『リリカル恭也&なのはTA』
第16話 「約束の」
休日の午後、恭也の姿は珍しく自宅にはなく、だからといって鍛錬に没頭している訳でもなく、ごく普通に街中にあった。
電車に乗り隣町にあるショッピングモールへとやって来ていたのだが、少し目立っているような気がして落ち着かない。
そもそも自分には不釣合いな場所に居るという事もあり、余計にそう感じられるのかもしれないが、
それを除いたとしても目立っているような気がするのは仕方がないかと隣を見て思う。
件の隣の人物は恭也がそんな事を考えているなどと思いもせず、終始嬉しそうな笑みを浮かべ、ともすればスキップさえし兼ねない。
ここまで喜んでくれるのなら恭也としても嬉しい事この上ないのだが。
「恭也とこうして出掛けるのって本当に久しぶりよね」
「そうだったか?」
同姓異性問わずに思わず目を引くような眩い笑みを恭也の言葉によって膨らませ、それでもすぐに笑顔に戻ると忍は頷く。
「そうだよ。まあ、流石に二人きりじゃないのが少し不満だけれど」
言って恭也の逆隣に居るすずかを見れば、こちらも嬉しそうな顔を見せているのだが、忍の言葉に申し訳なさそうな顔になる。
それを見て慌てたように冗談だとフォローを入れる忍と、こちらも冗談だと笑うすずかを見て、
恭也は本当の姉妹の様に仲睦まじい様子に知らず頬を緩める。
そんな恭也の後ろでは私服姿のノエルがこれまた主の様子を微笑ましく見守っており、知らず視線が合って小さく笑みを交し合う。
この状況こそが恭也が人目を引いているのではと思ってしまう理由であった。
見目麗しい女性三人、尤も一人はまだ少女と言える年齢だが、それらに囲まれて歩く男一人。
実際にはそこそこに人通りもあり、そこまで目立っている訳ではない事は充分に感じられるのだが、やはり多少の人目は引くのか、
思わずそう思ってしまう恭也であった。
とは言え、地下を借りた際の約束という事もあり、寧ろこの程度で良いのかと思うほどなのだが。
「それにしても美由希ちゃんの本当のお母さんか。ちょっと会ってみたかったかも」
「なら、帰りにでも寄ってみれば良い。明日、帰国する予定だそうだからな」
美沙斗の滞在は約一週間。美由希とのぎこちないやり取りも今では大分取れてきて、今ではかなり普通に喋っているようである。
初日のぎこちなさを思い出し、恭也は胸の痞えが取れたような気分であった。
一緒に風呂に入って色々と話をしたらしく、何を話したのかは聞かなかったが、互いのわだかまりが取れたのは良い事だ。
風呂上りに嬉しそうに笑う美由希を見て、恭也だけでなく事情を知る桃子なども安堵したものである。
美沙斗の方は何故か自分の身体を見下ろし、美由希を見ては小さく溜め息を吐いており、何かあったんだろうかと思って、
思い切って尋ねてみれば、少し照れた顔をして何でもないと言っていたので、本当に何でもないのだろう。
何かあればおしえてくれるだろうと考え、それよりも風呂上りにはにかむ美沙斗の方がやけに印象的であった。
思わずまた思い出しそうになり、それを振り払うと横から視線を感じる。
見れば、忍がじっとこちらを見上げてきており、何処か拗ねたような表情をしていた。
「恭也、今、他の女性の事を考えていたでしょう」
妙に鋭い事を言ってくる忍にどうして分かったのか、などと問わずにとぼけるように首を傾げる。
「女性と言うか、美沙斗さんの事でちょっとな」
「むー、なら良い、のかしら」
微妙な気持ちを抱きつつ、恭也を見上げれば特にそこに特別な感情も見られず、忍は納得する事にする。
代わりと言う訳ではないだろうが、忍は恭也の腕を取ると自分の腕と絡ませ、赤くなって固まるすずかに笑い掛ける。
「すずかも迷子にならないように恭也と手でも繋いだ方が良いかもしれないわよ」
「あ、え、でも……」
