『リリカル恭也&なのはTA』






第24話 「その頃の彼は」





管理局により指定された第54無人世界は今、無人と指定されてから初めてとも言える多数の人が行き来していた。
無人世界の多くは犯罪者を収容する拘置所などの施設が置かれるのだが、この世界ではそのような施設は一つも見受けられない。
そもそも、この世界は少し変った経緯を見せており、初めは管理外世界とされ、後に管理世界へと体制を移す事となった世界である。
が、今では人が一人も住まない世界として放置され続けてきた。
その理由は幾つかあるのだが、管理局の人手不足や、この星から人が居なくなった原因であるとある理由により、
犯罪者でさえも隠れ家として利用しないといった理由から、この世界を注意して目を光らせる必要がないといった事情がある。
とは言え、万が一も考慮せねばならず、偶に巡回する形で一応の形は取っていた。
それが一変したのは大よそ一月ほど前、巡回中の艦がかつて人の栄えていた惑星で遺跡を発見した事による。
長い月日、風雨によって削られたからか、遺跡の口がぽっかりと開いていたのだ。
それだけならば見逃しもあり得たのだが、観測中のデータによりそれを見逃す事もなく、上へと報告される事となった。
第54無人世界、嘗ての呼び名を覚えている者は殆どおらず、辛うじて書物にのみその名を残す世界ニールヘッグ。
だが、管理局の歴史を紐解いてもニールヘッグが管理世界となった記録は一切ない。
管理世界へと移行しようとする者たちと反対派が激しく争い、結果として滅び去った為である。
生き残った者はいないとさえ言われ、その後調査しようにも大気は汚染され高濃度のマナに満ちていた。
それでも装備を整えて調査隊を送り込んだのだが、その全員が命を落とすと言う結果になった。
死因は大気に満ちたマナが強制的に体内へと送り込まれて暴走を起こすといったもの。
魔法で結界を張ろうとするも、相手は大気そのものと言っても良いのである。
結界を張った所で内部を真空状態になどできるはずもない。
次々と魔力暴走する仲間を見て、艦の内部に居る者たちが助ける為に最初から結界を張って降り立ったが、
結界が大気に触れた途端、結界に魔力が流れ込み、勝手に結界の範囲を広げるという現象を起こし、最終的には同じ道を辿った。
マナが安定せず、魔導師を管にして排出しようとしたのでは、など他にも色々と説は出たが、
それらを実証する術はなく、結局は不明のまま処理され、以降は立ち入り禁止とされたのである。
そんな世界の大気中のマナが薄まっており、遺跡の入り口が見つかったのだ。
当然、入念な検査が行われ、以前のような現象が見られないと判断されて遺跡の調査隊が組まれる事となった。
そして、その調査隊の中になのはの友人であるユーノ・スクライアの姿もあった。

「……この資料にある大丈夫と思われるって言うのが気になるんだけれど」

これから向かう世界に関する資料に目を通し、ユーノは今回調査隊として指名された懐かしい家族たちの一人に尋ねる。
スクライア一族、遺跡発掘をして流浪の旅をするこの一族こそがユーノの一族である。
今回の調査はスクライア一族の他にも、管理局からも研究者や発掘専門のスタッフという大規模な人員で編成された混成の調査隊。
その人員の数も驚きだが、何よりもこの世界の経緯を見た今では安全面に関する保障のなさに驚きであった。
そんなユーノの不安を笑い飛ばし、話しかけられた壮年の男はユーノを元気付けるように肩を叩く。

「まあ、向こうさんの言う事では、問題ないって事みたいだがな」

「いや、だからそれってデータの数値を見て出しただけでしょう」

「まあ、そう心配するな。何の為に管理局の人間まで出てきていると思っているんだ。
 最初に彼らが降りて安全かどうか確認するって事になっているんだ」

一族に被害が及ばないと聞き胸を撫で下ろしそうになるも、それはそれで先に降りる人たちの事が心配になる。
そんなユーノに気付きつつ、男は何も言わずにユーノの肩を組み、話を変える。

「それよりも、ジュエルシードの件では大変だったみたいだな。
 長も心配していたってのに、お前と来たら全く連絡もよこしやしない」

「その事に付いてはもう謝ったよ。と言うか、苦しいよ」

普段はしっかりしているように見えるユーノだが、今は親戚の叔父さんにからかわれて困っている子供といった様子である。
振り解こうにも思った以上に力が入っているのか、緩む兆しすら見えてこないのでユーノは自力での脱出を諦める。

「で、どんな子なんだ?」

「なにが?」

最早投げやりとも取れるような返事を返すユーノの周りには、いつの間にか数人の男女が近付いてきていた。
皆、スクライアの者で、助けを求めるユーノの視線に気付いても無視している。
ああ、全員が敵なんだと状況を悲観的に捉えつつ、ユーノは拗ねたように尋ねた。

「なにが、じゃないだろう。お前さんがジュエルシードを探すついでにお嫁さんを探してきたと聞いたぞ」

睨んでいるとさえ取れる視線を向けていたユーノであったが、男の言葉に思わず咽てしまう。

「ちょっ、何でそんな事になってるんだよ!」

「何でって、なぁ」

ユーノの怒鳴るような声に心底不思議そうに男は周囲の者たちを見渡す。
どうやら、周りに居る者たちも男と同じ事を思っているらしく、寧ろそれがどんな子なのか興味を持って近付いてきたようである。
一方、話の見えないユーノは顔を赤くしつつもそんな事はしていないと反論する。
寧ろ、何故そんな事になっているのかと問い質せば、

「ほら、この依頼を引き受けた時に執務官とお前さんが話していただろう」

「執務官、クロノの事だよね。確かに話はしていたけれど、そんな話はしていなかったはずだよ」

「いや、その時に確かにしていたね。俺だけじゃなくて、他にも数人ちゃんと聞いていたんだから。
 ほれ、名前は忘れたがジュエルシードの時に一緒に探してくれた女の子。
 その子に会えなくてどうこう執務官が話していただろう」

「それだけの事で、どうしてここまで話が膨らむんだよ」

「だってなぁ」

ユーノの反論に男は同意を求めるように周りを見れば、周りの者も揃って頷いている。
意味が分からないよ、と思わず叫ぶユーノをようやく解放して男は真面目な顔で言う。

「執務官に散々からかわれていただろう。
 聞こえてきた話の断片だけでも、一緒に風呂に入っただの、一緒の部屋で寝泊りしただの……」

「え、冤ざ……と、兎に角、僕となのははそんなんじゃないから!」

「なるほど、なのはというのか、その子は。しかし、俺たちの勘違いだったとしても、どうやらお前の方は……」

にやりと楽しげに笑う顔を見て、ユーノは嫌な予感をヒシヒシと感じ取る。
そして、その勘に従い男が何か言うよりも早く、さっさと話題を今回の調査へと戻す。
その事に男は面白くなさそうに顔を歪めるも、すぐにまだ時間はたっぷりあると思い直し、とりあえずはユーノに付き合ってやる。
こうしてユーノは発掘調査へと旅立っていたのだが、なのはたちがこれを知ったのはこの間のビデオレターでクロノに聞いてからである。
実にユーノが調査に向かって一ヶ月近くが経過してからという有様で、なのはは友達なのに知らなかったと落ち込むも、
恭也に、そういうなのはもユーノの近況を誰にも尋ねてないよなと突っ込まれ、余計にへこむ事となるのであった。





つづく、なの







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