『リリカル恭也&なのはTA』






第38話 「掘って進んでまた掘って」





目の前に広がるのは広大なる荒野とも言えない、ただただ何もない荒れた土地。
人工物は全く見えず、かといって自然に溢れているとも言えない、見渡す限り延々と同じ荒地が続く。
そんな中にあって、唯一とも言える変化のある風景がここであった。
生物の存在さえ感じさせない中、多くの人が行き交い、飛び交う言葉により静寂とは掛け離れた空間。
複数のテントが張られ、まるで小さな集落のような様相を見せている。
それらのテントの先には、緩やかな斜面へと続き、十数メートル先にぽっかりと大きな穴が姿を見せる。
ここは第54無人世界ニールヘッグにおける、彼ら管理局員と調査団の拠点であった。
何もない世界において、唯一残った人工物。
だが、調査していく内に判明してきた事として、この遺跡はこの世界における先人文明である可能性が高い事が推測された。
それも元の文明よりも幾分も高いレベルであった事が判明したのだ。
遺跡内部より発掘した幾つかの機械部品を外へと運び出しながら、ユーノは何度も通った通路を眺める。
作られてから千年単位で月日が流れたはずなのに、その壁にも天井にも全く風化した様子が見られない。
今まで地の中に埋もれて風雨に晒されていなかったとしても、それはそれで何かしらの変化を見せるはずである。
だが、それが極めて小さなものというのには興味を抱かされる。
今回、また新たに出てきた機械により何かが分かるかもしれない。
そんな事を思いつつ、ユーノはろくに土も落ちていない機械部品を丁寧に運ぶ。
所定の場所へと運び込むと、受け取った者が今度は丁寧に土などの汚れを取っていく。
が、まだ他にも作業する物があるらしく、ユーノが運んできた物はすぐにという訳にはいかないが。
ユーノは発掘品を渡し終えると、すぐに遺跡へと取って返す。
今の所は危険な物やロストロギアに認定されるような物は見つかってはいないが、油断は出来ない。
分かってはいるが、やはりこういう発掘作業は楽しいのだろう。
その顔は非常に生き生きとしていた。



そんな感じで一月以上、遺跡の発掘に従事していたユーノの元に新たな通路が見つかったと報告があった。
最初に管理局員の魔導師が数人で危険がないか探る為に通路の調査へと赴く。
それに調査隊からも数人同行する事になり、その中にユーノの姿もあった。
元より小さな頃から遺跡発掘を生業とする一族で育っていた事に加え、結界などの防御魔法に優れていた為である。
その背後には何かあればこき使えと囁いていた執務官の影があったかどうかは定かではないが。
ともあれ、それぞれ五人ずつの計十人で新たな通路へと潜っていく。
やはりここも天井に壁と明らかに人工の物であった。
加えて、ここは自分たちが入ってきた新たに開けられた穴から零れ落ちた土を覗けば、全く土砂などが侵入した形跡がない。
先程まで発掘をしていた場所よりも地下に位置するここは、完全な形を保ち目の前にあった。
長い年月による劣化は多少は見られるものの、やはり千年単位の歳月を考えると殆ど変化していない。
上の階層と比べると、土砂などの浸入もなかった為か本当に微々たる劣化しか見受けられない。
つまりそれは、今まで以上に何か分かるかもしれないという事である。
研究心が疼くのか、研究員たちは逸る気持ちを隠そうともせずに奥へと一刻でも早く進みたいと全身から訴える。
が、魔導士たちの方はそう簡単にはいかない。何よりも安全の確保が第一にして重要事項である。
無言で訴えてくる研究員たちを制し、二名が先行するように通路の先へと慎重に歩を進めて行く。
その後を一人が追い、研究員たちが続き、最後尾に二人の魔導士が付く形で進んで行く。
生物反応は見られないが、気を抜く事無く進むこと十分あまり。
不意に小さな物音が全員の耳に届く。
音源は今から向かおうとしている通路の先。
だが、その先にはまだ何も見えてこない。
引き返すかどうか考えを巡らすも、聞こえたはずの物音はあれっきり聞こえてこない。
気のせいだと言うには、全員が確かにそれを聞いていた。
安全を喫して戻る事を提案しようとしたリーダー格の男に、先頭を行く魔導士から報告が上がる。

「隊長、この先十メートル程に扉のようなものが見えます」

どうしますかと尋ねる魔導士に先程考えていた事を告げようとしたその時、扉が勝手に開く。
咄嗟に身構える先頭の魔導士二人。研究員の傍にいる隊長は庇う様に数歩前へと出ながら、背後の二人に後ろの警戒をさせる。
その状態ですぐに対処できるようにして待つのだが、扉が開いたきり何も反応がない。

「もしかして、人が近付いたから自動で開いたのかも」

「だとしたら、先程聞こえた物音は鍵でも開いたのか、生きていたシステムが久しぶりに動いた音だったのかもしれないわね」

研究員の二人が推測を述べ、どうするのか隊長へと視線を向ける。
が、その顔は先に進みたいと告げているのは明らかであり、隊長は少し悩んで進む事を決める。
一応、先程よりも慎重に。程なくして、扉まで辿り着いた一向はその扉を潜り、一つの部屋へと出る。
そこはドーム型の天井になっており、低い場所でも三メートル以上の高さがあり、頂点では優に十メートルを超える高さを持っている。
部屋全体も円形に近い形をしており、直径でも三十メートルはありそうな広い空間であった。
部屋の中にはユーノたちが入ってきた扉の正面には計器類やモニタ、キーボードらしき物が並んでおり、
向かって右側には二メール程の長さの箱が五つ並んでいる。
箱の上半分は透明なガラスのような物で覆われ、これが蓋のような役割をしているらしい。
逆の左側には扉が一つと、こちらにもモニタと計器類が並んでいる。
部屋を見渡し、一応安全だろうと判断した一向は右手にあった箱へと近付く。
三つは中身が空になっており、一つはコードやネジがそのままだったり、ある程度組まれた形で入っていた。

