『リリカル恭也&なのはTA』






第18話 「ある日の放課後」





放課後を知らせるチャイムが鳴り、残すはHRのみとなった僅かな時間帯。
担任の教師がやって来るまでの数分でありながら、教室の中はちょっとした喧騒に包まれる。
そんな中、一人静かに両手を合わせて恭也は上へと伸ばす。

「うー」

思わず零れ出た声は凝り固まった背中を解せた気持ち良さからか。
欠伸を噛み殺して僅かに浮き出た涙を拭えば、隣で同じような事をしている忍と目が合い思わず笑みを交わす。
そんな二人の下へと呆れ声を隠そうともせず、勇吾が声を掛けてくる。

「最後の授業は完全に落ちていたな、高町」

「どうもあの先生の言葉は魔法か何かのように眠くなってかなわん」

「そんな事を言って、恭也は四限目も完全に落ちてたわよ」

「あー、あの先生も同様に眠くなるんだ」

恭也の言い様に笑いつつも、勇吾は同じように寝ていた月村さんもあまり言えないけれどね、とちゃっかりと釘を刺す。
その言葉に気まずそうに笑って誤魔化しつつ、

「私は四限目の数学はちゃんと起きてたもんね」

こちらを見てくる恭也へと言い訳をする。
それを言われて言葉に詰まる恭也と、どっちもどっちだよとまたしても笑う勇吾。
そうこうしている内にHRをするべく担任の教師が教室に姿を見せ、赤星はまた後でと口にすると席に戻る。
それを見送る恭也に忍は首を傾げる。

「後でって、今日は何か約束しているの?」

「ああ。軽く家で打ち合う約束をな」

「あ、今日は部活ないんだ赤星君」

「ああ、そうらしい」

話はここまでと注意される前に共に口を噤み、真面目な態度でHRを過ごす。
特に連絡事項もなく、割とすんなりとHRが終わると恭也は席を立つ。
忍も同じように席を立ち、

「それじゃあ、今日は恭也を誘えないか残念」

「うん、何か用事でもあったのか?」

「違うわよ。ただ遊ぼうと思っただけよ。うーん、帰る前に翠屋に寄ってみようかな」

そんな事を話していると、帰り支度を終えた勇吾がやって来る。

「悪いね、月村さん」

忍の言葉が聞こえていたのか、やって来るなりそう口にする勇吾に忍は軽く手を振る。

「良いって、良いって、恭也とはまた今度遊ぶしね。とりあえず、途中までは一緒の方向だし帰ろうか」

こうして三人揃って教室を後にする。
廊下を歩きながら、自然と話し出すのは勇吾であり、もっぱら恭也や忍は聞く側である。
それが別に苦という訳ではないのだが、思わず勇吾は共通点を見つけて小さな笑みを浮かべる。

「どうしたんだ、赤星」

「もしかして頭でも打って可笑しくなっちゃったの?」

「そうか、だからあれ程、頭には気を付けろと言っていたのに」

「そうそう。私たちはそんな前例を何度も見てきたものね」

「ああ。あれはドイツの郊外にある洞窟を探索していた時だったか」

「そうそう。地震で入り口が見つかった自然の洞窟というだけあって、入り口は狭いし、中も入り組んでいたわね」

「初めは十人で探索をしていたのに、気付けばその半数になっていたな」

「あれは何年前だったかしらね」

しみじみと遠い目をして語る恭也と忍であるが、勇吾は慣れた様子で驚きもせずにただ静かに微笑んで話を聞いている。
その心の内では、ああ、こういう所もよく似ているな、などと考えていたが。
特に大きな反応を見せない勇吾を見て、恭也と忍は揃って肩を竦めると張り合いがないとばかりに話を打ち切る。

