『リリカル恭也&なのはTA』






第41話 「イギリスへ」





とあるビルの地下深く。
相当の広さを持つ部屋の中で、一人の男が黙って見詰める先では一人の女性がその両の手に銃を持ち撃ち続けている。
やがて、全ての銃弾を撃ち終えた女性がマガジンを取り出して銃を置いて振り返る。

「待たせた」

「いえ。相変わらず素晴らしい腕です」

「お世辞は良い」

ポニーテールを揺らしつつ、女性――エリスは男へとそう返すも、射撃に関する事はお世辞ではないのは結果を見れば分かる事である。
外れた弾はなく、全てが的に当たっている上に、全てが人の急所や間接部へと着弾している。
が、本人は何発かが狙いから僅かにずれたのが気に入らないらしい。
それらの内心を読み取りつつ、男はそれ以上は何も言わずに指示されていた事に対する処置を終えた事を報告する。
同時に書類を差し出し、受け取って歩き出すエリスの隣に並ぶ。
エリスが目を通して読んでいる間は口を挟まず、エレベーターを呼ぶ。
特に利用者もいなかったのか、すなりと開いたドアから乗り込み、目的地の階数を押す。

「コンサートの前のリハーサルは分かるけれど、せめてこの慰問の予定は中止にして欲しかったな」

「病院ですからね。あまり大勢入る訳にもいかないですし、患者に紛れられれば難しいですね」

エリスのぼやきにも似た言葉にそう返す。男もその意見には賛成したい所なのかもしれない。
それを察してか、エリスは小さく頭を振ると、

「依頼主の意志が固い以上は仕方ない。我々もプロだ。決まった事を嘆いていても仕方がないな。
 配置に関してはこれで問題ない。連絡に関しても同様だ。後は……」

「例の二人、ですか」

「ああ。寧ろ、そっちの方が悩みの種だ。大人しくしていてくれるのなら良いのだけれど」

頭が痛いとばかりに軽く眉間を揉み解した所でエレベーターが到着音を上げる。
開いたドアから出て歩きながら、窓の外へと何とはなしに視線を向ける。
お世辞にもよく晴れた青空とは言えぬ、どんよりと曇った灰色をした空を見上げ、

「何も起こらないと良いけれど」

脅迫状まで来ている以上はそれは難しいだろうと思いつつも、思わずそう口から出てしまうエリスだった。



 ∬ ∬ ∬



エリスが空を眺めて憂鬱な気分に浸っている頃、遠く離れた地ではよく晴れ渡った空の下に少々賑やかな集団があった。

「本当に気を付けてね、二人とも。あ、生水は飲まないのよ、それと……」

「大丈夫だから、かーさん」

「あははは、別に初めてって訳じゃないんだし」

見送りに出た桃子の言葉に恭也と美由希は何度も聞いた注意事項に思わず苦笑を漏らす。
高町家の玄関先には朝から家族に加えて友人たちの姿もあった。

「師匠、美由希ちゃん、フィアッセさんに宜しく伝えてくださいね」

「お師匠、美由希ちゃん、あんまり無理せんといてくださいね」

「ああ、晶もレンとあまり喧嘩しないようにな」

「留守の間はお願いね」

妹分二人と言葉を交わし、続けて見送りに来てくれた那美に礼を言う。

「いえ、お礼なんて。それよりも、本当に無事に帰ってきてくださいね」

「勿論ですよ、那美さん。あ、お土産期待しててくださいね」

「遊びに行くんじゃないんだぞ、美由希」

「分かってるよ。でも、余裕があればそれぐらい良いじゃない」

恭也の言葉に返しつつも、美由希とてそれぐらいは充分に承知している。
ただ心配してくれている那美を安心させようと口にしただけで、恭也も理解しているからこそ拳骨は出ない。
そんなやり取りを笑いながら、勇吾が恭也に声を掛ける。

「まあ、大丈夫だとは思うが気をつけてな。
 何せ、男子禁制のCSSに入るとなれば、それだけで後ろから刺されかねないからな」

「何の心配をしている」

言い合って笑みを交わし合うと拳を合わせる。

「帰って来たら、またやろうな」

「ああ、楽しみにしているぞ赤星」

恭也と美由希が友人と言葉を交わし終えると、なのはが心配そうな顔で見上げてくる。
安心させるように一度だけ頭を撫でてやり、

「鍛錬をさぼらないようにな。いや、それ以前に渡したメニュー以上の事はしないように」

「うん」

しおらしく頷き、言葉短く二人を見上げる。
今度はそんななのはの頭を美由希が撫でてやる。
その間にわざわざ来てくれたアリサやすずかとも言葉を交わし、全員と話し終えた所で桃子が再び二人の前に立つ。

「拾った物は食べないのよ。知らない人が何か買ってくれると言っても着いていかないのよ。
 それから……」

「な、何の心配しているの、かーさん。って言うか、全部私に向かって言ってない!?」

そんな美由希に冗談よと笑って言うと、不意に真面目な表情になる。

「何度も言うけれど無茶はしないでよ。それと無事に帰ってくること」

今度は二人に向かって投げられた言葉に、揃ってしっかりと頷く。

「それじゃあ、行ってくる」

「行ってきます」

桃子たちにそう声を掛け、車の後部座席に座る。

「それじゃあ、空港までお願いねノエル」

二人が乗ったのを確認すると、助手席に忍が乗り込んでノエルにそう声を掛ける。それを受けて車が走り出す。
まだ手を振ってくれる家族や友人に美由希が手を振り返す中、恭也は忍の厚意に甘え、空港まで送ってもらう事に礼を改めて口にする。

「別に良いわよ。これを口実に今日は学校を休めるし……ってのは冗談よ。
 夫の出張を見送るのは妻の役目だもの」

「誰が夫で誰が妻だ」

「またまた〜」

「いや、意味が分からないから」

「この仕事が終わったらプロポーズしてくれるんじゃないの?」

「いつ、誰がそんな事を言った」

「お約束じゃない」

「忍さん、その場合のお約束は危ないんじゃ」

などといつもの冗談を交わす三人を見守りながら、ノエルは二人の無事を祈りつつ車を走らせる。
それから数時間の後、二人は空の旅人となり、目的地を目指して飛び立つ。

「正直、何もないと逆に落ち着かないな」

「あ、あはは、それは私も同じだよ。とは言え、機内に鋼糸とは言え持ち込めないしね」

飛行機の中でそんな会話をしつつ、恭也は全くの無防備ではないがなと心の内で呟く。
そんな主の心を察したのか、恭也の腕に着けられた腕輪が一度だけ光るのであった。





つづく、なの







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