『リリカル恭也&なのはTA』






第23話 「顔合わせ」





大よそ半月ぶりに届いたビデオレターを手にしたなのはは朝から少しソワソワとしていた。
その為か、珍しく授業で当てられても話を聞いていなかった等という事態に陥り、幸いな事に親友に助けられて事なきを得たりしていた。
なのはが少し落ち着かない事の要因として、ビデオレターの内容にあった。
前回、試験の話をしていたのを覚えており、今回はその結果を教えてくれるという約束だったからだ。
そんな訳で、今更結果が変らないと分かっていても、なのはは自分の事のように緊張気味でどこか上の空で一日を過ごしていた。
早く見たいという思いと試験の結果を知りたいような知りたくないようなという複雑な心境。
恭也が見れば苦笑するような行動を取りつつ、どうにか今日一日を乗り越え、なのははHR終了と同時に走るように教室を出て行く。

「なのは……?」

「なのはちゃんなら、もう教室を出て行ったよ、アリサちゃん」

いつもならのんびりとした感じでアリサやすずかがなのはの席に集まり帰路に着くのだが、今日は既にその姿はない。
少し呆然と去って行った扉を見詰め、アリサは大げさに溜め息を吐き出して見せる。

「全く、今日は朝から様子が変だとは思っていたけれど、あの様子だと風邪とかではないようね」

「くすくす。そうだね、アリサちゃんも一安心だ」

「なっ、べ別にそんな心配なんてしてないわよ!
 私はただ授業ぐらいちゃんと聞きなさいと注意したかっただけで」

「はいはい、分かっているよ」

本当に分かっているのかと言いたくなるような笑みを見せるすずかを睨むも、こちらはこちらで涼しげな顔のままである。

「はぁ、とりあえず帰ろうかすずか」

「そうだね、アリサちゃん。今日は習い事だったよね?」

「そうよ。だから、今日は真っ直ぐに帰るわ。
 すずかはどうするの?」

「私も今日は真っ直ぐに帰るよ。ファリンの事が気になるからね」

「ああ、確かノエルさんの妹さんだったっけ?」

「うん。一昨日こっちに来たばかりで今はノエルの下で色々と教わっているの」

「そう。じゃあ、なのはも居ないし紹介してもらうのはまた今度ね」

「うん」

そんな話をしながら校内に設置されている駐車場へと向かう。
そこには既にアリサの家の車が迎えに来ており、アリサを見つけると運転手の鮫島が頭を垂れてくる。
それにただいまと声を掛け、恭しく開けられたドアを潜って中に入る。
その後にすずかも挨拶とお礼を口にして続くと、ドアが静かに閉められる。

「鮫島、今日は真っ直ぐにすずかの家に向かって」

「畏まりましたお嬢様」

運転席にそう声を掛けると、返事が返り車が静かに走り出す。
鮫島に礼を口にし、すずかは帰宅までの少しの時間を使ってファリンについて話し出す。
嬉しそうに語るすずかにつられたのか、アリサの表情もまた柔らかいものになっているものの、話を聞くにつれやや引き攣っていく。

「あー、あのノエルさんの妹と聞いてたから、少しギャップというかイメージというか……。
 ごめん、勝手に想像しておいてこれはないわね」

「ふふふ、そうだね。確かにノエルがしっかりしているから勝手にそんなイメージを持っちゃうかも。
 でも、一生懸命で可愛いんだよ」

「可愛い……? ごめん、流石にお茶を頭から被らされてそう思えないわ」

小さな声ですずかは独特だとぼやいているが、それさえも聞こえないのかすずかは珍しく詰め寄るようにアリサに近付くと、

「そんな事ないよ。アリサちゃんも見ればきっと同じように思うはずだよ。
 何て言うかね、こう子犬が一生懸命に尻尾を振っているような感じがしてね」

犬という言葉にピクリと反応を見せつつも、年上の女性を掴まえてその例えはどうなんだろうかと思うアリサ。

「そ、そういうんじゃなくて……」

「はいはい、分かっているわよ。まあ、ノエルさんの妹だし悪い人じゃないみたいだしね。
 まあ、聞く限りにおいてはかなりドジな人というイメージはあるけれど」

「それは多分、慣れてないからだと思うけれど。
 でも、本当に頑張って教わっているから、その内慣れてくれば大丈夫だと思うよ」

車中でそんな話をしている頃、月村邸のキッチンでは。

「くしゅん!」

ファリンが小さなくしゃみをし、その拍子に持っていたカップを落としてしまう。
が、お茶を入れる練習用にプレスチック製品を使っていた為に中身は零れるも壊れる事はなく軽い音を立てるのみである。
しかし、それを見たファリンは慌てて雑巾を取りに行こうと動き出す。