「何かを作っている途中だったのかな?」

「しかし、作り掛けなら箱に納めたりするか?
 見るにここは作業場には見えないけれど」

疑問を口にする研究員の言葉を聞きながら、ユーノもまたこれが何なのか考えてみる。
と、最後の箱を確認しようとしていた研究員が声を上げる。
同時にガラスの割れるような音がし、箱の中から何かが飛び出してくる。
それが何かを確認するよりも早く、ユーノは何かを感じ取ったのか研究員の前にバリアを張る。
随分と久しぶりに感じたソレは数ヶ月前には何度か味わった経験のあるもので、結果として研究員を助ける事となる。
飛び出してきた何かが撃ったのは銃弾で、ユーノのバリアに弾かれて明後日の方へと飛んでいく。
腰を抜かした研究員を後ろへと引き摺り、改めて目の前の物を見る。
一番近い似た物を上げるなら、それは卵だろうか。
六十センチ程の卵型の物体。それに手のようなアームが両脇から出ており、恐らくは正面と思われる面の真ん中銃口が見える。
どういう原理なのか、何かを噴出するでもなく宙にゆらゆらと浮き、魔力反応もない。
上から三分の一辺りに一週するように横に幅二、三センチ程の黒い溝が掘られ、そこが時折チカチカと赤や緑に点滅している。
恐らくはセンサーか何かで、人で言う目の代わりなのかもしれない。
と、ユーノがそこまで判断した時、後ろから卵型の機械目掛けて魔力弾が飛来する。
二人の魔導士が放ったそれを、しかし卵型機械は重力を無視するかのようにゆらゆらと揺れながら躱し、逆に攻撃した二人へと反撃。
銃口を一人に向け、残った一人には丸い指のない手を向ける。
銃口からは先程同様に弾丸が飛び出し、手の方は半分から先がスライドして電気が弾として打ち出される。
恐らくは右手と思われる手も同様に半ばからスライドし、こちらは一メートルほどの刃が伸びてくる。

「って、どこに収納されていたんだ!?」

思わず叫ぶユーノであったが、よく見れば右手の方が左手に比べて太く作られており、刃には幾つかの横筋が見える。

「折りたためるのか」

この状況下でありながら、疑問が氷解して納得顔を見せるもすぐにそんな状況ではないと気付く。
隊長がユーノに下がるように指示を出しながら、四人の部下に卵型機械の相手をするように命じる。
ユーノはどうにか自分で歩けるようになった研究員に肩を貸しながら後ろへと下がり、他の研究員と合流する。
確かに銃弾をばら撒くあの機械は厄介かもしれないが、一体なら問題はないように見える。
事実、一人が防御を担当し、残る三人で攻撃する事であの機械も近づけずにいるようだ。
ただ、その回避能力は高いらしく、魔導士三人の攻撃をひらりひらりと躱し続けている。

「それにしても、あの飛行システムはどうなっているんだろう」

「もしかしたら重力に干渉しているのかもね」

脅威を感じ取れなかった為か、思わずユーノが呟いた言葉に一人がそう返してくる。
見れば、他の三人もすっかり恐怖を忘れ、目の前の機械に興味を抱き始めている。
まだ油断は出来ないんだけれどな、と思いつつ、ユーノもやはり機械の動きへと興味深そうな目を向ける。
と、不意に部屋にアラームが鳴り響き、機械の声が流れる。

「侵入者検知、侵入者検知。現在、新型の試作機で処理中。至急、応援を」

この声に目の前の機械が試作だと理解すると同時に、本格的な迎撃用のシステムがある事に流石に慌てる。
周囲を警戒しつつ、卵型の相手を続ける。しかし、幾ら待っても何も出てこない。
ただ同じアナウンスが流れるだけである。

「もしかして、迎撃用のシステムは既に機能していないのかもね」

一人がそう推測するが、万が一の可能性もある。隊長は目の前の卵型を急いで撃墜し、一旦戻る事を決める。
とは言え、これがやはり当たらない。と、不意に卵形の周囲に魔力で編まれた鎖が数本出現し、卵形を拘束する。

「今です!」

チェーンバインドと呼ばれる捕縛魔法を発動させたユーノの言葉に魔導士三人が反応して、ようやく魔法を命中させる事が出来る。
暫くデバイスを構えたまま様子を窺っていたが、卵形は完全に沈黙して反応を見せないのを受け、即座に撤退に移る。
その間も警告のアナウンスだけは流れ続けているものの、やはり何かが出てくる気配はない。
本当に機能していないのかどうかは兎も角、現状は問題ないようなので来たときと同じ隊列で即座に撤退する。
結果として、そのまま一向は無事に地上へと戻って来る事が出来た。
この件を報告し、更に人員を増やして後日、再び探索が行われた結果、やはり既に機能を失っていた事が判明するのであった。





つづく、なの







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