『リリカル恭也&なのはTA』






第36話 「お買い物」






「お買い物〜♪ お買い物〜♪」

今にもスキップせんばかりにご機嫌な様子で歩くなのはの数歩後から恭也が追う。
その隣には同じように歩を合わせて歩きながら、苦笑を浮かべる美由希の姿も。
高町さん所の仲良し兄妹はなのはが歌っているように買い物へと向かう途中にあった。

「買い物一つで何故、あそこまで楽しそうに出来るのか不思議でならないが。
 その辺、遺伝子の上では同じ女性であるお前から見てどう思う?」

「いちいち引っ掛かる言い方だけれど、新しい服が素直に嬉しいんじゃないかな」

「そんなもんか」

すっかり秋も深まった十月も中頃を過ぎた時期に秋物を見るのは少々遅いような気がしないでもないが、そこは成長期である。
まあ、そんな訳で急遽、買い物となったのだが、服など動き易く余程変なデザインでない限りは気にしない恭也。
恭也程ではないが、それでも同年代と比べればやはり無頓着とも言える美由希。
果たしてこの人選は正しいのかという気もしないでもないが、二人は口を出す気がないので問題ないのかもしれない。
単に一人で行かすのは流石にという心境と、偶々他にも用があるので揃って出掛ける事となったのである。
なのはの方は単純に兄や姉と出掛けられる事も重なり、ついつい鼻歌の一つも出たのかもしれないが。
ともあれ、そんな一向は無難に近場のデパートへと向かい、寄り道することもなく真っ直ぐに洋服売り場までやって来る。
ここ最近、色々とあって少々大人びてきたなのはではあるが、やはりまだ少女らしい所も残っており、早速商品を見て回る。
なのはと一緒に美由希も付いて周り、その後を恭也がゆっくりとした歩調で続く。
流石に前に無理矢理忍に引っ張り込まれた下着売り場よりも居心地は悪くはないが、
それでも多少の悪さを覚えるのか、時折、視線が周囲を探るようにさ迷う。
子供服、それも女の子専門の売り場である。
周囲にはなのはと年の近い女の子と、その両親らしき姿も当然ながら見られる。
そんな中にあって、自分の姿は果たしてどう映っているのだろうか。
強面を自覚しているだけに、出来る限り表情が強張らないように気を付けつつ後を追う。
出来るなら、この場を立ち去り休憩スペースで待機しておきたい所なのだが。
現実逃避も含め、そんな事を考えている恭也の耳になのはが意見を求めてくる。

「最初に言ったが、俺に意見を求めても……」

≪主様、なのは嬢は意見ではなく褒めて欲しいんですわ≫

≪それはそれで難度の高い要求だな≫

≪可愛い妹君の為です、頑張ってください。主様ならきっとできますわ。それに思ったことを口にすれば良いのです≫

「……あー、可愛いんじゃないか?」

「本当に!?」

「ああ」

グラキアフィンの忠告から無難且つ、思った事を口にする。
恭也の言葉に驚きつつ更に確認して返って来た反応になのはは本当に嬉しそうな様子を見せて、再び鏡の前で服を合わせる。
その様子を微笑ましく見守りながら、美由希は試しに試着してみたらどうかと試着室へと連れて行く。
なのはが着替える間、その前で待機する事となった二人だが、美由希がからかうような顔を見せ、

「恭ちゃんでも気の利いた事を言える時があるんだね。もしかして、明日、ううん、帰りは雨が降るかも」

中々に失礼な事を口にするもう一人の妹への制裁を幾つか脳裏に浮かべた所で、今度は拗ねたような顔を見せてくる。

「私の時には何も言ってくれないのに」

その言葉に今回は制裁を見送る事にし、恭也は少し考えて答えておく。

「十年早い」

「……って、何それ!? 色々と可笑しくない!?」

自分でも何か間違っているとは思うものの、恭也は口を噤んで誤魔化すことにした。
強引も良い所ではあるが、丁度、なのはが試着を終えたお蔭で有耶無耶にしてしまう事にする。
恭也から更に褒める言葉を貰い、その後も含めてなのはの買い物は思ったよりも早く終わる。
一方の美由希はやはり誤魔化しきれなかったのか、少しだけいじけていたが、こちらも本屋に寄った事で綺麗に忘れてしまう。

