『リリカル恭也&なのはTA』






第28話 「恭也VSなのは」





『先日、羽平市で見つかった遺体の身元が判明し……』

「物騒だよね」

夕方に流れるニュースを見ながら、それが海鳴に隣接する市であった事から美由希がそう口にする。
対する恭也も頷くと、なのはに充分に注意するように言ってきかせる。
同時に那美から聞いた可笑しな霊障の事もあり、今回ばかりは美由希にも注意するように伝える。
いかに鍛えていようと、剣の通じない霊が相手では逃げるという手以外には取りようがないのだから。
寧ろ、相手が霊の場合はまだなのはの方が相手の力量にもよるがやりようはあるだろう。
そんな詮無き事を考えつつ、霊と聞いてお化けを連想して振るえる美由希を見て、攻撃が通じる通じない以前の問題だと思い直す。

「そう言えば、昔から苦手だったな」

「うぅぅ、お化けの好きな人なんていないよ〜」

「その割には怪談とかよく聞いてたな」

「聞いてないよ! あれは士郎とーさんが勝手に半ば無理矢理話したんだよ」

「そうだったか? 言われてみればそんな記憶もあるが」

「元々恭ちゃんに聞かせて怖がらせるつもりだったのに、恭ちゃんが顔色一つ変えない上に、面白くない話の時は鼻で笑うから。
 だから、士郎とーさんも剥きになって色んな怪談を聞かせてたんだよ。
 うぅぅ、その所為もあってお化けは駄目なの」

今は別に怪談をした訳でもないのに美由希は耳を塞いで首を振って嫌がる。
恐らくは昔の話をした際に怪談の一つでも思い出したか何かしたのだろう。
昔から本を読み知識に加えて想像力豊かな所もあった所為か、色々としなくても良い想像までしてしまったのだろう。
とは言え、自分で思い出して更に何かを想像したのか、怯える美由希に若干の呆れを感じつつ、偶には優しくしてやろうと立ち、

「昔、昔、ある所に……」

「わーわーわー!」

肩に手を置き、囁くように耳元で話をしてやれば、既に塞いでいた耳を更に強く押さえ、美由希は首を振りながら大声を上げる。
そんな二人を呆れたようになのはが見ているのに気付き、恭也は平然と美由希から離れて言う。

「怖がっているようだから、昔話をしてやろうとしただけだ」

「うぅぅ、怪談なんて嘘、怪談なんてまやかし。そもそも、学校の怪談からして七つ以上あるし。
 取り壊された旧校舎の女の子の霊なんて本当に居たら那美さんがとっくの昔に何とかしているよ。
 図書館に響く男女の苦悶の声だって、夜じゃなくて放課後って話だし、幽霊が出るには早いし。
 た、確かに黄昏時って言葉はあるけれど、うん、きっと図書委員の子に決まっているよ。
 校舎の壁をよじ登る女の霊だって出没は朝だって話だし、うん、幽霊なんかじゃない、絶対にない。
 きっと遅刻しそうな子がこっちの方が早いってやったんだ。
 夜中に響く剣戟の音だって、きっと誰かが夜間訓練をしていたか、戦っていたってだけ。絶対に霊じゃない、霊じゃない」

「えっと……、お姉ちゃん?
 最後のは普通にそっちの方がなのはには怖いんですけれど」

苦手なはずなのに色々と知っている美由希にどうしたもんかという顔を見せつつも、最後の言葉に若干顔を引き攣らせるなのは。
恭也も同じ意見かと窺えば、こちらはこちらで呆れた表情を見せており、

「微妙に古い怪談だな。俺が聞いた話だと、それは今から数年前の風校の怪談だろう」

「あ、突っ込むのはそっちなんだ」

よく考えれば、この兄もいい感じで非常識に分類されるな、と本人が聞けば怒るような事を思うなのは。
今の恭也なら霊でも対処法を持っているだろうし、そもそもなのはが怖いと思った戦闘に関して言えば、
この二人は専門と言えば多少の語弊はあるが、そういう事に対処する為に普段から鍛錬しているのだったと。
一人、この家の非常識さを改めて感じながら、自分と母だけが平凡なんだなと思う。

