『リリカル恭也&なのはTA』






第42話 「再会」





日本から遠く離れたイギリスの地、その空港のロビーに立ち背伸びをする東洋人二人。

「うーん、背中が固まっている感じがするよ」

続けて肩を回して美由希はようやく動きを止める。
その隣で既に背伸びを終えていた恭也もそれには同意しつつも、それ以上に長時間の移動で減ってしまった悪戯心を満たしてやる。

「あれだけ大口を開けてはしたなく爆眠していた割には軟弱だな」

「嘘!? って、それと体が凝り固まるのは関係ないんじゃ……」

恭也の言葉に驚きつつもふとそんな事を口にするが、恭也は気にも留めずに続ける。

「大口を開けていたから涎も垂れていたぞ。
 流石に周囲の人の目もあるから渋々だが、涎は拭ってやったが。大方、食べ物の夢でも見たんだろう」

言って自分の口元を指差し、その名残がまだあると教えてやる。
慌てて袖口で口元を拭うも、恭也の顔が明らかに笑っている――傍目にはあまり変わらないが――のを見て、からかわれたと知る。

「もう、恭ちゃんの馬鹿!」

言いつつも念のためにハンカチを取り出してもう一度口元を拭う妹を見ながら、恭也は足元に置いた荷物を持ち上げると、

「いつまでも遊んでないでさっさと行くぞ」

そう言って出口へと向かって歩き出す。
その後を少し慌てて追いかける美由希。
二人はこれから久しぶりとなる幼なじみとの再会を楽しみにしていた。
尤も、その理由自体はあまり嬉しいものではないのだが。



空港の出口を抜けて少し離れたパーキングへと向かう。
恭也と美由希は複数台止められている車の中から、迷う事無く一台目指して足を進めており、向こうも気付いたのかドアが開かれる。
中から出てきたのはさっきまで思い描いていたフィアッセと、その友人で恭也たちとも顔なじみのアイリーンの姿もあった。
二人は近付くと、アイリーンが片手を上げて気さくに挨拶をしてくるのに対し、フィアッセはまず恭也に抱き付いてくる。
流石に恥ずかしいのだが、口にして言った所で読める人ではない上に、拗ねるか怒るので黙ってされるがままになる恭也。
軽く挨拶を交わし離れていく体温に久しぶりという事もあってか、若干の寂寥感めいた物と多分の安堵を含ませた感情を抱く。
そんな恭也の感情には気付かず、続けて美由希にも抱き付き、こちらは嬉しそうに抱き返している。
姉貴分と妹の再会の抱擁を横目に抱きつつ、恭也は改めてアイリーンにも挨拶をする。
同じように二人を、というか、今までの三人のやり取りを眺めて小さな笑みを見せていたアイリーンはやはり軽く応える。

「それにしても、二人が出迎えに来るとは思わなかった」

「エリスは止めたんだけれどね。フィアッセがどうしてもって譲らなくてさ」

アイリーンの言うように狙いがクリステラ親子である以上、フィアッセ一人での外出など問題外である。
現に今もアイリーンの運転する車の両横に停められている車の中には、それらしい人が見えるし、
遠巻きながらも辺りを警戒している人が見受けられる。
本格的な襲撃はコンサート中止の発表をするように迫られている期限まではないだろうが、万が一という事もあり得る。
フィアッセと誘拐し、身柄と引き換えと言う可能性もない訳ではないのだ。
それ故に既に護衛が張り付いている形であった。
そんな話をしている間に美由希たちの方も終わり、四人は車でスクールへと向かう。
前後を挟まれる形で進む中、後部座席では美由希とフィアッセが久しぶりと言う事もあってか、ずっと会話を続けている。
それらに時折口を挟んだり、返事を求められるのに答えたりしつつ、恭也もまたフィアッセとの再会を一時の間楽しむのだった。



恭也たちを乗せた車が市街地を離れ、自然に囲まれたCSSへと辿り着く。
ここに来るのは随分と久しぶりで、所々新しくなっている箇所なども見受けられるものの、
意外と覚えているもので案内がなくても迷う事はなさそうである。
真っ先に迷いそうな美由希でさえ、すぐに思い出したのかティオレの居る校長室の場所までの道筋を言えるぐらいであった。