忍の言葉に困ったような顔をしておろおろするすずかに対し、恭也は尤もだと思い手を差し出す。
それを暫く見詰めた後、おずおずと掴むと小さく笑う。
一方、掴む場所のないノエルは仕方ないとばかりにそんな三人の後ろから付いて歩く。
こっそりとノエルに謝りつつ、忍は目的地へと恭也を引っ張って行く。
「美沙斗さんって恭也よりも強いって本当なの?」
正直、信じられないという思いで聞いてみるもすぐさま返って来る答えに迷いはない。
「ああ。そもそも独学の俺とは違い、唯一完全な御神を知る人だからな。
本人は否定しているけれど、今の段階ではまだ美沙斗さんの方が上だろうな」
「嬉しそうね」
「そりゃあな。この一週間、毎日鍛錬に付き合ってもらえた事で俺も得る物があったしな。
何より、今まで知らなかった技や、父さんの残した鍛錬ノートの足りない部分も教えてもらえたからな。
これで美由希の奴をより高みへと連れて行ける」
本当に嬉しそうに言う恭也を見て、忍も嬉しそうに笑う。
「そっか、それは良かったわね。と、ここよ」
そんな風に話をしている内に目的の店へと付き、忍はようやく恭也の腕を離す。
「とりあえずは服を見ようと思うんだけれど、恭也の意見も聞かせてよね」
「あまり期待には応えられないと思うがな」
予想通りの言葉を聞きながら店の中へと入って行く。
その後に続きながら、恭也は店内へと視線を巡らせる。
女性専用の店なので、やはり店内は女性が圧倒的に多いのは当然だが、僅かながらも男性の姿も見受けられる。
楽しそうに連れの女性と服を選んでいる者や、疲れた顔をして待っている者など様々な反応を見せている。
と、店内を見渡していた恭也に早速忍が服を数着持って現れる。
「早速試着するから、ちゃんと待っててね」
言って試着室まで連れて来られるのだが、流石にその前で待っているのは手持ち無沙汰な上に居心地が悪すぎる。
とは言え、意見を求められている以上、勝手に逃げ出すという訳にもいかず、恭也は大人しくそこに立っているしかできない。
時折、通り過ぎる女性や試着室から出てくる女性などの視線を感じながら、恭也は己に石になれと言い聞かせて長く感じる数分に耐える。
ようやく目の前の試着室から忍が現れた時には、感謝の言葉を口にしそうになったぐらいだ。
少々大げさに考えつつ、意見を求められた恭也は最も無難に似合っていると答える。
その後も三着ばかり見せられるのだが、どれも同じような事を口にし、忍は肩を竦めてしまう。
「恭也、ちゃんと見てる?」
「見ているよ。だが、本当に似合っているんだから、そうとしか言いようがないだろう」
「うー、そう言ってくれるのは嬉しいんだけれど……」
恭也の返答に照れつつももどかしそうな顔を見せる。
と、その隣の試着室からすずかが姿を見せ、恥ずかしそうに恭也に意見を求めてくる。
「あの、どうですか?」
「うん、可愛いと思う」
「あ、ありがとうございます」
恭也の言葉に照れつつも満更でもない様子で試着室へと戻っていくすずか。
今度は逆隣からノエルが現れ、また恭也に意見を求める。
「どうでしょうか、恭也さま」
「へー、私服姿でスカートを穿いているのは初めて見るような気がするが、似合っているんじゃないか。
うん、とても綺麗だな」
「ありがとうございます。では、私はこれにします」
「もう決めたのか? 他にも色々試着しなくても良いのか?」
「はい。恭也さまが褒めてくださいましたので、これにします」
あっさりと買う物を決め、再び試着室へと戻っていくノエル。
それら二人が戻るのを見ながら、忍は拗ねたように恭也を見詰める。
「どうかしたんか、忍?」
「むー、二人と違って私には似合うしか言わなかったのに……」
拗ねる忍に恭也は困ったような顔を見せるも、忍の言葉から察したグラキアフィンがこっそりと教えてくれる。
