『リリカル恭也&なのはA's』






第33話 「ハーミット始動」






地上に群がる死人たちの中には素早い者もいるのだろうが、それが百を超える大軍の上に与えられた命令をただ実直にこなすだけで、
それも細かい指示がないとあれば、本当にただ只管全てが目標目掛けて直進だけをしている。
結果として、動きそのものが緩慢になっており、距離を開けた現状においては遠距離攻撃を警戒する程度で構わないだろう。
そう結論を下した恭也とラキアは空中より迫る魔法を回避し続けながらも、その距離を縮めて行く。
すれ違い様にまた一体の死人を斬り付け、ラキアの警告により背後から迫る魔法を回避する。
時間が多少掛かるが確実にその数を減らしていく恭也に対し、逆に面白くないのがハーミットである。
ただし、その不機嫌な理由は自らが作り上げた実験体、死人が壊されていく事に大してではない。
ハーミットにとってはその殆どが興味のない物である。
自らが掲げた成功へと辿り着くまでの文字踊りに実験体、もしくは失敗作。
成功した者も中にはあるがそれも辿り着いてしまえば大半は興味のないモノとなる。
気に入っている物も中には数体だけだが紛れてはいるが、今の所は無事であるし、仮に壊されてもそれはそれで一向に構わない。
今一番の興味は恭也自身に移っているという事もあるし、そもそも自身の研究成果には興味がないのだから。
全てはただ一つの目的のための行動であり、その過程で出来上がった物に過ぎないと言う認識しかないのだ。
そんなハーミットが不機嫌な理由はただ一つ。興味も抱いた新しい被験者である恭也が期待する魔法を使用しない。
ただその一点にあった。確かに人の身でありながらも鍛錬によって高められた剣技には目を見張るものはある。
が、そんな物はハーミットの長い人生において初めて目にするものではない。
仮に人の身であっても、自分たち夜の一族と呼ばれる者に時に匹敵する身体能力を持つ人間だって見たこともあるのだから。
ハーミットが見たいのはただ一つ。
自らの人生の中においても、いや長い一族の書物の中からさえも見た事もない恭也の使う術式にある。
様々な術をどのように構築し、どのように使うのか、それが見たいが上に周辺を調査させ、人質などという面倒な事までしたのに。
今のところ、恭也が使うのは針や糸のような物を魔法により錬成してみせる事だけ。
術式の解析ができた訳ではないが、正直、見飽きたの一言である。
どうすれば他の魔法を使わせる事が出来るか。
ハーミットの思考はその一点に尽きる。
そんな事を考えているハーミットの目の前で、また数対の死人が落ちて行く。

「少々手間だがこれが一番か」

何か思いついたのか、ハーミットはそう呟くと自身の両手を胸の前に掲げる。
手が合わさっていれば祈る為とも思われるが、実際には二十センチばかり離れており、その間に赤黒い輝きを放つ弾が生まれる。
実際には赤黒い色ではなく、球体の中で赤と黒の色が交じり合わずに渦巻くように、互いを飲み込むように蠢いている。
生み出したそれを満足げに見下ろし、ハーミットはこちらの行動に気付き警戒心を見せる恭也に一つ笑ってみせる。