「待ちなさい、ファリン。貴女が慌てるとまた…………はぁ」

全て言い終える前に、見事にノエルの心配通りに慌てたファリンがカップを踏み付け、そのまま盛大に後ろへとこける。
幸い、気付いたノエルがすぐさま手の届く位置にあった陶器製のポットを持ち上げており、またしても物が壊れる事はなかったが。

「うぅぅ、頭がジンジンします。これがきっと二日酔いと呼ばれるものに似たような症状なのですね」

「違います」

きっぱりと断言し、ノエルはファリンを立たせながら先ほどの事を思い返す。

「ファリン、貴女くしゃみをしましたね」

「はい? ああ、しました。
 すずかお嬢様が私の事を話しくれているような気がしたので、それはもう立派なくしゃみに挑戦をしてみました。
 中々上手に出来たのではないかと思いますけれど。そうくしゃみ選手権があれば、間違いなく上位入賞を狙えるぐらいに!」

「……一度、本気で言語機能を確認した方が良いですね。それ以前に無理にくしゃみをする必要もないです」

「ですけれどお姉さま、人は噂されるとくしゃみをすると」

「そう言われてはいますが、事実確認において実証を……こほん。兎に角、無理にする必要はないんですよ」

「分かりました! 今の言葉はしっかりとメモリーに焼き付けて起きます」

「そこまで重要事項ではないのですが。それと記憶と言いなさい」

「すみません。では、改めてしっかりと記憶の奥に仕舞いこんで鍵まで掛けて大切に保管します」

「色々と言い回しが妙ですが今の所は良しとします。
 ですが一つだけ。その言い方だと記憶の片隅に追いやったようにも聞こえてしまいますよ」

「気を付けます」

思ったよりも大変そうだなと思いながらも、ノエルはとりあえずは散らかったキッチンを片付ける事にする。
そんなノエルを手伝うべく、ファリンもまた懸命に働くのであった。
それが更なる事態を巻き起こすなど、全く考えずに。



時間は少し流れ、片付けを二度終えた所ですずかが帰宅し、どうにかおやつの準備も終えて暫しの談笑をしていた頃、
恭也は忍と共に月村邸へと続く道を歩いていた。

「それにしても、地下で何をやっているの?
 来ても結構、早く出てくるし。何かを作っているって訳でもなさそうだし」

「すまないが、それは」

「まあ、言えない事なら良いんだけれどね。恭也の事は信頼しているもの」

「本当にすまないな。だが、本当に助かっている」

「良いって、良いって。お蔭でこうして頻繁に来てくれるんだしね」

「それでは、まるで俺が地下以外の用では来ないようじゃないか」

「あははは、そんなつもりじゃないんだけれどね。って言うけれど、事実あまり来ないよね」

忍に突っ込まれて過去を思い返せば、確かに大概は忍の方がやって来る事の方が多い。

「あー、まあ色々と用事もあるしな」

「くすくす、分かってるって。でも、今日来てくれるのは助かったわ」

「何かあったのか?」

「あったというか、丁度、今日か明日辺りに恭也を呼ぼうと思ってたのよ。
 ノエルの妹が来たから、顔合わせも兼ねてね」

そういう事かと納得しつつ、恭也は妹の名前を尋ねる。

「それはあの子に直接聞いてあげて。今日、行く事は伝えてあるから、今頃はソワソワして待っているんじゃないかな」

その後、忍はファリンの性能に関して説明をし、ここでもまたふざけて口にしたドジっ娘メイド機能に突っ込まれるのであった。
そんな話をしながら、ようやく忍の家へと到着する。
家の扉を開き、そのままリビングへと顔を出すと、既に気付いていたノエルが入り口近くで忍と恭也の鞄を取り挨拶をする。
さり気なく、それでいてどこか優雅にさえ見える足取りで荷物を置くと、そのまま奥に向かって声を掛ける。

