『リリカル恭也&なのはTA』






第9話 「お祭りの夜は」





「あうあうあう」

あっちをうろうろ、こっちをうろうろ。
奇声を上げながらさ迷う姿に、我が妹の事ながら、恭也は頭を抱えて他人の振りをしたくなるのをぐっと堪える。

「お前は何がしたいんだ」

知らず零れ出た言葉に美由希はピクリと反応を見せ、困った顔を向けてくる。

「うぅぅ、どうしよう恭ちゃん」

そんな美由希に溜め息をぐっと飲み込み、恭也はぼんやりと今日を振り返る。



非常に珍しい事に夏休みも後一週間と言った時期にも関わらず、恭也は見事に宿題を終えていた。
故に午前中をいっぱい使って盆栽の手入れをしようと昨夜から決めており、こうして庭で作業をしている。
枝を素人目には分からないぐらいに少量切落とし、それを色んな角度から眺め、更には距離を開けてもう一度見る。
どうやら満足いったのか、恭也は数度頷くとその盆栽を元にあった場所へと戻し、代わりに次の盆栽を手に取り、作業台へと置く。
暫くじっと盆栽の周囲を回って出来を確かめ、頭の中で幾つかの案を思い描く。
その中でよくないと判断したものを消去し、残った物を吟味する。
その際、これから成長していく過程を想像し、更に絞り込む。
ようやく完成形が見えたのか、恭也は置いてあった鋏を手で持つと真剣な眼差しで盆栽を見詰め、丁寧な仕草で鋏を入れていく。
そんな様子を苦笑しつつ時折見ながら、少し離れた場所で美由希はようやく綺麗に肥料を混ぜ終えた花壇に満足そうな顔をする。
その傍らには幾つかの鉢に入った苗と種が置かれており、今からこれを並べていく所だ。
じっと花壇を見詰め、咲く花の種類や色を考え、配置を頭の中で並べる。
その光景に満足がいかないのか、難しげに眉間に皺を寄せて考え込むこと数分。
ようやく思い通りの形が見えたのか、美由希は傍らに置いてあった苗からまず取り掛かるべく慎重に鉢を手に取り、
ゆっくりと鉢から苗を取り出す。
そんな様子を手入れの終わった盆栽を戻す傍ら横目に眺め、恭也は口元を隠すようにして苦笑を浮かべる。
互いに思っている事は同じだが、敢えてそれを口に出したりはしない。
そのはずであったが、二人の視線が偶然にも合い、互いに無言の時間が生まれる。

「どうした、美由希?」

「ううん。恭ちゃんこそどうしたの?」

互いに疑問系で尋ねながらも、何を考えていたのかは分かっているのだろう、どこか窺うような形で見詰め合う。

「はぁ、折角の休みに土いじりとは。何処かに出掛ける予定はないのか?」

「はぁ、折角の休みなのに盆栽だなんて。何処に出掛けたりしないの?」

「本当に年寄りじみてるな」

「本当に年寄りじみてるね」

期せずして、二人の口から言葉が零れ、最後はぴったりと重なる。
互いに相手の言葉をしっかりと聞いており、再び沈黙が降りる。
それを先に破ったのは美由希だった。

「今日は夕方から那美さんたちとお祭りに行くもん。
 それに土いじりじゃなくてガーデニングだよ。恭ちゃんの枯れた趣味の盆栽と一緒にしないでよ」

「俺だって祭りには行くぞ。と言うか、皆で行くんだろうが。
 それと盆栽をバカにするな。最近では若い人たちや海外でも流行っている立派な趣味だぞ」

互いに睨み合うも数秒で、二人はすぐに肩から力を抜くとそれぞれの作業に戻る。

「まあ、確かにお前の作る花壇は綺麗な花が咲くしな」

「盆栽自体はよく分からないけれど、何となく形とか綺麗だよね」

既にいつものやり取りのような物なので、特に喧嘩らしい事にもならない。
別に互いの趣味をバカにしている訳でもないのである。
こうして二人は昼よりは多少はましとはいえ、充分に暑いといえる中、黙々と趣味に没頭する。
時折、流れる汗を手拭で拭いながら、背中からは何処となく楽しげな様子が窺い知れる。
そんな兄や姉を縁側で寝転びながら読書という、少々行儀悪い格好で見ていたなのはは小さく肩を竦める。
何を思ったのかはなのはにしか分からない事である。