≪主様、忍嬢にも綺麗だとか可愛いといった事を言ってあげてください≫
念話に感謝の言葉で返し、恭也は忍に向き合うのだが、いざ言おうとすると若干照れくさいものを感じる。
が、目の前で拗ねる忍を見て意を決したように口を開く。
「忍」
「なに?」
「あー、その、今着ているのも似合っているが、最初に着ていたのはその、綺麗だった」
照れつつ言った恭也の言葉に忍は途端に笑顔になるも、顔に力を入れて表情を変えないように努める。
「急に取って付けたように言われても」
「さっきは照れくさくて言い出せなかっただけで嘘じゃない」
「本当に?」
「ああ」
「そっか、うん、なら今回は許してあげるわ」
流石にこれ以上は我慢できないのか、忍はふにゃりと嬉しそうに笑って機嫌を直す。
その様子にこっそりと胸を撫で下ろしつつ、恭也は先程よりも視線を集めているような気がして忍を急かす。
「とりあえず試着が終わったのなら早く着替えてくれ。
流石に試着室の前で男がずっと居ると変な目で見られて居心地が悪い」
恭也の言葉に思わず笑い出しそうになるもすぐに何か思いついたような顔を見せる。
嫌な予感を覚えた恭也が身構えるも、忍は何もせずに試着室へと戻って行き、自分の思い違いかと少しだけ反省する。
すぐに疑うのはよくないな、と。
忍と入れ違うようにノエルとすずかが出てきて、二人はそのままレジへと向かう。
恭也としては二人に付いて行きたかったが、忍を一人にする事も出来ずにやはり居心地の悪さを堪えてここに残る。
と、不意に忍が試着室から顔だけを出してくる。
「恭也、本当に居心地悪そうね」
「まあな。で、着替え終わったのか?」
「ううん、まだ。それより、居心地が悪いのなら良い方法があるわよ」
またしても意地の悪い笑みを見せる忍を見て、やはり二人に付いて行くべきだったかと思うも後の祭りである。
どう逃れようかと考えを巡らせる前に忍に腕を掴まれる。
「何をするつもりだ」
「試着室の前が居心地悪いのなら、中に居れば良いのよ。そうすれば、人目も気にならないでしょう」
言って本当に恭也を連れ込もうとするも、当然、恭也はそれに抵抗を見せる。
「意味が違う、意味が。いや、確かに意味は間違っていなくて、居心地は悪いが色々と違うだろう、それは」
引き込もうとする忍と抵抗する恭也。力は当然恭也の方が強く、結果として忍が引っ張られる形で試着室から出てくる。
「あ」
忍が着替え終えていないのを思い出し、恭也は思わず顔を背け、同時に人目から忍を隠すように立つ。
店内には少ないとはいえ男性が居るのだ。故に取った行動であったのだが。
「へへへ、実はもう着替え終えてました」
あっけらかんと言ってくる忍にどっと疲れを感じつつ、
とりあえず恭也は何とも言えない気持ちを目の前の張本人にぶつけるべく拳を握り、それを軽く忍の頭に落とす。
「冗談も時と場所を考えてくれ」
「はーい。でも、他の人から見えないように庇ってくれたのはちょっとキュンってきたかも」
「はぁ、何か疲れた。で、買うものは決まったのか?」
「うん。最初に着た奴にするわ。恭也が一番気に入ってくれたみたいだしね」
「そうか。なら、さっさとここから離れよう」
騒いでいた為か近くに居る者たちの目を引いているのを感じ取り、恭也はさっさとこの場から離れたかった。
それを分かっていながら、忍は恭也の腕を取ると殊更ゆっくりと歩くのであった。
「次はあそこに行きたいんだけれど」
精神的な疲れを感じている恭也を引っ張り、忍は次の店へと向かう。
最早、そうそうな事では疲れることもないだろうと詮無き事を考え、さっきの事を忘れようとする。
そんな恭也の視界に香の文字が移り、思わず足を止める。
「どうしたの、恭也?」
「恭也さん、お香とかに興味があるんですか?」