「何でそこまで驚くの、恭ちゃん」

「いや、あまりにも意外だったんでな」

「うんうん。私も気付いたら美由希ちゃんだけが居なくなっていて、皆で慌てて探すってのを想像してたのに」

「アイリーンさんまで。うぅぅ、フィアッセ、二人が虐める」

「よしよし、可哀相に美由希。恭也、アイリーン、あんまり虐めたら駄目だよ」

泣きつく美由希をあやしつつ、やんわりと嗜めるフィアッセに揃って頭が上がらない二人であった。
ともあれ、一向はようやくティオレの待つ校長室へと辿り着くと、そこにはティオレと護衛と思われる男が二人。
そして、恭也と美由希のもう一人の幼なじみであるエリスの姿があった。
アイリーンが一礼して部屋を立つ去ると、ティオレは相好を崩して二人に近付くとその腕の中に抱き締める。

「久しぶりね、恭也、美由希。元気そうで何よりだわ」

「お久しぶりです、ティオレさん」

「ティオレさんもおかわりがないようで」

恭也、美由希と返事を返し暫し再会を懐かしむと、ティオレは二人を解放する。
二人に席を促して、自らも腰を下ろすとエリスへと視線を向ける。
それを受けてエリスは自分が預かっていた手紙を恭也の方に滑らせる。
受け取り中身を確認すれば、コンサートの中止を要求する文ともし受け入れられなかった場合の脅迫文が書かれていた。

「正直、君たち素人二人の力をあてにはしていない。
 ティオレさんたってのお願いという事で受け入れはしたが、邪魔だけはしないでくれ」

エリスの言いようにフィアッセは少し悲しげに俯き、美由希は少し怒ったような表情を見せる。
そんな中、ティオレはいつものように柔らかな笑みを崩さず、恭也はこれまた表情一つ変えない。
脅迫状をエリスに返しつつ話し掛ける。

「元より邪魔する気なんてないさ。けれど、目的は同じだろう。
 仲良くやるって訳にはいかないか」

「素人に好き勝手に動かれると困るんだ。
 ただの観光旅行というのなら良いけれど、護衛に関してはこちらに任せてくれないか」

暫し二人は見詰め合い、先にエリスが目を逸らすと立ち上がる。

「ティオレさん、とりあえず顔見せはこれで宜しいでしょうか。
 これから細かい打ち合わせをしておきたいので」

「ええ、構わないわ」

恭也の方を見て、無言で小さく頷いたのを確認してそうエリスに返す。
部屋を後にする前に、最終確認とばかりにティオレへと尋ねる。

「予定の変更はやはり……」

「申し訳ないけれど、予定通りにさせてもらうわ」

「そうですか」

既に説得は諦めていたのか、すんなりと引き下がると部屋に居た二人にも声を掛け、エリスは部屋を出ようとする。
そこへイリアがやって来る。その後ろには男が二人。何やら荷物を台車に乗せて運んでくる。

「恭也くん、美由希さん、お二方の荷物が今しがた届きました。
 これはどこに運べば良いかしら」

ティオレの許可を得て、装備の確認の為にこの場に荷物を下ろしてもらうと、頑丈に閉じられた木箱の蓋を開ける。
荷物を運んできた男たちはそのまま引き返さず、エリスの傍に控えた事から彼らも護衛の者なのだろう。
恭也が装備を箱から取り出す間にそんな事を考えつつ、美由希は少々居心地が悪そうに身体を揺らす。

「全部、揃ってますね。問題ありません」

装備を確認し、イリアに改めて礼を告げると恭也はそこから小太刀を二振り取り出す。

「美由希」

「うん、ありがとう」

手渡された小太刀の感触を確かめるように柄を数度握る。
満足そうな顔を見せる美由希と自分の小太刀を取り出す恭也を、エリスは何とも言えない複雑な表情で見詰める。
それに気付いた恭也がエリスへと顔を向けると、そこで我に返ったのか、エリスは男たちに声を掛けて部屋を出て行く。
その背中を見送り、ティオレは装備品を確認する兄妹へと話し掛ける。

「あまり怒らないであげてね。あの子にも色々と思う所があるみたいだし。
 それに色々と無理を言ってしまっているの。出来れば、昔みたいに仲良くしてね」

ティオレの言葉に美由希は頷いて返し、恭也は分かっていますと口にする。

「俺たちとしても喧嘩するつもりはありませんから」

美由希よりも多少の事情を知る故か、恭也はやはりいつもと変わらない口調でそう続ける。
それを聞き、ティオレも満足そうに微笑むのだった。
こうして、海鳴より遠く離れた地で二つの再会がなされた。
ただし、それは会えなかった時間の差によるものなのか、それぞれに違う形としてではあったが。





つづく、なの







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