「なのは、何を考えているのか大体分かるんだが、既にお前も普通とは違うと思うぞ」

「あう」

恭也にだけは言われたくないと思っていた事をはっきりと告げられ、なのはは大げさなぐらいに肩を落とす。
中々に失礼な妹を見下ろしつつ、恭也はその頭に手を置いて乱雑に撫でて髪をぐちゃぐちゃに掻き回す。

「わぷっ、もうお兄ちゃん!」

抗議の声と同時に手を上げるもあっさりと躱されてしまい、せめてもの抵抗とばかりに睨んでやる。
それを平然と受け止め、

「とりあえず鍛錬に行くか」

「うー、何か誤魔化された気がするけれど……」

不満そうに言いながら時計を見れば、確かに夕方の鍛錬の時間となっている。
仕方なしになのはも支度する為に部屋へと向かい、リビングを出る前に振り返るとまだ美由希が一人何やら呟いていたい。
自分で言った言葉で更に連想して、また何かを口にしてそれに怯える。
悪循環の見本ともいえる姿がそこにはあり、どうしようかと悩んでいると、

「美由希の方は何とかしておくから、早く支度してくると良い」

恭也の言葉に甘えてなのはは鍛錬用の服装へと着替える為に部屋に向かう。
その後、なのはが準備を終えて戻ってくると、どうやったのかは分からないが、いつも通りに戻った美由希がそこに居た。
本当にどうやったのだろうかと不思議に思っていると、美由希がなのはに気付き、

「お、鍛錬に行くんだね。気を付けて行ってくるんだよ」

「う、うん。えっとお姉ちゃんはもう大丈夫なの」

「大丈夫だよ。もしやるんなら、ちゃんと一人でも出来るメニューを恭ちゃんから貰ってるからね。
 まあ、元々夕方に鍛錬っていうのはそんなにやってないからね。
 今日は読む本もないし、ちょっと道場で動こうかなって思っているけれどね」

そうじゃないんだけれどなと思いつつ、聞き直してまたあの状態に陥っても困るとばかりになのははいってきますと玄関へ向かう。
そこには美由希と話している間に準備を整えたのか、恭也が既に待っていた。
こうしていつものようにランニングしながら鍛錬場所へと向かい、ストレッチなどをして体を解した後は魔法の鍛錬が始まる。
なのはにはレイジングハートが、恭也にはグラキアフィンがそれぞれに鍛錬メニューを組んでおり、別々に鍛錬する。
なのはの方は現在は制御を中心に行っているらしく、今も生み出した桜色の光球を二つ、自分を取り巻くように動かしている。
螺旋を描きながら、右回転と左回転、上から下と下から上といったように別の動きをさせている。
一方の恭也の方は現在は空の上に居た。

【主様、大分空中での機動も出来るようになりましたね】

「みたいだな。とは言え、やはり若干のズレや遅れはあるな」

【努力します】

以前よりも更に改良を重ね、恭也が空中で戦う際の足場の生成も向上していたがまだ完全とまではいかない様子である。
恭也の方も申し訳ないと思いつつも、グラキアフィンからの要望という事もあって妥協せずに意見を言う。
こと魔法に関しては完全にグラキアフィン頼りの恭也である。
なのはがやっているような制御の鍛錬などもなく、恭也の魔法の修行は只管体を動かすだけ。
グラキアフィンが構築した魔法が有用かどうか判断するだけである。
恭也に使い道がないと判断された魔法は改良するか放置され、有用な魔法は使い道や更なる改良を加えられる。
結果として、恭也はグラキアフィンが使える魔法とその効果を知るだけであり、
鍛錬の内容として見れば、グラキアフィンとのコンビネーションとも言える鍛錬ばかりである。
元より魔導師としての素質と言う点で言えば恭也はないと言い切れる程なのだから仕方ないかもしれないが。
尤もグラキアフィンはだからこそ、恭也をマスターとしたのだから、こちらにも文句はない。
そもそも自ら魔力を保有し、且つ魔法を行使するだけでなく、構築したり編み出したりとは中々に非常識なデバイスである。
その主にしても魔導師としては非常識と言えるかもしれない以前に、魔導師として認められるかどうか怪しいのだが。
そういった点で言えば似た者同士と言えるのかもしれない。

