれは行き先を教えてもらう目印程度で殆ど魔力を使いません。故に主様の魔力で行っています】

つまり、グラキアフィンの負担を減らすための制御を学ぶのなら普通とは少し違う形になるという事かと考え、

「いや、魔法に関しては情けないが今まで通りにお前に頼むつもりだ。
 ただ俺自身の魔力の制御を少しは出来る様になった方が良いかなと思っての質問だったんだ」

【そういう事でしたか。確かにそれが出来るようになれば、先ほどのような事もなくなるかもしれませんね】

実際には魔法を使うのが恭也自身ではないので若干のタイムラグが生まれるのは確かだが。
それでもやらないよりは良いだろうと共に結論を出し、

【では次からは知識だけでなく少しですが制御の鍛錬もしましょう】

「ああ、頼む。今のままだと空中では神速を使っての機動ができないからな」

どうにか話も決まり、とりあえずは地面へと降りる恭也。
そうして話している間にもなのははレイジングハート指導の下、四つのスフィアを操り未だに缶を落とさずに空中でぶつけている。
魔法に関しては明らかに自分よりも上の妹を眺めながら、恭也は自分の鍛錬を再開させる。

「しかし、そうなると今から制御の鍛錬をするか?」

今日は元々この魔法の調整などの予定だったのだ。故にそう尋ねてたのが、

【いえ、そちらに関してはもう少し時間をください。効率的な方法を考えますので。
 それよりも今日はもう一つお知らせがあるんですよ】

何処か自慢するような、嬉しそうな声で告げるグラキアフィンを手に恭也は一体何かと尋ねる。

【百聞は一見にと言いますし、実際にやってみましょう】

言ってグラキアフィンは戦闘形態を解除して待機状態である腕輪に戻る。
その上で少し待ってもらった後に、改めて恭也に起動させるように言い、それに従って恭也がグラキアフィンを起動させる。
黒で統一されたバリアジャケットが身体を覆い、いつもならその手に刀として出現するはずだが、恭也の手は素手のままである。
代わりに腰に慣れた感触と重みを感じ、手で触れればそこには小太刀が下がっている。

【どうでしょうか、主様。新しい戦闘形態、小太刀ニ刀鞘付きヴァージョンです】

誇らしげに語るグラキアフィンの言う通り、恭也の腰裏には十字に交差するように吊るされた鞘に入った小太刀がニ振りある。

「ニ刀はありがたいが、もう一刀はどうしたんだ?」

【どちらも私です。簡単に言えば身体を二つに分けました。
 元より私は元々は杖となるために設計されていた為、私に使われていた部品には余裕がありましたから】

軽く言うがそう簡単な話ではない。元よりそう作られたのなら兎も角、ましてや自分でここまで形状を変化させたのだか。
だが、そういった事に関する知識が殆どない恭也はそれで納得してしまう。
恭也はニ刀を鞘から抜き出し、

「で、どちらがお前の本体になるんだ?」

【どちらも本体ですよ。まあ主様が仰りたいのはコアに関してでしょうけれど。
 それに関してはどちらでもありません。ここです】

言って恭也の胸元で小さな白い光が点滅する。
見れば首からぶら下がっているレイジングハートよりも小さな白い宝石が目に入る。

【元々インテリジェントデバイスでもある私はこう見えて繊細なんですよ。
 アームドデバイスと違いはっきりとした武器の形状を持つのは稀ですから。
 故にコアをこちらに移動させて、主様が余計な心配をせずとも済むように頑張りました】

コアだけを完全に分離したと、これまた驚く発現なのだが恭也は気付かずに単純に礼を口にする。
主からの感謝を受け取り、グラキアフィンは頑張った甲斐があったと胸を張る。
あくまでもイメージ上での話しだが。

【本来なら以前杞憂されていたニ刀の問題と空中の問題を解決したと言いたかったのですが、空中の方は……】

「いや、本当に良くやってくれた。ニ刀の方は問題ない所か鞘ま出来て抜刀術が使えるようになったし、
 空中に関しても高速でなければ充分に有効だしな」

偉い偉いと褒め称える恭也にグラキアフィンは嬉しそうにコアを明滅させる。
そんな恭也たちの様子を鍛錬を終えたなのはが何時からか眺めており、良い関係だなと笑っている。

「勿論、私とレイジングハートも仲良しさんだよね」

なのはの言葉に肯定を示すように数度瞬く自分のデバイスを見下ろし、なのははまた笑うのであった。





つづく、なの







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