『リリカル恭也&なのはTA』






第10話 「最後の休日は相棒と」





「…………動けん」

【申し訳ございません、主様】

高町家、恭也の自室。その中で恭也は布団に入ったままそう口にする。
夏休み最後の一日。元よりここ一週間ばかり山篭り時に近いメニューでの鍛錬から、今日一日は休日と定めていた。
故に恭也は特に予定もなく、特に問題もないのだが。
それでも、ゆっくりと体を休める事と、全く動けない事とでは大きな違いがあった。
理由はグラキアフィンが謝っている事から察するように、恭也の相棒たるこのデバイスが原因であった。
とは言え、全ては自分の為に考えて行われた事であり、許可をしたのは他でもない自分。
故に平謝りしてくるグラキアフィンには気にするなと何度も言っているのだが。

【私の構築した術式が間違っていたのか、理論の時点で何か間違いがあったのか。
 今、原因を調べている途中です】

以前漏らした恭也の言葉に忠実に従い、二人きりの今は二十センチ程の女性の映像がコアより浮かび上がり、
涙目かつ涙声で告げてくるグラキアフィンに、逆に恭也の方が申し訳なくなってくる。
最早、今日何度目になるのか分からない気にするなを半ば無意識的に口にし、恭也は枕元に置いてあるグラキアフィンに手を伸ばす。
その映像、また改良を重ねて主たる恭也なら実際に触れる事が可能となったラキアの小さな頭を慎重に数度撫でてやる。
それで落ち着いたのかグラキアフィンも謝るのを止める。
この改良が出来たと聞いた時、何か意味があるのか疑問に思った恭也であったが、嬉しそうな顔を見せられては悪い気にはならない。
何よりも、こうして落ち着かせる事ができるし、この程度の事を褒美として喜んでくれる今の状況を鑑みるに良いかと考える。
尤も、その為にこの改良をしたと聞かされれば、複雑な顔になるかもしれないが。閑話休題。
ややだるい感を引き摺りながら腕を引き戻し、恭也は早朝の鍛錬を思い出す。
今日一日は休みを弟子に言い渡した恭也であったが、グラキアフィンが編み出した魔法を試すべく道場に居た。
未だに問題の残る空中での機動及び、神速時における魔法運用に関してである。
結果、最初は上手くいったと言える成果を出した……とも言えない。
とは言え、本当に最初の最初、空中での機動で言えば数歩走り、咄嗟の方向転換まで。
方向を転換した所までは対処できたのだが、そこから二歩目を踏み出すのに間に合わず、恭也は道場の床へと落下。
続けて行われた神速では最初の一歩、時間にしてコンマ数秒以下。
そこまではグラキアフィンも魔法を維持できた。
が、あくまでも維持できるだけで、その状態で魔法の行使や細かな制御などは出来なかったのである。
これでは上手くいったなど言えるはずもなく、更には主たる恭也の身体にも可笑しな後遺症を出してしまった。
特に後者に関してグラキアフィンは反省する事しきりで、こうして横たわる恭也の頭元で只管反省と謝罪を並べていたのである。
因みに、動けなくなった恭也を自室へと運んだのは念話で助けを求められたなのはだったりする。
それに関して恭也は、

「動けるようになったら腹を切るかもしれん」

と冗談か本気か分からない顔で呟き、それを聞いたグラキアフィンが慌ててなのはが運ぼうとするのを止めた。
対するなのはは冗談だと理解しつつ、恭也を浮遊させて運んでいる所を見られるよりはと美由希を呼ぼうとし、

「それこそ、俺は本気で腹を切る事になるな。勿論、その場合は美由希のだが」

【……なら問題ありませんね】

「大ありだよ!」

そんな会話が本人の預かり知らない所で行われたなど、美由希は思いもしないだろうが。
ともあれ、そんなちょっとした騒動があり、結局はなのはが魔法の鍛錬も兼ねて恭也を部屋まで運んだのである。
その際、グラキアフィンの冗談か本気か分からない発言を思い出し、兄に染まってきたな、などと恭也が聞けばデコピンの一つも、
グラキアフィンが聞けば、純粋に喜びの声を上げるような事を考えていたりしたのだが、まあこれは完全な余談だろう。