 ∬ ∬ ∬



昼食を挟んで午後になると、恭也はすっかりやる事をなくしてしまいどうしたものかと考える。
魔法の事を教わろうにも、肝心の講師役のグラキアフィンは休眠状態に入っている。
何やら色々と思考する内に試験的に試した事の後遺症らしく、今日は朝に挨拶をしたっきりである。
まあ、主思いのデバイスであるからか、休眠に入る前にしっかりとその旨を伝えてきたりはしたが。
別に酷い損傷があったとかでもなく、夕方頃には目を覚ますと本人から言われているので、恭也は特に詳しい事を聞いてもいないが。
ともあれ、そんな訳で若干時間を持て余す形となった恭也はぼんやりと天井を見上げる。
時間を潰す方法として、昼寝と釣りしか浮かばない辺りどうしたもんかと考えながら、他にも浮かばないので立ち上がる。
赤星でも来ればまた別なのだが、友人は実家の寿司屋の手伝いや夏期講習、果ては部活の後輩の指導と忙しいらしい。
同じ受験生でありながら、どこか人事のように考えつつ、恭也の足は自然と道場へと向かっていた。
思わず出そうになる苦笑を抑え込み、道場の扉を開けるとそこには先客が居た。

「あ、恭ちゃん」

どうやら掃除をしていたらしく、振り向いた美由希の傍には水の入ったバケツと雑巾が置かれ、
美由希は浮き出た汗を拭いながら立ち上がり、腰をトントンと軽く叩く。

「掃除していたのか?」

「うん。身体を動かそうと思ったんだけれど、最近、掃除してなかったなって思って」

「言えば手伝ったのに」

「別にこれぐらい良いよ。掃除は弟子の仕事ですよ、師範代」

「愁傷な心がけだな。で、もう終わったのか?」

「うん。丁度、終わった所だよ。恭ちゃんもここに来たって事は動くつもりだったんだね」

「軽くやるつもりだったんだが……」

Tシャツに下はジャージ姿の美由希を見て、自分も着替えるかと踵を返す。
その背中へと不意に投げられるのは絞られた雑巾で、振り返り様に払い除けると美由希が目の前まで迫っていた。
繰り出される素手の攻撃を同じく素手で捌き、恭也は軽く距離を取る。

「まあ、やる気なのは結構だが流石にバケツは片付けてからにしよう。
 折角掃除したのに、引っ繰り返したら目も当てられないからな」

「そうだね」

恭也が払って道場の端にまで飛んだ雑巾へと向かう美由希を視界に収めながら、恭也はバケツを手に持つ。

「夕方にはなのはも戻ってくるし、それまでやるか」

「うん」

恭也の言葉に何処となく嬉しそうな声で返す美由希を前に、恭也は一旦道場を出るのだった。
その後、帰宅したなのはが家の中を探しても居ない二人の姿に、もしかしてと思って覗いた道場で本気で打ち合う二人が居たとか。



 ∬ ∬ ∬



「もう二人して何をしているんだか」

呆れつつも思わず二人の打ち合う姿に見入ってしまったなのははきつく怒る事もできず、呆れたようにそう言うしかなかった。
シャワーを浴びて汗を落とした二人はなのはの言葉に準備しないと、とそそくさと自室へと逃げ出す。
二人が自室へと引き上げるのと同じく、なのはも自分も準備するべく部屋に戻り、暫くしてリビングに戻ってくる。
幸い、すぐに準備を終えたらしい目当ての人がそこには居た。

「お兄ちゃん」

「……なのはもそろそろ羞恥心というものを覚えた方が良いぞ。
 年頃の女の子が人前でそんな格好でうろうろするもんじゃない」

言って説教めいた事を口にする恭也の目の前には、浴衣の前を肌蹴たまま困った顔のなのはが居た。

「そうは言っても上手く着れないんだもん。お兄ちゃん、やって」

お願いとこちらを見てくるなのはに仕方ないなと手招きし、近付いてきたなのはの浴衣を前できっちりと合わせると、
持っていた帯をその腰に捲き、腰の後ろ側で結ぶ。

「ちょっと苦しいかも」

「これぐらいで丁度良いんだ」

最後に帯の形を軽く整え、恭也は着付けが終わったと告げる。
その言葉に恭也から少し離れ、その場でくるりと回ってみせる。

「どう、お兄ちゃん」

「まあ、悪くないんじゃないか」

恭也らしいと言えばらしい言葉に苦笑を見せるも、そこははっきりと言葉にして欲しいと拗ねた顔になる。
そんななのはの要求を誤魔化すように、恭也はなのはの髪を一撫でし、

