『リリカル恭也&なのはTA』






第39話 「再会の日は近く」





先日の新たな通路の発覚から数日が経ち、探索の方もかなり落ち着きを見せてきた。
新たに見つかった区画の調査も順調に進む中、ユーノが作業の合間の休息を取っていると、

「ちょっと良いか?」

そう言って声を掛けてきたのは、先日共に遺跡へと潜った魔導士の一人だった。
何かなと思いながら、特に急ぎの用もないので快く了承すると先日の礼を述べた後、幾分真剣みを帯びた表情を見せ、

「先日のあの機械なんだが、言い訳に聞こえるかもしれないが俺たちの打った魔法弾は間違いなく当たるはずだったんだ。
 あの時、俺たちは避けられても残りの弾に当たる様に連携していたんだ。それなのに当たらなかった」

本当に不思議で仕方ないといった様子ながらも、ユーノが黙って聞いているのを受けて続ける。

「ここからは本当に気のせいかもしれないが、奴の大よそ一メートル以内に入った瞬間、僅かだが速度が落ちたような気がする。
 誘導弾ではなかったが、多少の制御はしていたのに僅かとは言えそれから離れた気がしてな。
 気のせいと言われれば否定できないんだが、実際にあれを魔法で拘束した君なら何か違和感を感じなかったかと思ってね」

「そうだったんですか。でも、すみません。僕は特に何も感じませんでした」

言われて思い出してみるも、特に何かを感じた訳ではなかった。
少々、拘束するのに力は必要ではあったかもしれないが、それは単純に力があったからであるし。
申し訳なさそうにするユーノに気付いた魔導士は気にするなと声を掛け、やっぱり気のせいだったかと一つ頷く。
まだまだ鍛練が足りないなと零し、その場を立ち去る男を見送るユーノの元に不意に通信が届く。
調査団の者たちからではなく、どうやら外部からの着信のようで誰からか確認してユーノは思わず逡巡する素振りを見せる。
とは言え、出ない訳にもいかないし、本心から出るのが嫌という訳ではない。
思わず先程の仕草を見られていないか周囲を見渡し、近くに誰も居ないのを見て胸を撫で下ろすと通信に出る。

「遅いぞ、全く何をやっているんだ君は」

出るなり早々文句を述べてくる少年――クロノの言葉にユーノは明らかに不機嫌そうな顔を見せる。

「何をもないだろう。ここには調査に来ているんだから、調査しているに決まっている。
 そもそも、すぐに出て欲しいのなら緊急通信にすれば良いだろう」

「別にそこまでするような用事ではないからな。
 知り合いから聞いた話では少し前に中々大変な目にあったと聞いてな」

「なに、もしかして心配してくれたとか?」

「まさか。攻撃に関しては兎も角、状況判断や防御に関しては君はその調査団の中でもそれなりに出来る方だろう」

互いに憎まれ口を叩き合いながら近況報告を軽くすませると、クロノが用件を切り出す。

「フェイトの裁判もようやく終わりが見えてきて、判決も上手く収まりそうだ」

「それは良かった。必要な資料の作成を手伝わされた僕の苦労も報われるよ」

「ほう、つまり君は恩着せがましく自分のお蔭だと言いたいのだな」

「何でそうなる。僕は君が失敗しないかと不安だったんだよ。
 で、それよりもその報告の為にわざわざ忙しい中、通信をくれたのか?」

「それもあるが、近々、と言ってもフェイトの裁判が無事に終わったらだけれど、なのはの世界に行く予定でね。
 正確には次の航路の途中に寄るという形だけれど、君はどうするかと思ってね」

親切にも連絡をくれたクロノに軽く驚いて見せるユーノだが、クロノは表情一つ変えずに続ける。

「僕は正直どうでも良かったんだけれどね。
 艦長の計らいでPT事件の協力者という事もあるし、今回の航海に特別に外部協力者として乗り込めるようにしたらしい。
 わざわざ艦長自ら働いてくれただけに無碍にも出来ないだろうから、こうして連絡した次第だ。
 勿論、拒否しても構わないが、まあ長い間ご主人様の元を離れている事だし、その可能性は低いか」

「だから、僕はなのはの使い魔じゃないと何度言えば……」

「で、どうする?」

ユーノの文句を遮って聞いてくるクロノを一睨みし、ユーノは艦に乗せてもらうことにする。

「その時ならこっちも落ち着いてるだろうし、第二調査隊が組まれて到着するから……って、それも分かった上でか」

「そういう事だ。そして、偶々だが航路途中にその世界にも立ち寄る事になっているから、その時に拾ってやろう」

「ああ、頼むよ」

その後、数言言葉を交わすと通信を切ると、

「なのはに恭也さん、二人とも元気にやってるかな」

久しぶりに会える友人の顔を思い出し、しみじみと呟くのだった。



 ∬ ∬ ∬



高町家のリビング。
時刻はすっかり日も落ちた夕食時。高町家の面々も揃って食卓について夕飯を取っていた。
そんな中、一人だけやけに嬉しそうにしている者がいる。
ちゃんと食べてはいるのだが、時折その口元に笑みが浮かび、