「いや、別にそういう訳じゃないんだ。と、悪かったな。行こうか」
二人の言葉を否定し、恭也は足を進める。
忍とすずかは顔を見合わせるも、すぐに恭也の腕と手を取り新たな店へと恭也を引っ張って行く。
二人に引っ張られながら、恭也は美沙斗と美由希の三人で話した時の事を思い返す。
あれは美沙斗の滞在四日目の事だっただろうか。
「恭也、美由希、龍香湯というのを聞いた事があるかい?」
鍛錬後、唐突に語り出した美沙斗に恭也と美由希は揃って首を横に振る。
そんな二人に美沙斗はそれがドラッグである事を話す。
「この前のコンサートで美由希が捕らえた連中。彼らからは何の情報も得られなかったと言ったね」
「はい。それ所か自分たちの名前さえも覚えていなかったと聞いてます」
リスティから能力を使って確認したので間違いないと言われたのを思い出して言うと、美沙斗は続ける。
「多分、彼らに使われたのが龍香湯だと思う。この薬は定期的に服用させる事で強い洗脳効果を得られるんだ。
それこそ記憶から何から根こそぎ消して上書きできるぐらいにね。
私も警防隊で聞いて知ったんだけれど、数年前のクリステラ上院議員に対するテロ未遂事件があっただろう」
「確か父さんが護衛をしていた事件ですよね」
「ああ。あの時に捕まった者たちにもこれが使われていて、同じく何も情報を引き出せなかったらしい。
このように色々な薬がある事を知っておくのも良いと思うよ。中には無色で僅かな匂いしかしない痺れ薬なんて物もある。
そしてそうした薬物を専門に扱う暗殺者もいるからね」
言いながら美沙斗はここからが本題とばかりに僅かばかり目を細め、真剣味を帯びた声で言う。
「かく言う私も薬を使用していてね。ああ、別に麻薬とかそういったものじゃないよ。
私が使っていたのは痛覚を誤魔化す為に使用していた薬さ。けれど、当然ながらこれにも副作用が存在する。
この薬の使用で、戦闘者としての寿命を縮めてしまっただろうね。
多分、全力で闘えるのは後十年もないだろうね。
それまでに龍を滅ぼせるのかは分からないけれど、それでも出来る限りの事はしようと思っているんだよ。
道を間違えた私のせめてもの罪滅ぼしに。そして、今度こそ娘に胸を張れる様にね」
言って優しげな笑みを美由希に見せ、美由希も何処かこそばい感じながらも満更でもない様子で美沙斗を見る。
その後、美沙斗は再び剣士としての顔に戻ると恭也と美由希を見る。
「何が言いたいかと言うと、それまでに恭也に私の知っている全ての技、つまりは御神の全てを教えようと思っている。
だから、こうして無理を言って二人の鍛錬に加えてもらったんだ。
けれど、それは同時に恭也にとっては負担になるかもしれない。
だから、どうするかは恭也に任せようと思うんだけれど、聞くまでもなかったみたいだね」
恭也の目を見て、美沙斗は既にそれが無駄な質問だと理解した。
だからこそ、自分の持てる全てを伝えようと改めてここに誓う。
対する恭也は美沙斗の思いを受け止め、美沙斗の教えを乞うことを決めつつも一つだけ疑問に思う。
「どうして俺なんですか。そのまま美由希に教えても良いのでは」
右膝を故障している自分よりも美由希に直に教えれば良いのではないかという疑問である。
が、それに対して美沙斗はまたしても優しげな笑みを見せる。
「美由希には恭也から伝えてあげて欲しい。今まで美由希を育ててきたのは君なんだから。
それに美由希もその方が喜ぶだろうしね」
恭也が美由希の事だけを考えて作り上げたメニューは美由希の為という一点のみを考慮し、
拙いながらもあらゆる専門書を読み漁り、恭也が作り上げたものである。
まさに美由希の為に考慮された工程である。
故にそこに急に美沙斗の鍛錬を捻じ込む事どんな狂いが生じるのか分からない。