「お兄ちゃんも空戦できるようになったら、益々勝てなくなりそう」

【それでもまだ地上での動きと比べればましですよ、マスター。
 距離を開けて近付かれる前に砲撃という手が有効かと】

誰に似たのか、それとも環境が悪かったのか、レイジングハートも中々に好戦的な発言をするようになってしまった。
と、自分の事を棚に上げてなのはは思いつつも、言われた内容を頭の中でイメージする。
その間も光球――スフィアの制御に乱れは見られない。
確実に鍛錬の成果が出ているのを見ながら、レイジングハートはなのはの邪魔にならないように沈黙を守る。
と、そこへ恭也が戻ってきて、

「なのは、そろそろ良いか?」

そう尋ねてくる。それにレイジングハートへと視線を向け、了承の意を受けると今まで制御していたスフィアを消す。

「それじゃあレイジングハート、お願い」

なのはの声に応じてレイジングハートが杖へと変化し、なのはの服装もバリアジャケットへと変わる。
既に戦闘形態となっていた恭也はそのまま宙に足場を作って飛び乗り、再び空の人へ。
対するなのははすっと上空へと登っていく。
その後を足場を蹴って跳んでは新たに足場を作り追って行く。

「つくづく、自分の才能のなさを痛感する一時だ」

【主様、お気をしっかりと】

「ああ、分かっている。魔法の才がない事など分かっていた事だしな」

気遣うグラキアフィンのコアを軽く撫で、恭也もなのはと同じ高度に立つ。

「それじゃあ行くよ、レイジングハート!」

恭也が到着するなりレイジングハートの先端を恭也へと向け、まずはディバインバスターを先制に放つ。
同時に当たったかどうかの確認は後に回し、その場から一目散に更に上空へと離脱する。
空中にあっては、水平や下へ降りるといった軌道を取らずに只管上へと高度を上げる移動を行えば、自然と恭也よりも早く動ける。
何せ、向こうの空中での移動方法は足場を利用しての物である。
上への移動は先程同様に足場を蹴り、新たに生み出すと言う作業の繰り返しになる。
ましてや重力が働くからこそ、一度の跳躍で一気に数十メートルと登る事が出来ない。
とは言え、油断はできない。細かい機動を考えずに、ただ真っ直ぐに飛ぶだけなら可能なのだ。
故に時折、水平に移動したり、斜めに飛んだり螺旋を描いたりとなのはも工夫しながら恭也との距離を開く。
ある程度距離を開けたら、次にスフィアを生成。
とりあえず、細かい制御を考えずに十個作り、魔力の密度を高めた物二つを中心に置く。

「ディバインシューター」

恭也目掛けて飛ぶ光弾。勿論、ただ真っ直ぐ飛ぶだけなら躱されてしまうからこそ、着弾時間を僅かにずらして。
それでも軌道が直線ならば、そこから離れてしまえば当たる事はなく、恭也もそのように動く。
そこへ魔力密度を上げていた二つだけ制御下に置き、恭也が回避行動を取ると同時に二つの光弾を操作する。
人の目は横よりも縦の動きの方が弱いと教えられたなのはは、迷わずに二つの光球を上下の軌道にする。
が、それは視覚に頼っていればの話であり、気配だけでなく魔力の察知まで身に付けつつある恭也相手では少々分が悪かった。
回避行動後に頭上と足元から来た光球を前へと走り抜ける事で躱し、同時になのはとの距離を詰めてくる。
まあ、魔力察知がなくとも、グラキアフィンが察知して警告するであろうからこの結果は分かっていた事である。
故になのははそれさえも囮として利用しており、恭也の移動先を読んでディバインバスターを放つ。
それさえも横に飛んで躱す恭也に対し、なのははレイジングハートを恭也の逃げた先に向ける。
放出したままデバイスを動かす事により、まるで斬撃のようになのはの砲撃が恭也へと迫る。
流石に初めて見たこの攻撃は驚きだったのか、恭也の動きが僅かだが鈍り、そこへ容赦なく横殴りにディバインバスターが決まる。
爆発が起こり煙が恭也の姿を隠す中、なのはは更に距離を開けるべく動き出し、その眼前を何かが通過して行く。
御神流で飛針と呼ばれる細長い針のような暗器にも似ていたが、と思っていると、それらが今度は十数本纏めて迫ってくる。
やはりあの攻撃はギリギリで防御されたのか、煙が僅かに晴れた向こうにいる恭也にはダメージは見られない。
なのはは自らに迫ってくる飛針をラウンドシールドを発動して弾くと、恭也へと再びレイジングハートを向ける。