「何だ、もう終わったのか?」

「冗談だと理解された上で静観されては流石にやり辛い」

「その点、那美とかは良いリアクションをしてくれるんだけれどね。
 あと、アリサとかなら良い突込みが来るからやりがいがあるわ」

「逆になのはは場合にもよるが大抵は赤星に近い反応だしな。まあ、呆れ具合の方が大きいが」

「すずかも似たような感じなのよね。でも、あの子の場合、時々本気にしてそうで怖いのよね」

好き勝手な評価をする恭也と忍に勇吾はもう一度小さく笑うと、それを見咎めた二人に思っていた事を告げる。

「いや、高町と月村さんの意外と共通点の多さに思わずな。
 別に変な意味で笑った訳じゃないんだ。にしても、本当に仲良くなるのが早かったのも納得だよ」

一人納得してうんうんと頷く勇吾に恭也は肩を竦めて何も言わず、忍は照れたように頬を両手で隠し、

「どうしよう、恭也、似た者夫婦なんて言われちゃったわ」

「よし、一度耳鼻科に行く事をお勧めしよう」

「あー、その言い草は酷いんじゃない?」

「言われてもいない事を聞いた耳を診てもらえという親切心じゃないか」

ぎゃーぎゃーと先程とは変わり、今度は勇吾が沈黙して恭也と忍が言い合う。
勇吾は止めるのはもう少し後にしようと決め、二人のやり取りを楽しむ事にする。
ただし、既に学内から出ていてそれなりに人通りも見えるので、少しだけ二人から離れて。
そんな形で三人で少し変わった形で歩いていると、不意に恭也が後ろの勇吾へと顔を向ける。

「そういえば赤星もそろそろ引退の時期か」

言い争いが一段落したのか、恭也が珍しく勇吾に話を振ってくる。

「ああ、そろそろだな。まあ、うちは結構ギリギリまでやるから学際が過ぎてからになるけれどな。
 まあ、その後も状況次第では顔を出すぐらいはするかもしれないけれど」

恭也の言葉に頷きながら答える勇吾に、今度は忍が尋ねる。

「赤星君をそう簡単に後輩たちが離してくれないって所かしら」

「皆、結構熱心だからね。少しでも学んでおきたいんだろうね。
 まあ大して役に立っているかは分からないけれど」

「そんな事はないだろう。後輩から慕われているのは間違いないみたいだしな」

「そうそう。それにやっぱり女の子の人気も凄いみたいだものね」

「ははは、そんな事はないよ。うちは男子も女子もそれなりに強いからね。
 だから、男女関係なく練習したりするから、外からだとそう見えるだけだって」

謙遜でも何でもなく本気でそう思って口にする勇吾に恭也と忍は若干呆れつつもそこには突っ込まずに続ける。

「だとしたら、今年いっぱいは部の方には顔を出すのか?」

「うーん、多分そうなると思う。まあ、流石に受験もあるから毎日とはいかないだろうけれど」

勇吾の出した言葉に恭也は少しだけ顔を歪ませる。
そういえばそんなものもあったかと。

「おいおい、受験生」

流石の勇吾も呆れつつやや真面目な顔をする。

「進路調査には何て書いたんだ?」

「俺としてはそのまま実家に就職でも良かったんだがな。
 皆が進学するように言ったので、とりあえずは進学を考えているが」

「でも、前に恭也は跡を継ぐのはなのはちゃんに任せるとか言ってなかった?」

「まあ、そのつもりもない事はなかったがな」

あれは半分は冗談だと言いつつ、恭也は自分ではなくなのはの事について考えてしまう。
魔法を知った今、なのはの選択肢として新たな道が見えた。
どれを選ぶのかは分からないが、出来れば危険な事はしないで欲しいとも思う。
が、最終的に決めるのはなのはなのだ。思わず思考がずれている事に気付き、今は自分の事だと考え直す。
その上で忍にも少し話を聞いてみようと思い尋ねる。

「忍は進学するのか」

「そのつもりよ。とりあえず海鳴大は候補に入れているけれど」

「……ふむ。そこなら家からも近いな」

「高町、もしかしなくても、まだ進学以外は何も決めてないのか?」

流石に驚いて恭也を見るも、恭也は平然と頷き、

「そんなに驚く事か? まだ決めていない者など他にも居るだろう」

「いや、居なくはないだろうけれど。それでもある程度は絞っていたりはすると思うぞ。
 それ以前に志望の動機に家から近いってのはどうなんだ?」

「それでも良いじゃない。海鳴大ならまた一緒に通えるし。そうしましょうよ、恭也」

好機とばかりに一緒の大学を受けようと勧める忍に苦笑しつつ、勇吾はどちらにせよ勉強する必要があるだろうと告げる。

「鍛錬の時間を割くのは……」

「割くのが嫌なら、帰宅してから夕食までやって、夕食後に鍛錬の時間までやれば良いだろう」

当然だろうと言う勇吾に対し、恭也はやはり苦虫を噛み潰したような表情のまま、

「そんな時間があるなら鍛錬に使う」

「いや、そこは我慢する所だから受験生」

何処までが本気なのか分からず思わず突っ込む勇吾に忍が親指を立てて良い突っ込みだと褒める。
そんな緊張感の見えない二人に思わず溜め息を吐き出したくなる赤星勇吾、高校三年生の秋であった。
途中で忍と別れ、二人は家へとやって来る。