「浴衣に合わせて、少し髪型も弄るか」

「変なのにしないのなら良いよ」

「なに、とっても斬新で奇抜な髪型にするだけだ」

「本当にやったら怒るからね」

言いながらも恭也の前に腰を下ろして任せるなのはの髪を解き、軽く櫛を通す。
信用し切った様子に、奇抜な髪型にするのは諦めて普通に髪を持ち上げてアップで纏めるだけにする。
やけに慣れた手付きに、逆になのはの方が少し驚いた様で、

「お兄ちゃん、結構慣れてるね。もしかして、お姉ちゃんの髪とかやってあげてたの?」

「昔、みつあみをやった事が何回かあった気はするが別に慣れているという程でもないぞ。
 偶に母さんが美由希の髪を色々と弄っていたのを見て覚えたというのが真相だ。
 まあ、稀に母さんの髪や美由希の髪をやらされた事もあって、多少は慣れているかもしれんがな。
 それにしたって、結構昔の話しだがな。意外と覚えているもんだな」

母さんが言うには手先が意外と器用らしいと付け加えながら話す恭也の手は、その間も止まる事無く動き続け、
あっという間になのはの髪をアップで纏め終える。

「そう言えば、お店でケーキの飾り付けとか細かい作業も偶にやってたね。
 ……えっと鏡は」

恭也と話しながらも鏡を探し、どうなったのか確認する。
可笑しな所も奇抜な髪型にもされておらず、なのはは素直に出来上がった髪型に笑みを零す。

「ありがとう、お兄ちゃん」

「どういたしまして。と、それにしても美由希の奴は何をしているんだ?」

いい加減、自室から出てきても良いだろうと恭也が呟けば、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで美由希が現れる。

「恭ちゃん、帯が締めれない〜」

自分でも悪戦苦闘したらしく、薄っすらと汗を掻きながらやって来た美由希に恭也は肩を竦める。

「こっちに来い」

「うん、ごめんね」

自分で言うように、浴衣事態は綺麗に着込んでいるのだが帯が崩れている。
一旦帯を解き、締め直してやる。

「うぅぅ、苦しいよ恭ちゃん」

「緩くし過ぎるから途中で解けて崩れるんだ」

「……って、無理無理! それ以上は絶対に無理だって!
 と言うか、わざとやってるでしょう!」

「すまん、すまん。つい力を入れすぎた」

本当に謝っているのか怪しいぐらいに軽い口調で言うと、恭也は今度は普通に帯を締める。
大人しく締められる美由希はなのはの髪を見て、

「あ、なのは、可愛いじゃない。髪は恭ちゃんにやってもらったの?」

「えへへへ〜、うん、お兄ちゃんにやってもらったの。お姉ちゃんも浴衣、綺麗だよ」

「そう、ありがとう」

姉妹の麗しい会話に無粋にも恭也は割り込み、

「美由希、浴衣が綺麗だと言ったんだぞ、なのはは」

「ち、違うよ、浴衣姿が綺麗だって意味だよ!」

「あははは、分かってるよ、なのは。
 なのははどっかの誰かさんみたいに捻くれてないもんね」

美由希の言葉に胸を撫で下ろすなのはと、一言多いと軽く拳骨を落とす恭也。
大げさに頭を押さえた美由希は、ふと思いついて帯を締め終えた恭也に言う。

「恭ちゃん、久しぶりに私の髪もやってよ」

「お前のは長くて面倒くさい。まあ、奇抜な髪型にしても良いというのなら考えなくもないが」

「またそんな事を言う」

拗ねたように言いながら美由希は恭也の前に座り、恭也も文句を言いつつも美由希のみつあみを解いて櫛を通す。
その様子をにこにことなのはが見る中、恭也の指が器用に動いて美由希の髪を束ねていく。
なのはと同じようにアップにするのだが、やはり髪が長い分美由希の方が時間は掛かる。
それでもかなり早く恭也は美由希の髪を整えると、用意した櫛を最後に髪に飾る。