「そう言えば、なのはに言われるまで気付かなかったが、魔法陣がミッド式という奴になっていると驚いていたな」

【はい。以前の未完成な形とは異なり、今では管理局のデータも見せて頂きましたので。
 以前は欠けた状態で再構築していた為に六芒を描きましたが、今は修復しましたから。
 とは言え、用いる魔法によってはその時に作り出した物もあり六芒のままの物もありますね】

デバイスを制作する技術者、マイスターとしての知識も持ち、
何よりプレシアやリニスの膨大な書物や一部の研究資料さえも知識として持つグラキアフィンである。
以前はいつジュエルシードが発動するのか分からない状況であったが、時間さえあれば自らの調整など容易いと告げる。
当然、自らを改修していく様を見せられたアースラに乗艦していた技術者は言葉をなくしていたが。
勿論、その辺りについては全く知らない恭也はその話を聞いても特に驚く事もなく、デバイスとはそういう物だと思っていたのだが。
後にクロノやフェイトにそれが間違いだと指摘されるまで、恭也は不思議にさえ思わなかったのである。

「それにしても暇だな」

身体が自由に動くのは夕方頃だろうというのがグラキアフィンの意見である。
起きてこない恭也に疑問を抱いた桃子たちではあったが、身体を休めていると誤魔化し、朝食は一時間近く掛けて何とか食べきった。
食べさせようとしたなのはの行為を頑として断り、緩慢な動きで朝食を食べる姿になのはは肩を竦め、
最後には奪い取るようにして無理矢理恭也に食べさせたのである。
それを見ていたグラキアフィンが、悔しそうに自分にも実体があればと呟いていたのは誰の耳にも届かなかったが。
朝に比べれば、大分動くようになっており、この調子なら昼食は時間は掛かるが一人で食べれると安堵する。
が、今現在暇なのは間違いがなく、本を読もうにもページを捲るのさえ億劫なのだ。
そんな事を体力を使ってしまっては昼食時にも朝食同様の屈辱を味わう羽目になるやもしれない。
という訳で大人しくしているのだが、

「……こう魔法を使ってイメージトレーニングとはいかないものか」

【申し訳ございません。流石に主様の脳に簡単な動かない映像を送る程度なら可能ですが、
 戦闘のような激しい動きのイメージは読み取るのも送るのも困難です】

「そうか。まあ、ラキアが話し相手になってくれるだけでも充分、時間は潰せるから助かる」

落ち込んだ様子を声から察し、恭也はすぐさまそう口にする。
それを聞き、グラキアフィンもすぐさま立ち直ると、

【では、何かお話でもしましょう。何が宜しいですか。
 魔法理論に自然科学、デバイス技術にミッドの歴史、はたまた数学的理論から考察する魔法技術。
 いえ、異世界だけではなく、この世界の歴史でも、御伽噺でも何でもご要望を仰ってください】

恭也が分かりそうなのは当然、この世界のものなのだが小難しい歴史の話をされても授業を聞いているような気になってしまう。
かと言って、あれだけ並べられた中から御伽噺を選ぶのもあれだし、と恭也が悩んでいると、

【逆に主様の昔の話をしてもらったりとか……】

少し遠慮がちに言われた言葉に恭也はすぐさま飛び付く。
とは言え、どちらかと言うと無口な部類に入る恭也である。

「あまり上手く話せる自信はないが」

【いえ、構いません。是非ともお聞かせください】

グラキアフィンの強い要望により、恭也は自身が経験した事をぽつりぽつりと話し出す。
それを嬉しそうに聞くグラキアフィンは、今日一日をとても満足して終えるのであった。





つづく、なの







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