「えへへへ」

声に出してまでニコニコと微笑む。
全身から嬉しいという感情が容易に読み取れる行動を示しているのは、末っ子の高町なのは、その人であった。
これで食べている物を零したりすれば注意もする所だがそれもなく、単に時折笑う程度である。
故に娘が幸せそうなのが嬉しいのか、桃子も嬉しさを見せつつもやはり理由が気になってくる。
そして、何故か皆の視線は恭也へと向かう。
理由を知っているのではないかと。が、恭也は黙々と食べ続けており、なら本人に直接聞けば良いと桃子が動く。

「なのは、随分とご機嫌みたいだけれど、何かいいことでもあったの?」

「え、そうかな? そんなつもりはなかったんだけれど。
 でも良い事はあったよ」

桃子の言葉になのはは嬉しそうに話し出す。
時折、届く手紙やビデオレターの差出人であるフェイトが近々、海鳴にやって来るらしいと。
そして、そのフェイトと会える事になったと告げる。

「へー、それは良かったわね」

「うん! 今からとっても楽しみだよ」

「じゃあ、その時はお店に連れてきなさい。桃子さん、張り切ってご馳走を作るから」

「じゃあ、うちと晶で頑張って夕飯の準備するから夕飯も誘ってな、なのちゃん」

「うん、皆ありがとうね」

桃子やレンの言葉に嬉しそうに返し、なのはは会えるのを楽しみに待つ。
そんな中、美由希は自分は何もするなと言われる前に恭也へとこっそりと尋ねる。

「いつ頃来るの?」

「正確な日付はまだ決まっていないらしいが、少なくとも一月ばかりは先になるだろうな」

「随分と気が早い気もするけれど、それだけ嬉しいって事なんだろうね」

本当に嬉しそうななのはを眺めながら、美由希もつられるように笑みを見せて言うと、恭也も首肯する。
なのは程表情や態度には出さないものの、恭也も再会を楽しみにしているのだった。



 ∬ ∬ ∬



「うぅ〜」

ジタバタ、ゴロゴロ。
そんな擬音がすぐに浮かんできそうな感じで、落ち着きなくベッドの上で足をバタバタと動かしては、ゴロゴロと左右に転がる。
部屋にいるのは少女一人なので、誰にはばかる事無くそういう事をしているという訳ではなく、殆ど無意識である。
そんな少女を眺めているの者が実は一人居るのだが、少女は気にせずに何度となく繰り返す。
共に居る女性は少女の態度を訝しむ事もなく、寧ろ嬉しそうに笑っている。
とは言え、流石にあまりベッドの上で暴れ回るとシーツがぐちゃぐちゃになって少女本人が困るだろうと注意だけはしておく。

「フェイト〜、嬉しいのは分かるけれどいい加減に落ち着こうよ」

「だって、だってアルフ。もうすぐなのはや恭也さんに会えるかと思うと……」

言ってはにかむと枕に顔を埋める。
幸せになれていない為か、中々に落ち着かないフェイト目掛けてアルフはダイブする。

「あたしも嬉しいし、フェイトの喜びも分かるけれどまだ一月以上も先なんだしさ。
 それに殆ど判決が決まっているとは言え、裁判も一応残っているんだから」

「そうだったね」

アルフの言葉に多少の落ち着きを取り戻して顔を上げるが、すぐに相好が崩れる。

「あう」

「あー、もううちのご主人様は本当に可愛いね!」

言ってフェイトの身体に両腕を回し、そのまま抱き締める。

「ア、アルフ、苦しいよ」

「っと、ごめんよ。ちょっと力入れすぎたよ」

「ううん、大丈夫。ありがとうね、アルフ。
 確かに喜んでいるだけじゃ駄目だよね。裁判もいよいよ最後だし、魔法の鍛錬ももっとして強くならないと」

言って表情を引き締めるフェイトからそっと離れると、アルフは同意するように大きく頷く。

「フェイトなら大丈夫だよ。っと、喉が渇いたから何か飲もうっと。
 フェイトも何か飲む?」

言ってキッチンへと向かうアルフに水を頼むと、またその口元に笑みが浮かび、一人笑う。
それに気付くと隠すように枕に顔を埋めるのだが、やはり喜びは隠し切れないのか、ベッドの上を再び転がり、やがて小さく呟く。

「なのは、恭也さん……」

そんな様子を見て見ぬ振りしながら、主の喜びが自身の喜びでもあるアルフもまた笑みを浮かべる。





つづく、なの







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