「こんなもんで良いか」

美由希の目の前になのはが鏡を持って立ち、美由希はそれを覗き込んで改めて礼を言う。
その際、思わず美由希のうなじが目に止まり、恭也は思わず視線を逸らす。
それを気付かれないように美由希に答えつつ、

「さて、それじゃあそろそろ出掛けるとするか」

立ち上がると美由希となのはを促すのだった。



 ∬ ∬ ∬



待ち合わせ場所に着くと、既にそこには那美に忍にノエル、すずか、アリサ、そして晶が集まっていた。

「おっそーい、恭也」

「遅いも何も予定の時間までまだあるだろう」

着くなり言われた忍の言葉に反論するも、忍は待たせるなんてとわざとらしく拗ねて見せる。
が、すぐに笑みを見せると左手を腰にやり、右手を上げて首の後ろへと回し、

「どう、恭也?」

浴衣姿をアピールしてくる。
それに対抗するようにその間に割り込み、アリサも自分の浴衣姿をアピールする。
ここに来るまでに美由希となのはの二人から散々言われていた恭也は、そんな二人を前にして、

「二人ともよく似合っているよ」

そう口にする。確かに二人に注意された事ではあるが、嘘でもお世辞でもない言葉に二人は機嫌を良くする。
そんな二人に対し、那美とすずかは控え目に恭也の方を窺ってくる。

「那美さんもすずかちゃんも浴衣、似合ってて可愛いよ」

その言葉に顔を薄っすらと赤くして嬉しそうにする。
逆に忍とアリサは顔を寄せ合い、

「私たちの時よりも褒め言葉が一つ多い」

「私だって可愛いって言われたいのに。でも、恭也にそれを求めるだけ無駄よね」

揃って溜め息を吐く二人に気付かず、恭也はいつものメイド姿ではなく、忍たちに合わせてか浴衣を着ている。

「ノエルも似合っているな」

「ありがとうございます。恭也さまにお褒め頂けるとは」

そう言って僅かだが表情を緩ませる。
その隣で一人、浴衣を着てこなかった晶が自分の姿を見下ろし、

「あー、失敗したかも。でも、浴衣って動き難くてあまり好きじゃないんだよな」

その呟きには恭也も同意しており、こちらもまたそういった理由から私服である。

「まあ、あまり気にするな。これから先、また機会があるだろうし、その時に考えれば良いだろう」

「ですね。とりあえず、今日は思いっきり楽しむ事にします。
 で、明日レンに自慢してやろう。まあ、それだけだと可哀相だから、リンゴ飴ぐらいは土産として持っていてやるか」

何だかんだと言いつつも仲の良い二人に恭也も頷き、祭りをやっている場所へと向かう。
やはり祭りで屋台も出ているだけあり、人もそれなりに多い。
はぐれた場合の事も決め、とりあえず一行も屋台を見て回る。

「なのは、はぐれると危ないから手を繋ごうか」

「うん」

手を繋ぐ美由希となのはを見て、恭也はふと思ってしまい、またそれを口にしてしまう。

「この場合、はぐれるのは美由希となのはのどっちだと思う?」

「師匠、流石にそれは」

「しかし、俺は思わず美由希がはぐれないようになのはが手を繋いようにも見えてしまったんだが」

「あ、あはははは。あ、あそこに焼きそばが。ちょっと行って来ますね!」

答えるのを避けるように晶は目に付いた屋台へと突進して行く。
それを見送り、恭也は視線を向ければ、早々に那美が人込みに飲まれていた。
気付いた美由希が慌てて那美に駆け寄ろうとするのだが、人の流れで向かう事が出来ないで居る。
その内、那美の姿を見失ったのか、