「先に道場に行っててくれ。着替えたら俺も行くから」

「ああ、分かった」

そう言うと恭也は部屋へと向かい、勇吾は勝手知ったるとばかりに縁側から庭に降りると道場へと向かう。
勇吾の使う木刀は偶に打ち合いに来る為に道場に用意されており、着替えは持参している。
故に道場へとそのまま向かおうとしたのだが、丁度後ろから声を掛けられて振り返る。

「やっぱり勇兄だったのか」

「ああ、晶か。元気そうだな」

「へへ、元気なのが取り柄だからね。今から師匠と?」

「ああ、ちょっと打ち合おうと思ってね」

「そっか。あ、じゃあ遅くなるだろうし、勇兄の分も晩御飯用意しておくから」

「いや、良いよ悪いしね」

「全然大丈夫だって。これから買い物に行く所だったし、桃子さんも喜ぶって」

「そう。それじゃあ、お言葉に甘えさえてもらおうかな。ん?」

買い物に行くと言う割には逆に荷物を持った晶を見て、すぐに勇吾は納得する。

「ああ、レンちゃんの見舞いの帰りに買い物してくるんだ」

「まあね。本当にあのカメは人使いが荒いから。と、そろそろ行かないと。
 じゃあ、勇兄ごゆっくり〜」

言って晶は元気にまさに言葉通りに飛び出して行く。
そんな元気の塊みたいな晶を微笑ましく見送り、

「こんにちは、勇吾さん」

「美由希ちゃん、こんにちは」

晶とのやり取りで来ているのが分かったのか、美由希も出て来て挨拶すると、道場に向かう赤星を見て打ち合うと理解する。

「あ、私もお邪魔しても良いですか?」

「ああ、別に構わないよ。それじゃあ、先に行っておくから」

「はい、私もすぐに行きます」

パタパタと引き返す美由希を見送り、勇吾はようやく道場へと入り着替えを始める。
少しして恭也がやって来るが、勇吾はまだ着替え終えてはいなかった。

「ああ、悪いな。まだ着替え終わってないんだ」

「だろうな。晶や美由希と話していたのが少しだが聞こえていたからな。
 まあ慌てなくても良いさ」

「まあ、慌てなくてももう終わるけれどな。そうそう美由希ちゃんも来るって言ってたぞ」

「そうか。なら、今日は美由希ともやっていくか」

「そうだな、美由希ちゃんとは久しぶりだしな」

何処か楽しそうに言う勇吾に恭也も何処か楽しそうな様子を見せる。
それを感じ取ったのか、勇吾がその事を指摘すれば、

「そうだな、楽しみなのかもしれないな。赤星、美由希の奴はここ数ヶ月で相当強くなっているぞ。
 実戦を経験したのが大きいが、それ以外にも細かい所ではここ最近、鍛錬メニューを変更してな」

「そうか。それは楽しみだな」

恭也の言葉に勇吾は本当に楽しそうに笑うも、とりあえずはと笑みを引っ込めて木刀を手にする。

「その前にまずはお前とだな」

勇吾の言葉に無言で恭也も小太刀サイズの木刀を手に取ると、揃って道場の中央へと進む。

「赤星、ルールはいつも通りで良いか?」

「ああ。俺たちルールで」

そう言い、呼吸一つ分間を空け、二人同時に前へと出るのだった。



 ∬ ∬ ∬



「いやー、本当に強くなったな、美由希ちゃん」

汗を流しリビングで寛ぎながら勇吾がそう口にすれば、美由希は照れたように俯き、恭也はまだまだとだ釘を刺す。
厳しすぎる師に文句も言わず、美由希ははいと返事をする。
そんな様子を見ながら、勇吾は自分の手を見る。
その手に未だに残っている鈍い感触。

「美由希ちゃん、本当に早かった。高町の斬撃も重くなっているし」

二人の剣を思い返し、赤星はやはり楽しそうな笑みを浮かべる。
美由希に手数で押され、防御に回った途端にその防御をすり抜けるように切っ先が突き付けられていた時には驚いた。
よく恭也にやられたのと同じ技法であり、美由希が強くなっていると言った恭也の言葉に納得したものだ。
が、それ以上に実は勇吾が驚いたのは恭也もまた強くなっているという事である。
当然、自分も強くなっており、恭也とて同じ所に居るはずがないとは分かってはいてもである。
前は鍔競り合いになれば押し切れたはずなのに、今回はそれが出来なかった。
加えて、恭也の斬撃もまた鋭くなっていたのだ。
それはここ数ヶ月で魔法に関わり、かなりの実戦を経験した事によるものであろう。
恭也と美由希が強くなった。それに多少の羨ましさはあるものの、やはり何よりも喜びの方が大きい。
部活では全力で打ち合える部員がいなくとも、身近に打ち合える者が居るという喜びだろう。
一人喜びに浸る勇吾であったが、不意に思い出したように顔を上げる。