「恭也さまがお見えになりましたよ」

「は、はい! 今すぐ、直ちに、即座に登場致します!」

やや幼い感じの声に続きドタバタと騒がしい音が届き、それにノエルは眉を顰め、忍やすずかは笑みを零す。
やがて、奥からやや足早にノエルと同色の髪をストレートに長く伸ばした少女がやって来る。
が、見事に恭也の前で盛大に転ぶ。

「ま、またやってしまいました。ですが、ここで慌てたりはしません。
 私は学習型でありますから、既に転んだ状況での対応は学習しました」

「その前に転ばない学習をしなさい」

「あう、お姉さま、それは言わないでください……。と、兎に角、今はこの状況での対応です。
 すみやかに立ち上がり、何事もなかったかのような顔をして立ち去る!」

「何処に行く気ですか」

「失敗しました! これは街中で転んで注目を浴びた時に羞恥心を押し殺して立ち去る方法でした」

「また微妙な状況での対応を学習して……」

そう口にしつつ、ノエルはファリンならこの学習は意外と役に立つ場面が多いのではと思わず思ってしまう。
が、そんな思いを打ち払い、とりあえず恭也の前に立たせる。


「初めまして、恭也様。
 私は複合式最終機体・改、忍ちゃんオリジナルヴァージョン自動人形、ファリン・綺堂・エーアリヒカイトです」

「……忍、この紹介は何だ」

「うん、ノエルと似たような反応ね」

「はぁ」

忍の悪ぶれない態度に恭也は疲れたような溜め息を吐き出し、思わずノエルと顔を見合わせて互いの苦労を労い合う。
それをどう勘違いしたのか、ファリンは行き成り頭を下げて謝り出す。

「すみません、すみません」

「あー、どうしたんですか?」

「うちの子がご迷惑をお掛けしまして。でも、本当は良い子なんです。やれば出来る子なんです。
 ただ偶にブレーキが利かずに突っ走るような所があって、そうなるともう暴走機関車も真っ青な走りをするんです。
 決められたレールを走るのが嫌で、そこから脱線する勢いで走りたい年頃なんです」

「……忍、これはどうすれば良いんだ」

「あははは、その辺りは軽く流してあげて。まだ言語絡みにちょっと問題があるのよ」

「そうか。とりあえず、別に怒ってませんから」

「ふぇ? あ、ありがとうございます!
 忍お嬢様、良かったですね」

「あー、うん良かったわ。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。お姉さま、褒められてしまいました。
 これはもう記憶にしっかりと焼き付けて家宝として残しておくべきでしょうか」

「……とりあえず黙りなさい」

ノエルの言葉にはいと答えて口を閉ざすファリン。
が、すぐにソワソワしだし、恭也の方を見る。

「えっと……」

「ほら、ノエルも怒るのは後にしなさい。とりあえず、自己紹介の途中だしね」

「えっ! な、何か怒られんですか!?」

「はぁ、別に怒ったりしません。とりあえず、改めて恭也さまにご挨拶しなさい」

「はい! 改めて、複合式最終機体・改、忍ちゃんオ――」

「それはもう良いから」

恭也はまた初めから言おうとするファリンの言葉を遮り、ノエルの頷く。
逆に忍は面白くなさそうにしつつも、もう良いかなどと考えており、すずかは既に呆れ気味で傍観を決め込んでいる。
そんな中、遮られたファリンは項垂れるかと思いきや、顔を輝かし、

「流石、忍お嬢様の旦那様です。素晴らしい突っ込みです」

「色々と待ってください。とりあえず、旦那というのは何ですか?」

「違うのですか? 私の記憶では忍お嬢様は恭也様の内縁の妻で、私とお姉さまが仕える人となっていますが」

「ファリン、その記憶は間違っています」

「えー」

即座にノエルが判断すると忍が文句を言うも、恭也にまで言われて渋々と訂正して冗談だと口にする。
まともな紹介も終わらないのに疲れだけが蓄積していく状況に座り込みたくなる気持ちを堪え、改めてファリンに名を問う。