「那美さん、何処ですか? 大丈夫ですか?」

そんな声が聞こえてくる。
思ったよりも近くに居たのか、美由希の声に那美が答える声がすぐに聞こえてくる。

「み、美由希さん、ここです〜」

「そこで待っててください、すぐに行きますから」

微かに人込みから見える動く手を見つけ、美由希がそちらへと向かおうとするのだが、逆側に引っ張られる。
見れば、手を繋いだなのは引っ張っているらしく、

「あ、アリサちゃん、すずかちゃん、待ってよ!」

「早く来なさいよ、なのは。アンタがやりたいって言ってたんでしょう」

「忍お姉ちゃん、私たちはノエルと一緒に射的の屋台に行ってるから」

「OK〜、ノエルお願いね」

アリサとすずかの手を引き、ノエルが離れた場所にある屋台へと向かう。
それに付いて行こうとなのはが動き、結果として美由希が引っ張られる形となったようである。
なのはも繋いでいた手を思い出したのか、一旦立ち止まる。

「あ、なのは、一人で行ったら駄目だよ」

「ごめん、お姉ちゃん。って、きゃっ」

注意した美由希だったが、間の悪い事に伸びきった手と手の間に人の流れが押し寄せ、二人の手は離れてしまう。

「あ、なのは!」

「わぷっ、み、美由希さ〜ん」

「ああ、那美さん!」

慌ててなのはを追おうとするのだが、逆側からは那美が人込みに押されて思わず声を上げ、ましてやそれが離れて行く。
美由希は軽く混乱したのか、左を見て、右を見て、終いには身体までもがフラフラと動き出す。

「あうあうあう」

あっちをうろうろ、こっちをうろうろ。
奇声を上げながらさ迷う姿に、我が妹の事ながら、恭也は頭を抱えて他人の振りをしたくなるのをぐっと堪える。

「お前は何がしたいんだ」

知らず零れ出た言葉に美由希はピクリと反応を見せ、困った顔を向けてくる。

「うぅぅ、どうしよう恭ちゃん」

「はぁ、とりあえず、悩んでいる分だけ時間を無駄にしている事に気付け」

「はうっ」

「なのははどうやらノエルが捕まえてくれたようだな。
 だとしたら、お前は那美さんの方へ向かえ。後で合流しよう」

「分かった」

言って美由希は悩んでいたのが嘘のように機敏な動きで人の間を縫って早足に進んで行く。
その人込みに消えて行く姿を見送り、忍が小さな笑みを浮かべる。

「さっきまでとは打って変わって機敏な動きね」

「まあな。さっきまではどっちに行けば良いか迷っていたからな。
 それさえなければ、流石に自由自在とまではいかなくても、ある程度は動けるだろう」

と言うか、動けないならお仕置きだと付け加える恭也に忍は苦笑を見せる。

「まあ、早くも別行動っぽくなったけれど、私たちはどうする?」

言って腕を絡めてこようとするのをやんわりと避ける。

「またそうやってからかおうとする」

「失礼ね、からかってないのに。はぐれると困るからじゃない」

言ってまたしても腕を取ってくる忍に恭也は少し困ったようにしつつも今度は大人しくされる。

「まあ、恥ずかしがりやな恭也のためにこれで我慢してあげるわ」

「礼を言った方が良いのか?」

腕を絡めず手を繋いできた忍に疑問で返しつつ、

「これはこれで恥ずかしい気がするんだが」

「気にしない、気にしない。それよりも、何か食べよう。あ、たこ焼き発見〜、行くわよ」

言って恭也を引っ張る忍の頬は恭也からでは見えないが、薄っすらと赤くなっていた。

≪主様、ここは? 一体、何の騒ぎですか?≫

≪起きたのか、ラキア≫

休眠から通常状態に戻ったのか、目を覚ますなり人込みの中という状況に思わず尋ねてきたグラキアフィンに祭りだと説明してやる。
そこへたこ焼きを手にした忍が、

「はい、恭也」

恭也へとそれを差し出してくるので、ありがたく一つ頂く。

「美味しい?」

「ああ。お前は食べないのか?」

「だって、両手が塞がっているもん。恭也、あーん」

流石に人込みでこれは恥ずかしいのか、恭也は忍の手からたこ焼きのパックを奪い、

「ほら、これで自分で食べれるだろう」

忍へとたこ焼きを差し出す。忍はやれやれと言わんばかりの顔をしつつもたこ焼きを一つ取り、それを口に入れる。
美味しそうに頬を緩める忍を恭也はじっと見詰め、逆に忍は間近で見詰められて流石に照れた様子を見せる。