「……とんだ出費だ」

財布を仕舞い呟く恭也であったが、その隣で美由希は若干呆れた顔になる。

「そこは私の欲しがっていた本を買ってくれて口にして欲しい台詞だよ」

言いながら美由希は自分で購入した本を片手に、今しがた恭也に買ってもらった漫画本を手にしているなのはを見る。

「うぅぅ、この差は何?」

「人が買ってやろうとしたのを断ったのはお前だろうが」

「断るよ、普通は。大体、家庭菜園ってなに!?」

「料理がろくに出来ないが、土弄りはそこそこ得意なお前に、せめて素材は作れるようになれという優しい兄心じゃないか」

「そこはガーデニングと言って欲しいよ。うぅぅ、今月のお小遣いがもう少し残っていれば、あっちの小説も買えたのに」

恭也に突っ込んでから、未練たっぷりにそう口にする。
そんな美由希の様子に呆れたように肩を竦め、その頭を軽く叩く。

「これに懲りたらもう少し計画的に使うんだな。と言うよりも、その散財も本である以上、どうしようもないのか」

「あう。傷心の妹に言葉と体罰による二重の追い討ち……って、何これ?」

自分の頭を叩いた物をそのまま渡され、疑問に思いつつ受け取れば、そこはさっきまで居た本屋の紙袋があった。
まさかと思い逸る心を落ち着かせながら袋を開ければ、そこには諦めた本が。

「恭ちゃん……」

「偶々、今月は小遣いに余裕があったしな。それならお前が読み終えた後、俺も読めるしな」

「ありがとう、恭ちゃん」

「まあ、偶にはな」

そんな二人のやり取りを、今度はなのはが微笑ましく見守っていた。

「お姉ちゃん、良かったね」

「うん。でも、今日は傘持って来てないよね。あ、でも槍なら傘があっても一緒か」

「何が言いたい、美由希?」

「あ、あははは、冗談だよ」

浮かれすぎてついつい言ってしまった言葉を聞き、なのはは仕方ないなと肩を竦めるのであった。

「そう言えば、お兄ちゃんたちの用は?」

「ああ、俺たちのはここじゃないから帰りに寄れば良い」

「新しい木刀と研ぎに出していた私の刀の受け取りだからね」

「じゃあ、用事って井関さんなんだ」

井関とは商店街の一角にある刀剣の専門店で、剣術を修める恭也や美由希は常連と化している店である。
なのは自身は場所は知っていても入った事はなく、少々好奇心が出てくる。
その後、他に数箇所ほど回り、恭也たちは井関へと向かう。
初めて入った店内を珍しそうに見渡すなのはだったが、肝心の刀は置かれていない。
そんな心情を呼んだのか、

「無造作に真剣を置いているはずもないだろう」

「あ、そうか、そうだよね」

すっかりゲームのイメージから、ずらりと刀が並んでいる光景を想像していたなのは誤魔化すように笑う。
それでもやはり珍しいのか、なのはが店内を見渡していると奥から店主が姿を見せる。

「お待たせ。これが頼まれていた物だよ」

言って小太刀をニ刀、カウンターの上に置く。
それを受け取り、断ってから鞘から抜くと暫く点検するように眺め、静かに鞘に戻す。

「いつもありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ贔屓にしてもらって。で、こっちが注文を受けた木刀だけれど、大丈夫かい?」

言ってカウンターに置かれた木刀がずしりと音を出す。
実際には数本がぶつかって乾いた音を上げたのだが、その量から自然とそう感じてしまう。
それを見て、恭也は呆れたように美由希を見れば、こちらはこちらで誤魔化すような笑みを見せている。

「あははは。ほ、ほら、なのはも最近は体力も付いてきたから……」

「なのはは基礎体力をつける為にやっているのであって、剣術をする訳ではないと説明したと思うが?」

「いや、でも、万が一に折れた時の事を考えて……」

「成る程、俺が頼んだ六本、全てが折れた事を想定したのか。だが、それなら十二本になるはずだが?」

「えっと、全てが折れた場合を想定して追加で六本と、その追加の半分が折れた事を考えて三本を更に追加して、
 それとは別に予備に恭ちゃんと私が使用する計四本をと思ったんだけれど、十九で区切りが悪いんで、予備の予備を一本追加して」

もう良いと恭也は美由希を黙らせる。
何処まで想定する気だと突っ込む気力もなく、恭也は当初思っていた予算の倍以上となった木刀を手に持つ。
幸いにして支払いに困らなかったのが救いかと美由希に自分の小太刀を持たせ、もう一度店主に礼を述べる。
店主も当初の予定では六本だと知り、何とも言えない表情で恭也たちを見送るのであった。
多少、最後の方にあったけれど、偶にはこうして兄妹で買い物に出掛けるのも良いものだなとなのはは思うのであった。





つづく、なの







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