「一つ忠告しておいてやろう。これを先程のような魔法で防げると思わない事だ」

言って右掌を上に向けると球体もその動きに追随するように動く。
その上でハーミットは何もない左手を軽く降る。
それを合図として死人が恭也の逃げ道を塞ぐように四方八方から飛び掛り、逃げ場のない状況になったのを確認すると魔法を放つ。
球体のまま飛ぶのではなく、帯状に引き伸ばされ恭也へと迫る赤黒い光。
その進路上にいた死人の体を簡単に貫き、勢いもそのままに恭也へと迫る。
下半身を失い落ちていく死人を見れば、その傷口は炭化しており、高温を持っていることが簡単に窺い知れる。
迫る死人を捌きつつ、恭也はラキアに言われるまま右手に握った小太刀の切っ先を光へと向ける。
切っ先に灰色に近い黒の魔力が収束され、拳大の大きさになった所でハーミットと同じような光の帯が打ち出される。
ただし、その幅はハーミットの放った物と比べると三分の一程度しかなく、ぶつかり合えば飲み込まれそうに頼りない。
が、ぶつかり合った瞬間、恭也が手首を返し腕を振るうと光も似たような軌跡を描き、ハーミットの魔法を切り裂く。
続け様に放出されているからか、暫くして元の一つに戻ろうとするもその隙に恭也はその隙間から上空へと逃れていた。
よってハーミットの魔法は運悪く二つに分けられた先に居た死人と、恭也を囲んでいた死人だけを消し去る事となる。
一方でハーミットは楽しそうに恭也を見上げ、喉の奥を鳴らす。

「面白いな、本当に面白い。放出系の魔術を見せたと思ったら、それを刃のように用いるとは。
 だからこそ、収束された魔力を細くより鋭くしたのか。しかし、変った術式だ。やはり見た事もない。
 だが、もっと、もっとだ。他には何がある? さあ、見せてみよ」

ただただ楽しそうに笑みを形作りながら、ハーミットは恭也に要求する。
そこに自分の魔法を破られたと言う思いなど欠片もなく、一つ一つ試していくように次の魔法を唱え始める。

≪正直、このまま付き合う気にはなれないんだがな≫

≪とは言え、並み大抵の相手でもなさそうですわ。それに相手は逃がす気は全くありませんし≫

念話で互いにうんざりとした様子で語り合うも、結局の所は倒す以外の方法もない。
その間にもハーミットは魔法を完成させたのか、今度は恭也を押し潰すつもりなのか半透明の壁が上下左右に前後と出現して迫り来る。

「一点突破だ!」

ラキアに短く考えを伝え、恭也は前方へと走りながら右手を後ろへと引き絞り、そこから突きを放つ。
最近、美由希に習得させる為に恭也自身も美沙斗より細かい指導を受けた御神の奥義のひとつ。
ただし、その刃には魔力が絡まり突き出された瞬間に一気に放出されるという少し所かかなり形は変っているが。
刃と壁がぶつかり合い拮抗するのも一瞬。前方の壁は砕かれて恭也はそのまま走り抜ける。
その背後で残った壁がぶつかり合い小さな爆発を生む。

「少々、面白くないな。だが、魔力を他の物に纏わせるというのは中々面白かったぞ。
 退魔士などが偶にやってみせるのと理屈は同じだが、理論は少々違う感じだな」

その後もハーミットは死人を使ったり、自身も魔法を使ったりして恭也を攻め、その度に恭也は時に体術で時に魔法で躱していく。
何度目かの攻撃を終えたハーミットは攻撃の手を止めると、

「どうも炎や雷と言った現象を起こす魔法は使えないようだな。単に貴様が出来ないだけなのか、その術式では無理なのか。
 まあ、それは追々調べていくとするか。さて、実験はここまでにしようか」

言うなり目付きが急に変わる。
今までの楽しげな興味ありげなものから、より攻撃的な、殺気すら感じられるソレへと。

「後は貴様を人形にしてからにしよう」

≪主様を人形にだなんて、何とも失礼な人ですわ≫

ハーミットの言葉に腹を立てるラキアを宥める恭也の眼下で、ハーミットは両手を大きく左右に広げて叫ぶ。
声に応えるように地上に突如高さ十メートル程の竜巻が二つ生まれ、地面を走る。
自分へと向かって放たれなかった事を訝しむ間も竜巻は移動し続け、地に居た死人を巻き込み始める。
やがて二つの竜巻が一つに合わさりその規模を更に大きくする中、頭上の日が遮られる。
竜巻によって空へと飛ばされた死人が竜巻から解放され、今度は重力の枷に捕らわれて落ちてくる。

