『リリカル恭也&なのはTA』






第31話 「来訪する者」





恭也とハーミットの戦端が開かれる少し前、誰も居なくなった研究室へと続く部屋の中。
壁に沿うように並べられた棚の上に置かれていた人形が小さく身じろぎを始める。
壁に凭れるように両足を投げ出す形で座らされた人形の、まずはその小さな指がピクリと動き、続けて腕がゆっくりと動き出す。
動いた手を使い、人形はやや緩慢な動作ながらも立ち上がると、その無機質な瞳を研究室へと向ける。
一体だけでなく、飾られていた五体全ての人形が同じような動作を見せており、声もなく棚から飛び降りる。
小さな音を立てて床に着地すると、そのまま研究室へと向かい、一体が浮かび上がるとドアノブを手にして回す。
事前に与えられた主の命令を遂行するべく、五体が研究室へと足を踏み入れた瞬間、それは音もなくやって来た。
最初に研究室へと入った人形は何処からともなく飛来した細長い針状の刃物にその全身をハリネズミのようにされ、
続けて入った人形は見えない刃でもあったかのように、その体を幾つにも刻まれる。
残る三体は一つ所に固まらずに散開し、その直後、右に向かった人形は一体目同様に全身刃が突き刺さり倒れる。
残った内の一体ははその短い手足からは想像も付かない速さで走り刃を躱し、もう一体は宙を飛びながら回避する。
揃って結界の張られた桃子の前に辿り着き、手を伸ばした所で周囲に地面が破裂する。
複数の爆発音が連鎖するように響き、回避する隙も場所も与えずに残った二体を吹き飛ばす。
恭也、いやグラキアフィンが予め仕掛けておいた設置型のトラップ魔法により、
研究室には結界に守られた桃子だけが無事に残される事となる。



矢後市内にあるとある駅に二人の男女が降り立つ。
男の方は三十代前半といった風体の男で、二メートル近い身長にがっしりとした体付きをしており、短く刈られた髪はくすんだ銀色。
女の方は二十代中頃から後半といった感じで、灰色に近い金、アッシュブロンドの長髪をそのまま背中に流している。
時刻は昼時という事もあってか、駅にはそれほど人は居なかったが駅前となると一気に人が増えている。
その中にあってもやはり髪の色や男の醸し出す雰囲気からか、人目を引くようで今もちらちらと二人の事を見ている者もいる。
そんな視線に気付きながらも、二人は特に気にした様子も見せずに歩を進める。
自分の身長に程近い荷物を肩に担ぐ男に対し、女の方は鞄一つ見当たらない身軽な格好で男の横に並ぶ。
二人が向かったのはタクシー乗り場で、向かいながら女の方が口を開く。

「今度こそ間違いないんでしょうね」

「ああ。その前に一つ言っておくが、前も間違ってはいなかった。
 ただ少し遅かっただけだ」

「はぁ、それぐらい分かっているわよ。
 とは言え、一足違いにせよ何にせよ、その所為でまた一月以上も無駄に時間を過ごした上に、こんな極東まで来る事に……」

「だが、科学の進歩の賜物だな。一日足らずで移動できるのだから」

「その科学の進歩の恩恵は相手にも言える事なのが傷だけれどね」

女の文句に何も返さず、男は止まっているタクシーの前に立つ。
運転手が車から降りてきて、男の荷物を受け取ろうとするのをやんわりと断り、荷物を持ったまま車に乗り込む。
当然、大きな荷物ゆえに横に倒す事になり、

「私が乗れないんだけれど?」

女の言葉に男は荷物を足元に置き、さっさと乗るように促す。
今度は女も文句を言う事なく肩を竦めただけで大人しくタクシーに乗り込む。
二人が乗ったのを見てドアを閉め、行き先を尋ねる運転手に男が行き先を告げ、車は静かに走り出す。
男は無言のまま腕を組んで目を閉じ、女もまた同様に無言でドアに肘を付いて手に顎を乗せて流れる景色を眺める。
そんな二人の雰囲気に運転手も声を掛ける事ができず、ただ黙って指定された場所へと向かうのであった。





つづく、なの







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