『リリカル恭也&なのはTA』






第11話 「なのはの夢と未来と」





「さあ、今日から新学期。皆、元気にいきましょう」

朝食も終わり、各々に出掛ける支度を済ませたリビングに桃子の言葉の通り元気な声が響く。
それにこちらも元気に返事するなのはと晶、そして少し困惑しつつ返す美由希。
残る一人の返事はなく、自然と視線がそちらへと向かう。
それをヒシヒシと感じながらも、恭也は読み掛けの記事を読み終えてから顔を上げ、

「いってらっしゃい」

まるで他人事のように皆を送り出す言葉を口にする。

「って、恭也、あなたも今日から学校でしょうが」

「それは重々承知しているが、まだ出るには少々早いんでな。
 ちゃんと戸締りはするから心配せず、先に行くと良い。松尾さんも待っているんじゃないか」

「はぁ、今日から新学期なんだから、こう気持ちを新たにとかそういうのはないの?
 本当にどうしてここまで年齢不相応に落ち着いているのかしらね」

反面教師となる人物を父に持ち、ずっとそれを見てきたからだ。
出そうになる言葉を堪え、この中で一番時間が切羽詰っている桃子に無言で時計を指差す。
それを見て桃子は戸締りを頼むとやや足早に家を出る。
その背中に各々いってらっしゃいと声を掛けて見送った後、自分たちも出ようかと玄関へと向かう。

「お兄ちゃん、途中まで一緒に行こうよ」

なのはの言葉に恭也は考える素振りを見せるも、特にする事もないかと頷いて立ち上がる。
念のためにガスの元栓や戸締りを確認してから玄関を出る。
と、そこにはなのはだけでなく美由希や晶も待っていた。

「どうせなら皆で行こうよ、恭ちゃん」

「そうだな、途中まで行くか」

「って、私と恭ちゃんは同じ学校でしょう」

「美由希ちゃん、俺も学校は違えど、一応同じ敷地だよ」

背中から聞こえる賑やかな声を耳にしながら恭也は玄関の鍵を掛けて振り返る。
朝から少し賑やかな登校になったなと思いつつ、恭也はぼんやりと空を見上げる。

「今日からまた勉学の日々が始まるのか」

「恭ちゃん、今のはもしかして笑う所?
 それとも受験生、って突っ込む所?」

恭也の漏らした呟きに律儀に答える美由希の隣で、晶があちゃーとばかりに掌で顔を覆い、なのはは苦笑を見せる。
案の定、どちらも正解ではなかったらしく、ご褒美として無言のまま恭也のデコピンが美由希の額を狙う。
が、美由希もそれをちゃんと分かっていたらしく、言い終えるなりさっさと恭也の射程範囲から離れていた。
それに面白くなさそうな顔をした後、

「美由希、飛ぶ斬撃というのを知っているか?」

「いきなり何?」

「正確には飛ぶんじゃなく、打撃を空気を振動させて通し目標にぶつけるんだが。
 その昔は柳生流の秘奥義としても伝わっていたとも言われており、古くは更に昔から存在だけは囁かれている。
 最近では発けい、遠当てなどと呼ばれたりと、呼び方は様々だがようするに離れていても攻撃を当てると思えば良い」

言いながら恭也はこれ見よがしに右手の中指を親指で押さえ込むようにして丸を作り、まるで気でも込めるかのように力を入れる。
それを美由希の額に向け、静かな口調のまま続ける。

「因みに御神もその歴史は古いのは知っているな。
 剣術としての体系が出来上がったのは江戸に入ってからだが、元々は体術、暗殺術として存在していたというのは話したな?」

「う、うん。でも、江戸に入って多くの剣術が生まれ、御神もそれに習うかのように剣術を取り入れたんだよね。
 その中でも守るのに尤も適していた小太刀を取り入れ、今の御神流の体系になって、
 昔からあった暗殺術なんかは主に不破として伝えられた、だったよね。徹や貫は元々体術で使っていたもの、だったかな」