「うー、また負けたー」

あの後、何発かの砲撃を放つも最後には距離を詰められてなのはの負けとなってしまった。
接近戦においてはやはりまだまだ恭也の方が上である為、そればかりは仕方ないが。

「にしても、本当にお前の攻撃は容赦ないな。魔力ダメージだけだと分かっているが、正直肝が冷える」

「平然と躱す人に言われても嬉しくない。っていうか、そもそも褒めてないよね?」

「そんな事はないぞ。別に平然と躱している訳ではないしな。そこは経験だ。
 それにしても、最初の攻撃は正直驚いた。今まで撃ったらそれでお終いだったのにな」

【はい、撃ち続ける事であのような利用をするとは】

「だけど、その分威力が落ちるみたいだから改良が必要だね、レイジングハート」

なのはの言葉に肯定と返すレイジングハートを磨きながら、なのはは今度は逆に恭也へと尋ねる。

「それより飛針みたいだったけれど違うよね、あれ。やっぱりあれも魔法なの?
 でも本物の飛針みたいだったし」

「ああ、あれも魔法だ。魔法で生み出した飛針」

【名前はまだありませんが。とりあえずの策として数に限りのある主様の暗器を魔法で生成してみました。
 状況に応じて物理ダメージを与える普通の飛針と同じ金属製の武器としても、先程のようにただの魔力の塊としても生成できます】

「えっと、金属の生成って魔力でできたっけ?」

首を傾げるなのはに恭也はそんな事は知らないと返す。
何せ、自分はただ要望を出しただけなのだから。
自分で遠距離攻撃する場合、使い慣れた武器の方が命中精度が上がると。

「あ、あははは。あれって魔法じゃなくてお兄ちゃんが手で投げてたんだ」

【全部が全部そうではありませんが。さっきの攻撃では私が制御している分と、主様が投げている分とで3対1ぐらいですね。
 以前、お借りした飛針を参考に重さ、形全て忠実に再現しました。
 因みに金属生成に関してですが、それも私のデバイスとしての一部です。故に回収もお手軽という訳です。
 欠点は当初の予定よりも数が少ない事ですね】

「それも予め飛針をラキアに充填する事で更に弾数と言って良いのか微妙だが、総数は増やせるらしいぞ」

うん、この主とデバイスに関しては教えられた魔法の常識という物を考えないようにしよう。
そう強く思うなのはであった。





つづく、なの



おまけ 〜没ネタ〜



昔から本を読み知識に加えて想像力豊かな所もあった所為か、色々としなくても良い想像までしてしまったのだろう。
とは言え、自分で思い出して更に何かを想像したのか、怯える美由希に若干の呆れを感じつつ、偶には優しくしてやろうと立ち、
気配を消して怖がる美由希の背後からゆっくりと手を肩越しに前へと突き出してやる。
声にならない声を上げ、ソファーから転がり落ちる美由希を見下ろし、

「失神したか」

恭也の言葉通り、目の前には見事に気を失った美由希の姿があった。
何をやっているんだと呆れた目で見てくる末っ子に肩を竦めて見せ、美由希を抱き起こしながら、

「自分の想像で怖がっていたからな。それを消してやろうとちょっと眠らせてやっただけだ」

しれっと言い切った恭也に、なのはは何も言わずに無言で盛大な溜め息を持って返事するのであった。



おまけ 〜没ネタ2〜



自分で思い出して更に何かを想像したのか、怯える美由希に若干の呆れを感じつつ、偶には優しくしてやろうと立ち、
それに気付いた美由希が身構えるのを見て肩を竦める。

「何故、身構えるんだお前は」

「だって、また何かするんじゃないかと」

「折角、人が優しくしてやろうと思ったのにそれか」

「いかに日頃の行いが大切かって事を知るべきだね」

「お前も口は災いの元だと知るべきだな」

言って美由希の頭にチョップを落とす。
ソファーから転がり落ち、大げさに頭を押さえて転がり回る美由希と、その前で腕を組んで見下ろす恭也。
そんな二人を眺め、どっちもどっちだと思ったのは黙っていようとなのはは一人思うのであった。






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