だからこそ、恭也から伝えてもらおうという思いと、今まで独学でやってきた恭也自身に何かを伝えたいという思い。
この二つからの美沙斗の提案であった。それを汲んだ恭也はありがたくそれを受ける事を改めて決める。
一方の美由希はそんな母親や師匠の思いを感じているのかもしれないが、寧ろ美沙斗の言葉に顔を赤くして照れているのであった。
「……や、恭也! ねぇ、ってば」
「ん、ああ、すまない。ちょっと考え事をしていた。で、どうした」
「もう。恭也は何色が好きいかって聞いているのに」
「そうだな、俺は黒が……って、ここは何処だ!?」
「うーん、こっちの黒いやつね。私やノエルは兎も角、すずかにはまだちょっと早い気もするけれど。
まあ、恭也があそこまで真剣に考えて出したんだし、恭也の意見を取り入れましょうか。
それにしても、流石にこれは大胆過ぎる様な気もするけれど。意外と恭也の趣味って……」
忍が手にした黒い物体を広げ、それを見てすずかなどは顔を真っ赤にしている。
恭也は周囲を見渡し、周囲がカラフルな色合いの上にフリフリやらヒラヒラやら紐やらのデザインに面食らう。
それどころか、先ほどの店では少数ながらも居た男性客が一切ここでは見えず、弥が上にも認めない訳にもいかない。
ここがランジェリーショップだという事実を。
「かなり透けているし、横なんて紐だけれど恭也が気に入ったのならこれにするわ」
「って、待て待て。お前はさっきから何を聞いていたんだ」
「何って、下着に決まっているじゃない。何を今更」
不思議そうに首を傾げる忍を見て、続けて忍とノエルがそれそれ手に持つ四種類の下着を恐る恐る見る。
忍が手にした物が黒と白、ノエルが紫に薄い青。
それぞれデザインは違っており、白い大人しめのデザインから黒いセクシーな下着と揃えている。
「じゃあ、私は黒でノエルは色違いで何色が良い?」
「そうですね。恭也さまは何色が宜しいですか?」
「ちょっと待て、色々と可笑しいから。下着を俺が選んでどうする」
「どうするって、そんな事を言わせるの?」
恥ずかしげに頬に手を当てて身をくねらせる忍を見て、お願いだから止めてくれと思わずには居られない。
周りの視線が先ほどの比ではないぐらいに感じられるのだ。
「服は兎も角、下着まで選ばせるな」
「でも、ちゃんと選んでくれたじゃない。それもあんなに真剣に」
「あれはちょっと違う事を考えていたんだって」
必死になって弁解する恭也だったが、笑いを堪えている忍を見てようやく気付く。
すずかは兎も角、忍は間違いなく分かっていてやっていると。
となると、この下着選びもわざとか。ならばと開き直り、恭也は必死に平静を装うと、
「しかし残念だ。折角、選んでも下着は見せてもらえないからな」
そう口にする。慌てるすずかには申し訳ないと思いつつ、忍の反応を窺えば、こちらは慌てる所か平静のまま返してくる。
「あら、見たいのなら言ってくれればいつだってOKよ。何なら今日にでも」
言って腕まで絡めて来る忍に恭也の無駄な抵抗はここまでであった。大人しく降参の白旗を揚げる。
「俺が悪かった」
「むふふ、この手の冗談では恭也には負けないわよ」
「俺の負けで良いから腕を離してくれ。流石にここは居辛い」
「仕方ないわね。それじゃあ、店の外で待ってて」
「分かった」
解放されるならい足早に去って行く恭也の背中を見送り、忍は多少赤くなった頬を隠すように両手で擦る。
恭也よりはましとは言え、忍とてこの手の冗談をそう簡単に口に出来る訳ではないのだから。
上手く誤魔化せた事に安堵しつつ、忍は未だに固まっているすずかを見てどうしたもんかとノエルと顔を見合わせるのであった。
つづく、なの
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