「正解だ。よく覚えていたな。元々、剣術を取り込むまでの御神は今で言う忍術めいた物を主体としていた。
 御神が暗器を使うのは寧ろ、暗器を使っていた所に小太刀が加わったと思えば良い。
 更に言うなら、穏行や気配察知などの鍛錬方法が他の流派よりも確立しているのもその為だな。
 で、だ。遠当てというのは本来、手裏剣術とでも呼ぶべき武芸に含まれる技法として存在している。
 勿論、こちらは気とかそういった物ではなく、目潰しなどの技法だがな。
 残念ながら、こちらの技法はかなり失われたみたいでな」

「へー、そうなんだ。で、どうして今更、ましてやこんな所でそんな講義が始まっているの?
 物凄く嫌な予感しかしないんだけれど……」

背中に冷たい汗を感じつつ、美由希はゆっくりと恭也から距離を開けていく。
それを見ても慌てず、恭也は距離を詰める事もせずに更に続けて言う。

「そうそう、御神は貪欲なまでに必要ならばその技法を盗み、自らに取り込んでいった。
 それは近代になっても行われていてな、幕末頃には遠当てというのはさっき言ったように少し変わった技と認識される場合もあった。
 さて、本題という程でもないが少し話を戻そうか。先ほど手裏剣術などの技法は失われたと言ったな。
 だが御神、というよりも不破には遠当てという言葉はしっかりと残っていてな。
 さて、どうして残っていると思う?」

「あ、あははは。あまり答えたくはないような……」

「これは徹や貫と同じく一つの技法だ。なに、怪我はしないさ。
 さっき言ったように斬撃でも極めれば出来るのかもしれないが、今は素手だし、俺も流石にそこまではできん。
 精々が悶える程度の痛さだ」

「や、やっぱりー! って言うか、恭ちゃん人間止めすぎ!
 流石にそこは出来たら駄目だよ、絶対に!」

恭也の言葉に美由希は慌てて更に距離を取ろうとするのだが、恭也が全く距離を詰める様子を見せない。
その事からまだ射程範囲だと判断し、更に後ろに下がろうと地面を蹴り、

「あ、美由希ちゃん、危なっ」

晶が言い終えるよりも早く、美由希は背後にあった電柱に頭をぶつけて悶える。

「……まあ、こんな風に言葉で相手を惑わすという闘い方もある訳だ」

恭也は何事もなかったかのように腕を下ろし、悶える美由希を見下ろす。

「うぅぅ、もしかしなくてもさっきのは嘘なんだね」

「全てが嘘ではないぞ。実際、御神が暗器や体術といった物を主としていたのは事実だしな。
 と言うか、それはお前にも教えた事だろう。それに、お前が痛みに悶えるというのも嘘ではなかっただろう」

「遠当てに関してだよ! うぅぅ、こんな嘘を信じるなんて」

「本当に嘘だと思うか?」

「へ? え、もしかして本当にあるの?」

「さあ、どうだろうな」

はぐらかす恭也の顔をじっと見詰めるも、その目が明らかにからかっている事に気付いて美由希は恭也に突っ掛かる。
だが、実力行使でも口撃でも恭也に敵わず美由希はあっさりと撃沈してしまい、肩を落としていじけてしまう。

「うぅぅ、うちの兄が苛めっ子なんです」

そんな美由希を晶が必死で慰め、流石にやり過ぎだと感じたのかなのはが恭也を嗜める。
ある意味、いつもの光景とも言える様なやり取りをしながら四人はバス乗り場までやって来る。
丁度、なのはたちが着くと同時にスクールバスが到着し、なのははそのまま乗り込む。
一番後ろの席にはアリサとすずかの姿があり、二人は窓の外に向かって挨拶している。
それに答えるように恭也たちも軽く手を上げたり、手を振ったりとそれぞれに挨拶を返す。

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん」

「おはよう、なのはちゃん」

「おはよう、なのは。新学期が始まったけれど、高町家の人たちは相変わらずみたいね」

ちゃんと挨拶を返した後、そのまま言ってくるアリサの言葉になのはは反論も出来ず、ただ笑うだけである。
その笑顔が若干引き摺った物であったとしても、それは仕方ないだろう。
何があったのかと聞いてくるアリサたちに少し戸惑うも、二人も兄たちがやっている剣術の事を知っているから良いかと話し出す。
その途中、遠当ての所では二人も信じられないという顔をして出来るのかと興味津々だったが、その後の事を話すと、