「それでは、またまた改めまして。ファリン・綺堂・エーアリヒカイトです。
 お姉さま同様、ファリンとお呼び下さい。それと、口調の方もお姉さまと同様にお願いいたします」

ノエルを見るも、こればかりはノエルもそうするように促してくるのを見て納得する。

「そうか。なら、これから宜しくなファリン」

「はい、よろしくお願いします」

恭也の言葉に笑顔で答えると、小さく一度お辞儀をしてみせる。
こうして、すんなりととは言い難いものの、どうにか顔合わせを終える事が出来た、いや、そのはずだったのだが。

「恭也、喜びなさいよ。嬉しい情報を教えてあげるわ。
 その子もノエル同様、夜の方もばっちりよ」

「……はぁ、お前という奴は」

意地の悪い、こちらをからかう気が満々と言う表情を見せる忍に、盛大に呆れた口調と表情で返し、疲れたようにソファーに座り込む。
奇しくもその隣に座ることとなったすずかは、その意味を正確に捉えて顔をトマトのように真っ赤に染め上げて俯いてしまう。

「全く、情操教育に悪い環境だな」

「ぶー、そんな事ないわよ。それに恭也だって興味ない?」

まだからかう気かと呆れつつ、恭也は無言を貫く。
下手に何か言えば、更にからかって来るという事を既に学んだ恭也なりの対応策である。
現に反応を見せない恭也に既に飽きた様子を見せつつある忍。その事に気取られないように胸を撫で下ろしていると、

「えっと、恭也様がお望みでしたら夜のお供にどうですか?」

「あー、念のために聞いておくが、意味は分かっているのか?」

あまりにも真剣な顔で聞いてくる為、冗談なのかどうかの判断が付かずに恭也が思わず聞き返してしまうと、

「勿論です。特にこのイカちゃんはお勧めです、ネコさんもまっしぐらです。
 どのぐらいまっしぐらかと言うと、あまりの美味しさに曲がる事を忘れて壁にぶつかっても尚進もうとするぐらいまっしぐらです。
 私も始めて口にして以来、その美味しさにこれだけあれば半年は戦えると叫んだものです。
 因みに、実際に半年も戦おうとすれば毎日の充電は必要不可欠ですが」

「それはどうなんだ。と言うか、食べれるのか?」

「大量摂取するのではなければ、味の分析ならびに味見の為に食物を口に出来ます。
 摂取した物は体内できちんと水へと分解されます。残念ながらそのプロセスをお見せする事は出来ませんが、とっても凄いんです。
 何が凄いと聞かれると、詳しくは私も分からないのですが。兎も角、忍お嬢様が作ったので凄いんです。
 原理は難しくて覚えてませんが、微量ながらもエネルギーとして蓄積がどうのこうのなんです、えっへん」

「あー、そうかファリンは凄いんだな」

「そうなのです! お姉さま、やりました! 本日、二度目のお褒めのお言葉を頂きました。
 頂いたのは恭也様からですが、お褒めの言葉としてカウントするのならば二度目ですよ!
 これはもう星二つです! 大金星と言えるのではないでしょうか! さあ、可愛らしい妹を褒めるのなら今です。
 ファリンは褒められて伸びる子のような気がしますから、きっと更なる成長を遂げる事でしょう」

「何かお前が面白がって性格を形成したんじゃないかと疑わしくなってきたんだが」

「そんな事する訳ないでしょう。あれはファリンの個性よ。
 まあ、流石に言葉使いに関しては何とかしようとノエルに頼んではいるんだけれどね」

あまりに早口で捲くし立てるファリンに、とうとうノエルが軽く平手で頭を叩いて黙らせると言う珍しい光景を見ながら、忍は答える。
同じ光景を物珍しそうに眺めながら、恭也もそうかとしか言いようがないのであった。
その後、地下に行ってグラキアフィンを回収した恭也が再びリビングに顔を出すと、

「恭也様、お茶の用意が出来ております。
 とは言っても、まだまだ未熟な私が淹れたのではないですが、どうぞ召し上がりになってくださ――ぷぎゃっ!」

恭也をエスコートするべく扉の前までやって来る途中で転ぶファリン。

「はうぅぅぅ、どうしてこう転ぶんでしょうか。
 忍お嬢様、転ばずに歩きたいです……」

「あははは、流石にここまでバランスが悪いとは思わなかったわ。
 まあ、それでも多少は学習しているみたいだし頑張ってとしか言えないわね。
 逆に他に気になる部分とかはない?」