「な、なに、恭也。人の顔をじっと見て。忍ちゃんに美しさに見惚れた?」

「お前が綺麗なのは今更言われなくても知っている。そうじゃなくて……って、どうかしたのか?」

冗談っぽく告げた言葉に真顔で返され、しかも内容が内容だけに照れてしまった忍に恭也がこれまた真顔で尋ね返してくる。
この辺りが如何にも恭也らしいと呆れ半分で思いつつ、何でもないと返すと恭也はそれを信じたのか話を戻す。

「お前、ひょっとして寝不足じゃないのか?」

薄っすらと目の下に出来た隈らしきもの。それを普段はしない化粧で隠すようにして誤魔化している事に気付く。

「ありゃ、気付かれたか。まあ、ここ最近、徹夜とまではいかないまでも睡眠時間が少なかったからね。
 一応、昨日は早めに切り上げたんだけれどね」

忍らしい返答にこちらも呆れつつ、今度は何をしているのかと不安半分で尋ねる。

「うーん、簡単に言うとノエルの妹を作れないかなって。
 ほら、イレイン覚えているでしょう」

「ああ」

忘れようにも忘れられない、それは月村家の遺産を巡る争いで出てきた最も新しい自動人形の名称である。

「そのイレインの残骸が家の地下にあるのは知っているでしょう。
 で、この間行ったドイツで自動人形のものらしく部品も見つかってね。
 イレインの復元じゃなくて、全く新しい家族を作ろうと思ってね。
 出来たらノエルの妹になるし、すずか付きのメイドにしようかなって。
 とは言え、これがまたそう簡単にいかなくてね。基本フレームはイレインで行くつもりなんだけれど、結構壊れているのよね。
 何で、使える部分を繋ぎ合わせたら結構、小柄な体型になって。それだけじゃなくて、ノエルのノウハウも活かしたいじゃない。
 他にも色々と試したい事もあるしね。
 そこに今回見つかった部品も合わせて、って思ったんだけれど、イレインは最新の機体でしょう。
 部品の方はかなり古い型で規格が合わないのよ。で、それを色々と弄くってたら気付いたら時間が過ぎていたって訳」

本当にらしいと恭也は思う。
同時に忍ならきっと作り上げるだろうとも。
そんな恭也の考えを読み取ったのか、もしくは一人熱く語っていた事に気付いたのか、忍は少し顔を赤らめて咳払いを一つする。

「まあ、そんな訳であまり恭也に構ってあげれないけれど拗ねちゃ駄目よ」

「誰が拗ねるか、誰が」

「むぅ、それはそれで面白くないわね。そうだわ、今度何処かに出掛けましょう。
 気分転換にもなるし、夏休みももうすぐ終わるし」

忍の提案に恭也は別に構わないと返事をし、それを聞いて忍は嬉しそうにまた連絡するわと言う。
約束を取り付けてご機嫌になったのか、それともついでに話すつもりだったのか、忍はまたドイツでの話に戻す。

「そうそう、前にいった不明な機械部品なんだけれどね」

「何か分かったのか?」

「それが全く。まあ、それでも幾つか分かった事はあるんだけれどね。
 例えば、その部品の心臓部とでも言うべき場所に使われている一枚のプレートなんだけれど、
 正直、今までに現存する金属じゃない可能性もあるわ。特殊な加工をされたという線も捨て切れないけれど。
 もっと詳しく調べてみないとね。まあ、幾つか分かった事で言えば、かなり特殊な用途を持っているっぽいって事ね。
 ある特定のエネルギーに対し、その形質を……」

難しげな話になりそうだと感じ取り、恭也は忍を止める。
正直、忍の話に付いていける自信がない。

「今日はその辺りは忘れて楽しもう」

「うーん、まあ、そうね。それじゃあ、楽しむためにも恭也にはエスコートしてもらいましょうか」

小難しい話を聞くぐらいならと恭也は繋いだ手を言われた通りエスコートするように一度、恭しく軽く持ち上げる。
その仕草に忍も満足そうな笑みを見せると、

「さて、とりあえず適当に何か食べる物を幾つか買って、すずかたちと合流しましょうか」

忍の言葉に恭也は何も言わず、逆に同意するように忍の手を軽く引いて食べ物の屋台へと向かうのだった。
こうして幾つか食べ物を購入して無事に合流するも、繋がれた手を見た者たちに自分もと迫られるのはもう少しだけ先の話。





つづく、なの







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