「あ、やっぱりそういうオチなんだ」

「幾ら恭也でもそこまで人間止めてないわよね。それにしても、美由希はもう少し学習って言葉を知るべきじゃないかしら」

「えっと、あれがお兄ちゃんとお姉ちゃんのコミュニケーションみたいなものだし」

アリサの言葉に同意しつつも、自分までもがここで同意しては美由希が可哀相だと一応フォローを入れておく。
そんななのはに呆れたように肩を竦めながらも、アリサもそれ以上は何も言わずにすぐに話題を変える。
仲良し三人組みは久しぶりのこの光景に改めて新学期が始まった事を実感するのであった。



 ∬ ∬ ∬



二学期最初の日という事もあり、今日は授業などもなく午前の内に解放されるのは殆どの小学校でも同じ事だろう。
例に漏れずなのはたちの学校も始業式を行い、後は各クラス毎に教室でのホームルームを行うと今日はお終いとなった。
昼食にはまだ早い時間、夕方まで予定のないアリサやすずかと一緒に少し寄り道しながら帰宅する。
いつもなら話も弾み、楽しげな光景が広がるはずなのだが、今日は少し違っていた。
と言うのも、なのはがどうも考え込むように時折、黙り込むのだ。
少し前にも似たような事があったなと思いつつも黙って見守るすずかと、少し苛立たしそうに髪を弄るアリサ。
やがて、堪えきれなかったのかアリサがなのはに言葉を投げる。

「ちょっとなのは、聞いてるの!?」

「ふぇ、あ、ごめん、なにアリサちゃん」

なのはの返答に溜め息を吐き、アリサはその顔を覗き込む。

「一体何を悩んでいるのよ。と言うか、思い当たるのは一つしかないんだけれど」

「あははは、やっぱり分かっちゃう?」

「まあね」

信頼を寄せる笑顔を見て恥ずかしくなったのか、
アリサは顔を逸らすと誤魔化すように防波堤の上に乗り海を見て興味ありませんというポーズを取る。
が、それが照れ隠しだというのは二人にははっきりと分かっており、二人は笑みを深めながら同じようにアリサに並ぶ。
それを視線に捉えてアリサは顔を赤くしながらも誤魔化すように言う。

「どうせ、先生が口にした夢について悩んでいるんでしょう」

「うん」

アリサの言葉に本当に正解と半分驚きつつも素直に頷くなのはだが、これ程分かり易い反応もないとアリサなんかは思う。
帰り際に担任が口にした夢に付いての考えてみてはという軽い話。
それを聞いてから急に黙り込んで何か悩むような考えるような素振りを見せられてはすぐに分かると言うものだ。
逆にすずかは何故悩んでいるのかと疑問をそのまま口にする。

「でも、なのはちゃんは将来、翠屋のマスターになるんじゃないの?」

「昔はそう思っていたんだけれどね。今は他にしたい事って言うか、出来そうな事が見つかりそうな感じで。
 どうしようかなって」

「バカね。そんなに悩まなくても良いんじゃないの。そりゃあ、早く見付ければそれだけ準備もしっかり出来るでしょうけれど」

「アリサちゃんの言うとおりだよ。まだそんなにはっきりと決めなくても良いんじゃない。
 寧ろ、先生が言ったのはもっとこう小さい子が花屋さんになりたいとか、そんな感じだったし」

「そうそう。考えるなとは言わないけれど、もう少し気楽に考えても良いと思うわよ」

そう言ってくれる二人に夢に付いて尋ねてみれば、共にはっきりとした答えが返って来る。

「何か言ってくれている事と違うような……」

「私の場合はお父さんが仕事しているのを小さい頃から見ていたっていうのもあるし……」

「私もすずかと一緒よ。それに私にしてもすずかにしても漠然とそうなったら良いなとか、手伝いたいなって感じだし」

アリサの言葉にすずかも頷くが、それでもなのははその漠然とした物さえも分からなくなっている現状に頭を悩ませる。
真面目過ぎるのよ、とアリサは口にして、とりあえずは元気付けようとしたのか、