恭也を席へと連れて行き、そのまま忍へと尋ねる。
恭也の対応はノエルが交代しており、恭也にお茶を差し出す。
受け取ったお茶に礼を言ってから口にしつつ、二人のやり取りを見ていると、ファリンはやや真剣な面持ちになる。

「えっと、そのですね……」

言い難そうにするファリンに対し、忍もまた真面目な表情を見せる。

「ファリン、遠慮する事はないのよ。稼動して三日程度とは言え、思った事を言いなさい。
 あなたたちの体を調整するのは私の大事な役割なんだから」

「そ、それではお言葉に甘えまして。じ、実は、もう少しで良いので胸を大きくして――」

「却下」

「ふぎゃぁ。思った事を言ったのに秒殺されてしまいました。
 これが持たざる者と持つ者の差なのでしょうか。ささやかな、本当にささやかな願いだったというのに……。
 然るにこれは私の熱意が足りないのだと思うことにして、もう一度頼んでみれば大丈夫なのではないかと浅慮する次第。
 という訳で、要望します! もう少し胸を――」

「却下」

「ふみゃっ! ま、またしても秒殺です。しかも、今度はさっきよりも早くに撃沈してしまいました。
 例えるなら、スーパー配管工事兄弟で調子に乗って最初からダッシュして最初の敵に横からぶつかるみたいな早さ、
 シューティグゲームで攻撃もせずに行き成り進行方向へと無謀にも突っ込んだが如くの早さです!」

「あー、あの例えは忍の影響か」

「恐らくですが。正直、あの子のあの言語機能がどうなっているのかは把握できておりません」

「この間もメイドと言えばスカートに秘密がないといけないとか言って、お姉ちゃんにスカートに収納できる武器を頼んでいましたし」

恭也の隣に座りながら、すずかが言った言葉に思わずファリンのスカートを注視してしまう。
が、どうも武器を仕込んでいる様子がない事に安堵をするも、

「その件に関しましては、忍お嬢様も何故か嬉々としておりましたから油断はしない方が宜しいかと」

「あまり考えたくはないな」

「あ、あははは、その、頑張ってください恭也さん」

すずかの励ましを受けながら、恭也はそんな日が来ないことを切に願わずにはいられない。
が、その願望を打ち砕くようにノエルはいつもと変らぬ表情で無情にも告げる。

「忍お嬢様はいつか四次元メイドスカートを発明すると豪語しておりました」

「…………」

恭也は何も言わず手にしたカップに口付ける事で聞かなかった事にする。
心得たものでノエルもそれ以上は何も言わず、またその件には触れずに普通に恭也の数歩後ろに下がり待機する。
ノエルの心情としては恭也に近い物がある故に、その心の内をよく理解した上での行動である。
が、それはまるで恭也とノエルの方が主従らしく見えなくもない光景で、すずかは一人小さな笑みを思わず零すのであった。
そんな長閑な午後の光景の中、グラキアフィンが不意に恭也へと念話で話し掛ける。