「そういえば、高町は進路どうするんだ?」

またその話を、しかもよりによって今蒸し返すのかと恭也は天井を仰ぎ見る。
美由希などは興味ありますといった感じで恭也を見てくる。
その視線を無視し、恨めしそうに勇吾を見るもこちらは何故、そんな睨むといった感じで首を傾げてくる。

「結局、あの時は答えを出してなかっただろう。まあ、まだ慌てなくても良いとは言い難いが、まだ大丈夫だ。
 今日のお礼に分かる範囲で勉強を見て上げようと思って言ったんだが」

心底親切心から言っているのは分かるが恭也としてはもっと別の場所で、特に家族の居ない場所で言って欲しかったと思う。
が、それをそのまま顔には出さず、とりあえずは無難な答えを返しておく。

「その時は頼む」

「ああ、任された」

本当に気持ちの良い返事をしてくれる親友に肩を竦めつつ、内心では感謝する恭也であった。





つづく、なの




おまけ 〜没ネタ〜

ぎゃーぎゃーと先程とは変わり、今度は勇吾が沈黙して恭也と忍が言い合う。
勇吾は止めるのはもう少し後にしようと決め、二人のやり取りを楽しむ事にする。
ただし、既に学内から出ていてそれなりに人通りも見えるので、少しだけ二人から離れて。
当然ながら、自然にそういう風に離れたつもりでもしっかりと二人には気付かれており、勇吾の知らない所で目で語り合う。
こうして、勇吾の預かり知らぬ所で確実に巻き込まれる事が決定した。

「そういえば赤星もそろそろ引退の時期か」

言い争いが一段落したのか、恭也が珍しく勇吾に話を振ってくる。

「ああ、そろそろだな。まあ、うちは結構ギリギリまでやるから学際が過ぎてからになるけれどな。
 まあ、その後も状況次第では顔を出すぐらいはするかもしれないけれど」

恭也の言葉に頷きながら答える勇吾に、今度は忍が尋ねる。

「流石にナンバーワンの赤星君はそう簡単には辞めれないものね」

「いや、別にそんな事はないよ。ただ出来る限り指導とかもしてあげたいしね。
 まあ大して役に立っているかは分からないけれど」

「そんな事はないだろう。後輩から慕われているのは間違いないみたいだしな」

「そうそう。それにやっぱり女の子の人気も凄いみたいだものね」

「ははは、そんな事はないよ。うちは男子も女子もそれなりに強いからね。
 だから、男女関係なく練習したりするから、外からだとそう見えるだけだって」

謙遜でも何でもなく本気でそう思って口にする勇吾に恭也と忍は若干呆れつつもそこには突っ込まずに続ける。

「流石だな、赤星。俺にはとても真似できない」

「うんうん。でも、女の子を弄ぶなんて出来なくても良い事よ」

「そうだな」

「……えっと、高町、月村さん?」

急に話が変わり困惑する勇吾に構わず、恭也と忍はしたり顔で頷き、やはり口は止めない。

「ああ、気にするな赤星。それもまた立派なお前の生き方だ」

「そうそう。ホストクラブ、ナンバーワンとして今まで頑張ってきた証よ。
 まあ、ちょびっと女の子に恨まれているってだけで」

「しかし、それもとうとう引退だものな」

「年貢の納め時ってやつね」

「「今までのツケが回って来たと思って素直に諦める事だな」」

ポンと両肩にそれぞれの手を置かれ、まるで慰められているように見える。
それ程大きな声ではなかったはずなのだが、周りの数人には断片的な言葉が聞こえていたらしく、後は勝手に脳内で話が作られていく。
ひそひそと聞こえてくる声を聞くに、大体は赤星が女性を弄んでいたがツケが回り、どうにも責任を取らされる事となったというもの。
中には妊娠させてしまったという言葉まで聞こえてくる。

「高町、月村さん」

「ふむ、ちょっとばかりやり過ぎたか」

「いや、まさかここまで話が膨らむなんてね。人の想像って恐ろしいわね」

「本当に」

恭也と忍が改めて噂の恐ろしさについて実感する横で、勇吾は肩を落として恨めしそうに二人を見る。

「俺にはお前たちの方がよっぽど恐ろしいよ」






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