「そんなに気になるなら恭也たちにも聞けば良いのよ。
 それよりも、久しぶりに一緒に帰るんだから、もっと楽しそうな顔をしなさいよね」

なのはのほっぺを左右に引っ張る。

「い、痛いよ、アリサちゃん」

「あははは、すずか見て見て、なのはったら変な顔〜」

「むー、それはアリサちゃんが引っ張るからでしょう。こうなったら……えい!」

「ひょっと、は、離せ〜」

二人してほっぺを引っ張り合い、その状態で自分の頬に掛かった手を外そうと四苦八苦する。
傍から見ていてフラフラとふらつくその姿を普通なら微笑みを湛えて見守る所だが、今は場所が場所である。
下手に落ちると危ないという事もあり、すずかは二人を止めに入る。

「二人とも危ないから、って、落ちる、私が落ちるから押さないで」

止めに入ったはずのすずかに同時に二人が手を伸ばして来て、躱そうとするもそんなに広くはない。
結果として避けきれず、二人の手が伸びてきて頬を左右に引っ張られる事となる。

「うぅぅ、二人とも酷いよ」

「ごめんね、すずかちゃん」

「本当に悪かったわ。途中から訳が分からなくなってたのよ」

最終的に拗ねたすずかをなのはとアリサの二人が必死に宥めると言う図に落ち着いたようで、二人してすずかに謝るのであった。



 ∬ ∬ ∬



帰宅したなのははポストに入っていた荷物の宛名を見て頬を緩める。
それはフェイトからのビデオレターで、ようやく届いたそれを胸に抱えて部屋に戻る。
さっさと着替えを済ませた所で、まだ恭也が帰ってきていない事に気付いて部屋の中をうろうろと歩き回る。
やがて玄関の戸が開き、恭也の帰宅の声が聞こえるなりなのはは掛けるように部屋を飛び出す。
恭也の家の中を走らないという注意に若干おざなりに返事を返し、手に持った物を見せる。

「お兄ちゃん、フェイトちゃんから」

「そうか。二枚という事は魔法絡みの話の物もあるのか」

恭也の言葉になのははそうみたいと返し、丁度まだ誰も帰ってきていない事から先に魔法絡みの方を見る事にする。
が、慌てるなのはを恭也は制する。

「とりあえずは着替えさせてくれ」

「あ、ごめんなさい。えっと、じゃあ先に部屋に行ってるから」

見ている途中で誰が戻ってくるかも分からないので、魔法絡みを見る時はなのはの部屋と決めているのである。
その取り決めに従って部屋に戻るなのはの背中を見ながら、恭也はもう一度走るなと注意するのだった。



なのはの部屋で見たビデオレターの内容は、簡単に言うと鍛錬の話とフェイトが嘱託魔導師の試験を受けるという物であった。

「ねぇ、お兄ちゃん。嘱託って何?」

「嘱託というのは仕事を頼んで任せる事だが、嘱託魔導師という場合はどうなるんだ?」

【こちらの嘱託と同じと捉えて構いません。
 フェイト嬢の場合、異世界での行動が自由になるというのが受ける理由として大きいのでしょうね】

恭也の言葉にグラキアフィンが答えるのを聞き、なのはは大まかに嘱託魔導師に付いて納得する。
これを受けて合格すれば、裁判で多少は有利になる上に期間も少し縮まるらしい。
が、それだけが理由ではないらしく、フェイトはたどたどしく上手く伝えられるか不安ながらも語っている。
その一番の理由としては、やっぱり自分の境遇があるようである。
将来的には管理局で執務官というのも視野に入れているとも語っていた。
とても難しいけれど、とはにかむ姿はよく知るフェイトらしい物であったが、なのはには少し大人びて見えた。
フェイトの語った、自分みたいな人を少しでも減らしたいという思いもフェイトらしいと思えた。
やがてビデオレターが終わるもなのはは何か悩んだように考え込む。
それを見て、恭也はなのはに聞き、なのはもまたアリサたちに話し、今また思う所のあった話をする。