【主様、可能でしたらもう一週間ばかり宜しいでしょうか】

【何か問題でもあったのか?】

【いえ、非常に興味深い物を見つけ、また思い付きましたので】

【まあ、別に構わないが】

【ありがとうございます。主様の傍を離れるのは寂しいですけれど、これも全ては主様の為。我慢です】

後半は小さく呟き、恭也の耳には届かなかった。

【付きましては、少々お願いがありまして……】

【ああ、俺に出来ることなら】

【多分、主様以外には無理かと。そのお願いというのは、忍嬢から幾つかの材料を頂戴したいのです】

【それは……、まあ聞くだけ聞いてみるが】

【助かります】

そんなやり取りを密かに恭也はしつつ、今回の改修点をグラキアフィンから聞きながら一時の平穏を感じるのであった。



 ∬ ∬ ∬



月村邸で思った以上の時間を過ごした恭也は、当然ながら帰宅時間も遅くなり、不機嫌ななのはに出迎えられるという状況を生み出す。

「お兄ちゃん……」

「あー、すまなかったな。だが、色々と用事があってな」

「うー、それじゃあ、仕方ないけれど」

何せ、朝から楽しみにしていたフェイトからのビデオレターである。
恭也と一緒に見る約束だった為に、恭也の帰りを今か今かと待っていたのは想像に難くない。
事実、美由希や晶などが玄関を開ける度に走るように玄関まで出迎えに来ていたのだから。
拗ねるなのはの頭を機嫌を取るように撫で、すぐに着替えて部屋に行くと告げるとなのはも渋々ながらも恭也を離す。
説教すれば、またその分遅くなると理解したからで、未だに膨れつつも気持ちを切り替えて先に自分の部屋へと向かう。
数分した恭也がなのはの部屋にやって来る頃には、既にいつでも見れる状態でなのはが待っていた。
こうして、久しぶりのビデオレターが再生される。
最初は挨拶から始まり、なのはが気にしていた試験の結果に関して合格したと嬉しそうに報告される。
アルフも我が事のように喜んでいる様子が映し出され、その隣には珍しくクロノの姿もあった。
どうも実技ではクロノが試験管となってフェイトと対戦したらしく、
結果として試合には負けたとフェイトが言っているのを横で黙って聞いている。

「えっと、クロノからも何かある?」

「僕からは特にはないかな。と言うか、時間があるか聞かれてあると答えた途端にここまで引っ張って来られたんだ。
 まさか、高町兄妹への報告だとは思わないだろう。特に話題となるような物を提供できるような性格でもないんでね」

「あー、もう難しい事を言ってないで、最近会った事を言えば良いんだよ。ほら、何でもいいから言ってみなよ」

「わ、分かったから首を絞めるな! まったく君はもう少し女性として恥じらいを……」

「あー、もうはいはい。良いからさっさと話しなよ」

そんなアルフを注意しクロノに謝るフェイトに、君が謝る事じゃないと言えば、アルフがフェイトを虐めたなとクロノに突っ掛かる。
画面の中のやり取りを楽しそうに眺めるなのはと違い、恭也はクロノの気持ちが少しだけ分かりこっそりと同情をする。
やがて、アルフも落ち着きクロノも少し乱れた服を直すと正面を向き、

「そうだな、最近という訳ではないが、フェイトの試験の話が出たからその関係の話でもしようか。
 実際、中々に大変だったんだぞ。まあ、元々努力家みたいだから勉強をするという事については問題なかったんだけれど。
 逆に勉強するんだと言って、移動しながらでも本を読み、あげく壁に額をぶつけたり……」

「わーわー、やめてクロノ」

「ちょっ、止めないか、フェイト。って、噛み付こうとするなアルフ!」

「ぐるるー」

「うー、それは言わないでって言ったのに」

またも騒ぎ始める三人を見て、なのははとりあえず試験の合格に胸を撫で下ろし、またフェイトが笑えている事に喜びを感じる。
恭也もそこは同じで、顔には出ていないがフェイトやアルフの環境が悪くないと知って喜ぶ。
その後、ビデオの中では主にフェイトがメインで最近あった事を口にし、時折、クロノに突っ込まれつつも進んで行く。
やがて、最後に別れの挨拶を口にするとビデオは終わり画面はただ黒くなる。

「フェイトちゃん、合格できて良かった」

「ああ、そうだな。それに、もうすぐ全て終わるみたいだしな」

「うん。終わったら会いに来るって言ってたね」

今から楽しみで仕方がないといった様子のなのはに気の早いことだと思いつつも、恭也も楽しみだなと返してやる。
その言葉に素直に喜びを増しているなのはに、恭也は水を差すような思いながらも時計を指差し、

「フェイトに負けないんだろう。だったら、そろそろ鍛錬の時間だぞ」

「あ、本当だ。それじゃあ、着替えて走ってくるね」

「ああ。……そうだな、今日は俺も一緒に走るか」

「本当!?」

恭也が頷けば、何が嬉しいのか顔を綻ばせて着替えを箪笥から取り出す。
そんななのはに、今日は無茶しそうな気がするからという理由を言えば拗ねるような気がしたのでそれを飲み込み、
恭也も準備をする為に部屋を後にするのだった。





つづく、なの







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