「貴様に対する攻撃手段もなく、いずれは攻撃され数を減らすだけならば、目晦ましとして役立ってもらう方が良いだろう、なぁ」

正直、恭也としては目晦まし所ではない。
重いかどうかは分からないが、仮に軽い部類に入るのだとしてもあの大きさである。
それが頭上高く舞い上がり、重力に引かれて落下してくるのだ。下手すればそれこそ致命傷ともなり兼ねない。
常に頭上を気を付けねばならず、抜け出すには範囲が広い上に高度もかなり上がらなければならないだろう。
そんな隙を与えてくれるとは思えない。他にも未だに数の残る飛んでいる死人からの攻撃も繰り出されているのだし。
恭也に近付いてきた死人が落ちてくる死人にぶつかり落下していく。
首が可笑しな方へと曲がり、それを気にもせず向かってくる死人を斬り伏せ、同時にハーミットへと牽制の魔法を放つ。
その間も恭也は頭上を気にしながら動き続けなければならず、正直、やり難い状況へと追い込まれる。

≪ラキア、何か良い案はないか≫

≪シールドで防いでも反動はやはり生じますから≫

それは理解している。完全に躱せないものは今もシールドで防いでもらっているのだから。
とは言え、元よりシールド系の魔法は強くないのか、ずっと張り続けてやり過ごす程の強度はない。
基本、恭也の戦闘スタイルは回避を主としているから、グラキアフィンも防御魔法を後回しにしていたのだが。
そのツケがこんな形で出てくるとは。
思いつつも頭上から落ちてくる死人や攻撃を捌く。
そこへラキアから鋭い声で警告が入る。が、警告されるまでもなく恭也もまた肌で感じ取っていた。
かなり大きな魔力がハーミットより発せられており、今にも放たれようとしている事に。

「安心しろ。消し炭にしてしまっては意味がないからな。
 原型は留めたままにしてやるぞ」

あまり嬉しくもない言葉である。どの道、命を奪われるという結果は同じなのだから。
尤もそんな反論を口にした所で相手は気にも留めないだろうが。
練りこまれた魔力が体の中から放出されるのを今か今かと渦巻いているようにも見えるハーミットを見据える。
互いの視線が交差し、ハーミットの腕が突き出される。
そこから生み出されたのは一直線に恭也の胸目掛けて走る稲光。
ただし、その大きさは胸どころか腹にも届かんばかりの太さを持っているが。
放たれてから着弾まで数秒も掛からない。
ハーミットの使う魔法の中でもトップクラスの早さを持ち、一点に魔力を収束する事からその威力も決して低くない。
何よりも体へと与える損害は他の魔法に比べて小さくて済む。
まさに今この時においては最適とも言える魔法は、狙い違わずに恭也の左胸を貫く。
口から吐血する暇もなく、恭也の体は一瞬だけ硬直を見せるとそのまま地面へと落下して行く。
自らの結果に満足しつつ、ハーミットは落ちた衝撃で損傷しないように小さくなった竜巻に手を向ける。
今までこの為に待っていましたとばかりに竜巻は突風に変わり、恭也の落下地点で再び小さな旋風に変わってその体を受け止める。
次いで未だに落下を続ける死人が誤ってその上に落ちてこないように上空目掛けて突風となり吹き上がって消える。
これで恭也の上に落ちてくる死人の心配はない。後は死人が全て落ちきった後、恭也を回収すればそれでお終いである。
屋敷に未だに居るであろう桃子の事は既に頭の中にはなく、ハーミットはただこの後の研究に思いを馳せる。
その顔は何処か恍惚としており、その時を今か今かと待ちわびるものであった。





つづく、なの









おまけ 〜没ネタ〜



切っ先に灰色に近い黒の魔力が収束され、拳大の大きさになった所でハーミットと同じような光の帯が打ち出される。

【見よう見まねディバインバスター、かっこ、仮、かっこ閉じる。ただし、威力は期待しないでねヴァージョン!】

「……どうでも良いが、その名前だけはどうにかならないのか?」

【やはり、なのは嬢withレイジングハート監修も入れるべきでしたか?】

「なのはの仕業だったのか!?」







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