「……つまりなのはは魔法と出会ったことで色々と考えるようになったんだな」

思ったよりも真剣に悩んでいるなのはを見ながら、恭也も同じように考える。

「アリサたちも言っていたみたいだが、あまり深く考えなくても良いとは思うがな。
 まあ、それが出来ないからこうして悩んでいるんだろうが。
 別に魔法を知ったからと言って、それに関わる道を選ぶ必要もないんだぞ。
 正直、危険な事もあるようだし、あまり関わって欲しくないが、決めるのはなのはだから。
 結局の所、なのはが何をしたいのか、という事だろうな。
 何というのは職業という意味じゃなく、どんな事がしたいのか、という事だ」

「……まだよく分からないかも」

「そうか。なら、これからゆっくりと探していけば良い。
 あまり焦りすぎると本当にやりたい事を見失う事にもなり兼ねないからな」

恭也の言葉に頷き、なのはは一先ずそれを頭の隅に置いておく事にする。
が、やはり気にはなるらしく一人百面相を繰り返す。やがて、ふと思いついたのか立ち上がり、

「お姉ちゃんは帰ってきているかな?」

「美由希か? さっき帰ってきて、今は道場にいるみたいだが」

最早、この程度の返答では驚かない辺りはなのはも高町家の住人なのだが、それは兎も角、なのはは恭也に礼を言うと部屋を出て行く。
その背中にまたしても呆れたように、

「だから、家の中を走るなと……」

既に聞えていないであろう事を理解し、恭也は主の居ない部屋で送られて来たビデオレターを片付け始める。
一方、兄が片付けているとは、と言うか、完全にその事を忘れて道場に向かったなのはは中で木刀を振る美由希を見詰め、
視線に気付いて振り返った美由希に聞きたい事があるんだけれど、と切り出す。

「お姉ちゃんは今の私よりも小さい時にはもう御神の剣士になるというのが夢だったんだよね」

突然聞かれた言葉に美由希は理由を尋ねず、なのはを座らせると自分もその前に座り頷く。

「どうして、剣士になろうと思ったの?」

「うーん、剣士というのは夢というよりも目標や手段って感じなんだよね。
 だから夢と言われると私もこれだって断言できるようなものはないかな」

「そうなの?」

「そうだよ」

思っていた事と違う答えに思わず聞き返すも、いつもの優しげな笑みを浮かべて断言される。
だからか、なのははもう少し聞いてみたいと質問を続け、

「じゃあ、剣を習おうと思ったのは? 何か切欠みたいなものがあったんだよね」

「それは士郎父さんや恭ちゃんがやっているのを見て、何となく置いて行かれるような気がしたってのが最初の切欠かもね。
 その後、士郎父さんが亡くなって改めて恭ちゃんに問われて、始めは士郎父さんとの約束があったからって答えたんだけれど、
 それをなしにしてどうだって聞かれて考えちゃった。でも、結局、私は恭ちゃんの横に立ちたいんだって思ったの。
 そもそも士郎父さんとの剣術の約束もその為にした物だからね。
 危うく忘れる所だったけれど、士郎父さんや恭ちゃんが剣を振るう姿を見てきて、それに憧れて。
 切欠なんてそんな物だよ。今はなのはやかーさんといった大事な人を守るためなんだけれどね。
 最初は御神の剣士になるのが目的だったんだけれど、今ではそれが手段になったって感じかな。
 って、ごめんね。上手く説明できないや」

「ううん、ありがとうお姉ちゃん」

美由希の話を聞き、なのはは何か気付いたのか少し表情が明るくなる。
それに美由希も気付き、力になれた事を喜びつつ、どういたしましてと道場から出て行くなのはを見送る。
道場を出たなのはは首からぶら下がっているレイジングハートを指で持ち上げ、目の前に掲げる。

「魔法を使って何かをするんじゃなくて、何かをする為に魔法が必要なら使えば良いんだよね。
 無理に魔法に拘らなくても。お兄ちゃんが言ったように、まずは何がやりたいか、それを考えないとね」

なのはの言葉に同意するようにレイジングハートが小さく光る。
それを笑顔で見詰め、なのはは改めてレイジグハートに告げる。

「まだどうするのかは分からないけれど、これからもよろしくね、レイジグハート」

【こちらこそ、マスター】

なのはの呼び掛けに、今度はレイジングハートもしっかりと声に出して返すのだった。





つづく、なの







ご意見、ご感想は掲示板かメールでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ


▲Home          ▲戻る